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発行開示を扱う第2章は、技術的な事項が多いため、どうしても長くなってしまいます。アメリカのケースブックでは、全体の半分近くを割いて33年法を説明しています。弁護士にとって開示の適用除外(私募の範囲)は飯のタネだからでしょう。本書は、実務家に対して理論を提供することを目的としているので、内閣府令の説明を細部まで行うことは避けました。ただ、なぜプロ私募の転売要件が一般投資家への転売禁止で、少人数私募の転売要件が一括譲渡以外の転売禁止なのかといった制度の考え方は伝わるようにしました。

発行開示は最近、改正が多かった箇所なので、自分の意見も随所に入れて(なぜ、最近の改正が多いと自分の意見が書けるかというと、雑誌等に改正法の解説論文を依頼されることを通じて考える機会を与えられ、自分の意見を述べてきたからです)、飽きないように工夫したつもりです。

開示内容の説明部分では、企業情報についての説明は第4章に譲ることは当然として、資産金融型証券の記載事項を示した点は新しいかなと思います。それらにおいて仕組みの開示も重要であることを知ってもらいたかったからです。投資信託は11章で、資産流動化は2章の最後に出てくるので、やや分かりにくいかも知れません。

資産流動化の話を2章の最後に付しました。資産流動化を投資信託と並べて説明する方法もあると思いますが、資産流動化は資金調達の話、投資信託は資産運用の話と割り切って、切り離しました。どちらも仕組規制の話も書くわけなので、「ディスクロージャー」に収まりきれない内容なのですが、資産流動化は、金融危機でも発行段階が主として問題となった箇所なので2章に入れることにしたのです。

このほか、金商法以来、ディスクロージャーの柔軟化が進んでいますが、売出し概念の改正に伴う「外国証券売出し」は第2章で、「特定投資家私募・私売出し」はプロ向け市場の話なので、第2章では頭出しをしただけで、大部分は第6章第4節「多様な金融商品市場」で書いています。細かい点ですが、何をどこに書くかというのは、結構悩ましいものです。

KAMの記載目的

9月に監査研究学会というところに呼ばれて、報告をしました。テーマは、監査上重要な事項(Key Audit Matters, KAM)を監査報告書に記載するという、新しい国際監査基準を日本で導入すると、監査人はどのような責任を負うかという問題です。KAMとは、監査人が監査において重要と考えた事項であり、監査報告書に当該事項が重要であると考えた理由を記載することが想定されています。
 
監査人の責任には、会社法上の任務懈怠責任と金商法上の虚偽記載責任があるので、それに沿って説明しましたが、門外漢の私にとって今一つ理解できなかったのは、なぜKAMを監査報告書に記載させるのか(KAMの目的)です。
 
国際監査・保証基準審議会の報告は、KAMの記載の目的は、監査の透明性を高めることにより監査報告の価値を高めることであるとしているのですが、それはどういう意味でしょうか。
 
監査報告書にKAMを記載することで、監査意見の信憑性が常に高まるとは思えません。KAMの各事項とKAMに対する対応を見て、投資家は、ある適正意見については、KAMの記載がない場合に比べて、その信憑性を高く評価し、別の適正意見については、KAMの記載に照らして、その信憑性を割り引いて考える。透明性を高めるとは、監査報告書のこのような利用を想定しているのではないかと思います。
 
果たしてそんなことが可能なのか、KAMの適示と対応をどんなに詳しく記載させても、投資家がこれによって監査意見の信憑性を判断できないと考えるのであれば、そもそもKAMを導入する意味がありません。反対に、KAMの導入目的を是認する以上、その目的を達成することが可能になるような事項をKAMとして記載させるべきではないかと考えました。
 
法律家特有の演繹的な思考方法かも知れません。
 
報告を基にした原稿は、現代監査25号(2015年3月)に掲載されます。
年間の記事数が少ないのも寂しいので、今年書いた雑誌論文から、一部、抜き書きをさせてもらいます。
 
ジュリストの11月号に新規・成長企業へのリスクマネーの供給という題で、クラウドファンディングを中心に今年の金商法改正についての解説を書きました。クラウドファンディングの規制(緩和)は業者規制ですが、クラウドファンディングの投資額の制限をディスクロージャーとの関係で眺めたがどうなるかと思い、あれこれ考えてみたのが、下の部分です。
 
