ここから本文です

書庫ディスクロージャー

記事検索
検索
前の記事から大分時間が経ってしまいました。この間、ライブドア事件の際高裁判決が下され、最高裁の見解が明らかになってきています。もっとも、今取り上げているニイウスコー事件判決は、取得自体損害の問題を扱っており、ライブドア事件と争点が異なるので、ライブドア判決に触れずに、この事件の評釈を片付けてしまいましょう。
 
 損害額の算定
本判決は、虚偽記載がなければ株式を購入することはなかったと認められる場合の損害は原則として株式購入価額であるとし、XのY株式の購入代金相当額を損害額と認めました。この点につき前掲西武鉄道事件最高裁判決の多数意見は、「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合の損害額は、投資者が虚偽記載の公表後に取引所市場において処分したときは、取得価額と処分価額の差額を基準とし、経済情勢、市場動向、当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額)の下落分を上記差額から控除して算定すべきであるとしています。したがって、本件は上告受理の申立てがされていますが、最高裁は同判決の趣旨に従って本決定を修正するものと予想されます。私は最高裁判決よりも本判決の結論の方が理論的に正しいと考えるが、前に論じましたので、ここでは繰り返しません。
 
最高裁判決に従う場合、虚偽記載に起因しないY株式の市場価額(上場廃止後はY株の非上場株式としての評価額)の下落分をXの取得・処分差額(=購入代金相当額)から控除することになります。西武鉄道事件の最高裁判決は、「ろうばい売りによる下落」は有価証券報告書等の虚偽記載が判明することによって通常生ずることが予想される事態であるから、虚偽記載と無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできないとしました。判旨のいう「ろうばい売りによる下落」とは、少なくとも虚偽記載の判明によって上場廃止の可能性が生じたことに基づく市場価額の下落を含むものと思われます。
 
臨時報告書の虚偽記載の公表と同時に民事再生手続開始の申立てをしたアーバンコーポレイション事件では、金融商品取引法21条の22項による推定損害額から「虚偽記載によって生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情によって生じた」損害の額としていくらを減額すべきかについて、裁判例は、8割の減額をするもの(①東京地判平成22112判タ1318214頁)、2割の減額をするもの(②東京地判平成2239金法1903102頁①事件)、7割の減額をするもの(③東京地判平成22326金法1903102頁②事件、④東京地判平成2327(判タ1353219頁))に分かれています。これらのうち①③④判決は、同事件における臨時報告書の虚偽記載の公表と民事再生手続開始の申立てを直接の関連のない別個の事情とみており、②判決は、両者を全く別個の事情であるとみることはできないとしています。さらに、②の控訴審である⑤東京高判平成231124判時210324頁は、発行者は臨時報告書の虚偽記載の時点で、資金調達の見込がなければ民事再生手続開始の申立てをしなければならない状況にあり、民事再生手続開始の申立ては発行者が虚偽記載等の公表に伴って必然的にとらなければならない対応であったのであるから、発行者の株式の下落が民事再生手続開始の申立てがされたことによって生じたものと認めることはできないとして、推定損害額からの減額を認めませんでした。
 
本件の原判決も推定損害額からの減額という文脈でこの問題を検討しており、民事再生手続開始の申立てやそれによる上場廃止の決定という事実が明らかになった後に株式の市場価値が下落することがあるとしても、これはこうした事実を原因とするものではなく、あくまで発行者が再生手続開始の申立てに至るまで経営、財務等の状態が悪化していた事実が、それまで明らかでなかったのが明らかになったことによるとして、推定損害額からの減額を認めませんでした。
 
アーバンコーポレイション事件は、臨時報告書提出の時点で真実を開示していたら民事再生手続開始の申立てが不可避であったかどうか微妙な判断を要する事件だったと思われますが、本件のように、民事再生手続開始の申立てが不可避の状況を虚偽記載によって隠蔽していたと認められる事例では、民事再生手続の申立てによる市場価額の下落は「虚偽記載に起因しない市場価額の下落」として控除することができないと私は考えます。そうすると、最高裁判決に従う場合、本件では、虚偽記載公表後、上場廃止までの間のY株式の市場価額の下落から控除すべき市場価額の下落分はなく、XのY株式取得から虚偽記載公表までのYの業績悪化による市場価額の下落分、およびY株式の上場廃止後の非上場株式としての評価額の下落分を、Xの購入代金相当額から控除することになりそうです。
〔評釈〕判旨に賛成。
 
