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EU目論見書法(2)

目論見書指令は、公募、または規制市場への取引承認のために公表される目論見書の作成、承認、配布の要件を定めるものです。公募は、「いかなる形式、いかなる手段であるかを問わず、投資者の決定を可能にするような、証券および募集に関する十分な情報を提供する通信」と定義されています。公募の定義は合意に至るのが難しかったので、意図的に広くされたのだそうです。
 
(以下、私見)加盟国は、目論見書が公表されていなければ、いかなる公募も認めてはならないのですが(3条1項)、この公募の定義では開示規制の発動要件とならないのではないかと思います。刑事法はEU指令による調和の対象となっていないと聞いたので、Schammo氏に、刑事罰を定めるために加盟国が「公募」の定義を厳格なものにすることはできるのかと聞いてみました。その答えは、加盟国は公募の要件を加重することはできないが、定義を明確化する規定を置くことはできるというものでした。
 
規制市場への取引承認(an admission to trading on a regulated market)とは、正確には上場と異なる概念なのですが、この辺りは複雑で説明できません。規制市場とは、ロンドン証券取引所(LSE)のように、取引所市場のうち厳しい規制が適用される市場をいいます。EUでは一般に非上場証券の取引所における取引が認められるのですが、その市場はは規制市場に当たりません。発行者は公募をせずに規制市場への取引承認を求めることもできます。知名度向上のために既発行の社債を上場するのがその例です。
 
(以下、私見)このように公募の概念と取引承認の概念が異なるとすると、なぜ公募用の目論見書と取引承認用の目論見書を同一の規制の下に置くのか、疑問が生じます。公募用の目論見書が発行市場開示であるのに対し、取引承認用の目論見書は、証券が流通市場で取引されるための情報提供、すなわち流通市場開示(継続開示)に過ぎないように思われるからです。研究会の席上でも、日本やアメリカでは、発行開示が必要なのは販売圧力(selling pressure)が生じているからであるとする見解があるが、公募のない上場では、販売圧力が生じていないのではないか(だから、発行開示は不要ではないか)という質問が出されましたが、我々にとって十分な回答は得られませんでした。もっとも、発行開示と継続開示とを比べると、発行開示には取引規制(届出前の勧誘禁止、届出書の効力発生前の契約禁止、目論見書の交付)がくっついてくる点に違いがあるのですが、EUにはこういった取引規制がないとすると、発行開示と継続開示を分ける必要もないことになるのです。
 
目論見書規制の適用範囲は、持分証券(equity securities)と非持分証券(non-equity securities)に分けて規定されています。非持分証券のうち最小額面が1000ユーロ未満のものは適用除外、10万ユーロ以上のものには特則があります。後者はユーロボンド市場を阻害しないために定められたものです。転換証券が持分証券と扱われるか、非持分証券と扱われるかは、発行者が転換先の持分証券の発行者か否かに依存します。いわゆる転換社債は持分証券ですが、転換先の持分証券の発行者のグループ会社が転換証券を発行するときも、転換証券は持分証券と扱われます。それに対し全くの第三者が発行する場合には、非持分証券となります。
 
持分証券と非持分証券の相違は、適用範囲のほか、本国(ホストカントリー)の決定基準に顕れています。非持分証券の本国は、①発行者の登録事務所の所在国、②当該証券が上場される規制市場の所在国、③公募が行われる地域の所在国のなかから、発行者が選択します(2条1項)。これに対し、持分証券については、発行者の登録事務所の所在国が本国となります。EU加盟国以外の国(第三国)の発行者は、本国となる加盟国を選択しなければなりませんが、この本国たる加盟国は、最初に公募が行われる国か(公募の場合)、最初に上場申請がなされる規制市場の所在国から選びます。
 
(以下、私見)本国で目論見書が承認されると、他の加盟国でそれが通用しますので、本国の選択は重要です。非持分証券の発行の場合に選択が広く認められているのは、ユーロボンド市場の市場慣行を保護するためだそうです。発行者の登録事務所の所在国とは、発行者が事業会社の場合、本店所在地で登録しなければならないという規制が別にあると思いますので、登録事務所の所在国を自由に選べるわけではありません。それに対して、特別目的会社を設立して非持分証券を募集するような場合は、発行者(特別目的会社)をどの国で設立するか、かなり自由に選択できると思われるので、目論見書の規制や審査の甘い国が選択されてしまうおそれがありそうですね。一般に、証券規制は市場を規制するものであるところから、発行者は市場所在国の規制に従うのが原則ですが、市場所在国でない登録事務所の所在国が本国の第一候補と考えられているのが、EU法の特徴といえるでしょう。いわゆるパスポート・システムです。

EU目論見書法(1)

