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論文こぼれ話(2)

ブログは研究論文の内容について議論する場ではないので、他人の説の批判は、ここには書きません。自分の意見の論理の流れのみを下に書き留めておきます。
 
公開買付けにおける強圧性とは、対象会社が独立でいた方が株主の利益になると考える株主であっても、公開買付けが成功すると自己がより不利な立場におかれると予想し、株式を提供する圧力を受けることをいいます。強圧性の問題とは、強圧性が生じる結果、個々の株主の投資判断が歪められること自体にあるのではありません。そもそも、株主は利得状況を計算して合理的に行動しているので、その投資判断は歪められていません。強圧性が生じる結果、多くの株主が株式を提供することとなり、企業価値を減少させるような公開買付けが成功してしまうことが、効率性の観点から問題であるとされているのです。ここで用いられる効率性の基準は、いわゆるカルドア・ヒックス基準であり、社会的効用(それは、多くの場合株主の効用に一致する)が増加すれば効率的、減少すれば非効率的と考える基準です。
 
それでは、企業価値を減少させる公開買付けとは何か。企業価値が減少するのは、株主にとっての独立価値(対象会社が独立でいる場合の価値)より残存価値(対象会社にとどまる場合の価値)より高くなる場合のすべてではありません。効率性の基準としてカルドア・ヒックス基準を用いているので、全株主にとっての独立価値の総計が、買付けが成功した場合の支配株主の株式価値と少数株主の株式価値の合計より高い場合に限って非効率な買収が行われることになります。つまり、多くの株主にとって強圧性が生じている場合のすべてにおいて、非効率な買収が行われるわけではありません。いいかえると、強圧性が生じる場合にすべてこれを解消してしまうと、効率的な買収が妨げられる可能性があるのです。
 
強圧性の解消策として、株主に株式提供とは別に、買付者による支配権取得についての賛否を問うやり方が内外で提案されています。しかし、このやり方では、非効率な買収のみを阻止する保障がないというのが、私の意見です。賛否を問うやり方の多くは、株主の過半数の賛成を要するというものですが、株主の過半数が公開買付けに賛成することと、その公開買付けが企業価値を増加させるものであることとは必ずしも一致しません。支配株式の価値も企業価値に含まれる以上、支配株主(買付者)の判断も考慮しなければならないからです。この問題は、現状では、理論的に十分な解明がされていないと感じています。
 
それではどうしたらよいか。強圧性が非効率な買収を生むのですから、強圧性が生じる前提を取り除くことが考えられます。強圧性の一つの前提は、対象会社の独立価値が買付価格よりも高い場合があり得るという命題です。買付価格が独立価値よりも常に高ければ強圧性は生じません。ふつう、公開買付価格は市場価格より高く設定されます。それにも拘らず、株主の予想する独立価格が買付価格より高い場合がありうるのは、公開買付けに接した株主が自社の企業価値の予想を修正するからであるといわれています。しかし、対象会社の経営者はこのおうな株主の予想の修正を容易く株価に反映させることができるのではないか、というのが私の意見です(これには反論もあり得ますが、それは論文で論じています)。そうすると、強圧性の解消は、対象会社が独立でいることが株主の利益と考える対象会社取締役が、独立価値を株価に反映させる行動によって図るべきではないでしょうか(論文には書きませんでしたが、このように考えると、MBOの場合にのみ強圧性に対処すれば足りることになりますね)。
 
ただし、いわゆる二段階買収(買付価格よりも低い対価での第2段階の締出しを予告する買付け)では、対象会社の独立価値がいくらであるか、それが市場価格に反映されているか否かにかかわらず、公開買付けは強圧的となります(いわゆる「構造的強圧性」)。この構造的強圧性も、株主が協同行動をとることで阻止することができるのですが(買収防衛策)、これは端的に禁止すべきではないかと考えます。もっとも、構造的強圧性のある買付提案を禁止するのに特別の立法は必要ではなく、そのような買収提案は「有価証券の売買その他の取引について、不正の手段、計画または技巧をすること」に該当するものとして金商法157条に違反すると解すれば足ります。
 
強圧性のもう一つの前提は、対象会社の株主の一部が残存することです。もし、公開買付けが失敗した場合には買付者が1株も取得せず、公開買付けが成功した場合には、残存株主のすべてを買付価格と同額で対象会社から締め出すのであれば、強圧性は生じません(いわゆる「オール・オア・ナッシング」方式)。論文では、オール・オア・ナッシング方式について検討し、理論的には反論の余地はないが、政策的にはオール・オア・ナッシング方式に賛成できないと結論付けました。
 
続いて論文では、「ただ乗りの解消策とその検討」をしていますが、これは理論的検討です。続く「相対取引・市場取引への公開買付規制の適用」では、問題の本質が「強圧性」ではなく、大株主の「私的利益の追求」によって非効率な買収が成功してしまうことであることを明らかにした上で、私的利益の追求の一部は会社法上、規制の対象となっていることから、効率的な買収も非効率な買収も促進するルール(相対取引や市場取引による支配権の取得を認めるルール)のほうが、いずれも抑制するルール(強制的公開買付け)よりも、全体として好ましいのではないかと結論付けています。
 
最後に、「退出権の保障と少数株主の保護」を検討していますが、この部分は主に政策的な検討です。
 
興味のある人は、『株式会社法体系』出版後にご一読ください。

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