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平成25年の金商法改正では、主としてインサイダー取引規制の改正が行われました。背景等の説明は省略して、ポイントは次の4つでしょうか。
1.情報伝達行為・取引推奨行為を処罰の対象としたこと
2.他人の計算でインサイダー取引を行った者に対する課徴金額を引き上げたこと
3.公開買付けの対象者の関係者を公開買付等関係者(インサイダー)としたこと
4.投資法人制度の改革に関連して、投資法人にインサイダー取引規制を導入したこと
順次、改正法の条文に即して見ていきたいと思います。現時点では、立案担当者の解説等がなく、以下は私が頭の整理のために書くものなので、論文での引用はご遠慮ください(私自身、雑誌等に原稿を書く予定です)。
1 情報伝達行為・取引推奨行為の禁止
情報伝達行為と取引推奨行為の禁止規定は、167条の2という新たな条文を新設して設けられました。同条1項は、会社関係者は、他人に対し、重要事実の公表前に特定有価証券の売買等をさせることにより利益を得させ、または損失を回避させる目的で、重要事実を伝達し、または当該売買等をすることを勧めてはならないと規定しています。同条2項は、公開買付者等関係者について同様の禁止規定を定めています。ここでは、「目的要件」が明文化されています。
「利得を得させ、または損失を回避させる目的」の立証は難しいとも言われています。しかし、条文上は、「特定有価証券の売買等をさせる目的」の立証も必要であるように読め、売買等をさせる目的が立証されれば、利得を得させる目的は推認されるのではないでしょうか。
情報伝達や取引推奨を受けた者が取引を行ったことを、情報伝達行為・取引推奨行為の処罰要件とする規定は、処罰事由を定める197条の2第14号・15号に置かれています。客観的処罰要件は、重要事実の伝達を受け、または取引推奨を受けた者が、重要事実の公表前に特定有価証券等の売買等をした場合に限るという旨の限定を付す形で定められました。情報の伝達や取引推奨を受けたことと情報受領者が取引を行ったこととの因果関係は要求されていません。客観的処罰要件としての規定は、このような形式で良いと思われます。
情報伝達者・取引推奨者(以下、情報受領者等という)に対する課徴金の額は、175条の2第1項3号で、違反行為により情報受領者等が得た利得相当額の2分の1と定められました。金融審のインサイダーWG報告では、これらの者の課徴金は、情報伝達や取引推奨を行うことにより一般的に行為者が得られる利得相当のものとすることが適当とのみ記載していました。これがいくらになるか注目されていたのですが、情報受領者等の利得の2分の1とされたわけです(仲介関連業務や募集等業務に関連して伝達や取引推奨が行われた場合は別計算。175条の2第1項1号・2号)。
ここにいう利得相当額とは、175条の2第3項で、情報受領者等が売り付けた価格とその後2週間以内の最安値との差額、買い付けた価格とその後2週間以内の最高値との差額といった計算により算出されます。これは情報受領者等に対する課徴金の計算方法と同じですが、実は、取引推奨を受けて売買等をすることは、行為者が重要事実を知っていないのでインサイダー取引には当たらないことに注意が必要です。
取引利得の2分の1というのは、情報伝達者・取引推奨者を実行行為者の教唆者・幇助者と同じに見ているとの推測を成り立たせます。しかし、共同正犯に当たる場合は別として、現行金商法は、教唆者・幇助者を課徴金の対象としていないのです。教唆者・幇助者は刑事罰の対象となるのに、なぜ課徴金の対象としなかったのかは、よく分かりません。教唆者・幇助者の利得は、実行行為者の利得に含まれているので、実行行為者から利得相当額を剥奪すれば、違反行為の抑止として十分であると考えられたのかも知れません。
情報伝達者・取引推奨者の行為は、情報受領者等の共犯ではなく、独立した犯罪類型ですので、情報受領者等との間に意思の疎通は必要でありません。この点からすると、なぜ情報受領者等の利得の2分の1が情報伝達者・取引推奨者に対する課徴金の額とされるのかを、違反者の利得を剥奪するという観点から説明することはかなり難しいように思います。むしろ、情報伝達行為・取引推奨行為はインサイダー取引の未然防止のために禁止されるのであるから、未然防止の実効性が発揮されるために必要な課徴金額はいくらかという観点から課徴金の額を決めたと説明する方が素直でしょう。
課徴金の額の大小については、次のことも気になります。
情報伝達者と情報受領者の場合を考えてみると、情報受領者はインサイダーとして利得を得ており、その額を基準とする課徴金を課されます。これに加えて、情報伝達者に課徴金を課すと、全体として、違反行為から得られた利得相当額の総額を大きく超える金額が課徴金として課されることになりそうです。
取引推奨者と取引者の場合を考えてみると、取引者は法令違反をしていないので課徴金を課されません。取引推奨者は、独立の違反行為を原因として課徴金を課されるので、利得が二重に剥奪されるといった上述の問題は生じません。ただ、取引推奨が広範囲に行われた場合―たとえば、会社関係者が○○株を買ったらよいという推奨をインターネットの掲示板に書き込んだような場合、掲示板に書き込んだ行為自体から売買等を行わせる目的が証明されるか、掲示板を見て(取引推奨を受けて)取引した者を特定できるのかといった問題はあるとしても(不特定多数の者が「他人」といえるかといった解釈問題もあるかも知れません)、推奨を受けて取引をした者が得た利得相当額が莫大な額に上る可能性があります。その課徴金額が取引推奨行為を抑止するためにふさわしいかどうかは、慎重に検討する必要があるように思われます。
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2013年08月16日
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