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〔評釈〕判旨に賛成。
 
1.本判決の意義
西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載事件に係る最判平成23913金判137633頁は、有価証券報告書等に虚偽記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったと見るべき場合に、当該虚偽記載により当該投資者に生じた損害の額の算定方法を示しました。しかし、同判決は、どのような場合に「虚偽記載なければ取得なし」と見るべきかを明示しなかったので、同判決の適用範囲は必ずしも明らかでありません。本判決は、虚偽記載がなければ投資者が当該有価証券を取得しなかったと見るべき一事例を示したものとして重要です。
 
2.「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合
有価証券報告書等に虚偽記載がなければ当該有価証券を取得しなかったと考える投資者は、有価証券の購入代金相当額を損害みて賠償を請求することがあります。このような取得自体損害説の主張に対しては、これを当該株式が取得時点で無価値であったことを前提とするとみて、当該株式が無価値であったとは認められないとして主張を排斥する裁判例が過去にありました(西武鉄道事件に関する東京地判平成20424判時200310頁他)。本件の原審も同様の見解に立脚しています。しかし、客観的な価値のある有価証券であっても投資者がこれを取得しないという判断をすることはいくらでもありうるのですから、取得自体損害説は虚偽記載のされた有価証券が無価値であるとの前提に立つものではありません。このことは、もし有価証券が無価値であったことを前提とする主張だとすると取得価格と想定価格との差額を損害とみる取得時差額説によっても取得価額の賠償が認められることとなり、そもそも取得自体を損害と構成する必要がないことや、説明義務違反や不当勧誘を理由とする損害賠償を認める裁判例が取得時に有価証券が無価値であることを前提としていないことからも明らかだと思います
 
なお、判旨が原則として購入代金相当額が損害であるとしているのは、本件では民事再生計画に基づいてY株式が無償取得されてしまったために、取得価額−処分価額=購入代金相当額であることを前提としていると読みました。判決が、購入代金相当額から処分価額を差し引くべきでないと考えているのだとしたら、判旨はもちろん不当です。購入しなければ処分もなかったわけで、処分によって現金が入ってくることもなかったわけですから、その分は返さなければなりません。
 
前掲西武鉄道事件最高裁判決は、真実を公表すれば上場廃止を避けられない事例について、投資者は虚偽記載がなければ、取引所市場の内外を問わず、当該株式を取得することはできず、あるいはその取得を避けたことは確実であって、これを取得するという結果自体が生じなかったとみるのが相当であるとしました。最高裁が、取得できないと考えられる場合のほか、取得を避けたことが確実と認められる場合を「虚偽記載なければ取得なし」とみるべき場合に含めたのは、上場廃止事由の公表から上場廃止までの間に時間がかかることから、平均的な投資者は上場廃止事由が明らかとなった株式を購入しないであろうという経験則に依拠する必要があったためでしょう。
 
本件は、西武鉄道事件のように当初より虚偽の記載をしなくても上場廃止となっていた可能性の高い事例ではありません。本件のXは平成176月期の有価証券報告書公表後の株式取得について損害賠償を請求しているところ、平成166月期および平成156月期の連結財務諸表にも虚偽記載はされていたものの、債務超過ではなかったようであり、当初より真実が公表されていたとしてもY株式が上場廃止になっていたであろうとは言い切れないからです。
 
本判決は、平成176月期の有価証券報告書の虚偽記載がなく、真実の数値が公表されていれば、判旨の①〜③〔前回の記事参照〕が明らかになるから、一般の個人投資家がY株式を買い続けたとは考え難いと述べています。このうち①と③は、Yが当初より有価証券報告書に虚偽記載をしなかったとしても、XがY株式を購入する時点で明らかになっている事実ですが、②のが上場直後から虚偽報告を続けている企業であるという事実は、Yが平成156月期および平成166月期に有価証券報告書に虚偽記載をし、平成176月期に真実を公表した場合にのみ明らかになる事実といえます。そこで、特定時期の有価証券報告書にのみ虚偽記載がなかったらという仮定をおいて因果関係を推し量るべきでない(判旨不当)という考えもあるでしょう。しかし、Yが上場直後から虚偽報告を続けていたのは事実ですから、平成15年・16年に虚偽記載をしたという仮定をおくことは不自然でありませんし、投資者が依拠する有価証券の市場価格は直近の有価証券報告書の情報を反映しますから、「当該直近の有価証券報告書に虚偽記載がなかったら」という仮定をおいて投資者がどのように行動たかを判断することは許されると考えます。そして、もしYが平成176月期に真実を公表していたら、それ以前のYによる有価証券報告書の虚偽記載は2期にとどまる訳ですが、上場直後から虚偽記載をしていたという事実はやはり重大なので、平成17921日提出の有価証券報告書に真実が公表されていたらXがそれ以降Y株式を取得することはなかったであろうとする本決定の判断は妥当であると考えます。
 
本件の考察から得られる示唆として、「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合に「有価証券報告書の虚偽記載が長期間継続した後に当該有価証券を取得した場合」を加えることができると思われます。直近の有価証券報告書において真実が記載されれば、長期間虚偽記載を継続していたという事実が発覚し、投資者が取得するよりも前に当該有価証券は上場廃止とされたはずであるといえるからです。
 
なお、本件では、平成19927日にYの同年6月期の約40億円の債務超過が公表された後もXがY株式を追加取得していることから、Yは、平成17921日にYが債務超過を公表していたらXがY1株式を購入しなかったとはいえないと主張しました。これについて本判決は、平成19927日の債務超過の公表時には、併せて200億円の第三者割当増資が発表されており、Yが過去に有価証券報告書等に虚偽記載をしていたということは明らかになっていなかったのであるから、これをもって平成176月期の真実公表の後もXが株式を購入したであろうと推認することはできないと述べています。この判示も説得力があり、妥当であると思います。

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