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セーフハーバールールに関する最近のアメリカの判例・実務を調べていたら、面白い文書を見つけました。
Slayton, et al v. Am. Express Co., et al., No. 08-5442-cvという裁判で、裁判所の質問書に応じて、2010年にSECが提出した文書(amicus curiae brief)です。この質問書では、4つの質問が投げかけられています。
 
①34年法21E条(b)(e)(A)は、GAAPに従って作成された財務諸表に含まれる将来情報をセーフハーバーから除外しているところ、四半期報告書(Form 10-Q)のMD&Aセクションにおける将来情報は、財務諸表に含まれる将来情報に該当するか。
 
②34年法21E条(c)(1)(A)(i)は、セーフハーバーの保護を得るには、表示は将来情報と特定(アイデンティファイ)されなければならないとしているが、この要件を充たすには、表示は「将来情報(Forward-Looking Statements)」として分離されたセクションになされなければならないか、「将来情報」といった特別のラベルで識別されなければならないか、それとも四半期報告の末尾に「believe, expect, anticipate, optimistic, intend, aim, will, should といった語、その他の同様の表現は、その記載が将来情報であることを示すために用いられている」という趣旨の注をすることで十分か。
 
③意味のある注意表示とはなにか。本件で意味のある注意表示はなされているか。
 
④34年法21E条(c)(1)(B)は、記載がされたときに、被告が、記載が虚偽または誤解を生じることを現実に知っていたことを原告が証明しない限り、被告は責任を負わないとする。悪意は重過失(recklessness)とどれだけ異なるのか。表示が合理的な基礎の一部または全部を欠いている場合、表示者は表示が誤解を生じることを知っているといえるか。
 
2010年にもなって裁判所(それも第2巡回区)がこのような基本的な問いをSECに投げかけていること自体、驚きですが、①②④は難しい問いではありません。SECの回答は次のようなものです。
 
①Form 10-QのMD&Aセクションは、GAAPに従って作成された財務諸表の一部ではない。したがって、セーフハーバールールの適用対象になる。
 
②一般的に、believe, expect, anticipate , optimistic, intend, aim, will, should といった語は、その表示が将来情報であることを特定するのに十分な表現である。
 
④表示者が表示をしたときに、表示が合理的な基礎の一部または全部を欠いていることを知っていたときは、悪意の要件を充たす。Amexの事例のように、「損失は相当に少ないと予想される」(losses ...are expected to be substantially lower)との記載は、(i)当該表示内容が純粋に信じられた(genuinely believee)こと、(ii)当該信念(belief)に合理的な基礎があること、(iii)表示の正確性を減殺するような開示されていない事実を表示者は知らないことを、黙示的に表示している。上記いずれかの表示が虚偽である場合に、将来情報は詐欺防止条項による訴訟の対象になると裁判所は判断してきた。したがって、上記いずれかの表示が虚偽であることを表示者が知っていることが、悪意の内容である。
Helwig v. Vencor, Inc., 251 F. 3d 540 (6th Cir. 2001)では、発行者の役員は、立法が発行者の事業に潜在的にネガティブな影響を持つことを知っていたから、制定中の法律が発行者の事業に及ぼす影響についての楽観的な将来情報が誤解を生じるものであることを、発行者の役員は知っていたと判断した。「ある事実を自分が知っているかのように主張した者、あるいは、あまりにも積極的に主張したために、知っていると受け取られた者は、彼がそのように他人から誤解されることを知っていたという状況の下では、実際には、彼が自分の言ったことが真実であるか否か知らなかった場合には、事実について他人を偽もうする意思は認められないとしても、彼の有している情報の範囲について、他人を偽もうする意思があったものと判断される」(同上)。
この基準は、明らかに、誤解を生じる将来情報を表示したときに、表示者が重過失であること以上の証明を要求するものである。
 
今年の7月末に日本証券経済研究所から「上場会社における業績予想開示の在り方に関する研究会報告書」が公表されました。この報告書は、東証の行っている上場会社に対する業績予想の開示要請について提言をすることを目的としており、東証のHPで公開されています。http://www.tse.or.jp/rules/kessan/gyouseki/ 報告書の提言の要点は、私の理解するところでは、現在、上場会社にとって強制と受け取られている業績予想開示の一律の要請をやめ、決算発表時に上場会社が業績予想を有している場合は、それを開示する、決算発表時に上場会社が業績予想を有していない場合には開示しなくてよいが、その後に業績予想を有した時点で開示するという内容に要請を変えるというものです。
 
