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Business Roundtable v. SEC (1)

3月に、神戸大学の商事法研究会で、Business Roundtable v. SEC 647 F. 3d 1144
(DC Cir. 2011) の報告をしてきました。日本にはない制度を使った、なかなか面白い判決なので、紹介したいと思います。
 
【事実の概要】
Business Roundtable (企業経営者の団体) と米国商工会議所がSEC規則14a-11の審査を申し立てた。申立人は、SECは取引所法3(f)項、投資会社法2(c)項で求められている、効率性、競争、および資本形成に対する規則の影響を十分考慮せず、行政手続法に違反して規則を制定したと主張した。
 
SEC2009年に規則を提案し(74 Fed. Reg. 29,024)、パブリック・コメントの後、提案を一部修正し、2010年にこれを32で採択した(75 Fed. Reg. 56,668)。その概要は次のとおりである。
 
委任状勧誘規則適用会社(登録投資会社を含む)は、委任状資料に、資格のある株主または株主グループの指名する取締役候補者名を記載しなければならない。
 
資格のある株主とは、規則の利用を通知した日まで3年以上、議決権の3%以上を保有している者であり、株主総会まで当該議決権を保有しなければならない。候補者提案株主は、SECおよび会社に通知をしなければならないが、通知には500語以内で理由を記載することができる。会社は、提案株主が提供した当該株主および候補者に関する情報を委任状説明書に記載し、候補者を委任状行使書面(proxy voting card)に記載しなければならない。
 
また、本条の適用については、次のような制限が付されている。
規則は、州法または会社の統治文書(governing documents)が株主の取締役候補者指名を禁止している場合には適用されない。株主が、会社の支配を変更する意図を持って会社の証券を保有している場合には、当該株主は規則を利用することができない。会社は、一人または取締役数の25%を超える数(いずれか多い数)の候補者を委任状資料に記載することを求められない。複数の株主が指名資格を有する場合は、最も高い議決権割合を有する株主のみが候補者を指名できる。
 
SECは、規則14a-11が取締役会および会社の業績と株主価値を改善するという潜在的な便益は、その潜在的な費用を上回ると判断した。SECは、各会社の取締役会または株主の過半数が規則14a-11の内容を付属定款(bylaws)に組み込むかどうかを判断すべきだとする提案を、州法の下での定款自治(private ordering)に排他的に委ねることは、株主の取締役指名権・選任権を促進するのに効果的でも効率的でもないとして斥けた。二人の委員(Troy A . ParedesKathleen L. Casey)は、理論的見地および実証的見地から委員会を非難して提案に反対した。
                                                                                        
【判旨】審査の申立てを認め、規則を無効とする。
(以下は、要約です。長いですが、いったい裁判所がどのような理屈をつけて規則を無効にするのか興味があったので、抄訳をしてみました)
 
行政手続法の下では、行政機関の行為は、それが恣意的、気紛れ、裁量の濫用、その他法の違反があるときに(arbitrary, capricious, an abuse of discretion, or otherwise not in accordance with law)、裁判所により無効とされる(5. U.S.C. §706(2)(A))。我々は申立人に同意し、SECは恣意的かつ気紛れに行動したと判断する。投資会社に当該規則を適用するというSECの決定もまた恣意的であった。
 
A. 経済的効果の考慮
1.費用便益の考慮
申立人は、株主提案に反対する会社が負担する費用をSECは考慮に入れていないと主張する。SECは、採択リリースにおいて、株主による取締役候補者指名に反対することに正当な理由なく会社の資金を用いることは取締役の信任義務違反になること、および提案株主の資格要件のために提案数が制限されるだろうから、会社のキャンペーン費用は限定されると述べていた。我々は、取締役は株主側候補者に反対しないだろうというSECの予想は根拠のない憶測だという申立人の主張に賛成する。また、SECは、会社のキャンペーン費用の推計を行っておらず、規則の経済的効果を査定する制定法上の義務を無視した。
 
SECは、反対派取締役が取締役会に席を得た場合に会社の業績が低下することを示す数多くの研究を過小評価し、説得力のない2つの研究に大幅に依拠した。実証研究の結果が分かれていることに照らすと、SECは、株主の指名する取締役が選任される可能性が増すことが、取締役会および会社のパフォーマンスと株主価値を改善するという結論を十分に支えることができなかったと我々は考える。
 