本務校のGCOEの研究会でSchammoさんというイギリスの若手研究者を招いて、EU目論見所法(EU Prospectus Law)について話してもらいました。その研究会の準備のために自分で勉強したことと、研究会における報告・討論から私が理解したことを、書き留めて置きたいと思います。ですから、内容の誤りはすべて私に帰せられます。Schammo氏の研究の成果や分析に興味のある人は、http://www.cambridge.org/gb/knowledge/isbn/item6282763/?site_locale=en_GB をご覧ください。
   
EUの目論見書指令(Prospectus Directive)は、2003年に制定され2010年に改正されています。加盟国は、改正法の内容を2012年7月までに国内法化して施行しなければなりません。もともと、目論見書指令は、それまでの公募指令(Public Offering Directive)と上場明細書指令(Listing Particular Directive)を一本にしたものです。公募指令は、ある発行者が加盟国(本国、ホームカントリー)で資金調達のために公募目論見書を作成した場合、その文書を相互承認の下に、他の加盟国(受入国、ホストカントリー)における資金調達においても使用できるようにするために制定されたものです。しかし、実際には相互承認は使われず、発行者は、公募の抜け穴を悪用したといわれています。加盟国の思惑の相違により、公募指令では「公募」の定義さえ定められていませんでした。加えて、目論見書の全訳(受入国の言語への)を求める権限を行使できるなど、受入国の規制当局の力が強すぎるといった問題もありました。
 
そこで、目論見書指令は、加盟国の裁量をできるだけ少なくする、最大調和の指令(maximum harmonisation directive)を目指しました。加盟国が指令の規制に要件を加えることは、原則としてできません。また、目論見書指令は、いわゆるランファルシー(Lamfalussy)手続によって作られており、指令は原理・原則のみを定め、委員会の定める規則(レベル2)、およびソフトローに当たるレベル3の規則によって補完されます。したがって、指令を見ただけでは、実際の規制の内容を知ることはできないのですが、ここでは指令の内容の紹介にとどめます(勉強していないため)。
 
先に進む前に、目論見書の意義を確認しておきたいと思います。日本では、発行開示の手段として、有価証券届出書と目論見書が用いられ、前者は間接開示、後者は直接開示の手段とされています。このような日本の仕組はアメリカ法に倣ったものです。前にイギリスの制度を少し勉強したときにうすうす感じていたのですが、EUで目論見書という場合、日本の有価証券届出書と目論見書を併せたものを意味するようです。後で述べるように、EUでは承認を受けた目論見書は公表され、投資者から請求があれば紙媒体または電子的方法で交付されます。交付も広い意味での公表の一部と構成されており、日本の届出書と目論見書の相違はEUでは「公表の方法」の相違となります。ですから、EU目論見書法とはEUの発行開示規制を意味することになるのです。
ニイウスコー事件判決のもう一つの重要な判旨は、虚偽記載の発覚と民事再生手続き開始の申立てが同じ日に行われたのに、金商法21条の2第2項の推定損害額からの減額(同条5項)を行わなかったことです。判決は次のようにいいます(要約しています)。
 
再生手続開始の申立てやそれによる上場廃止が明らかになった後に株式の市場価値が下落することがあるとしても、これはこうした事実を原因とするものではなく、飽くまで当該会社が再生手続開始の申立てに至るまでの経営、財務等の状態が悪化していた事実が明らかになったことによるものである。そして、本件においては、虚偽記載によりニイウスコーが相当期間にわたり巨額の債務超過等の状態にあった事実が明らかにされていなかったものが、再生手続開始の申立てと同時に明らかになっているのであるから、本件株式の市場価値が下落したのはまさにこの事実が明らかになったことによるものである。したがって、再生手続き開始の申立てやそれに引き続く上場廃止という事情があるからといって、虚偽記載と損害との因果関係を認めるに足りないということはできないし、金商法21条の2第4項所定の事情の証明がなされたということもできない。
上記に述べたことからすれば、推定損害額の全部または一部が虚偽記載によって生ずべき本件株式の値下り以外の事情によって生じたとは認められないから、金商法21条の2第5項の適用による減額はできない。
 
この判示は、再生手続開始の申立てや上場廃止による株価の下落も、虚偽記載の発覚による株価の下落も、根本要因は、ニイウスコーの巨額の債務超過であるから、異なる原因ではない。したがって、再生手続開始の申立てや上場廃止は虚偽記載によって生ずべき株式の値下り以外の事情に当たらないとするものです。
 
