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2つの最高裁判決には、差玉向かいのメリット・デメリット(それが板寄せ仕法とザラバ仕法とでどう違うのか)等、いろいろと取り上げるべき論点がありますが、すでに先行業績もあり、私の評釈もそのうちに公表されますので、ここでは、ほかで論じられていない点(つまり、オリジナル)を一点だけ、取り上げます。それは、説明義務の内容は何かという問題です。
 
2つの判決は、商品取引員は専門的知識を有しない委託者に対し、取引を受託する前に、その取引については差玉向かいを用いていること、および差玉向かいは商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性があることを十分に説明すべき義務を負うとします。
 
差玉向かいの説明義務は、商品取引員がなぜ差玉向かいをするのか、その説明を求めるものではありません。判旨はそのように述べていませんし、商品取引員が差玉向かいをすることの合理性について顧客が納得したとしても、提供情報の信頼性が低下することには変わりがないからです。それでは、太字部分は何を説明したらよいのでしょうか。「商品取引員と委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性があります」とか「業者が儲かるときにあなたは損をし、あなたが儲かるときに業者が損をします」といえば良いのでしょうか。
 
本件判決を受けて商品取引所法が改正され(今年1月からは、商品先物取引法)、その施行規則では、商品先物取引業者が差玉向かいを行っている場合に、「利益が相反するおそれがある旨を説明しないで」委託者から委託を受ける行為を禁止しました。経産省は、「利益が相反するおそれがある旨」を説明すれば良いと考えているようです。
 
しかし、最高裁は、差玉向かいを行っているときは商品取引員の提供する情報の信頼性が低下するから、それを顧客によく理解させたうえで委託を受ける必要があると考えているわけですから、利益相反関係が存在するために、商品取引員が提供する情報を顧客が割り引いて評価すべきことを理解させるような説明が必要になると考えられます。単に「利益が相反するおそれがある旨」を説明するだけでは「十分に説明」したことにならないということです。したがって、もし、その取引の委託が商品取引員の情報提供によるものであるときは、取引を受託する際に、提供情報が当てにならないということを商品取引員は説明しなければならないことになります。商品取引員の情報に依拠して取引しようとする顧客(専門的知識のない委託者)が、これまでの情報提供やこれからの情報提供が当てにならないと説明されて、果たして取引を委託するでしょうか。つまり、最高裁判決には、差玉向かいを事実上禁止する効果があるというのが、私の理解です。
ある研究会で商品先物取引の判例を評釈してきました。対象判例は、最判平成21・12・18判時2072号ですが、最判平成21・7・16民集63巻6号1280頁がより重要なので、一緒に取り上げます。これらの判例は、商品取引員(現在は商品先物取引業者といいます)は、委託者に対し、差玉向かいを行っていることとそれが委託者との間に利益相反関係が生ずる可能性が高いものであることを説明する義務を負う(これに違反したときは不法行為責任を負う)とするものです。
 
商品先物取引の用語は難しいので正確な理解が出来ているか自信がないのですが、差玉向かいとは、特定の商品、特定の限月の先物取引について、それぞれ委託玉(商品取引員が顧客からの委託により、顧客の計算でする取引)と自己玉(商品取引員が自己の計算でする取引)とを通算した「売りの取組高」と「買いの取組高」が均衡するよう自己玉を建てることを繰り返す取引手法をいいます。もともと、差玉向かいは板寄せ仕法で取引が行われるときに用いられる慣行のことをいい、最判平成21・7・16のケースがそうでした。最判平成21・12・18では、ザラバ仕法による取引における同様の手法が問題となっているため、同判決はこれを本件取引手法と呼んでいますが、ここでは差玉向かいと呼ぶことにします。板寄せ仕法とは何か、ザラバ仕法とは何かについては、これらの判例の評釈を参考にして下さい。
 
差玉向かいを行っている商品取引員に説明義務が生ずる根拠として、2つの判例は、差玉向かいを行っている場合に取引が決済されると、ある商品取引員にとって、委託者全体に利益が出るときは商品取引員に損失が生じ、委託者全体に損失が生じるときは商品取引員に利益が出る関係にあるから、委託者全体が損をするように、商品取引員において、故意に、委託者に対し、投資判断を誤らせるような不適切な情報を提供する危険が内在するといいます。つまり、商品取引員が差玉向かいを行っていることは、商品取引員が提供する情報一般の信用性に対する委託者の評価を低下させる可能性が高いから、委託契約上(最判平成21・7・16)または信義則上(最判平成21・12・18)、商品取引員に説明義務が生じるとしたのです。

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