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ライブドアの有価証券報告書虚偽記載事件で、東京地裁は、金融商品取引法21条の2第2項による損害額の推定規定を適用して、ライブドアに対し95億円の損害賠償を命じました。

この事件では、平成18年1月16日にライブドアに対する強制捜査が行われた当初の容疑が、風説の流布と偽計取引であったため、どの時点で虚偽記載についての公表があったかが争点になりました。

判決は、1月18日に14億円分の虚偽記載の容疑が検察官から報道関係者に提供されたことをもって、公表と認めました。1月16日夜の「風説の流布・偽計取引」容疑はライブドアの子会社の架空利上げを含むものであり、それは本体の有価証券報告書に影響を与えるものでしたが、本体の虚偽記載ではないことから、16日時点での公表を否定しています。仮に16日に公表があったと考えても、推定損害額はあくまでも賠償額算定の出発点であり、偽計取引の公表による損害は賠償額から差し引かれますから、結論に大きな違いは出なかったものと思われます。

むしろ、重要な点は、検察官を公表主体と認めたことです。条文上は、発行者に対して法令上の権限を有する者のした公表が「公表」であるとされており、検察官は捜査権限を持っていますから、これに当たります。実質的にも、検察官によって公表された事実は、信頼性の高いものとして、一般投資家がこれに依拠することが考えられますから、検察官を公表主体と認めた判決は妥当であると思います。もし検察官を公表主体と認めないと、強制捜査によって資料を押収されていて発行者が虚偽記載の事実を公表できない間に株価がずるずると下がってしまうと、推定損害額が少なくなってしまうという不都合が生じます。また、発行者が公表を遅らせることで損害賠償を免れることも妥当ではありません。今回の判決は、投資者の救済を実効的なものにするために設けられた21条の2の立法趣旨をよく理解して、妥当な解釈を導いたと私は考えています。

平成16年の西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載の発覚とその上場廃止に関して、一般株主が西武鉄道、堤氏らの責任を追及する集団訴訟の判決が、東京地裁から下されました。結果は、一部認容です。

判決は、虚偽記載の公表後に株式を売却した原告に限り、虚偽記載公表直前の株価と売却価格との差額を損害と認定しましたが、現在も株式を保有している原告については、株価が回復していることから損害はなかったとしています。

不実開示によって投資家が被った損害の回復を認める判決は、日本では極めて珍しく、被害の救済と違法行為の抑止のためには、一部であれ損害賠償を命じる判決が出された意義は大きいと思います。しかし、この判決には、次のような問題があります。

この事件の特徴は、西武鉄道が長年にわたり特定少数者持株数についての情報を偽っていた点にあり、もし真実を開示していたら、そもそも西武鉄道株は上場できなかったか、もっと早く上場廃止になっていたという事情が認められる点にあります。したがって、虚偽記載がなかったら、そもそも投資家は西武鉄道株を取得しなかった(できなかった)と認められるのであれば、投資家の取得価格と売却価格との差額が損害になるはずです。しかし、裁判所は、そのような事情を検討することなく、この点についての原告の主張を斥けています。

また、現在まで株式を保有している原告については、西武鉄道の再編によって株式の価値が上昇したので損害はないとしました。しかし、虚偽記載の公表後に、西武鉄道株を保有し続けるという投資判断をした投資家については、その投資判断から生じる利益を得させるべきであり、株価の値上がり分を損害から差し引くべきではありません。値上がり分は正当な投資利益だからです。このことは、虚偽記載の公表後に西武鉄道株を売却した投資家が、その売却代金を他の投資に振り向けた場合に、その投資から生じる収益を保持できることと比較すれば、明らかでしょう。

以上の点は、個人株主が敗訴した別の事件の評釈でも書きました。金融・商事判例の4月15日号に掲載されています。

インサイダー取引の話は少し休んで、最近の原稿から。

神戸大学の商事法研究会で、最近のアメリカの最高裁判例について報告してきました。
Stoneridge Investment Partners, LLC v. Scientific-Atlanta, Inc. 128 S.Ct. 761 (2008)です。

この事件では、発行者の売上高を水増しするための取引に協力した会社が、発行者の虚偽記載について投資家に対し責任を負うか否かが争われました。(この事件はエンロンに関するものではないのですが)エンロン事件では粉飾のための巧妙な取引が多数行われており、取引相手や投資銀行の責任を問う訴訟がアメリカでは多数提起されています。ライブドアが、自社株の売却益を売上高に振り替えたときにも、関連会社を利用していましたが、そのような関連会社の責任を問う訴訟です。