アーバン事件②③判決は、事案の特殊性を考慮して同じことを言っているのだと解する余地はありますが、アーバン事件①判決はそういっていません。アーバン事件とニイウスコー事件ではもちろん事案は違いますが、真実が開示されたとしても同じ結果(民事再生手続開始)になっていたであろう点では共通しています(この点は、西武鉄道事件も同じですね)。虚偽記載の発覚によって発行者の信用が毀損され企業価値が下落した場合や、虚偽記載の発覚によって上場廃止の可能性が生じて株価が下落した場合には、その下落分は金商法21条の2の適用範囲ではないという見解がありますが、ニイウスコー事件判決は、その見解に立つ場合でも、発覚すれば民事再生手続開始に追い込まれるような財務状況が隠されていた場合には、別に考える余地を示しているように思います(この点については論文で簡単に触れたことがあります)。
 
前回の記事では、私はこの判旨に賛成と書きましたが、詳しく検討していくと、粉飾決算が発覚して倒産したケースはすべて本当にニイウスコー事件判決と同じに判断してよいのかについては、若干の疑問も残ります。粉飾決算が長年継続し、それが発覚して倒産に至ったケースでは、粉飾の初期では粉飾の幅(すなわち取得時差額)が小さく、虚偽記載の発覚直前では粉飾の幅が大きいはずです。粉飾の初期に株式を取得した投資家についても、発覚直前の粉飾の幅を反映した株価下落を基準として損害賠償を認めて良いのかという疑問が生じます。これについては考え中なので、意見を留保させてください。
東日本大震災で本人やご家族が被害に遭われた方に、お見舞い申し上げます。
 
私は家族とも無事でした。阪神大震災のころ私は神戸大学に勤めていたのですが、そのときはたまたま家族と東京におり、直接震災を体験しませんでした。ですから、そのときの揺れと比べることはできないのですが、今回は津波の被害が甚大であったことと、原発の事故があり社会不安や停電による影響が大きく、かつ長引いている点で、未曾有の災害であると思います。東京でも、交通の不便と、人が集まることの危険性から、研究会の中止が相次いでいます。金商法の研究は、こういう災害には全く役に立たないのですが、こういうときはそれぞれの本分を尽くすことが重要だと思いますので、ブログを続けます(原稿も書いています)。
 
最近、「判例体系」の仕事をしていて、ニイウスコー事件判決(東京地判平成22年6月25日金判1346号25頁)を知りました。会社名は聞いていたのですが、判決に気づかなくて不覚でした。西田さん、中野さん、ごめんなさい。
 
事件はアーバンコーポレイションと似ています。4事業年度にわたり有価証券報告書に虚偽記載(粉飾決算)を行い、最近3事業年度は債務超過に陥っていたニイウスコー株式会社が、有価証券報告書に虚偽の記載が含まれていることを公表した日に民事再生手続開始決定の申立てをしました。査定異議事件において、ニイ社の金商法21条の2に基づく責任の有無が争われたのですが、(私の関心からは)2つの重要な判示をしています。私はその一つに賛成で、もう一つに反対です。
 
まず、反対のほうから。21条の2第1項の損害賠償責任として、投資者は原状回復方式の主張をしました。ニイ社が真実の情報を開示していたら、虚偽記載または債務超過を理由としてニイ社株は上場廃止になっていたはずであり、上場廃止になっていたら自分はニイ社株を購入できなかったから、株式購入代金の総額が投資者の被った損害であると主張したのです。
 
裁判所は、原状回復方式は21条の2に含まれていないなどとは言わず、この主張を引き取り、投資者のこうした主張は、いずれも本件株式(ニイ社株式)の客観的価値がないことを前提とするものであるとした上で、虚偽記載がされていても、債務超過であっても、本件株式の価値がないと認めることはできず、X(投資者)が本件株式を取得することがなかったということはできないのであり、Xの上記主張は合理的な根拠があるものとはいえないとしました。
 
こういう判示をした裁判例は過去にもありましたが、明らかに論理のすり替えです。判決を読む限り、Xは本件株式の客観的価値がないなどの主張はしていません。それを勝手に「客観的価値がないことを前提とする」と言い換えた上で、客観的価値がないとはいえないから主張は成り立たないというのです。上記引用中でも、「本件株式の価値がないと認めることはできず」と、「Xが本件株式を取得することがなかったということはできない」とが繋がらないことは分かるでしょう。投資者は、株式に客観的価値があっても、買わないという選択をすることはいくらでもあり得るのです。不当勧誘がなかったら当該株式を買わなかったという不法行為の主張は、当該株式の客観的価値がなかったことを前提としている訳ではありません。客観的価値があろうとなかろうと、買わなかったはずだから金を返せと主張しているだけなのです。
 
判決は、また、Xがニイ社が債務超過状態にあることを公表した後もニイ社株を購入していたことを、上記主張を排斥する理由として挙げています。しかし、Xの主張は「自分は買わなかった」というものではなく、「上場廃止の株を一般投資家の自分が買えるはずがない」というものですから、判決のようにXの属性を問うことはできないですね。
 
