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預金保険法の改正を用意した金融審議会の銀行規制WGの報告書では、秩序ある処理を行うために必要な措置として、債権者からの倒産手続の申立て、強制執行等への対応が挙げられていました。WGでは、この「対応」が債権者からの申立て・強制執行を停止させるということであるとすれば、債権者の裁判を受ける権利を奪うことになるから実現は難しいとの懸念が表明されていました。
4月に書いたトピックスでは、「この点、法案においてどのような解決が図られているのか興味深いところである」と書きました。
これに相当する改正法の条文は、126条の14〜126条の16です。126条の14は、預金保険機構は、特別監視金融機関等の秩序ある処理が困難となるおそれがあるときは、特別監視金融機関等の債権者である金融機関等に対し、必要な措置が講じられるまでの間、当該権利の行使をしないことの要請をしなければならないと定めています。
この条文は不思議な条文です。預金保険機構はどんな要請をすることも可能なので、法律に書く以上は、「要請をしなければならない」という形式になるのでしょう。ただ、その要請(債権の回収をするなという要請)の名宛人は金融機関等に限られています。特別監視金融機関等の債権者には金融機関等以外の者もいるはずですが、それらの者に対しては、要請は行われません(すくなくとも、要請をする義務はありません)。この条文は、債権者の権利を妨げることは重大な問題なので、「対応」の内容を「要請」にとどめ、その要請の対象も限定したものと理解されます。ただ、他方で、要請の対象は金融機関等なので、この要請は通常のものと違ったニュアンスを含むと思われます。つまり、金融機関等は金融庁の監督下にあるので、機構の要請に応じない場合にはサンクションが課される可能性があるということです。日本の法律は、こういう微妙なニュアンスの上に成り立っているのですね。海外からきちんと理解してもらえるのでしょうか。
126条の15は、特別監視金融機関等に対し破産手続開始等の申立てが行われたときは、当該申立てについての決定または命令がなされる前に、内閣総理大臣は、裁判所に対し、当該特別監視金融機関等の資産及び負債の秩序ある処理に関する措置が講じられている旨の陳述その他の陳述をし、当該決定または命令の時期その他について意見を述べることができると定めています。
ここではソフトな解決が図られました。つまり、金融庁は意見を述べて裁判所に破産手続開始決定を少し待ってもらうということです。
これに対して126条の16は、特定認定に係る金融機関等の業務に係る動産または債権であって、特定救済金融機関等に承継または譲渡されるものを差押禁止の対象としています。差押禁止については専門外なのでよく分かりませんが、承継金融機関が決まり、それに引き継がせる財産のみを差押禁止とする態度は、かなり謙抑的だと感じます。
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金融規制法
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3か月振りの更新です。言い訳をしますと、ブログに書くことはあるのですが、締切りを過ぎた原稿を抱えていると、こちらへは書きにくいのです。1か月ほど前にやっとその原稿を提出したので、更新の条件は整ったのですが、ずるずるとさぼっていました。
さて、4月に資料版商事法務のトピックス欄に「金融関連4法案について」という文章を書きました。金商法・預金保険法の改正案を解説したのですが、その時点では法案は提出されていなかったので、WG報告などを参考にして書いたのです。現在は、改正案が成立しているので、執筆当時、明らかでなかった点を改正法の条文に照らして確認しておきたいと思います。
今回、預金保険法の改正が行われたのは、G20の合意を履行するためです。その合意とは、2011年10月に、FSB(金融安定理事会)で策定された「金融機関の実効的な破綻処理の主な特性」(主な特性、Key Attributes)のことです。
日本では、1998年の金融危機後に金融機関の破綻処理の枠組みが作られました。しかし、このときできた破綻処理制度は、預金者保護、保険契約者保護、投資者保護のための仕組みであり、また、預金取扱金融機関、保険会社、証券会社について、それぞれ別個の手続きによるものでした。世界的な金融危機への対応では、市場を通じてグローバルに伝播する危機を食い止めるための処理が要請されており、金融機関の種類は問われません。そこで今回の改正では、従来の破綻処理制度を残しつつ、銀行、保険、証券に共通の処理制度を新設することにしました。
破綻処理を発動する際には、金融危機対応会議の議を経て、内閣総理大臣が、特定の金融機関に対して、措置を講じなければ、わが国金融市場その他の金融システムの著しい混乱を生ずるおそれがあることを認定します(126条の2第1項柱書)。措置を講ずる主体は預金保険機構です。
措置の具体的な内容はここでは省略しますが、FSBの「主要な特性」では、破綻処理を行う当局が有すべき権限の中に、金融機関の財産の処分、債務の削減や株式化(ベイルイン)の実行が含まれていました。前者については、すでに預金保険法において、債務超過に陥っている破綻金融機関の事業譲渡等を裁判所の許可を得て株主総会の決議を経ずに行うことが認められていました。今回の改正では、金融機関が債務超過に陥っていない場合にも、株主総会の決議なしに事業譲渡等を行うことを認めることにしました。
これを具体化した条文は126条の13です。同条1項は、認定を受けた金融機関が、債務超過または支払停止のおそれがある場合に、裁判所の許可を得て、株主総会の決議等を経ずに、全部取得条項付種類株式の発行等、減資、事業譲渡、会社分割、保険契約の移転等をすることができると定めています。「主な特性」が求めるように、株主の意思決定によらずに当局がこのような権限を有することとすると、会社法の基本原則との抵触、株主の権利侵害が問題になるでしょう。注目したいのは、この条文の主語が、「特別監視金融機関等」となっていることです。つまり、内閣総理大臣や預金保険機構が事業譲渡を命じたり決定したりするのではなく、監視対象となった金融機関が自ら行うという造りになっているのです。これで「当局が権限を有するべきである」という「主な特性」の要請を満たしているのか疑問もあるところですが、上記のような会社法の理念との調整を図るためにこのような規定振りにしたのでしょう。しかし、実質的には、内閣総理大臣(金融庁)や預金保険機構が事業譲渡等を命ずることになると思われるので、そのツケを会社の取締役に負わせて良いのかという疑問も残ります。
後者のベイルインについては、「主な特性」のいうそれが、債権者と金融機関との契約等に基づくもののみを指すのか、規制当局等の命令によるものを含むのかが明らかでなく、当局の命令で債務の削減や株式化を行わせることには理論的な疑義もあるところから、今回の改正では契約上のベイルインのみを発動させることにしました。
これを具体化した条文は126条の2第4項です。同項は、骨組みだけをみると、認定を行う場合に内閣総理大臣は、当該金融機関等が社債・株式を発行し、または金銭の消費貸借を締結しているときは、当該社債、当該株式、または当該金銭の消費貸借について、当該金融機関等の自己資本その他これに相当するものにおける取扱いを決定するとしています。これでは何のことか分かりませんが、たとえば、ここにいう社債とは、括弧書により、劣後債であって、特定認定を条件として、当該社債に係る債務が消滅し、または当該金融機関等に取得されるものであって、内閣府令・財務省令で定めるものに限るとされているので、発行契約上、ベイルインが特約されているものに限られることが分かります。
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