1.本判決の意義
西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載事件に係る最判平成23913金判137633頁は、有価証券報告書等に虚偽記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったと見るべき場合に、当該虚偽記載により当該投資者に生じた損害の額の算定方法を示しました。しかし、同判決は、どのような場合に「虚偽記載なければ取得なし」と見るべきかを明示しなかったので、同判決の適用範囲は必ずしも明らかでありません。本判決は、虚偽記載がなければ投資者が当該有価証券を取得しなかったと見るべき一事例を示したものとして重要です。
 
2.「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合
有価証券報告書等に虚偽記載がなければ当該有価証券を取得しなかったと考える投資者は、有価証券の購入代金相当額を損害みて賠償を請求することがあります。このような取得自体損害説の主張に対しては、これを当該株式が取得時点で無価値であったことを前提とするとみて、当該株式が無価値であったとは認められないとして主張を排斥する裁判例が過去にありました(西武鉄道事件に関する東京地判平成20424判時200310頁他)。本件の原審も同様の見解に立脚しています。しかし、客観的な価値のある有価証券であっても投資者がこれを取得しないという判断をすることはいくらでもありうるのですから、取得自体損害説は虚偽記載のされた有価証券が無価値であるとの前提に立つものではありません。このことは、もし有価証券が無価値であったことを前提とする主張だとすると取得価格と想定価格との差額を損害とみる取得時差額説によっても取得価額の賠償が認められることとなり、そもそも取得自体を損害と構成する必要がないことや、説明義務違反や不当勧誘を理由とする損害賠償を認める裁判例が取得時に有価証券が無価値であることを前提としていないことからも明らかだと思います
 
なお、判旨が原則として購入代金相当額が損害であるとしているのは、本件では民事再生計画に基づいてY株式が無償取得されてしまったために、取得価額−処分価額=購入代金相当額であることを前提としていると読みました。判決が、購入代金相当額から処分価額を差し引くべきでないと考えているのだとしたら、判旨はもちろん不当です。購入しなければ処分もなかったわけで、処分によって現金が入ってくることもなかったわけですから、その分は返さなければなりません。
 
前掲西武鉄道事件最高裁判決は、真実を公表すれば上場廃止を避けられない事例について、投資者は虚偽記載がなければ、取引所市場の内外を問わず、当該株式を取得することはできず、あるいはその取得を避けたことは確実であって、これを取得するという結果自体が生じなかったとみるのが相当であるとしました。最高裁が、取得できないと考えられる場合のほか、取得を避けたことが確実と認められる場合を「虚偽記載なければ取得なし」とみるべき場合に含めたのは、上場廃止事由の公表から上場廃止までの間に時間がかかることから、平均的な投資者は上場廃止事由が明らかとなった株式を購入しないであろうという経験則に依拠する必要があったためでしょう。
 
本件は、西武鉄道事件のように当初より虚偽の記載をしなくても上場廃止となっていた可能性の高い事例ではありません。本件のXは平成176月期の有価証券報告書公表後の株式取得について損害賠償を請求しているところ、平成166月期および平成156月期の連結財務諸表にも虚偽記載はされていたものの、債務超過ではなかったようであり、当初より真実が公表されていたとしてもY株式が上場廃止になっていたであろうとは言い切れないからです。
 
