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ある勉強会に呼ばれて、AIJ事件に適用される刑罰規定について話をしてきました。その準備の過程で考えたことを書いておきます。
AIJ事件で問題とされる違法行為と適用される罰条は次の通りです。
1.虚偽記載のある運用報告書の投資者への提出
金商法205条14号 6月以下の懲役、50万円以下の罰金、法人は50万円以下の罰金
2.虚偽記載のある事業報告書の金融庁長官への提出
金商法198条の6 1年以下の懲役、300万円以下の罰金、法人は2億円以下の罰金
3.虚偽記載のある運用報告書を提示して、新規の投資一任契約を締結した行為
金商法38条の2第1号、198条の3 3年以下の懲役、300万円以下の罰金、法人は3億円以下の罰金
4.詐欺罪 刑法246条、10年以下の懲役
1、2は監視委員会による行政処分の勧告で挙げられていた違反行為、3は強制調査の理由とされた違反行為です。4が成立するかどうかは議論がありそうですが、刑法の専門家ではないので、ここでは省略します。
新聞等で「契約の偽計」と言っていたことから私は漠然と、金商法158条を適用するのだと思っていました。158条違反であれば、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金、法人は7億円以下の罰金と、38条の2とは大きな隔たりがあります。ところが、158条は有価証券の取引またはデリバティブ取引についてのみ適用されるので、投資一任契約の締結に関して偽計を用いた本件には適用できないということのようです。また、157条(罰条は158条と同じ)も、有価証券の取引またはデリバティブ取引に限って適用されるので、本件での適用は無理と考えられたようです。
本当にそうでしょうか。
アメリカの判例では、投資一任契約の締結が「証券」に当たるかどうかが争われています。ここでの問題は、投資一任契約の投資対象が証券かどうかではなく、「一任契約の締結」が「証券の売買」に当たるかという問題です。この「証券」は「投資契約」で、「投資契約」にはHowey基準が適用されますので、一任契約がHowey基準中、「共同事業性」の要件を満たすかどうかが問われているのです。証券性を肯定する考え方は、顧客と投資顧問との間で共同事業が行われているとし(垂直的共同事業性のアプローチ)、証券性を否定する考え方は、一任契約を締結する顧客同士の間で共同事業が行われていない(水平的共同事業性のアプローチ)ことを理由とします。
このHowey基準を明文化したのが、金商法2条2項5号・6号の集団投資スキーム持分なのです。そして、日本の集団投資スキーム持分は共同事業性を要件としていないので、投資一任契約から顧客に生ずる権利は、集団投資スキーム持分に該当するようにも思われるのです。だって、投資一任契約から顧客に生ずる権利は、拠出された金銭を充てて行う事業(投資)から生ずる収益の分配を受けることができる権利といえるからです。
もしこのような解釈が成り立つのであれば、投資一任契約の締結は有価証券の売買に当たるので、それに関して偽計が用いられれば、金商法158条を適用できることになります。
このような解釈を阻むものとしては、金商法38条の2第1号が金商法158条と別個の条文として定められており、罰条も異なることが挙げられます。しかし、この点は規定の沿革から説明できそうです。金商法38条の2第1号
に相当する規定は、投資顧問業法、投資信託・投資法人法にあり、その罰条は3年以下の懲役、300万円以下の罰金でした。平成18年の改正で、これらの規定を金商法に取り込んだ際に、158条との整合性を考慮せずに、そのまま移してきたというのが実情ではないでしょうか。そのまま移してきたことは立法論としては問題ですが、ここではそのことを非難しているのではありません。そのまま移してきたときに、金商法で集団投資スキーム持分が有価証券とされたことから不整合が生じうることを考慮せず、罰条を変えなかったのではないか。したがって、金商法38条の2第1号は、金融商品取引業者等について金商法158条の特別法になっているのではなく、一つの行為がいずれの構成要件にも該当するときは「観念的競合」になのではないか。このように考えると、金商法38条の2第1号が存在することは、金商法158条を適用する妨げにならないように思えるのです。
もとより上記は解釈は一つの可能性に過ぎず、158条の適用が現時点で難しいことは私も否定しません。ただ、私はアメリカで一任勘定が投資契約だから日本でもそう解すべきだというのではなく、日本の集団投資スキーム持分の定義規定の素直な解釈がその結論を導くと思うのです。
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2012年04月22日
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