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研究会で2回目の報告をしてきた。
今回は、特例業務の出資者の範囲とベンチャーファンドの特例(とくに出資者の範囲の拡大)が中心テーマで、解釈論的に問題となるような点は少ない。条文の紹介が多いので、報告原稿の枚数が伸びても報告は1時間持たないだろうなあと思いながら、ひたすら報告原稿を書いていた。
例によって鋭い質問が出た。ベンチャーファンドでは、体制整備義務と引き換えに出資者の範囲を拡大しているのだが、体制整備義務のなかに、出資契約において一定の事項(たとえば公認会計士の監査を受けること)を定めるという条件がある。報告では、出資契約に当該事項が定められていないときは、届出者は内閣総理大臣による業務改善命令の対象になると説明した。契約書の写しを提出しなかったり、虚偽の契約書を提出した場合には罰則の対象となるので、定めていないときはどうなるのか想像して書いたのだ。
質問者は、体制整備義務がベンチャーファンドの出資者の範囲の拡大の条件となっているのだから、一定の事項を定めていない場合には出資者の範囲が拡がるという効果が生じず、もし届出者が通常のファンドの出資者の範囲を超えて勧誘をしたり、当該出資者の財産を運用していた場合には、第二種業や投資運用業の無登録営業になるのではないか、という。たしかに、施行令は、契約で一定の事項を定めた場合に限り出資者の範囲が拡大すると読めるし、金商法63条1項は、政令で定める者を適格機関投資家以外の者とする場合に限って登録を免除しているので、たとえば公認会計士の監査を受けると契約に書いていない場合に、届出者がベンチャーファンドの特例によって出資者の範囲に含まれた者に勧誘を行うと、無登録営業になりそうだ。ただ、契約には定めていたが届出者が遵守しない場合(たとえば公認会計士の監査を受けない場合)に、業務改善命令以外の効果がどうなるのかは、よく分からない。初めから監査を受ける気がないときは、虚偽の契約書を提出した場合(罰則あり)に該当しそうだが、単なる不履行の事例もありそうだ。
法学者として業績を上げようと思ったら、こういうことを常に考えるようにしておかないといけない。法律はそれなりに考えて作られているから、できたばかりの法律に解釈を要する問題は少ない。反面、法律には(罰則以外)規定に違反した場合の効果が書かれていないことがほとんどなので、違反の効果の多くは解釈論によって決まる。
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拙著『金融商品取引法』が刊行されました。
本が出ると、ああすれば良かった、こう書けば良かったと後悔しきりですが、これから数回に分けて、言い訳を交えながら、なぜそう書いたのかについて少し語ってみたいと思います。
本を献呈した先の先生方からお礼状をいただくことがあります。今日いただいた河本一郎先生(お幾つかは書きませんが、献呈先の最高峰。Wikiで調べてみてください。代表作の大隅=河本『注釈手形小切手法』や鈴木=河本『証券取引法』が載っていないのが残念。)からのお礼状に、「形式の点においても、いろいろとご苦心の程が拝見され」と書かれていたのが、とても嬉しかったです。
拙著は12章に分かれますが、はしがきにも書いた通り、私は金商法は、ディスクロージャー、不公正取引、業規制に3つに分かれる(しかも、前2者を先が重要)と思っているので、1章総論のあと、2章から5章をディスクロージャーに、7章から9章を不公正取引の規制に、10章から12章を業規制その他に当てました。6章は、不公正取引規制を理解するための前提となるべき「金融商品市場の仕組み」で、初めから読んでいった場合のブレイクになります。
1章は総論ですが、ここにはいわゆる総論と、金商法の適用範囲に絡めて、有価証券・デリバティブ取引の定義をおきました。金商法の歴史(法改正の経緯等)をどこに書くかは、考え方が分れるでしょう。歴史は書かない方が理解しやすいという考え方もあるでしょう。私は制度の理解のためには歴史も重要だと思うものの、総論で長々とそれを書くと読者の読む気を削ぎますし、金商法にはいくつもの制度が含まれていて金商法改正の歴史を全体として理解することは重要でないと考えているので、各章の各制度の説明において、必要な限りで触れることにしました。
そうすると1章で出てくる条文は、1条(目的)と2条(定義)の一部ということになります。それ以外は、企業の資金調達がどのように行われるのかとか、投資家が投資判断を行うこと企業の資金調達の関係、資本市場では誰が何を決定しているのかといった経済の側面を説明しています。1条の目的論もそれに絡めて論じています。
また、2条の有価証券の定義については、各有価証券の内容とともに、有価証券の価格が理論的には何によって決定されるのかを説明しています。この部分は私が理解する限りで書いたものであり、その意味で、あまり学問的とは言えないと思っています。それにも拘わらず、他の体系書では触れていない価値評価の説明を加えたのは、拙著で(他の体系書でも同じですが)、「公正な市場価格を形成するには情報に基づいた投資判断が重要だ」といいながら、有価証券やデリバティブの市場価格が何によって(どんな情報によって)決まるのかを示さなければ意味がないと思うからです。
