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太田洋弁護士と共編で、第一法規出版から、「論点体系金融商品取引法」という本を出す予定です。この本は、論点体系会社法の姉妹編で、若手の研究者や若手の実務家に執筆をお願いしています。条文ごとに(ただし、論点のない条文は除く)実務上の論点を掲げて検討しているのですが、実務上の論点がない場合は、解釈論上の論点を探してもらって記載することにしています。
 
私自身、金商法158条の見本原稿を書きましたので、その関係で、158条違反に対する課徴金を定める173条も担当しました。いざ調べてみると、173条の課徴金事例は存在しないようであり、また、同条は課徴金の額が一義的に定まるように規定しているだけなので、論点を探すのはなかなか大変です。こんなときに研究者は何を考えるのかを、紹介してみたいと思います。
 
私が挙げた第1の論点は、「有価証券等の価格への影響」です。
 
173条は158条違反のすべてを課徴金の対象とするのではなく、風説の流布または偽計により有価証券等の価格に影響を与えたことを要件としています。この要件は、以前は、違反行為により有価証券等の相場を変動させ、当該変動させた相場により、有価証券等の売買をしたと定められていました。この要件の立証が難しいので、平成20年改正で、価格になんらかの影響を与えたことで足りるとしたものです。その結果、価格になんらかの影響を与えたことは必要であるものの、有価証券等の価格が風説の流布や偽計と関係のない原因により変動した場合にも、その変動幅を基準として課徴金を課すことができるようになりました。課徴金を取りやすくする以外に、これを正当化する理由はなにかという話が一つ。
 
第2の論点は、「違反行為の終了時」はいつかという問題です。
 
173条の課徴金の額は、違反行為終了時のポジションを違反行為終了後1か月以内の最高値(売りポジションの場合は最安値)で反対売買した場合に得られる利得に相当する額と定められています(173条1項1号2号、ただし、違反行為前から有している有価証券については、違反行為開始時に、違反行為開始前の価格で買い付けたとみなして計算をします)。これは、相場操縦(159条)の変動操作についての課徴金のうち、違反行為終了時のポジションに関する課徴金の額の定め(174条の2第1項2号)と同じです。言い換えると、174条の2第1項1号に相当するものが173条では定められていません。同号は、違反行為期間中の売買によって得られた利得相当額を課徴金に含めるものです。
 
173条がなぜこのような定めになったのかは、説明がないので分かりませんが、この規定だと、違反行為期間中に買付けと売付けを行った対当数量については、課徴金が算定されないことになります。そうすると、たとえば風説の流布という違反行為の終了時がいつかという解釈が、課徴金の額に影響を与えることになるのです。違反行為の終了時は、風説を発した時か、それが市場に到達した時か、風説が市場価格に影響を与え始めた時か、風説が市場価格に与えた影響が止んだ時か? これを論点として取り上げました。
 
第3の論点は、第2のものと関連するのですが、173条は多様な類型の偽計にうまく対応できるのかという問題です。原稿では、相手方に対する詐欺、不公正な比率を公正に見せかける組織再編行為、不公正ファイナンスの3類型について、173条による課徴金が算定できるのかを検討しました。そこでは、「有価証券等の価格」は市場外の取引価格、非上場証券の価格を含むか、増資新株の取得は「有価証券の買付け等」に当たるか、不公正ファイナンスの違法行為の終了時はいつか、といった解釈が問題になります。
 
私の答えはここには書きませんので、みなさん、考えてみてください。

緊急差止命令(3)

(前回の続き)
もう一つの細かい問題も、違反行為と差止の対象との関係に関するものです。
 
本決定による差止命令の内容は、「Y1らは、いずれも金融商品取引法29条所定の登録(ただし、第一種金融商品取引業を行う者としての登録)その他同法所定の適式の登録を受けずに、株券、新株予約権証券又はこれらに表示されるべき権利であって株券若しくは新株予約権が発行されていない場合における当該権利について、売買、売買の媒介若しくは代理又は募集若しくは私募の取扱いを業として行ってはならない」というものです。
 
この差止命令を発するために裁判所は、A会社の株式、新株予約権の取得勧誘を繰り返し行っていたことのほか、同様に4つの会社の株式について勧誘行為を繰り返していたことを、Y1らの自認によって認定しています。なぜ4社の株式についての勧誘行為を認定したのか考えてみると、4社の株式には、すでに発行された株式の勧誘行為が含まれており、裁判所は、これらの勧誘行為が、有価証券の売買の媒介又は募集若しくは私募の取扱いのいずれかに該当すると認定しているのです。つまり、このような認定は、差止の対象として、新規発行株式等の勧誘だけでなく、既発行株式等の勧誘を含めるためだったのではないかと思われるのです。
 