 クラウドファンディングがインターネットを通じた手軽な資金調達手段であることから、投資家保護の観点から、一人当たりの投資額が50万円以下に制限される。JOBS法におけるクラウドファンディングの投資制限に倣ったものである[1]
 投資額の制限をどう位置づけるかは難しい問題である。まず、多数の者から少額の資金を調達するというクラウドファンディングの特徴に即した投資家保護のあり方であると見ることができよう。しかし、伝統的なディスクロージャーの考え方からは、少額の資金といえども多数の者に勧誘する以上、販売圧力が生じており、被勧誘者は情報を必要としているという批判が可能である。また、一人当たりの投資額が大きくなれば、その者は情報を獲得する能力(取引力)を取得するから、むしろディスクロージャーは不要となる。そこで、募集総額を限定した上で投資者保護を図るためには、むしろ一人当たりの投資額の下限を定めるべきだということになる。これは、少人数私募の考え方であり、これによれば1億円以下、50人未満が基準となるので、一人当たりの投資額を200万円以上とすべきことになる。もっとも、この条件で多数の者(50人以上)から資金を調達すると「少額免除」の枠(1億円)を超えてしまうから、多数の者からの少額の資金の調達という特徴を維持するために一人当たりの投資額を制限しているのであろう。
 また、伝統的な金融商品取引法の考え方からは、開示が不要な場合は開示なくして投資者に自己責任を問える場合であり、開示が必要な場合は開示があることが投資者に自己責任を問う根拠となる。いずれにしても投資は自己責任であり、投資額の限定は自己責任の原則に反するという批判が考えられる。これに対しては、クラウドファンディングの規制は、投資者保護というよりは、投資家が大きな被害を受けないように法が後見的な役割を果たす消費者保護の理念に基づいているのだという反論が可能であろう。
 以上のように、投資額の制限に対しては、①ディスクロージャーの理念または自己責任原則に反する、②多数の者からの少額の資金の調達という特徴を維持するための規制である、③消費者保護の理念に基づく規制であるとの3つ見方が考えられよう。


[1] アメリカでは投資総額規制が置かれており、年収10 万ドル未満であれば、2,000ドルまたは年収の5%のいずれか大きい方を限度とする。
 
 言いたいことはあったのですが、それが分かりにくい文章ですね。
HalliburtonⅡ判決の解説
1 信頼の推定
(1)効率的資本市場仮説に依拠するものでないこと
 Basic判決が出された1988年以降、情報に対する証券市場の効率性については、疑義を呈する実証研究が多数公表されており、市場に対する詐欺理論の基礎が揺らいできました。
 多数意見は、市場に対する詐欺理論は、市場の効率性を前提とするものではないとして、Basic判決を維持しました。Basic判決が特定の経済理論に依拠しているものでないことは、たしかにその通りです。しかし、「市場の効率性」は、依然として、信頼の推定のための要件の一つとされています。
 
 学説では、Basic判決は、市場に対する詐欺理論と効率的市場仮説を結びつけたけれど、本来、ある証券の市場価格が詐欺情報を反映している限り、市場に対する詐欺理論により信頼を推定するために、証券市場が一般的に効率的であることを示す必要がないことが、比較的早くから指摘されてきました[1]HalliburtonⅠおよびHalliburtonⅡでは、多くの学者が裁判所の友(amici curiae)として意見を寄せていますが、それらの多くも、裁判所は市場が効率的であるかどうかではなく、特定の不実表示が市場価格に影響を与えたかどうかに着目すべきであるとしている。
 
(2)Bebchuk & Ferrellの見解
 ここでは、市場が効率性と信頼の推定との関係を例証しているBebchuk & Ferrellの論稿[2]を紹介します。
 一般に、市場は、利益を得る裁定機会(arbitrage opportunity)がない場合に効率的であると定義されてきた。
しかし、第1に、裁定機会の存在は、詐欺による市場価格の歪曲(fraudulent distortion)の存在を否定するものではない(市場が効率的でなくても、詐欺による市場価格の歪曲は起こり得る)。
 市場の効率性は3つの分野で争われてきた。①市場は長期的な収益を過大評価している。②過剰なボラティリティ。③情報に対する市場の反応の鈍さ、である。
 