本判決は、平成176月期の有価証券報告書の虚偽記載がなく、真実の数値が公表されていれば、判旨の①〜③〔前回の記事参照〕が明らかになるから、一般の個人投資家がY株式を買い続けたとは考え難いと述べています。このうち①と③は、Yが当初より有価証券報告書に虚偽記載をしなかったとしても、XがY株式を購入する時点で明らかになっている事実ですが、②のが上場直後から虚偽報告を続けている企業であるという事実は、Yが平成156月期および平成166月期に有価証券報告書に虚偽記載をし、平成176月期に真実を公表した場合にのみ明らかになる事実といえます。そこで、特定時期の有価証券報告書にのみ虚偽記載がなかったらという仮定をおいて因果関係を推し量るべきでない(判旨不当)という考えもあるでしょう。しかし、Yが上場直後から虚偽報告を続けていたのは事実ですから、平成15年・16年に虚偽記載をしたという仮定をおくことは不自然でありませんし、投資者が依拠する有価証券の市場価格は直近の有価証券報告書の情報を反映しますから、「当該直近の有価証券報告書に虚偽記載がなかったら」という仮定をおいて投資者がどのように行動たかを判断することは許されると考えます。そして、もしYが平成176月期に真実を公表していたら、それ以前のYによる有価証券報告書の虚偽記載は2期にとどまる訳ですが、上場直後から虚偽記載をしていたという事実はやはり重大なので、平成17921日提出の有価証券報告書に真実が公表されていたらXがそれ以降Y株式を取得することはなかったであろうとする本決定の判断は妥当であると考えます。
 
本件の考察から得られる示唆として、「虚偽記載なければ取得なし」と見るべき場合に「有価証券報告書の虚偽記載が長期間継続した後に当該有価証券を取得した場合」を加えることができると思われます。直近の有価証券報告書において真実が記載されれば、長期間虚偽記載を継続していたという事実が発覚し、投資者が取得するよりも前に当該有価証券は上場廃止とされたはずであるといえるからです。
 
なお、本件では、平成19927日にYの同年6月期の約40億円の債務超過が公表された後もXがY株式を追加取得していることから、Yは、平成17921日にYが債務超過を公表していたらXがY1株式を購入しなかったとはいえないと主張しました。これについて本判決は、平成19927日の債務超過の公表時には、併せて200億円の第三者割当増資が発表されており、Yが過去に有価証券報告書等に虚偽記載をしていたということは明らかになっていなかったのであるから、これをもって平成176月期の真実公表の後もXが株式を購入したであろうと推認することはできないと述べています。この判示も説得力があり、妥当であると思います。
(記事を掲載すると営業のコメントやトラックバックが付くことが多く、消すのが面倒ですので、コメント・トラックバックを承認制に変更しました。ご了承ください)
 
先日、研究会でニイウスコー事件に関する東京高判平成23413金判137430頁の報告をしてきました。またまた有価証券報告書の虚偽記載に基づく民事責任の問題で、虚偽記載の公表と民事再生手続開始の申立てが同日になされたという点で、アーバンコーポレイション事件とも似ていますが、取得自体損害説を認めた珍しい判決なので検討に値すると思います。この判決は前にも一度取り上げましたが、私の事実関係の認識が間違っていたようなので、こちらを参考にしてください。また、この判決は上場会社の連結子会社の財務諸表に虚偽記載がされた結果、上場会社の連結財務諸表に虚偽記載がされた場合に、連結子会社およびその代表取締役が上場会社の株式を取得した投資者に対して不法行為責任を負うとしました。東京地判平成21・5・21判時2047号36頁では反対の結論がとられており、重要です。研究会ではこの点も取り上げましたが、ここでは省略します(ジュリストに本件の判例評釈を公表しますのでそちらを見てください)。したがって、事実も取り上げる判旨に関係する部分だけ紹介します。
 
〔事実の概要〕
(ニイウスコー)は平成156月に東証一部に株式を上場した会社であるが、同年71日に開始する第12期事業年度以来、連結損益計算書、連結貸借対照表、損益計算書、貸借対照表に重要な事項についての虚偽の記載をした有価証券報告書および半期報告書を東証に提出していました(正しくは、「財務局に」でしょうが判決はこういっています)。本件で問題となる期間における虚偽記載の規模は、平成17921日に提出した平成176月期の有価証券報告書では、連結営業利益が約61億円、連結経常利益が約59億円、連結当期純利益が約34億円、連結純資産額が約192億円と記載されていたが、真実は連結営業損失が約122億円、連結経常損失が約123億円、連結当期純損失が約127億円、連結純資産額は約54億円の赤字というものでした。
 