それでは、4つの会社の株式の勧誘行為についてY1らの自認がなければ、裁判所は、既発行証券の売買の媒介等を差し止めることができなかったのでしょうか。私はそうは思いません。裁判所は、A会社や4社の株式等だけでなく、銘柄を問わず株式・新株予約権の勧誘の差止を認めています。未公開株を勧誘する無登録業者は、銘柄を問わないでしょうから、銘柄を限定した差止では意味がないので、この判断は妥当です。そうだとすると、同様に、未公開株の勧誘業者は、株式が新規発行のものか既発行のものかを問わないでしょうから、違反行為が新規発行に係るものであったとしても、既発行の株式の勧誘も差し止めることが認められるべきです。そしてこのような解釈を正面から認めるためにも、緊急差止命令制度の目的(の一つ)が、繰り返される将来の違反行為の差止であることをはっきりさせる必要があると思うのです。
 
この決定については、他にも論ずべき点がありますが、それらについては判例評論(近刊)をご覧下さい。

緊急差止命令(2)

最近、評釈をするために、東京地決平成22年11月26日判例時報2104号130頁を読んでいました。未公開株の勧誘をした無登録業者に対して、裁判所が初めて金商法192条に基づく緊急差止命令を発した事例です。改めて条文を読んで、事例へのあてはめを検討してみると、いろいろと面白い問題が見えてきます。
 
金商法192条は、「裁判所は、・・・この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる」と規定しています。まず、禁止と停止はどう違うのでしょうか。条文を素直に読むと、違反行為を行う者にその行為の禁止を命じ、行おうとする者にその行為の停止を命ずることになりそうです。この条文の基になったアメリカの1933年証券法20条(b)項、1934年証券取引所法21条(d)項(1)号では、person in engaged or is about to engage in acts or pracices constituting a violation of any provision of this title, ・・に対し、to enjoin such acts or practices を求めることができると規定されています。このように条文上は、日米ともに、「違反する行為を行い」とは、現在、違反行為を行っていることを意味するように読めます。そこで生じる疑問は、過去の違反行為を理由に将来の違反行為を禁止することができるのか、ということです。
 
上記の裁判所は、無登録業を行う者への該当性と無登録業を行おうとする者への該当性とをきちっと分けて認定しており、前者については、「Y1らは、・・・行ったというべきであるから、・・無登録業を行う者に該当することは明らかである」としています。つまり、裁判所は、「違反行為を行い」とは過去に違反行為を行った場合を含むと解釈しているようです。ところが、金商法192条は、「その行為」の禁止を命ずることが出来ると書いてあるので(アメリカ法も、such acts or practiceで同じ)、過去の違反行為以外の行為を差し止めることができるか、疑義があるわけです。
 
実質的に考えると、違反行為が繰り返されている状況で、違反行為と違反行為との間で差止めの申立てをすると、差止めの対象がないということになっては、被害の拡大を防ぐという緊急差止命令の用をなしません。したがって、過去の違反行為に基づいて将来の違反行為の禁止を命ずることができると考えるべきです。もっとも、常に差し止めることができるのではなくて、「緊急の必要性があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当である」場合に限って差止めが認められます。
 
この論点は実は、神崎克郎先生の「証券取引法(新版)」(青林書林、1987年)580頁以下に既に指摘されています。温故知新ですね。現行法に即して一部表現を変えて書くと、すでに、違反行為が相当期間継続して行われるのでない場合、すなわち、違反行為がすでに行われ将来も行われる相当の可能性がある場合にも、緊急停止命令の発動を求めることができるのか、必ずしも疑問がないわけではない。しかし、同様の文言を置いているアメリカ法の裁判例は、違反行為がすでに行われ将来も行われる相当の可能性がある場合にも緊急停止命令を発しうると解している。
 
神崎先生は、ご自身の意見を明確に述べておられませんが、文言に疑義があることを認めた上で、過去の違反行為に基づいて将来の違反行為の差止めができるように解釈すべきだと仰っているように感じます。私もこういう点はきちんと論じた方が後々のために良いと思っているのです。
 
この決定に対する評釈は判例評論に掲載される予定です。
 

緊急差止命令

最近、証券取引法の制定以来50年以上の歴史のなかで、初めて、金融商品取引法192条の緊急差止命令が申立てられ、発せられました。証券取引等監視委員会が、平成22年11月17日に行ったD社およびD社代表取締役・取締役に対する差止命令の申立てが、同年11月26日に認められたのです。その後も、緊急差止命令の申立て・命令が続いています。裁判所による差止命令は、日本では時間がかかるので使われないのだと思っていましたが、そうでもないようです。
 
監視委員会の発表(たとえば、東証メールマガジンへの監視委員会の投稿No23「金融商品取引法第192条申立てについて」)などを参考にすると、次のような事情が分かります。
 
金融停止命令に違反した者には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはこれらの併科が定められているが、法人に対する両罰規定が定められておらず、実効性を欠く状態になっていた。平成22年金商法改正により、両罰規定(207条1項3号、法人に対し3億円以下の罰金刑)が盛り込まれたので、監視委員会において、短期のうちに執行体制を整え、初適用となった。
 