この裁判所は、アーバン事件判決と異なり、裁量的減額をしなかった点では高く評価できるのですが、今日取り上げた判示については残念でした。
継続開示書類の虚偽記載に関する発行者の無過失責任を定める金商法21条の2第1項は、取得時差額の賠償のみを認めたものか、一般不法行為責任を認めたものかという問題が、重要性を増しています。この問題については、きちんと論文を書かなくてはならないと思っているのですが、アーバン事件の①判決と③判決が対照的な判示をしていますので、紹介しておきましょう。
 
①判決は、概要次のように述べます。
 
金商法21条の2第1項本文にいう「虚偽記載等により生じた損害」とは、虚偽記載等がなかったと仮定した場合の利益状態と、虚偽記載等があったことによる現実の利益状態との差をいうものと解される。したがって、虚偽記載等がなければ現実の購入価格よりも低い価格(想定価格)で当該有価証券を購入することができたと認められる場合には、当該有価証券を想定価格で購入することができたと仮定した場合の利益状態と、当該有価証券を現実の購入価格で購入したことによる現実の利益状態との差額が、当該虚偽記載等により生じた損害と認められるから、「現実の購入価格−想定価格」により算出される額が、当該虚偽記載等により生じた損害の額と認められる。・・・他方、虚偽記載がなければそもそも当該有価証券を購入しなかったと認められる場合には、当該有価証券を購入しなかったと仮定した場合の利益状態と、当該有価証券を購入したことによる現実の利益状態との差が、当該虚偽記載等により生じた損害と認められるから、「当該有価証券の購入価格−当該有価証券の売却価格(未売却の場合は当該有価証券の時価)」により算出される額が、当該虚偽記載等により生じた損害と認められる。
 
この判示は、21条の2第1項の責任は不法行為責任であり、不法行為責任には「差額説」が妥当するというものです。①判決が差額説を虚偽記載による責任に照らして具体化した部分は、きっちり書かれており、個人的には全くその通りだと考えています。この考え方に依れば、発行者の21条の2第1項の責任を追及するときも、原状回復的損害賠償(取得自体損害説ともいう)の主張・立証が許されることになります。
 
これに対し③判決は、次のように判示しました。
 
金商法21条の2第1項が定める虚偽記載等により生じた損害とは、虚偽記載等がなかったとした場合にあるべき利益状態と虚偽記載等がされた場合の利益状態との差であり、有価証券の取得価額から虚偽記載等がなかったとした場合に形成されていたであろう有価証券の価額を控除した額であるというべきである。
 
この判示は21条の2第1項は、取得時差額の賠償しか認めていないとするものです。③判決はその理由を示していませんが、一つ考えられるのは、同条2項の損害額の推定規定が取得時差額説に立脚しているということでしょう。しかし、2項は損害額の推定を利用することを認めるための規定であり、その解釈が1項を縛るとは思えませんから、より実質的な理由が必要でしょう。・・・ここから先は、もう少し勉強してから論文で書くことにします。なお、②判決は、21条の2第1項の性質論に触れていません。
 
最後に、①判決が原状回復方式(取得自体損害説)をどう扱ったかみておきましょう。
 
本件投資家は、アーバン株の購入動機等の具体的事実関係を何ら主張立証するものでなく、本件全証拠によっても、本件虚偽記載等がなければ投資家がアーバン株を購入しなかったことを認めるに足りる証拠はない。むしろ、①本件虚偽記載等に係る真実情報は、これが直ちにアーバン株の上場廃止事由等になるものとまではいえないこと、②本件CBの発行決議日のアーバンの株価・出来高を基準とすれば、アーバンはBNPパリバから本件スワップ契約に基づく変動支払金の支払いを受けることによって、合計274億余円の資金調達が可能であったこと、③投資家は、アーバン株の株価が大幅に下落している中でアーバン株を購入していること等の各事情に照らせば、本件虚偽記載等の有無にかかわらず投資家はアーバン株を購入していたものと認めるのが相当である。
 
①判決は「虚偽記載がなかったら購入していなかったであろう」ことの主張・立証ができていないとしたのですが、そのような評価は、真実情報が開示されても、アーバンはすぐに民事再生手続開始の申立てをせず、株価が急落することもなかったとの、①判決の裁判所の認定を前提にしているように思われます。②判決のように、虚偽記載がなければ資金調達は実現せず、真実情報を開示すればより早期に再生手続に移行していた(再生手続に入ると上場廃止になる)という認定の下に、①判決の裁判所が原状回復方式を検討していたらどんな結論になったのか、興味を惹かれるところです。
 
 
 
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