は平成20430日、上記の虚偽記載を公表するとともに東京地方裁判所にそれぞれ民事再生手続開始の申立てを行い、同年52日に再生手続開始の決定がされました。
 
 XはY株式の上場以来、これを購入してきた投資者であり、平成20430日時点におけるその保有株式数は4910株でした。同年114日、Yの再生手続において、Yの全株式はにより無償で取得されました。そこでXは、Yの虚偽記載により平成1796日以降の株式購入代金等相当額である156398000円の損害を被ったとして再生債権の届出をしたところ、東京地方裁判所はXの損害額を5866020円と査定しました。
 
異議審である東京地判平成22625金判134625頁は、Yに対する再生債権について、株式購入代金相当額が損害であるというXの主張を、Y株式の客観的価値がないことを前提とするものであり合理的でないとして斥けた上で、金融商品取引法21条の22項の推定規定を用いて、Xの損害額を5593200円と査定しました。Xが控訴。
 
〔判旨〕原判決変更。Yに対するXの再生債権を153788127円と査定しました。
「『記載が虚偽であることにより生じた損害』とは、有価証券報告書等の記載が虚偽であった場合のXの財産状態と、有価証券報告書等の記載が虚偽でなかった場合のXの財産状態との差であり、当該虚偽記載がなければXがY株式を購入することはなかったと認められる場合には、Y株式を購入したことにより生じた損害(原則として株式購入価額)がこれに当たる。」
 
そして判決は、本件において、平成176月期の有価証券報告書の虚偽記載がなく、真実の数値が公表されていれば、①Yは大幅な債務超過の状態にあることが明らかになっており、また、②Yが平成176月期の正しい連結財務諸表内容および純資産額を公表しておれば、平成166月期の有価証券報告書に記載されていた数値も、少なくとも連結純資産額は虚偽であったことも明らかになり、さらに平成156期の有価証券報告書に記載されていた連結純資産額も虚偽であったことが明らかになると考えられるから、その結果、Yが上場直後から虚偽記載を続けている企業であるということが明らかになり、さらに③その結果、Y3年間にわたり連続して大幅な損失を計上している会社であり、業績に恒常的な問題を抱える企業であることも明らかになるから、Yの株式を一般の個人投資家であるXが買い続けたとは考え難く、Xは、当該虚偽記載がなければ同日以降のY株式を購入しなかったと推認するのが相当であるとしました。
 
本判決が査定した153788127円は、Xが平成17921日から平成19828日までの間に購入したY株式の購入代金相当額です。
(つづき)
4 判旨の射程
本判決は、有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合について判断を下したものであり、虚偽記載がなければ取得することはなかったとみることのできない場合について、取得・処分差額から虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を控除するという判旨の射程は及びません。ただし、前述のように、ろうばい売りによる市場価額の下落は虚偽記載と相当因果関係のある損害であるとする部分は、虚偽記載がなければ取得することはなかったとはいえない、通常の虚偽記載の事例にも当て嵌まる可能性が高いと思われます。
 
本判決は、不法行為に基づいて有価証券の発行者とその取締役の責任が追及された事例ですが、虚偽記載と因果関係のある損害額の算定方法は、特則が置かれていないかぎり、根拠条文によって変わるものではありませんので、判旨の射程は金商法21条の2に基づく発行者の責任、同24条の4に基づく発行者の取締役の責任等にも及ぶと考えられます。ただし、金商法21条の22項は損害額の推定規定を定めていますので、推定損害額を上回る場合に限って、修正取得自体損害説による損害額が原告により主張・立証されることになるのでしょう。
 
本判決は、虚偽記載の内容が粉飾決算のように株式の価値の評価に影響を与える場合の取得自体損害説にまでは本判決の射程は及ばないと解する見解があります(未公表)。本判決によって不合理な結果が生ずる範囲を限定しようとする傾聴すべき見解であり、私自身、もう少し考えてみようと思っています。
 
