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最近、あるところで、「有価証券報告書の虚偽記載は消費者事件ではないから」と言われました。そこで、というのでもないのですが、投資者保護と消費者保護の相違について、初心に返って、もう一度考えてみたいと思います。
考える筋道はいろいろあると思いますが、ここでは、投資法制のいくつかの個別規定や法理を材料として、それが投資者保護的なものか、消費者保護的なものかを分析し、その作業を通じて両者を区別することに意味があるのかを考えてみたいと思います。
第1は、いわゆる説明義務です。判例は、証券会社と一般投資家との間に情報の格差があり、証券会社が顧客との取引で利益を得るという立場があることから、証券会社は顧客に対し、信義則上、取引の仕組みやリスク等について説明する義務を負うと解しています。金融商品販売法は、このような説明義務を販売業者に負わせ、説明義務違反に基づく損害賠償責任について、民法の特則を定めました。金融商品取引法は、契約締結前の書面交付という形式で金融商品取引業者に説明義務の履行を求めています。これらの説明義務は、業者と投資者の間の情報の格差を是正することを目的としているという点で消費者保護的な規制であるといえるでしょう。もっとも、説明義務の対象は、たとえば株式の売買取引であれば、その仕組みと株式に内在するリスクに限定されており、特定の銘柄の株式の価値を判断するのに必要な情報は説明の対象とされていません。これは、一定の有価証券についてはディスクロージャー制度(投資法制)によって情報提供が補われているから消費者保護法制で手当てをする必要がなかったということであり、説明義務の対象に投資判断資料が含まれていないことは消費者保護法制の限界を意味するものではない(「消費者保護の観点からは投資判断情報の提供義務を導けない」わけではない)と思います。このことは、冒頭の問いの答えになるかも知れません。
第2に、一定の金融商品については不招請勧誘・再勧誘が禁止され、また顧客にクーリングオフの権利が認められている。これは投資法制の中にある消費者保護的な規制であるといえます。
第3に、金融商品の勧誘に際して虚偽の事実を告げる行為や断定的判断を提供する行為が禁止されます。これらの勧誘規制は、同様の規定が消費者契約法や金融商品販売法にあることから分かるように、消費者保護的な特徴を有する規定です。しかし、それと同時に、これらの規制は、正確な情報に基づく投資判断を確保するという投資者保護上の役割も担っているといえるのではないでしょうか。
第4として、金融商品取引法には投資者の属性や投資目的に適合しない金融商品を勧誘してはならないという適合性の原則が定められており、判例も適合性の原則に著しく違反する勧誘行為が不法行為となる旨を明らかにしています。適合性の原則は、金融商品に適合しない顧客への勧誘を禁じるものですから、開示(説明)さえすれば売って良いという投資者保護の発想から一歩踏み出すものです。適合性の原則はあらゆる商品の販売・勧誘に妥当する原理ですから、今後、消費者法の分野においてもその展開が期待されるところです。適合性の原則は、投資者保護と消費者保護を架橋するものといえるのではないでしょうか。
以上から分かるように、投資法制において、投資者保護と消費者保護をことさら区別して、金融商品取引法は投資者保護に徹するべきであるとか、逆に、金融商品取引法の投資者保護は消費者保護に昇華されるべきであるといった議論は、妥当でないように思います。
以上は、消費者判例百選のコラムに書かせてもらった話なのですが、投資法制の体系の外に新たに消費者保護法制を設けるときに、投資法制の対象となっている取引を適用対象とすべきかは、また別の議論でしょうね。ただ、そうした問題についても、投資法制の中に消費者保護的な規制は違和感なく存在していることを想起すれば(違和感がないのは、そうした規制が投資法制の目的を害さないからと思われる)、単に消費者保護的な規制だから投資者には適用しないという発想にならないことだけは確かです。
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2011年01月24日
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