SECは、規則14a-11のコストを、州法上の株主の権利を加工したものに過ぎないとして低く見積もるが、限界費用に着目しないこのような理由付けは非論理的であり、経済分析として受け入れがたい。
 
2.特別の利害を有する株主
提案株主に持株要件が課されているものの、公務員年金基金や組合年金基金がこの規則を利用すると信ずる十分な理由がある。それにも拘らずSECは、これら特別の利害を有する株主が、株主利益最大化以外の目的のために本規則を用い、会社に費用を負担させるであろうとの識者の懸念に対応しなかった。この点でSECは恣意的に行動した。
 
3.選任合戦の頻度
SECは提案リリースにおいて、取引所法上の報告会社で208社、登録投資会社で61社、計269社が規則14a-11による選挙提案を株主から受けると予想し、採択リリースでは、提案資格を限定した結果、報告会社45社、登録投資会社6社の計51社に予想を引き下げた。採択リリースにおける予想数の引下げは、必ずしも、提案リリースにおける予想数や規則14a-8の下の提案予想数と矛盾するものではない。しかし、伝統的な委任状合戦がどの程度、規則14a-11による委任状合戦に置き換わるかを採択リリースが示していない点で、SECは規則が選挙合戦の総数に与える影響を恣意的に無視した。そのようなデータがなければ、SECは規則が十分な数の選挙合戦を促進し利益をもたらすか否かを知りえないはずである。
 
規則14a-11による指名の頻度についてのSEC内の議論は矛盾しており、したがって恣意的であった。SECは、規則の便益を議論する際には指名株主が委任状勧誘資料の印刷・郵送代を直接的に節約できることを強調し、SECが引用したコメントは上場会社の15%が本条の利用を予想していると報告していた。このように、便益を評価するときは本条の活発な利用を予想しながら、費用を評価するときは不活発な利用を仮定するのは矛盾している。
 
B.本条の投資会社への適用
通常、一つの投資助言会社が、コンプレックスと呼ばれるミューチュアル・ファンドのグループを経営する。ファンドの取締役会は、一般的には、ある取締役グループがコンプレックス内のファンドのすべての取締役会を構成する「ユニタリー・ボード(unitary board)」か、複数の取締役グループがコンプレックス内の異なるファンドの組を監視する「クラスター・ボード(cluster board)」のいずれかの形態をとる。いずれの場合も、取締役会は複数のファンドの事業について一つの会議で対処する。
 
申立人は、投資会社法の規制が株主の委任状アクセスの必要性を減じ、したがって委任状アクセスから得られる便益をも減じているのではないかという点、および本規則が、投資会社のガバナンス構造を破壊することによって投資会社に多大の費用を負担させるのではないかという点について、SECは十分に対応しなかったと主張する。我々は申立人に賛成する。SECは、投資会社法の規制による保護(regulatory protection)が十分に与えられていることを認めるが、なぜ本規則が事業会社の株主に与えると同程度の便益を投資会社の株主に与えるのかをほとんど説明していない。
 
SECは、また、規則14a-11によって株主が指名する取締役があるファンドの取締役会に席を占めると、ファンドごとに取締役会の会議を別々に開かなくてはならなくなり、ガバナンスを非効率的にするという点で、同規則がユニタリー・ボード構造やクラスター・ボード構造を破壊し、投資会社に大きな費用を課すという懸念に対処しなかった。
 
SECは、投資会社の株主の多くはリテール顧客であるから、3年間の保有要件を満たさないし、投資会社に株主総会の開催を強制しない州法もあるから、投資会社が負担する費用は少ないという。また、ユニタリー・ボードおよびクラスター・ボードに対する破壊的効果は、ファンド・コンプレックスの地位を維持するために秘密保持契約を用いることで緩和されるとする。しかし、前者については、SECは利用が少なければ便益も少ないという点を見過ごしているし、後者については、株主指名の取締役は他のファンドに対して信任義務を負わず、秘密保持契約を締結する義務も負わないから、秘密保持契約は解決策にならないという反論に対する答えになっていない。
前の記事から大分時間が経ってしまいました。この間、ライブドア事件の際高裁判決が下され、最高裁の見解が明らかになってきています。もっとも、今取り上げているニイウスコー事件判決は、取得自体損害の問題を扱っており、ライブドア事件と争点が異なるので、ライブドア判決に触れずに、この事件の評釈を片付けてしまいましょう。
 