有価証券のうち、投資信託や資産流動化に関係する証券を最初の説明するのは、それらになじみのない読者によっては負担と思われます。資産流動化は、そのあと2章7節でしか出てきませんし、投資信託に至っては11章まで出てきません。ここを理解が難しいと思った読者は飛ばしてください。2章以下の大部分は、株式についての話です。
結局、1章では1条と2条の一部以外は、法律の話ではなく、1章は2章以下のイントロダクションと思ってくだされば結構です。とはいえ、総論は体系書の記述の方向性(つまり自分の考え方)を示すものであり、私自身、力を入れて書いたつもりですし、何度も読み直したせいか、(少なくとも私の頭には)すっと入ってくるよう書けていると自負しています。読み飛ばした方も、あとでもう一度、読み直してもらえればと思います。
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日本取引所の金融商品取引法研究会で、2回にわたり、平成27年改正法の内容を報告しています。WGの資料、報告、逐条解説本、商事法務の記事等を見ながら、ああでもない、こうでもないと考えることは楽しいです。
今回の改正で特例業務の届出者の欠格事由が定められましたが、欠格事由に該当していた場合に、届出者は何の違反に問われるのでしょうか。届出の違反(無届営業)なのか、金融商品取引業の無登録営業なのか。私は、特例業務は本来は登録が必要だが、届出をすれば登録なしにすることができるので、欠格事由に該当すると届出の効果(登録なしに業を行えるという効果)が発生せず、無登録営業になると報告しました。また、今回の改正で届出者に対して行政処分をすることができるようになりましたが、欠格事由に該当していた届出者は無登録業者となるので、そのような者に行政処分を下すことはできないのではないかとの疑問を呈しました。
前者の点について某先生が発言され、金商法63条1項は一定の業務については登録を要しないとし、第2項で当該業務を行うには届出を要求するという構造をとっている、だから欠格事由に該当する場合は、あくまでも届出違反(2項の違反)に過ぎず、無登録営業にならないのではないかと指摘されました。たしかに、私は届出をすれば登録は要らないと勘違いしており、自分の誤りを棚に上げると、こういう指摘を受けるのは研究会の醍醐味だと思います。
さて、次回の研究会の準備をしながら考えてみると、金商法63条7項は一定の事由に該当する者は特例業務を行ってはならないという形で欠格事由を定めています。7項違反に対する直接の罰則はありません。そうすると、欠格事由に該当するのにそれを隠して届出をした場合には、虚偽の届出として無届と同じ罰則が適用されるのですが、それに当たらない場合には、届け出てもその業務をすることができない者に届出義務の違反があるとは言えないように思えてきました。欠格事由に該当する場合は、届出の有無に係らず、することができない行為をしたのだから(登録すればできる)、やはり無登録営業に当たるように思い直しました。
また、後者の問題については、(私の解釈では)欠格事由に該当する者は無登録営業となるものの、行政処分は届出者(届出をした者)に対してかかってくるので、欠格事由に該当する者が届出をしておれば、届出者として行政処分の対象になるのではないでしょうか。立案担当者の解説にもこれに沿う部分があります。つまり、欠格事由該当者は無登録営業と届出者に対する行政処分の両方の対象になることになります。
やや不自然な結論ですが、この考えを研究会にかけてみて、また意見を伺おうと思っています。
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フォーラムでの講義で興味深かった点をつまみ食い的に取り上げていきます。あくまでドイツ法を英語で聞いた耳学問であり、そのようなものとして受け止めてください。
案の条、ドイツの報告者からは、ステークホルダーの利益の尊重やガバナンス・コードの話が、アメリカの報告者からはCSR(がアメリカにおいては重要でないこと)の話が出てきた。まず、ドイツの会社法の先生が、ドイツの公開会社の目的は企業価値の最大化であって、それは株主利益の最大化とは異なると言い切ったのには驚いた。ドイツでは、会社法にコーポレートガバナンスコードの遵守または不遵守の場合の説明義務が規定されており、また、取締役の報酬制度については、企業の持続的発展(company's sustainable development)を目的とするものでなければならないと規定されている。この、企業の持続的発展は、sustainableという語が当てられているが、最近の議論ではなく、「企業それ自体」(Unternehmen an Sich)という概念に由来しているのだ。
ガバナンスコード本体には、取締役会(Management Board)メンバーの解任違約金の制限(報酬2年分が上限)、監査役会(Supervisory Board)メンバーの年齢制限や就任期間に上限を設けるべきことが勧告されている。後者は世代間のダイバーシティの観点から設けられたという。また、共同決定法が適用される会社では、監査役会の「少なくとも30%は女性から構成され、少なくとも30%は男性から構成されるべきである」。これも、もちろんダイバーシティの観点からの規定なのだが、形式的には男女平等のルールとなっていておもしろい。
このようにドイツのガバナンスコードは、会社法の目的からは説明できない規定が含まれていて、「進んでいる」。日本の研究会で、ドイツのガバナンスコードの遵守率が低いという話を聞いたことがあるが、内容が全然違うので比較にならないだろう。