① 過大評価設例
 市場の株価収益率が歴史的に15倍であったところ、現在、市場が長期的収益を過大評価し、20倍となっていた。企業が収益を1ドルのところ2ドルと不実表示した。株価は20ドルから40ドルに上昇し、不実表示の発覚により株価は20ドルに戻った。その後、市場は長期的な過大評価を修正し、株価利益倍率は15倍に戻り、株価は15ドルとなった。
 → クラスワイドな信頼を認めるかどうかにとって、不実表示によって株価が上昇したことが重要であり、株価収益率が過大評価されていたかどうかは関係がない。
 
 ② 過剰なボラティリティ設例
 上の例で、株価が20ドルから40ドルへ上昇した。過剰なボラティリティのせいで、株価は、1時間ごとにランダムに38ドルから42ドルの間で変動していた。不実表示の発覚により株価は20ドルに戻ったが、同じ理由で、19ドルから21ドルの間で変動していた。
 → クラスワイドな信頼を認めるかどうかについて、過剰なボラティリティの有無は関係がない。たしかに過剰なボラティリティは利益の機会を生じるが、不実表示によって価格が歪められていたことに変わりはない。
 
 ③ 鈍い市場反応設例
 上の例で、良い情報に接して株価は20ドルから35ドルに上昇したが、翌週1週間かけて40ドルまで上昇した。不実表示が発覚すると株価は20ドルに戻った。
 → 不実表示の開示を受けて当該株式を取得した者が、市場価格の歪みの結果、15ドルないし20ドル余分に支払った事実には変わりがない。
 
 第2に、裁定機会がない(市場が効率的である)ことは、不実表示が市場価格の歪みをもたらさない場合があることを否定するものではない。
 ① 公表された情報設例
 インターネット企業が、四半期収益を公表した。その数日後、サイトへの来訪者数が75%上昇したとの不実表示を公表。アナリストは来訪者数の情報を分析して、それが企業の収益性に与える影響を分析した。不実表示を公表したときも、それが不実であると発覚したときも株価に変化はなかった。
 → この場合、価格の歪みがないからクラスワイドな信頼は与えられない。市場が開示情報に反応しなかった理由(情報が重要でなかった、四半期収益の情報で株価が決定されていた、市場が虚偽情報を信頼していなかった等)はなんであれ、重要なのは市場価格に歪みが生じたかどうかである。
 
 ② 埋没した情報設例
 企業が、環境政策に関する公表された報告書(投資家の興味を惹かなかった)の中で、財務情報について不実表示をした。不実表示をしたときも、その発覚のときも、市場価格に変化はなかった。
 → クラスワイドな信頼は与えられない。情報が価格に反映されなかった理由は重要でない。重要なのは市場価格の歪みが生じていないこと。
 
 Bebchuk&Ferrellは、信頼の推定法理は次のように改訂されるべきだとする。
(1) 効率的な市場で取引されている証券の価格は、公開され利用可能な会社に関するすべていくつかの情報を反映する。
(2) したがって、効率的な市場における証券の買主は、購入するに際して、公開情報を当該市場価格が詐欺的に歪められていないことを、たとえば、不実表示がなかったとしても異なる価格でないことを信頼したと推定されることができる。
(3) そして、証券の市場が非効率的である詐欺的に歪められていないとき、原告は市場に対する詐欺クラスワイドな信頼の推定を起動させることができない。
 
(3)判旨の検討
 HalliburtonⅡ判決は、判旨2で価格影響性(price impact)という概念を用いましたが、これは詐欺による歪曲と同義でしょう。多くの学説が主張するように、最高裁は、市場に対する詐欺理論を、市場の効率性を価格影響性に置き換えたものに修正すべきでした。しかし、判例を変更してもしなくても、信頼の推定を認めるという結論は変わらないので、最高裁はBasic判決の修正を避けたものと思われます。
 この結果、HalliburtonⅡ判決によると、信頼の推定を受けるためには、市場が効率的であることを、依然として原告側が示す必要があります。市場の効率性の証明方法としては、Cammer v. Bloom, 711 F. Supp. 1264 (1989)の示した5要因テストが用いられており、そこでは(1)株式の取引量、(2)当該株式をフォローしていたアナリストの数、(3)マーケット・メーカーの数、(4)S-3登録要件を充たすかどうか、(5)予期しない新事象に対する株価の反応を基準として、当該株式の市場が効率的であるか否かが決定されます[3]。裁判実務上、このような効率性の検証が引き続き行われるようであれば、学説から批判されるでしょう。
 