私はこの研究会に参加していて、雑誌「企業会計」の11月号で組まれる「業績予想開示」の特集に原稿を書きました。ここではその原稿で取り上げた論点のうち、将来情報に対する民事責任のセーフハーバールールについて、少し考えてみたいと思います。上記の研究会は、東証のタイムリーディスクロージャー政策に対して提言を行うもので、立法提案を目的としていませんので、セーフハーバールールには詳しく触れていません。雑誌原稿でも将来の課題として簡単に触れただけなので、書ききれなかった点を書いていこうと思います。
 
業績予想は将来情報ですから、それが外れた場合に民事責任を負わされるのではないかということが常に問題にされます。アメリカでは、かつてSECは、開示書類に発行者が将来情報(forward-looking information)を記載することを禁止していましたが、1978年に政策を転換し、予想が外れた場合に一定の条件の下で表示者の民事責任を免除するセーフハーバールールを定めた上で、将来情報の開示を奨励しています。日本では、セーフハーバールールがない状況で証券取引所が業績予想の開示を奨励し、大多数の上場会社がこれに従ってきたことは、驚くべきことであるといわれます。そこで、日本でもセーフハーバールールを導入すべきであるという意見をよく聞きます。この問題を検討するには、アメリカの状況を知る必要があると思われますので、まずはそのおさらいから(拙著「証券市場の機能と不公正取引の規制」270頁以下)。
 
1979年に制定されたSEC規則では、セーフハーバールールの適用範囲がSECへ提出される文書と株主宛年次報告書に記載された表示に限定されていた点に欠点がありました。また、将来表示に一定の注意表示が伴っている場合に免責を認める、判例法上の注意表示の法理(bespeak caution doctrine)も、事実審理前の請求棄却が認められないなどの問題がありました。そこで、連邦証券諸法の1995年証券訴訟制度改革法(Private Securities Litigation Reform Act of 1995)は、法定開示書類以外の書類や口頭の表示にも適用され、事実審理前の請求棄却を可能にする包括的なセーフハーバールールを定めました。
 
その内容は、将来情報の表示(forward-looking statements)は、①将来情報であることが明示され、かつ、意味のある注意表示(meaningful cautionary statements)を伴っている場合、②重要でない(immaterial)場合、または、③表示者の悪意(actual knowledge)を立証できなかった場合には、表示者は民事責任を負わないというものです(33年法27A条(i)項、34年法21E条(c)(1)項)。このルールの特徴は、①の要件を満たす場合、訴訟が事実審理前に棄却される点にあります。あとで問題にしますが、表意者が悪意であったかどうかは事実審理(トライアル)をしないと分からないのに対し、①の要件の充足は証拠調べをしなくても分かるからです。
 
 
 

EU目論見書法(5)

目論見書指令の4条1項には、従業員持株スキームについての適用除外が定められています。
 
まず、EUの発行者は、従業員に持株スキームを提供する場合、簡易な情報を記載した文書を作成・提供しているときは、目論見書の公表義務が免除されます。第三国の発行者がEU域内の従業員に持株スキームを提供する場合、当該発行者が証券を規制市場または第三国の市場に上場している場合に限り、EU企業と同様の要件で目論見書の公表義務が免除されます(4条(1)(e))。
 
第三国の発行者の場合、さらに2つの要件を満たす必要があります。①国際金融分野で通常用いられる言語(すなわち英語)による情報が十分に提供されること。②EU委員会が第三国市場に対して同等性の判定(equivalence decision)をしていること。加盟国の所轄当局はEU委員会に同等性の判定を求めることができるので、まず、所轄当局が同等性の判定を行うといえます。同等性は、第三国市場の法的および監督上の枠組みが、EUの市場濫用指令の要件、透明性指令の要件に合致しているか、第三国で実効的な監督と法執行が行われているかという観点から判定されます。
 
目論見書の公表義務が免除されるということは、EU域内での上場も発行開示も継続開示も行われないことを意味しますが、従業員は第三国の市場で売買できれば良いので、第三国の市場環境が整っている場合には、同等性を認め、規制の適用を除外するわけです。この改正は2010年に行われ、同等性の判定の例はまだないようです。
 