ゲーテ大学で日本法を専攻している大学院生がいて、面会を求めてきた。日本のガバナンスコードを勉強しているという。5年前に会った日本法研究者の彼も駆けつけてくれた
2日目の午前は欧州中央銀行に行き、銀行監督の話を聞いた。5年前も訪問したのだが、そのときは街中にあった。今はちょっとはずれ(低開発地域)にある市場跡に高層ビルを建てている(写真)。
欧州中央銀行は重要な銀行(ドイツには20行)の監督を行い、他は各国の中央銀行と協力して監督する。担当者は、我々はSupervisorであって、Regulatorではないという。たしかに、ドイツには規制当局としてBaFinがある。Superviseの内容を聞いていると、これは健全性規制だということが分かった。もっとも、銀行免許は中央銀行が出すらしい。
3日目の午後、フォーラムが終わった後、日本からの3名の学生とHeidelbergに遊びに行った。ここには、学生の頃、ヨーロッパ一周旅行のごく初期に訪れたことがある(Frankfurt起点だったので)。城跡から見るネッカー川の眺めは相変わらず美しかった(写真)。
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フランクフルトにあるゲーテ大学に日米独中のロースクールの学生を集めて授業を行うという企画(Global Forum, 名前が大げさですね)があり、5年ぶりに参加してきました。日本からは早稲田、アメリカはペンシルバニア、ドイツはローはないが博士課程の学生を適当に集める、中国は精華大学なのですが、今回は学生のビザが間に合わず不参加(もっとも、真相は不明)でした。(写真上は、ゲーテ大学前景、下は法学部)
テーマは、Corporate Misconductに基づくResponsibility。学生にはフォルクスワーゲンの事例が与えられ、講義を聴いたうえでグループに分かれて発表します。このテーマから予想されるのは、CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)とか、コーポレート・ガバナンス・コードです。5年前に金融法をテーマにやはりドイツで開催した時(「その他」カテゴリーのすぐ下に記事があります)には、江頭憲治郎教授と私が参加し、江頭先生が日本の地震保険の話(2011年だった!)を、私が強制的公開買付制度の話をしました。今回、まずこの2人に話が来たので相談したところ、私が金商法の開示義務違反に基づく発行者の責任(この場合はresponsibilityというよりliability)の話をするのは良いとして、日本企業のCSRの話をしても面白くないから、環境法とか労働法の先生の方が良いのではないかということになり、江頭先生の代わりに労働法の石田眞教授に加わっていただくことになりました。石田先生は江頭先生と同年代(今年定年)で、私は名古屋時代にお世話になっており、今回の出張はとても楽しみなものとなりました。
発行者の投資家に対する責任は、会社の対外的責任というカテゴリーからは少し外れますが、私がこのテーマを選んだのは、次のような個人的な経験からでした。
私の最初の論文(助手論文)は、「証券市場における情報開示に基づく民事責任」、英文タイトルは意訳ですが、Corporate Disclosure and Civil Liabilitiesでした。当時(発表は1988−89年)は、証券取引法の規定はあったものの判例がなく、実務からも注目されていませんでした。それから20年が経過し、西武鉄道事件やライブドア事件が起き、2004年には法改正が実現しました。助手論文では、2004年改正にかかる金商法21条の2のような損害額の推定規定を提案していた訳ではありませんが、売主にも原告適格を付与すべきことは提案しており、その改正は2014年に実現しています。
この分野は、アメリカ法が先行していますが、アメリカではクラスアクションと保険のせいで、ほとんどの訴訟は和解で終了してしまい、提起すると判決が出るまで争うことの多い日本の方がこの分野の判例法は発達している(または、発達する可能性もある)といえます。そこで、西武鉄道事件とライブドアについては裁判所ホームページに最高裁判決の英訳(少数意見や反対意見を含めて)が載っていることもあり、日本の判例法と立法の展開を紹介・分析しようと考えたのです。PPT資料の作成はなかなか楽しく、スライドは40枚を超えました。基本的なストーリーは、法学セミナーの「民商法の溝をなんとか」というシリーズに書いたものと同じです。
さて、ハンブルクのマックスプランク研究所に中出教授という保険学の先生が留学しておられ、主催校のWandt教授(保険法)の招きでGlobal ForumでD&O保険の話をされました。中出先生によると、最近は発行者の開示違反に基づく損害賠償責任を付保する保険もD&O保険の付帯条項として売られているとのことです。日本でD&O保険が売れるようになったのは1993年ころからだと思いますが、証券訴訟が増えたため付保範囲が広がったというのです。そうすると、日本でも、近い将来、証券訴訟は和解で終了してしまい、判例法理の発展は望むべくもないという、法学者にとっては悲しい状況に陥るかも知れません。ここ10年の訴訟によって新たな解釈問題がどんどん生じており、学説の議論は続くことを思うと残念です。
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