5 残された問題
本判決は、どのような事例が「虚偽記載なければ取得なし」といえるかについて判断していません。この点について考えてみると、まず、本件と同様に当初より真実が開示されていたとしても上場廃止が避けられないケースや、真実が開示されていたらそもそも株式を上場することができなかったケースが考えられます。現在の取引所は、「上場会社がその事業年度の末日に債務超過の状態である場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき」を上場廃止事由としています(東証有価証券上場規程601(5))。そこで、上場会社が2年以上に亘り連続して債務超過であったのに、粉飾決算によりこれを隠蔽していた場合に、2年以上経過した後に当該会社の株式を取引所市場で取得した者については、当初より真実が開示されていたら、当該会社は上場廃止となるか上場廃止の手続がとられ、当該有価証券を取得することはなかったといえるのではないでしょうか。上場以来3期以上に亘り財務諸表に虚偽記載がされており、投資者が株式を取得する直近の有価証券報告書が債務超過を隠蔽していた事例において、東京高判平成23413金判137430頁(ニイウスコー事件判決)は、投資者が依拠した3期目の有価証券報告書に虚偽記載がされなければ、会社の真実の経営状態・資産状態と上場以来虚偽記載をしていることが明らかとなり、その株式を一般の個人投資家が買い続けたとは考え難いとして、投資者は当該虚偽記載がなければ本件株式を購入しなかったと推認するのが相当であると判断しました。この判決は、投資者が株式を購入した時点では当該株式が上場廃止の条件を満たしていない事例についてのものですが、発行者が上場以来虚偽記載を続けていたこと、原告が上場以来当該株式を買い続けていたこと等を考慮して、虚偽記載と購入判断との間の因果関係を認めたものといえます。この判決については別の研究会で報告する予定であり、そのときまでにもう少し考えてみようと思っています。
 
最高裁は、虚偽記載がなければ投資者が当該有価証券を取得しなかったとは認められない、通常の虚偽記載のケースについて、どのような方式で損害額を算定すべきかについて、まだ判断を下していません。周知のように下級審裁判例は、虚偽記載の公表後の市場価額の下落額を基礎とする考え方(市場下落説)と、取得価額と虚偽記載がなかったら生じていたであろう価格(想定価格)との差額を基礎とする考え方(取得時差額説)とに分かれています。もし、最高裁が市場下落説を採ると、上述のように、「虚偽記載なければ取得なし」といえるか否かで結論にほとんど差がなくなります。他方、最高裁が取得時差額説を採ると、「虚偽記載なければ取得なし」といえるかどうかが、投資者が得ることのできる賠償額に大きく影響することになりますが、ろうばい売りによる市場価額の下落は虚偽記載と相当因果関係があるという判旨からは、取得時差額のみが損害であるとの見解も採りにくいようにも思われます。
 
以上に書いたことは研究会の報告時点における私の考えであり、判例研究公表時までに考え直すところがあるかも知れません。判例研究は金融・商事判例に掲載させていただく予定です。
西武鉄道事件の最高裁判決の研究報告を本務校の研究会でしたところ、予想外に多くの人に参加してもらいました。感謝しています。
 
さて同事件で論ずべき中心的なテーマは前2回で書きましたので、今回は、それ以降に気づいたことを書き散らしてみたいと思います。
 
1.ろうばい売りの評価
判決は、いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は、虚偽記載と無関係な要因に基づく市場価額の変動であるとはいえず、取得・処分差額(取得価額−(処分価額または事実審口頭弁論終結時の市場価額[上場廃止の場合は非上場株式としての評価額]))から控除することはできないとしました。二審判決は、虚偽記載の公表直前の価額と処分価額との差額を基礎として(すなわち市場下落説を採用しつつ)、虚偽記載および上場廃止が発表されると、ろうばい売りが集中して客観的株価より過大に下落する傾向が見られること等から、個々の株式の売却による損失の発生は本件虚偽記載および上場廃止から通常生じ得る結果であるとは認めがたいとしたのに対し、本判決はろうばい売りによる下落は虚偽記載と因果関係のある損害であるとしたのです。
 
判旨のいう「ろうばい売りによる下落」が何を意味するかは必ずしも明らかでありません。「ろうばい売りによる下落」は何らかの情報(それが不確かなものや投資者心理によるものであれ)が市場価格に反映する過程に着目した捉え方ですが、重要なのは、株価への反映過程ではなく、何を原因とする下落が取得・処分差額から控除できないかであるはずです。重大な虚偽記載が公表された場合に株価が下落する原因としては、真実の情報が開示されたことのほか、上場廃止の可能性が生じたことが考えられますが(そのほかに、理論的には、真実の情報を開示するという経営者の資質に対する信頼の低下や、発行者が投資者に対して損害賠償責任を負う可能性が生じたことも、株価下落の原因として指摘されています)、上場廃止の可能性が生じたために投資者が株式を売り急いだことによる下落が「ろうばい売りによる下落」に含まれることは、明らかでしょう。
 