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日本ではどうなっているかと思い、証券六法をあけてみると、会社やグループ会社の従業員にストックオプションを発行する場合には、金商法4条1項1号、施行令2条の12により、有価証券届出書の提出を免除され、その後の継続開示義務も課されないことになりますが、ストックオプションには外国証券で新株予約権付証券の性質を有するものが含まれ、会社には外国会社が含まれると書いてあります。そうすると、外国親会社が日本子会社の従業員に親会社株のストックオプションを渡すときもディスクロージャーは要らないことになり、この点ではEUと一緒です。違うのは、同等性の判定が日本では要らない点ですね。この制度は、従業員は会社のことを良く知っているからディスクロージャーは要らないという考え方で出来ているのですが、外国株を取得した後のこと(外国市場でしか換金できないこと)を考慮した規制になっていないのではないでしょうか。
 
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外国基準で作成された目論見書を域内で使用することもできます。目論見書指令の20条は、第三国の法に従って作成された目論見書を、本国(域内のホームカントリー)の所管当局が承認することができるとします。承認のための要件は、①国際的な基準に従って作成された目論見書であること、②開示要件が目論見書指令(および委員会規則)の要件と同等と認められること、です。ここでの同等性は、開示要件(開示内容)の同等性をみています。EU目論見書の場合と同じく、受入国の当局は、目論見書の有効性に口を挟むことは、ほとんどできません。受入国は、自国が当該第三国の発行者の本国(域内のホームカントリー)であったなら、承認しないような目論見書であっても、受け入れなければなりません。
 
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これに対応するのは、日本では「英文開示」ですね。「英文開示」とは英文かつ外国基準による開示です。日本でこれを認めるには金融庁長官が「同等性の判定」をしますが、こちらの方は、開示内容だけでなく、本国市場の規制の全体を見て判断することになります。このあたりの差が面白いですね。
 
かなり長くなりましたが、今回でEU目論見書の話を終わります。

EU目論見書法(4)

目論見書公表義務の適用除外が3条2項に定められています。いわゆる私募(private placement)ですね。
 
(a)適格投資家(qualified investors)向けの募集
(b)加盟国ごとに150人未満に対する募集(適格投資家の数を除く)
(c)一投資家当たり10万ユーロ以上を対価とする募集
(d)最小額面10万ユーロの証券の募集
(e)EU域内で12か月で10万ユーロ未満を対価とする募集
 
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日本でいえば、(a)はプロ私募、(b)は少人数私募、(c)(d)は少人数私募に通じる考え、あるいは社債を想定すれば社債管理者の設置が強制されない要件、(e)は少額免除ですね。
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3条2項は過去と決別する意図を持った規定です。公募指令や上場目論見書指令は解釈の余地が大きい適用除外規定を置き、そのことが規制を複雑化し、目論見書の相互承認を妨げていました。3条2項は、規制水準の平準化に資すると評されています。もっとも、適用除外規定は組み合わせて使えるのかとか、3条2項は公表義務の免除を規定しているのみで、目論見書の作成・承認義務は免除されないのではないか等の新しい問題が生じています。後者については、もちろん、作成・承認義務も免除されると考えるべきです。
 
適格投資家の定義(2010年改正)は、MiFIDのプロ顧客(professional clients)の概念を引用しています。プロ顧客は、オプトアウトできるプロ顧客とオプトインによりプロ顧客となる者に分かれます。2010年改正は適格投資家の登録制度を廃止しました。発行者は証券会社や金融機関の顧客リストを利用できると考えられたからです。
 
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日本では特定投資家(プロ投資家)と適格機関投資家の概念は別立てで、適格機関投資家は金融機関等法定の者以外は届出制です。届出制をとっているのは、公募か私募かで罰則が適用される場合があるため、罪刑法定主義の観点から必要と考えられたからです。EUが登録制を廃止したことで不都合は生じないか気になるところですが、EU指令は刑事法を直接に扱っていないため、国内法化の段階で工夫がされるのかも知れません。たしかに、金融商品取引業者は自己の顧客がプロか一般投資家かを知っていますから、発行者はそれを利用すれば良いとも言えますね。
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ユーロボンド市場にはリテール顧客も参加していました。加盟国には、金融機関はリテール顧客に証券を転売できるとしていた国もありました(ルクセンブルク)。目論見書指令は、そのような慣行は望ましくないと考えて、公募の概念を拡大し、他方で、適用除外証券の転売規制でこの問題を扱っています(下記参照)。
 