今回のケースは、いわゆる未公開株の勧誘事例で、金融商品取引業の登録違反です。もちろん刑事訴追もできますが、刑事訴追に用いられる資源が限られているので、監視委員会のイニシアティブで刑事訴追に繋がる申立てが行われました。注目すべきことは、金融商品取引業の登録違反の刑事罰は、3年以下の懲役・300万円以下の罰金で(198条1号)、両罰規定も300万円以下の罰金です(207条1項6号)。それに対して、同じ行為を差し止めて、違反があれば(無登録営業をすれば)、法人を3億円以下の罰金刑に処すことができるようになったのです。これは、未公開株勧誘の利益を根こそぎ奪うような絶大な威力を発揮するでしょう。緊急差止命令が使われるようになったのは、両罰規定が設けられたからというよりも、その両罰規定が極めて重く、違反行為の抑止に効果があるからでしょう。たとえ、首謀者が別会社を設立して無登録勧誘を繰り返しても、首謀者が差止命令の対象となっている限り、当該別法人が両罰規定の対象になると解されます。
 
緊急停止命令は、刑事罰の付されていない法令の違反についても適用されます。そうだとすると、緊急差止命令を得ておけば、刑事罰の付されていない法令の違反を刑事罰で処断することができることになります。このような機能をどこまで発揮させて良いかについては、議論のあるところかも知れません。

私法学会シンポジウム

今年の私法学会(於北海道大学)の商法関係シンポジウムは、商法改正と金融商品取引法の2つあって、後者では私も報告をします。その資料が商事法務の8月25日号に掲載されています。
 
私のテーマは「投資者保護のための法執行」で、①金商法を投資詐欺事件の防止と被害者救済に役立てるために、法の適用範囲について、解釈論上工夫できる点はないか、②課徴金を被害者救済に役立てるためには、どのような法整備が必要か、③違反行為の早期の発見と是正のためには、どのような法整備が必要かという3つの問題を論じています。メインは②で、要するに「課徴金を被害者に分配せよ」という話です。今年1月のアメリカ出張や消費者庁の研究会での議論の成果を生かせればよいなあと思って、このテーマを選んだのですが、あまり充実したものになっていません。具体的な制度の姿を示すのは、一人の研究者の力ではなかなか難しいですね。
 
最近の私法学会では、資料を要約して発表するスタイルは流行らないので、資料に書いたこと以外に何を付け加えるか悩んでいるところです。そのようなもの(資料に書かなかったこと)として、2つの論点を知りましたので、役に立つか分かりませんが、以下にメモしておきます。
 
1つは、証券取引等監視委員会が、187条の権限を行使することを検討しているという話を聞いたことです。緊急差止命令の申立(192条)は、アメリカでは頻繁に用いられていますが、日本では適用例がありません。シンポジウム資料では192条の利用ももちろん論じているのですが、金商法は、192条の申立権を金融庁長官から監視委員会に委任するとともに(194条の7第4項2号)、その権限の行使を判断するための調査権限を監視委員会に委任しています(同項1号)。これにより、緊急差止命令の申立をするかどうか判断するために、監視委員会は、①関係人・参考人の意見聴取、②鑑定人による鑑定、③帳簿書類等の提出命令、④財産状況の検査をすることができます(187条)。この調査権限は、調査の対象が金融商品取引業者や課徴金の対象である違反行為の違反者に限定されていないところに強みがあります。つまり、無登録業者や不公正ファイナンスの関係者に対する調査がやりやすくなるのです。また、監視委員会がこの権限の行使を検討しているということは、192条の利用を検討しているということでしょう。
 
もう1つは、平成22年改正により、金融庁に金融商品取引業者の破産申立権が認められたことです(更生特例法490条)。従来は、平成10年改正により投資者保護基金制度を導入した際、倒産手続きにおいて投資者保護基金に投資者保護のための一定の権限を与えたことから、投資者保護基金に加入している第一種金融商品取引業者についてのみ金融庁に破産申立権が認められていました(もっとも、投資者保護基金の役割と金融庁の破産申立権との間に論理的な繋がりがあったとは思えませんね)。他方、ファンドの販売業者(第二種金融商品取引業者)やファンドの運用業者(投資運用業者)において詐欺的な行為が行われ、金融庁が行政処分を行った事案について、業者がて破産状態にある場合には、一刻も早く破産手続を開始して業者の財産を管財人の管理下に置くことが被害拡大防止のために有効であることから、破産申立の対象を第一種金融商品取引業者から金融商品取引業者全般に拡大したのです(立案担当者の解説)。
 
アメリカでは、緊急差止命令(インジャンクション)の付随的救済として、財産の凍結が認められていることは前に書いたとおりです。この改正は、被害者救済のために違反行為者の財産を維持することについて金融庁に一定の役割を負わせたものと評価できるでしょう。わが国において、違反者の財産を凍結する手段が事実上破産申立等に限られるとすると、金融商品取引業者以外の者(無登録業者)についても金融庁に破産申立権を与えたらどうかという議論が次に来るように思われます。

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