 損害額の算定
本判決は、虚偽記載がなければ株式を購入することはなかったと認められる場合の損害は原則として株式購入価額であるとし、XのY株式の購入代金相当額を損害額と認めました。この点につき前掲西武鉄道事件最高裁判決の多数意見は、「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合の損害額は、投資者が虚偽記載の公表後に取引所市場において処分したときは、取得価額と処分価額の差額を基準とし、経済情勢、市場動向、当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額)の下落分を上記差額から控除して算定すべきであるとしています。したがって、本件は上告受理の申立てがされていますが、最高裁は同判決の趣旨に従って本決定を修正するものと予想されます。私は最高裁判決よりも本判決の結論の方が理論的に正しいと考えるが、前に論じましたので、ここでは繰り返しません。
 
最高裁判決に従う場合、虚偽記載に起因しないY株式の市場価額(上場廃止後はY株の非上場株式としての評価額)の下落分をXの取得・処分差額(=購入代金相当額)から控除することになります。西武鉄道事件の最高裁判決は、「ろうばい売りによる下落」は有価証券報告書等の虚偽記載が判明することによって通常生ずることが予想される事態であるから、虚偽記載と無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできないとしました。判旨のいう「ろうばい売りによる下落」とは、少なくとも虚偽記載の判明によって上場廃止の可能性が生じたことに基づく市場価額の下落を含むものと思われます。
 
臨時報告書の虚偽記載の公表と同時に民事再生手続開始の申立てをしたアーバンコーポレイション事件では、金融商品取引法21条の22項による推定損害額から「虚偽記載によって生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情によって生じた」損害の額としていくらを減額すべきかについて、裁判例は、8割の減額をするもの(①東京地判平成22112判タ1318214頁)、2割の減額をするもの(②東京地判平成2239金法1903102頁①事件)、7割の減額をするもの(③東京地判平成22326金法1903102頁②事件、④東京地判平成2327(判タ1353219頁))に分かれています。これらのうち①③④判決は、同事件における臨時報告書の虚偽記載の公表と民事再生手続開始の申立てを直接の関連のない別個の事情とみており、②判決は、両者を全く別個の事情であるとみることはできないとしています。さらに、②の控訴審である⑤東京高判平成231124判時210324頁は、発行者は臨時報告書の虚偽記載の時点で、資金調達の見込がなければ民事再生手続開始の申立てをしなければならない状況にあり、民事再生手続開始の申立ては発行者が虚偽記載等の公表に伴って必然的にとらなければならない対応であったのであるから、発行者の株式の下落が民事再生手続開始の申立てがされたことによって生じたものと認めることはできないとして、推定損害額からの減額を認めませんでした。
 
本件の原判決も推定損害額からの減額という文脈でこの問題を検討しており、民事再生手続開始の申立てやそれによる上場廃止の決定という事実が明らかになった後に株式の市場価値が下落することがあるとしても、これはこうした事実を原因とするものではなく、あくまで発行者が再生手続開始の申立てに至るまで経営、財務等の状態が悪化していた事実が、それまで明らかでなかったのが明らかになったことによるとして、推定損害額からの減額を認めませんでした。
 
アーバンコーポレイション事件は、臨時報告書提出の時点で真実を開示していたら民事再生手続開始の申立てが不可避であったかどうか微妙な判断を要する事件だったと思われますが、本件のように、民事再生手続開始の申立てが不可避の状況を虚偽記載によって隠蔽していたと認められる事例では、民事再生手続の申立てによる市場価額の下落は「虚偽記載に起因しない市場価額の下落」として控除することができないと私は考えます。そうすると、最高裁判決に従う場合、本件では、虚偽記載公表後、上場廃止までの間のY株式の市場価額の下落から控除すべき市場価額の下落分はなく、XのY株式取得から虚偽記載公表までのYの業績悪化による市場価額の下落分、およびY株式の上場廃止後の非上場株式としての評価額の下落分を、Xの購入代金相当額から控除することになりそうです。

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