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大分間が空いてしまいました・・ 全部を解説する必要もないので、今回を最終回とします。
 
報告書はインサイダー取引該当性が問題となる(なり得る)事例を4つ挙げて検討しています。それらは次のようなものです(若干簡略にしています)。
(a) 対象事業者の業務に係る発生事実
 甲電力会社が設置している原子力発電所が地震により損壊し、操業を停止した。これにより、甲では火力発電所の操業を大幅に増加させる必要が生じた。職務遂行上、その事実を知った同社代表取締役Aは、自らの計算で、事実が公表される前に排出枠(又は排出枠デリバティブ)を購入し、多額の利益を得た。
 
(b) 対象事業者の業務に係る決定事実
 乙電力会社は、今後数年間ですべての石炭火力発電所を廃止し、高効率の天然ガス発電及び再生エネルギーによる発電に置き換えることを内容とする中期経営計画を策定した。この計画によれば、来年度から乙の温室効果ガス排出量は大幅に減少することが見込まれる。職務遂行上、当該事実を知った同社代表取締役Bは、自らの計算で、事実が公表される前に排出枠(又は排出枠デリバティブ)を売却し、多額の損失を免れた。
 
(c) 排出規制の制度変更(政府情報)
 国内排出枠取引制度の施行当初、制度対象者に対する温室効果ガスの削減義務が2010年比で5%減とするものとされていた。ところが翌年度から2010年比で10%減とすることが政府内部で決定された。職務遂行上、その事実を事前に知った政府関係者であるCは、その事実が公表されるより前に排出枠(又は排出枠デリバティブ)を購入し、多額の利益を得た。
 
(d) 需給情報
 排出枠の大口需要家が仲介業者である丙社に対して大量の買い注文を出したが、その事実を知った同社の従業員であるDは、自らの計算において排出枠(又は排出枠デリバティブ)を購入し、多額の利益を得た。
 
今回の報告書は東日本大震災が起こる前に公表されていますが、事例(a)などは笑い話にならないですね。(c)も、どこかの首相の思いつき発言で排出枠価格が大きく変動するなんてことがあるかも知れません(こちらは(笑)ですが)。
 
これらの例を見ると、いずれもインサイダー取引を許すべきでないように思えます。しかし、報告書は、株式と排出枠の違いを踏まえた検討が必要であると指摘しています(61頁)。それは、金融商品取引法は、原則として発行者を情報源とする事実を重要事実としているが、排出枠には発行者はいないからです。上の(a)(b)は、発行者を情報源とする事実に見えますが、単に需給に影響を与える事実に過ぎないのです。ですから、排出枠にインサイダー取引規制をかけるとすると、需給に関する情報のみを対象とするインサイダー取引規制を設けることになるが、それで良いか?と報告書は問いかけています。もっとも、報告書も、公開買付け等事実という需給に関する情報がインサイダー取引規制の対象とされていることは認めており、そこで、需給に影響を与える事実の一部をインサイダー取引の規制対象とすることも考えられるとしています。
 
(以下、私見) 排出枠の発行者をあえて求めるならば政府でしょう。しかし、そのことは政府を発信源とする情報のみをインサイダー取引規制の対象とすれば済むことを意味しません。情報源が誰であれ、それへのアクセスを有する者が当該情報を利用して取引することが、一般投資者から見て不公正である(と感じられる)から、インサイダー取引を禁止する必要があるのです。金商法は、有価証券に関する情報が発行者により生産されることが多い点に着目して、発行者を中心とする規制の体系を作ったに過ぎず、中心となるべき情報源がないならば、むしろ、規制の対象となる情報源を限定する必要がないことになるのではないでしょうか。事例(a)(b)が不公正と感じられることは、まさにインサイダー取引規制の必要性を裏付けています。
 
金商法上、政府情報はインサイダー取引規制の対象とされていません。これは、政府情報が価格に与える影響が間接的であるからと説明されています。そこで報告書は、排出枠の価格に対する影響が直接的であるならば、政府情報を規制対象とすることも考えられるとします(62頁)。排出枠は、発行の主体が国である点で国債と共通しており、金利等の政府情報は国債の価格に直接的な影響を与え得る情報なのに、規制対象となっておらず、それにより重大な問題も生じていません。そこで、報告書は、排出枠取引についても、政府情報はインサイダー取引規制の対象とせず、公務員の秘密保持義務に委ねたらどうかとしています(63頁)。
 
(以下、私見)  政府情報をインサイダー取引規制の対象としないのは、日本法特有のもので、評判が良くありません。最近の某省役人のインサイダー疑惑をみても(あのケースでは、会社関係者か情報受領者として規制の対象とされたのでしょう)、政府情報を規制の対象とすべきであることが分かります。排出枠取引については、むしろ政府情報に基づくインサイダー取引こそ規制すべきでしょうね。

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