それは「段階的小売り」(retail cascade)と呼ばれる問題です。引受人が証券を金融機関に分売し、金融機関がそれをリテール顧客に転売するとします(発行者ー引受人ー金融機関ー顧客)。この場合、発行段階で適用除外を受けても、転売段階で目論見書の作成が必要になりますが、それはどの段階か? 目論見書の内容はどの時点の情報であるべきか? CESRはレベル3で問題の解決を試みました。すなわち、金融機関が発行者と共同して(in association with)行動している場合とそうでない場合とに分け、前者の場合、金融機関は発行者の目論見書に依拠することができ、目論見書追補書類が発行者により準備されなければなりません。後者の場合は、金融機関が目論見書を作成しなければなりません。
 
2010年改正目論見書指令は、3条2項でこの問題を扱っています。すなわち、証券が転売される場合には、別の募集としてカウントされるものの、募集の目論見書の有効期間内に金融機関により証券が転売される場合であって、募集の目論見書を転売段階で用いることに発行者が書面で同意しているときは、新たな目論見書を作成する必要がない旨の規定が、3条2項に加えられています。
 
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日本でも全く同じ問題がありますね。日本では、プロ私募証券の一般投資家勧誘は、発行者によって有価証券届出書が提出されていなければすることができません。転売が「売出し」にあたるときも同じです。EUでは、転売段階の目論見書は金融機関が作成することも許されているようです。ここが日米との大きな違いでしょうね。

EU目論見書法(3)

目論見書の作成義務を定める3条1項は、目論見書の作成主体を明示していません。国内法では、発行者に目論見書作成義務を課すことになると思われます。目論見書には、投資者が情報に基づいた評価をするために必要なすべての情報が含まれていなければなりません(5条1項)。目論見書指令では目論見書の内容の一般原則のみを定め、詳細な開示内容は委員会規則(レベル2)に委任しています(7条1項)。IOSCOの国際基準やIFRSの内容は委員会規則の段階で反映されます。
 
目論見書の様式には、単一目論見書(single prospectus)と三部形式文書(tri-partite document)があり、さらに、プログラム発行のための目論見書が用意されています(5条3項4項)。三部形式文書は、一括登録に用いるもので、登録文書、証券ノート、サマリー・ノートからなり、登録文書には発行者情報、証券ノートには証券情報を記載します。目論見書には要約情報の記載も求められます(5条2項)。この要約部分については、加盟国は、法律を制定して、母国語に翻訳するよう求めることができます。言い換えると、要約部分以外については翻訳義務を課すことはできなくなりました。
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(以下、私見)この辺りは、証券実務を反映したものであるため、日米の制度と似通っています。一括登録は日本法の発行登録に相当します。母国語による要約は、日本では英語開示の文脈で議論されているところですね。
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作成された目論見書は、発行者または募集者の本国である加盟国による承認を受けなければなりません(本国の選択基準は前回説明しました)。そして承認を受けた場合には、承認後、遅滞なく、募集または上場よりも「合理的な時間だけ前もって」(at a reasonable time in advance of )、かつ、遅くともその開始時期までに(at the latest at the begining of )、目論見書を公表しなければなりません(3条1項2項)。
 
目論見書(募集の場合)は、①募集が行われる国で読まれる新聞への掲載、②発行者および募集に従事する業者の事務所において、無償で紙媒体の目論見書の交付を受けることができるようにすること、または③発行者または募集に従事する業者のウェブサイトにおいて電子的様式で利用可能にすること、のいずれかの措置がとられたときに「公表された」ことになります。①または②を採用したときは、投資家の要望があれば③も求められます。③を採用したときも、投資家の求めがあれば無償で②が行われなければなりません。参照方式をとる目論見書では、参照先の情報は、別途、①〜③の方法で無償で利用可能にしておく必要があり、それで足ります。
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(以下、私見)目論見書の交付義務の問題は、少なくとも指令レベルでは、目論見書の公表の方法によって対処されているように思われます。新聞、事務所、ウェブサイトのいずれかで公開するとともに、請求があれば個別に交付する義務が、発行者・業者に課されていると見ることができるでしょう。しかし、指令レベルの交付義務は、日米の証券法ほど厳格なものでもないようです。
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