(4)市場の誠実性に対する信頼というレトリック
 法廷意見は、バリュー投資家も、いずれは市場価格が情報を反映すると考えて投資しているから、市場の誠実性を信頼していると説明します。これに対し、反対意見は、バリュー投資家が取引のときに市場の誠実性を信頼していたかどうかが問題なのだとします。
 この議論は、反対意見に分があると思います。ただ、そもそも市場の誠実性に対する信頼を問題にすること自体、レトリックにすぎないのです。バリュー投資家は効率的でない市場の投資家像を反映したものであり、現実の市場には市場価格が情報を反映していると考えて取引を行う投資家とそう考えないゆえに取引を行う投資家が併存することは否定できません。いずれの投資家についても、不実表示によって影響を受けた市場価格で取引を行えば、不実表示と取引との間の因果関係(取引因果関係)が認められるとすれば足りるのです。最高裁は、市場の効率性を前提とするという理解の下でBasic判決を変更しなかったので、レトリックを用いざるを得なかったのでしょう。
 
2 クラス認可段階での価格影響性の反証
(1)価格影響性と損害因果関係
 多数意見は、価格影響性(price impact)という概念を用いて、価格影響性は重要性と異なり、クラス認可段階で反証可能であるとしました。果たして、価格影響性は重要性と異なるのでしょうか。また、損害因果関係とは異なるのでしょうか。
 損害因果関係とは、投資家の取引と彼の被った損失との間の因果関係のことをいいます。損害因果関係があるといえるためには、有価証券の取得時に不実表示によって市場価格が不当に吊上げられていたことを証明するのでは足りないとするのが判例(Dura判決)[4]であり、不実表示の発覚が株価を下落させたことを示すことは損害因果関係の立証の一方法と考えられています。また、価格影響性とは、「被告の不実表示が実際に株価に影響を与えたか」[5]ということですが、これも不実表示がされた時点のイベント・スタディを行うことは難しいことが多いので、不実表示の発覚時のイベント・スタディにより確認することになるでしょう。そうすると、価格影響性と損害因果関係は同じ問題ではないかと思われます。
 Coffee教授は次のようにいいます[6]HalliburtonⅠは、損害因果関係はクラス認可の段階では争えないとした。HalliburtonⅡは、これを実質的に変更して、「価格影響性」はクラス認可段階で争えるとした。同じ証拠が損害因果関係の反証にも価格影響性の反証にも使えるのだから、法はいつもラベル貼りの問題である。Fox教授も、価格影響性と損害因果関係とは実質的に同じ争点であるとします[7]
 これに対しBebchuk & Ferrellは、例を挙げて、価格影響性(詐欺的歪曲)と損害因果関係とは異なるとします。
 
FDA承認設例
 企業が、FDAが医療機器を承認するだろうという虚偽の公表をした。株価は直ちに10%上昇した。原告は、不実表示が市場価格に影響を与えたことを証明した。
 → クラスワイドな信頼は認められる。しかし、詐欺的歪曲が経済損失を生じさせたことはまだ証明されていない。Dura判決は、価格の吊上げだけでは経済損失の近因にならないとする。価格影響性は、損害因果関係の必要条件であるが十分条件ではない。
 
 もっとも、この例は、不実表示時のイベント・スタディで詐欺的歪曲を証明できる事例を前提としており、上記の疑問は払拭されないように思われます。
 
(2)価格影響性の反証の程度
 重要なのは、クラス認可の段階でどの程度の反証の負担があるかです。Coffee教授は次のような問題を設定します。たとえば、訂正情報の開示の際に市場価格が下落したが、その有意性は、通常求められる95%のレベルではなく90%のレベルであった。被告は、価格影響性を反証したと認められるか?
  また、Fox教授は次のように論じています。
クラス認可段階での被告による価格影響性の反証について、本案段階での原告による損害因果関係の立証の同程度のものを求めるとしたら、被告の反証権は意味のないものとなる。すなわち、95%の信頼水準を要求するのでは意味がない。これに対し、原告が損害因果関係の立証ができないであろうことを被告が裁判所に説得することだけで、信頼の推定が反証されるのだとしたら、本判決は被告にとって意味がある。この場合には、価格影響性と実質的に同じ争点である損害因果関係を、クラス認可の段階で、被告に立証責任を負わせて行うことになる。
 価格影響性の反証の程度は、下級審裁判例に委ねられた課題でしょう。
 