1994年連邦最高裁のセントラル・バンク判決は、規則10b-5には教唆・幇助者の民事責任を追及する訴訟原因は含まれていないと判示しました。規則10b-5は金商法157条に相当する規定で、アメリカではこれに基づいて損害賠償請求など民事訴訟を提起できるというのが判例ですが、セントラル・バンク判決は教唆者・幇助者の責任は問えないとしたのです。しかし、同判決は、発行者以外の者が第一次違反者(primary violator)として責任を負う可能性を否定しませんでした。第一次違反者としての責任を問うとは、教唆・幇助者に見える者も規則10b-5の要件を自ら満たしている限り、その者の責任を問いうるということです。そこで、発行者以外の者の第一次違反者責任を問う理論の一つとしてスキーム・ライアビリティー(scheme liability)と呼ばれる考え方が登場しました。スキーム・ライアビリティーとは、規則10b-5の(a)項が、「詐欺を行う・・スキーム」(scheme...to defraud)を禁止していることから、事実についての虚偽の外観を作出する行為に従事する者(発行者の取引相手)は、その行為が直接に不実開示に寄与しなくても第一次違反者に当たるとする法理であり、控訴裁判所レベルの判決が出ていました。

最高裁は、結局、スキーム・ライアビリティーを採用することを拒否しました。その理由は、発行者の取引相手は、発行者の開示書類に名前が現れていないので、その行為を投資家が信頼したという「信頼の要件」(reliance)を欠くというものでした。もっとも、relianceの要件はどのようにも解しうるので、この判決の背景にある政策判断の方が重要です。誤解を恐れずに要約して言うと、最高裁は、スキーム・ライアビリティーを課すと、外国企業が責任を恐れてアメリカ企業と取引したがらなくなり、アメリカの競争力が失われると述べています。こうして、スキーム・ライアビリティーは、その短い生涯を終えたわけですが、最高裁が、これほど露骨な政策考慮に基づいて判断を下すことは珍しいのではないでしょうか。

この判例の解説は、商事法務の5月25日号(1833号)に掲載される予定です。

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募集と売出し(3)

前回、金融商品取引法で「均一の条件」の解釈が変わったかという問題提起をしました。

考え方は分かれるだろうと思います。
第1説 金商法は、市場価格での売却の均一の条件の要件を満たすと考えたからこそ、取引所取引および上場有価証券のPTSを売出しの定義から外した。

第2説 取引所やPTSの取引でも価格が変わらないことがありうる。売出し価格が変わらないと「均一の条件」を満たしてしまうので、念のため売出しの定義から外した。

立法担当者の考えは後者のようですが、私は立法を逆手にとった前者の解釈も面白いのではないかと思っています。

ところで、市場取引が売出しに当たるかどうかは、そんなに目くじら立てる必要があることでしょうか。取引所取引も上場有価証券のPTS取引も、「開示の行われている証券の売出し」なので、発行者が有価証券届出書を提出する必要はありません。待機期間もありません。目論見書を作成して投資家に交付すればよいのです。アメリカでは、取引所に目論見書を備えておけばよいとされています。今なら、勧誘を行う証券会社が目論見書をダウンロードして印刷し渡すようにすれば、よいでしょう。

ただし、発行者に目論見書作成の負担が残ることは抵抗があるかも知れません。たとえば、目論見書の内容は4半期ごとに更新すればよいといった工夫を立法上することができるのではないでしょうか。いずれにせよ、取引所取引が売出しに当たるのは、単に取引所で50名以上の者との間で取引を成立させるからではなく、勧誘がある場合に限られます。PTSで気配値を公表することは勧誘に当たるとしても、オークション方式の取引所で注文を出すだけでは勧誘に当たるとは解されません。ですから、市場取引が「売出し」に当たると解する場合であっても、買主側の証券会社が顧客に勧めて「売出し中」の証券を購入させる場合に、目論見書を渡せばよいと考えられます。

募集と売出し(2)

かつては、募集の定義にも「均一の条件」が入っており、均一の条件で取得させる勧誘のみが発行開示をトリガーすることになっていました。この点は、学説から批判されていました。学説が問題にしたのは、市場価格で証券を分売する行為にも発行開示を要求すべきではないかという点です。有力説は、市場価格で売る場合には、「『市場価格』という均一の条件」で売っているのだから「均一の条件」の要件を充たすというものでした。屁理屈のように聞こえますが、背後に実質的な判断があります。それは市場価格に応じて売っていくとしても、それにより値段が下がってしまうから、一方で買いを勧誘するのが普通である、多数の者に勧誘するのであれば、販売圧力は生じているから、投資判断を適切に行わせるためにディスクロージャーが必要である、ということです。

平成4年の証取法改正では、条件を少しずつ違えて発行すれば開示を免れるのはおかしいという理由で、募集の定義から「均一の条件」は削除されました。しかし、売出しについては「均一の条件」が維持されています。それは、証券会社は市場で日常的に株式を売買しているため、「均一の条件」の要件がないと、市場取引が容易く「売出し」と認定されてしまうからです。この考え方は上記の有力説と真っ向から対立するものです(有力説は、「募集」について論じたものでしたが、平成4年改正後の「売出し」についても妥当すると思われます)。

金融商品取引法2条4項は、1項有価証券について「均一の条件」を維持しつつ、明文で、金融商品市場における売買その他の政令で定める取引を「売出し」の定義から除外しています。これは、PTSでは値段が変わらないことが多いので、証券会社としては50単位ごとに気配を変えなければならず不便であるという要望を容れたものです。この改正は「均一の条件」の解釈を変更するものでしょうか?(次回につづく)

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