ここから本文です

書庫過去の投稿日別表示

全1ページ

[1]

今回取り上げたいもう一つの論点は、中間試案第2部第3の1の株式売渡請求制度です(コピペをしているため読みにくくて済みません)。金融商品取引法とは直接関係がないですが、公開買付けで90%取得した後にキャッシュ・アウトを行う場合に利用可能な制度といえるでしょう。
 
中間試案第2部第3の1は、対象会社の議決権の10分の9以上を有する株主が、対象会社の株主総会の決議を要することなく、現金を対価とする少数株主の締出し(いわゆるキャッシュ・アウト)を行うための新たな制度を提案しています。この制度では、特別支配株主が全株主に対して株式の売渡しを請求することを認めるとともに、少数株主保護の方策として、裁判所に対する価格決定の申立て、価格が著しく不当である場合の差止請求権、売渡株式の取得の無効の訴えの制度を設けることとしています。
 
キャッシュ・アウトは、意思決定の迅速化、株主管理コストの削減等の点で企業経営にメリットがあります。議決権の10分の9を有する株主は、略式組織再編の手続により、対象会社の株主総会の決議を経ることなくキャッシュ・アウトを行うことができるので、そのような株主に、より簡便な方法によるキャッシュ・アウトを認めることには合理性があると思います。しかし、そのような趣旨からすると、中間試案の提案は、次に述べるように不必要に重たい制度になっているように思われるのです。
 
第1に、株式の売渡請求は特別支配株主と少数株主との間の取引であるにも拘わらず、売渡請求をするには対象会社の取締役会の承認が必要とされています。その理由として、補足説明は、キャッシュ・アウトの条件について一定の制約が必要であるからだとしています。たしかにキャッシュ・アウトの条件は公正なものでなければなりませんが、特別支配株主から提示された条件が公正であるかどうかを対象会社の取締役が判断できるという保証はありません。補足説明は、対象会社の取締役は売渡株主の利益に配慮する義務があるから、注意を尽くして対価の相当性を判断すべきであるとし、そのことを取締役会の承認を要する根拠としているようです。しかし、取締役が少数株主の利益に配慮する義務を負うのは会社の機関として行動する場合であって、特別支配株主・売渡株主間の取引の相当性について取締役に判断させるのは、取締役に新たな義務を課すことにほかならないのではないでしょうか。
 
実際的に考えても、取締役会の承認は有害か無益であると思います。まず、特別支配株主によって選任された取締役であれば、特別支配株主の提示する条件を承認しないはずがないから、取締役会の承認を要求することは無益です。つぎに、敵対的買収の過程で売渡請求権が行使され、取締役会と特別支配株主が対立関係にあるときは、特別支配株主としては株主総会を開催して取締役を交替させてから取締役会の承認を受けることになりますが、これは無駄に時間と手間をかけることになり有害ではないでしょうか。中間試案は、公正な条件が提示されるような手続規制を設けることによって、売渡株主の価格に対する不満が解消されると考えたのかも知れません。しかし、売渡請求制度では価格を争う手段を用意することが不可欠であり、売渡価格に不満のある株主は取締役会の承認があろうがなかろうが売買価格の申立てをするでしょうから、取締役会の承認手続はいたずらに手続を複雑にするだけでしょう。
 
第2に、売渡株主保護の方策として、売渡しの効力発生前は差止請求権が、効力発生後は無効の訴えが提案されています。しかし、売渡請求者が特別支配株主の要件を満たしていなかった場合や売渡請求の手続に違反した場合には、株式取得の効果は生じないと解されるからそれで足りると考えます。株主間の株式の売買が無効であった場合以上に取引の安全に配慮する必要はないはずです。また、差止事由として価格が著しく不当である場合が挙げられていますが、その場合は売渡請求は無効であるとはいえないものの、売渡株主は価格決定の申立てにより保護されるので、差止めを認める必要はありません。
 
補足説明は、無効の訴えの制度を設ける理由として、売渡請求は多数の株主の利害に影響を及ぼすので法的安定性を確保する必要があるとしています。たしかに、売渡請求は少数株主をすべてキャッシュ・アウトすることが目的ですから、特別支配株主にとっては全株式について一律に取得の効果が発生しないと不都合でしょう。しかし、訴訟を提起しなければ売渡の無効を主張できないというのは、売渡株主にとって不便すぎるのではないでしょうか。
 
①株式会社に新たな支配株主が現われたこと、または②株式会社の議決権の10分の9以上を有する支配株主がいることを要件として、少数株主に、自己の有する株式を当該支配株主に売却する機会を与える制度、いわゆるセル・アウトの創設については、提案が見送られました。その理由として補足説明は、①の新たな支配株主に対するセル・アウト制度について、企業結合の形成に際して生じる費用が増大し、企業価値を高める企業結合の形成がされにくくなるおそれがあるとの指摘があり、②の大多数保有株主に対するセル・アウト制度は、支配株主の異動が生じた場合に少数株主に退出の機会を与えるための制度として位置づけることは困難であることを挙げています。
 
たしかに、新たな支配株主に対するセル・アウト制度については、企業結合の費用を増加させるという側面がありますし、そもそも支配株主が出現したときに少数株主に退出の機会を与えるのが好ましいか否かという議論からしなければならず、そのような議論がなされていないために制度の創設を見送るという態度は理解できるところです。それに対して大多数保有株主に対するセル・アウトは、10%未満の少数株主は会社法上、略式組織再編の対象となるなど不利な地位に置かれることになり、大多数保有株主側も10%未満の少数株主を残存させることに合理的な理由がないことから、少数株主に無条件の株式買取請求権を認めるものなのです。このセル・アウトは、そもそも支配株主の異動が生じた場合に少数株主に退出の機会を与えるための制度ではないのですから、そのような位置づけができないことは、②のセル・アウトを採用しない理由にはなりません。部会の議事録を見ても、90%以上の支配株主に対する株式買取請求権を認めるべきであるとの発言が複数あったにも拘らず、中間試案において提案から落とされたことは奇異に感じられます。
 
キャッシュ・アウトは、企業経営上メリットがあるのに対し、セル・アウトは結合企業側、支配株主側にメリットがないから(もし、メリットがあるのであればキャッシュ・アウトをしている)、認めないという議論があるのかも知れません。しかし、セル・アウトは10未満の少数株主の利益を保護するための制度ですから、支配株主側にメリットがないことをもってその創設を否定することは本末転倒でしょう。セル・アウトの仕組みを考えると、キャッシュ・アウトとは反対に、少数株主が価格を提示して支配株主に対し買取請求をし、価格に不満のある支配株主は裁判所に価格決定の申立てをすることになるでしょう。セル・アウトを認めると、支配株主は個々の少数株主による買取請求に個別に対応しなければならず、煩瑣であると思われたのかも知れません。しかし、そのような場合、支配株主はキャッシュ・アウト権を行使すればよいのですから、問題はありません。結局、セル・アウトは、支配株主がキャッシュ・アウト権を行使しないために救済を否定される少数株主の利益を守る点に最も重要な機能があるといえるのではないでしょうか。

全1ページ

[1]

くろぬま
くろぬま
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
検索 検索
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22
23 24 25 26 27 28
29
30
31

最新のコメント最新のコメント

すべて表示

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事