(3)不開示の場合とのバランス(略)
 
(4)価格影響性と重要性
 重要性とは、合理的な投資家が投資判断にあたって当該表示を重要と考えたことを意味し、重要かどうかは、当時、利用可能な情報の総体を大きく変えるかどうかで判断されるます。情報が重要であれば市場価格に影響を与えるから、価格影響性と重要性の異同が問題となります。
 本判決は価格影響性と重要性とは異なるとするが、判旨の掲げる価格影響性と重要性の相違は、性質の相違というよりも、クラス認可の段階で証拠が提出されているかどうかの相違にすぎず、理由づけがあまり説得的でありません。
 Bebchuk & Ferrellは、価格影響性(詐欺的歪曲)と重要性は異なり、価格影響性の反証を認めることは重要性の要件の審理を先取りすることにはならないとして、次の例を挙げます。
 
 鉱山設例
 アメリカの鉱山会社がオーストラリアに金鉱を所有している。CEOが鉱山を訪れ、鉱山技師と会話をし、帰国後、「鉱山技師と会話をした。金鉱はとても良いと思う(feel great about the gold mine)」と発言した。株価は10%上昇した。後になって、当該金鉱で金を産出することが不可能であると判明した。原告は、CEOの虚偽発言と市場に対するインパクトを証明した。
 → クラスワイドな信頼は認められる。しかし、本案段階で、被告は表示の重要性を争う余地がある。なぜなら、事実の争点は、技師がCEOに話した内容はなにか、その内容(情報)は金鉱をどれだけ有望なものにするか、その情報はCEOの発言を導いたかといった点にあるから。市場に対する影響度と、表示が重要な点で誤解を生じるものを含んでいたかどうかは別問題である。
 
 この例が価格影響性と重要性が異なることをうまく説明できているのかどうか、私には疑問に思われました。
 
3 クラス・アクションへの影響(略)
 
4 日本法への示唆(略)
 
 字数制限のせいか、注が落ちてしまいました。興味のある方は、日本証券経済研究所のHPに掲載される金融商品取引法研究会の記録をご覧ください。

Halliburton判決(3)

判決の紹介をしてから、だいぶ時間が経ってしまいました。今年出すべき原稿は出したので、もう一度、Halliburton判決を振り返ってみたいと思います。
 
証券経済研究所の研究会で、この判決を採り上げました。その際、HalliburtonⅠ、Amgenを知らないと、HalliburtonⅡを正しく理解できないことが分かりました。すこし遠回りですが、これらを振り返ってみます。
 
Erica P. John Fund, Inc. v. Halliburton Co., 131 S. Ct. 2179 (2011).
解説として、藤林大地「市場における詐欺理論の適用と損害因果関係の立証の要否」商事1979号(201253
【事実】
 EPJ Fundが、Halliburton社が、(1)アスベスト訴訟の潜在的な責任の範囲、(2)ある建設契約から生じる予想収益、および(3)他の会社との合併の便益について、故意に、さまざまな虚偽の開示を行ったと主張して、199963日から2001127日までにH社の株式を購入した者を代表してクラス・アクションを提起した。
 却下の申立て(motion to dismiss)を退けたのち、地方裁判所は、EPJ Fundは、請求に係る損害因果関係を証明しておらず、連邦民事規則23(b)(3)号の要件を充たさないとして、クラスの認可を拒絶した。第5巡回区の先例は、クラス認可を得るために原告に損害因果関係の立証を求めていた。
 クラス認可のために損害因果関係の立証が必要かどうか、巡回区の不一致を解消するために、最高裁は裁量上訴を認めた。
 
【判旨】 破棄差戻し
 本件下級審は、クラス認可における共通性の要件を充たすために、信頼の立証が必要であり、信頼の証明のためには損害因果関係の証明が必要と考えた。
 しかし、控訴裁判所の要件は、Basic判決の論理からは正当化されない。損害因果関係は、投資家が不実表示を信頼したか否かとは関係のない事柄に関するものである。後の損失が不実表示の発覚以外の要因によって生じたという事実は、投資家が最初の段階で不実表示を信頼したかどうか(それが直接であれ、推定される場合であれ)とは関係がない。
 Halliburtonは、本件下級審が損害因果関係の名の下で実際に問うたのは、主張された不実表示が最初の段階で市場価格に影響を与えたか、すなわち価格影響性(price impact)の有無であったと主張する。しかし、控訴裁判所が言おうとしたことをHalliburtonがどう考えるにせよ、実際に言ったのは損害因果関係である。
 
