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最近、評釈をするために、東京地決平成22年11月26日判例時報2104号130頁を読んでいました。未公開株の勧誘をした無登録業者に対して、裁判所が初めて金商法192条に基づく緊急差止命令を発した事例です。改めて条文を読んで、事例へのあてはめを検討してみると、いろいろと面白い問題が見えてきます。
金商法192条は、「裁判所は、・・・この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる」と規定しています。まず、禁止と停止はどう違うのでしょうか。条文を素直に読むと、違反行為を行う者にその行為の禁止を命じ、行おうとする者にその行為の停止を命ずることになりそうです。この条文の基になったアメリカの1933年証券法20条(b)項、1934年証券取引所法21条(d)項(1)号では、person in engaged or is about to engage in acts or pracices constituting a violation of any provision of this title, ・・に対し、to enjoin such acts or practices を求めることができると規定されています。このように条文上は、日米ともに、「違反する行為を行い」とは、現在、違反行為を行っていることを意味するように読めます。そこで生じる疑問は、過去の違反行為を理由に将来の違反行為を禁止することができるのか、ということです。
上記の裁判所は、無登録業を行う者への該当性と無登録業を行おうとする者への該当性とをきちっと分けて認定しており、前者については、「Y1らは、・・・行ったというべきであるから、・・無登録業を行う者に該当することは明らかである」としています。つまり、裁判所は、「違反行為を行い」とは過去に違反行為を行った場合を含むと解釈しているようです。ところが、金商法192条は、「その行為」の禁止を命ずることが出来ると書いてあるので(アメリカ法も、such acts or practiceで同じ)、過去の違反行為以外の行為を差し止めることができるか、疑義があるわけです。
実質的に考えると、違反行為が繰り返されている状況で、違反行為と違反行為との間で差止めの申立てをすると、差止めの対象がないということになっては、被害の拡大を防ぐという緊急差止命令の用をなしません。したがって、過去の違反行為に基づいて将来の違反行為の禁止を命ずることができると考えるべきです。もっとも、常に差し止めることができるのではなくて、「緊急の必要性があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当である」場合に限って差止めが認められます。
この論点は実は、神崎克郎先生の「証券取引法(新版)」(青林書林、1987年)580頁以下に既に指摘されています。温故知新ですね。現行法に即して一部表現を変えて書くと、すでに、違反行為が相当期間継続して行われるのでない場合、すなわち、違反行為がすでに行われ将来も行われる相当の可能性がある場合にも、緊急停止命令の発動を求めることができるのか、必ずしも疑問がないわけではない。しかし、同様の文言を置いているアメリカ法の裁判例は、違反行為がすでに行われ将来も行われる相当の可能性がある場合にも緊急停止命令を発しうると解している。
神崎先生は、ご自身の意見を明確に述べておられませんが、文言に疑義があることを認めた上で、過去の違反行為に基づいて将来の違反行為の差止めができるように解釈すべきだと仰っているように感じます。私もこういう点はきちんと論じた方が後々のために良いと思っているのです。
この決定に対する評釈は判例評論に掲載される予定です。
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