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「株式会社法体系」という本に「公開買付け」のテーマで原稿を依頼され、ようやく原稿を提出しました。
内容は出版されてから読んでいただくのが良いのですが、感想めいたことを綴ってみたいと思います。
こういう「体系」ものの出版では、そのテーマについて概括的に書くのが一般的です。過去には河本一郎先生還暦記念論文集である「証券取引法体系」に、森本滋先生が「公開買付」という題で書かれています。森本先生は、アメリカ法との比較を交えて公開買付規制全般を論じておられたのですが、現在は公開買付規制も複雑になっており、アメリカ法・EU法との比較をしていたらとても制限字数に収まりません。
公開買付けについては、実務の関心を反映して実務書が多数出版されています。おそらく公開買付規制違反が課徴金の対象となったことと無関係ではないでしょう。しかし、実務上の論点を挙げるのはどうかなと迷っていました。そんななか、飯田秀総准教授の論文「公開買付規制の改革」商事1933号14頁(2011年)に次のような記述を見つけました。「現在の日本の公開買付規制は、情報開示にとどまらない規制を定めているが、その核となる哲学があまり明確でない。・・・このような状況で公開買付規制の改革を考える場合には、弥縫策的な改正(たとえば、複数の種類株式を発行している会社を対象とする公開買付けに関する規制の整備等)も重要かつ必要であるが、規制の目的として何をコアとするべきかを考えるほうがより重要だろう。」 学者のすべき仕事はまさにこれだと思います。
このテーマについては、名古屋大学法政論集に「市場取引・相対取引・公開買付(1)」という論文を書いたことがあります。(1)はアメリカのマーケット・スウィープの規制の紹介に終わっていますが、(2)で強制的公開買付制度の廃止論を展開しようと思っていました。しかし、その計画は果たせませんでした。その後、TOB研究会報告書の紹介という形で、2002年に商事法務に「強制的公開買付制度の再検討」という論文を公表しました。しかし、そこでも読み落としていた論文があり、いつか続きを書きたいと思っていました。
そこで今回は、細かな解釈論や制度論よりも、公開買付規制のグランドデザインを考えてみたいと思い、理論的な問題に焦点をあてて自分の考えを展開することにしました。テーマは、1.市場外買付けの強圧性とただ乗り、2.相対取引・市場取引への公開買付規制の適用、3.退出権の保障と少数株主保護 です。
この論文を書く上で、参考になり、刺激を受けたのは、飯田准教授の法協論文及び上記商事法務論文と、田中亘准教授の『企業買収と防衛策』(商事法務、2012)の最終章の2つです。二人の考えは公開買付けの強圧性を問題にする点は共通していますが、強圧性の捉え方は少し違います。しかも、二人とも以前の論文から少しずつ考えが変わってきているように思われたことが、私にはとても興味深かったです。
私の印象を書くと、飯田さんは、法協論文では公開買付けの強圧性は解消しなければならないという立場だったのですが、商事法務では、「制度としては、強圧性とフリーライドの問題の両方を解決できるようなものが望ましい。言い換えれば、強圧性を解消することばかりに注目して、企業価値を挙げるようなタイプの企業買収に無用なコストを課すような制度は望ましくない。」と、フリーライド問題(企業価値を挙げるような公開買付けは、株主は対象会社に残ろうとして株を提供しないため、成功しないという問題)も重視すべきであるという立場に変わってきているように思います。
田中さんは、ブルドックソース事件の評釈のころは、公開買付けには強圧性があるから、集合行為問題を解決できる株主総会決議による買収防衛策は正当化できるというトーンだったのですが、今回は、公開買付けの強圧性を解消する方策を導入することを前提として、取締役会限りでの買収防衛策は禁止するという見解を提示しています(株主総会決議による防衛策は否定しない)。自身が参加していた企業価値研究会の報告書に対しても「反対」の立場のようです。この変化は、アメリカの判例法研究と日本の実証研究を経た結果のようです。
私が間に割って入るまでもなく、二人の見解は細部では違っており、二人は今後よきライバルになるだろうなと思いました(強圧性の意味を含め、次回に論文で言いたかったことは何かを書きます)。
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2012年12月30日
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