本判決は、虚偽記載がなければ投資者が有価証券を取得しなかったと認められる事例について判示したものであり、虚偽記載がなければ投資者が有価証券を取得しなかったとは認められない事例について、ろうばい売りによる株価の下落が虚偽記載と相当因果関係のある損害であるとしたものではありません。もっとも、判決は一般的な言い回しを用いているので、最高裁は後者の場合にも相当因果関係を認める可能性が高いと思われます。
 
そのような結論に対しては、客観的な水準よりも過大に下落した株価を基準として損害賠償を認めることは残存株主から売却株主へ不当に価値を移転するものであるとの批判も考えられます。しかし、仮に市場価額が客観的な株式価値を反映していなくても、投資者は市場価額でしか株式を処分できないのですから、上場廃止までに株式を売却するという投資者の判断を非難できない以上、ろうばい売りによる下落は投資者の損害から減額されるべきでありません。そして、ろうばい売りが生じ株価が客観的な株式価値を反映していないような状況では、株式の売却時期を誤ったことを被害者側の過失とみて過失相殺をするという形で、投資者の判断を非難することもできないと思います。
 
2 市場下落説との相違
虚偽記載が公表されるまでの間に生じた市場価額の下落は、一般的には、虚偽記載と無関係の要因に基づくものが多いので、本判決多数意見の考え方(修正取得自体損害額と呼ぶ)は、投資者の取得価額と虚偽記載の公表直前の市場価額との差額を取得・処分差額から控除することとなり、虚偽記載の公表後の市場価額の下落を損害額との基礎とする「市場下落説」と同じ結論になる可能性が高いと考えられます。この点に関し本判決は、本件では、虚偽記載の公表前に発行者の親会社が発行者の名義株を売却するなどして本件虚偽記載が一部解消されており、その頃本件虚偽記載に起因して発行者株の市場価額が下落していた可能性があると指摘しています。名義株の売却による市場価額の下落は、虚偽記載の内容が一部市場価額に反映されたものとみることができるので、これは虚偽記載に起因する損害であり、したがって取得・処分差額からの控除を認めないというのです。
 
もっとも、市場下落説は、虚偽記載が公表されて現実に市場価額を下落させたことをもって損害と捉える考え方ですから、市場下落説によっても、虚偽記載の公表前に真実の情報を一部反映した市場価額が形成されていた場合には、真実の情報を反映したことによる市場価額の下落を損害額に加えることになると思われます。したがって、この点でも修正取得自体損害説と市場下落説に違いはないのではないでしょうか。
 
3 保有原告の損害
西武鉄道事件の裁判例では、最後まで株式を保有していた保有原告の損害賠償が認められたものはありませんでした。それに対し本判決の修正取得自体損害説によると、保有原告も、取得価額が口頭弁論終結時の評価額よりも高ければ、損害の賠償を受けられる可能性があります。この点も、市場下落説と(修正)取得自体損害説の理論上の相違点です。しかし、他方、修正取得自体損害説によると、取得後、虚偽記載が公表されるまでの市場価額の下落の大部分が取得・処分差額から控除されることになるため、現在の株式の評価額が虚偽記載公表直前の市場価額を上回っている場合には、保有原告は損害賠償を否定される可能性が高いと考えられます。つまり、保有原告はぬか喜びになるおそれが大きいのです。このように保有原告に実際の保護を与えられないことも修正取得自体損害説の問題点であると考えます。

開くトラックバック(1)

くろぬま
くろぬま
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
検索 検索
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

最新のコメント最新のコメント

すべて表示

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る
本文はここまでですこのページの先頭へ

[PR]お得情報

いまならもらえる!ウィスパーWガード
薄いしモレを防ぐパンティライナー
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
いまならもらえる!ウィスパーうすさら
薄いしモレを防ぐ尿ケアパッド
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
お肉、魚介、お米、おせちまで
おすすめ特産品がランキングで選べる
ふるさと納税サイト『さとふる』
ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!

その他のキャンペーン

みんなの更新記事