【解説】
 判決の内容は当然のように思えますが、Amgen判決、HalliburtonⅡ判決への伏線となっており、そう単純な問題ではありません。
 
Amgen Inc. v. Connecticut Retirement Plans and Trust Funds, 133 S. Ct. 1184 (2013).
解説として、藤林大地「証券集団訴訟の認可と不実表示の重要性の立証の要否」商事2015号(201338頁。
 
【事実】
 コネチカット退職年金ファンドが、バイオテック会社Amgenとその役員(併せてAmegenという)に対し、証券クラス・アクションを提起し、信頼の要件については「市場に対する詐欺」推定を援用し、クラス・アクションの認可を求めた。地裁はクラスを認可し、第9巡回区控訴裁判所は、退職ファンドはクラス認可の前に虚偽記載または省略の重要性を証明する必要があるとのAmgenの主張を退け、クラスの認可を維持した。同裁判所は、また、クラス認可の段階でAmgenが提出した、重要性の反証となる証拠を考慮することを地裁が拒絶した点に誤りはなかったと判示した。最高裁は、クラス認可のために重要性を立証する必要があるかどうかについて、巡回区の不一致を解消するために、裁量上訴を認めた。
 
【判旨】
 重要な問題は、クラスに共通する法または事実の問題が、個々のメンバーのみに影響する問題に対して支配的であるといえるためには、重要性の証明が必要かどうかである。その答えは2つの理由により「否」である。
 第1に、重要性は客観的な基準に従って判断できるので、クラスに共通の証拠によって証明され得るからである。したがって、重要性は、23(b)(3)号にいう「共通の問題」(common question)である。
2に、原告が略式判決の申立てや本案において、重要性の十分な証拠を提出できなかったときは、個々人の信頼の問題がクラスに共通の問題に優越するという事態を招くことはない。重要性の要件の証明に失敗したときには、すべての者にとって訴訟は終了し、個々人の信頼という争点が支配的になるような請求が残ることはない。
 
Amgenは、市場に対する詐欺理論の前提条件はクラス認可の前に充たされなければならないから、前提条件の一つである重要性もクラス認可の前に証明されなければならないという。しかし、重要性と異なり、市場の効率性および不実表示が公表されたことは、Rule10b-5の欠くことのできない要素ではない。後2者が証明されなくても、信頼の個別的立証が許されるが、重要性が証明されなければクラスの請求全部が棄却される。市場の効率性や公表の争点と異なり、重要性の争点が証明できなければ、個別問題が共通問題に優越することはないので、重要性は23(b)(3)号のクラス認可の前に証明される必要はない。
 
 Amgenは、クラス認可は和解への大きな圧力となるから、認可前に重要性を争えないと、重要性を争う場面がなくなると主張する。しかし、その点は、不実表示や損害因果関係の要件についても同じである。議会は和解の圧力に対して、クラス認可段階で重要性の証明を求めること以外の手段によって対処したのであり、これに加えて裁判所が23(b)(3)号の再解釈により調整を行う必要はない。
 
 Amgenは、原告の申立てに対して、重要性の反証を提出できないとした点に地裁判決の誤りがあると主張する。しかし、主張された不実表示が最終的に重要でないとされる可能性があることは、共通問題が支配的であることを妨げるものではない。本件の地方裁判所が、Amgenの反証の考慮を略式判決または事実審(トライアル)にとっておいたのは正しい。
 
 本判決では、Thomas判事が反対意見を記載し、Kennedy判事がこれに同調、Scalia判示もその一部に同調している。
 
【解説】
 不実表示の重要性は、市場に対する詐欺理論による信頼の推定を認める要件の一つなのに、クラス認可の段階で証明を要しないのはなぜか。判決はこの問題に対して、重要性が客観的証拠によって証明できるという点で「共通の問題」であること、仮に本案において重要性が証明されなかった場合には、訴訟は終了するので、改めてクラスの認可を判断する必要がないことを以って答えています。
 クラス認可の段階で重要性の証明が不要だとすると、被告は重要性を反証する証拠を提出できないという不利益を受けますが、裁判所はそれもやむを得ないと考えたのです。この点は、HalliburtonⅡ判決で、一部変更されたとみることもできます(後述)。

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