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相場操縦(4)

「現実取引による相場操縦の悪性について」という論文で私が言いたかったことは、前回述べた通りなのですが、その主張にはいくつかの留保があります。
 
第1に、現実の相場操縦行為には取引圧力による操作の目的も情報動機による操作の目的も含まれていて、両者を区別することはできないと言われれば、その通りなのです。したがって、変動操作の要件として誘引目的を求めるべきであるという結論は、多分に理念的・観念的なものです。
 
第2に、この論文は、取引圧力による操作の目的しかない行為がすべて不可罰であると主張するものではありません。たとえば、時価発行を成功させるために取引圧力しか生じない操作を行った場合、相場操縦には該当しませんが、相場を悪用して新株を発行したことが不公正取引禁止規定(157条)に違反すると解する余地はあると考えています。それなら結論は同じではないかと言われるかも知れませんが、市場内の行為それ自体を違法とみるのか、市場内の行為と市場外の行為の組合せの全体を違法とみるのかという、評価の基準が違ってくるのです。
 
このような限界はあるものの、私はこの論文の出来をひそかに自負しています。思い入れのある論文なので、2、3思い出話をさせてください。
 
この論文は、京都大学の龍田節先生の還暦記念論文集に寄稿したものなのですが、ちょうど龍田先生の還暦祝賀パーティーがある日に京都大学の商法研究会で論文の内容を報告する機会がありました。そのとき聞いておられた龍田先生は、「言いたいことはよく分かったが、全然賛成できない」と言われました。あとで同席していた同業者に聞くと「えらく厳しいことを言われていましたね」といわれたけれど、私はこれをほめ言葉だと受け取っていました(今もそうです)。結論が違うのは予想されたことなので、理屈を納得してもらったと思ったのです。また、龍田先生の還暦記念論文集は「企業の健全性確保と取締役の責任」という題だったのですが、この論文のテーマは企業の健全性確保にも取締役の責任にも関係のないものでした。編者の先生、ごめんなさい。
 
ちなみに、私の助手論文を読んだ故竹内昭夫先生は「新人類の書くものはよく分からない」と仰いましたが、これも私はほめ言葉だと思って大切にしています(本当は、私は新人類と呼ばれた世代より2学年上です)。鈍感力なのかも知れません。
 
この論文は1996年にドイツに短期留学したときにあちらで書いていました。そのせいかどうか、Thelという人名をテールと訳して発表してしまいました。Tehlと勘違いしていたようです。拙著に収める際にセルに直すことができたのは幸いでした(これで正しい発音なのかは、よく分かりませんが)。

相場操縦(3)

月末に原稿の締切りが重なってしまったため、更新が遅れました。この間、時事ニュースなどもありましたが、とりあえず前回の続きから。
 
相場操縦の成立のために「人為的操作目的」のみで足りるかを考えるに当たって、アメリカの学説を見たところ、同じような議論があったので、この論文ではそれらを参考にしています。
 
とりわけ、操作によって相場が変動するメカニズムを取引圧力による価格変動情報動機による価格変動に分けて論じているセル(Thel)教授の分析が有用です。取引圧力による価格変動とは、投資家が大量の売買注文を出したときに、市場が大量の注文を吸収できないことから一時的に受給のバランスが崩れ価格が変動することをいいます。情報動機による価格変動とは、たとえば、大量の買注文が出されると、背後に好情報が生じているとみられ、その情報を利用しようとする一般投資家の取引により価格が変動することを言います。セル教授は、取引圧力による価格変動を狙った取引には欺まん(deception)の要素がないことを認めつつ、相場操縦を欺まん行為に限定しない解釈を採用すべきだとします。
 
これに対してフィッシェル教授とロス氏(Fischel=Ross)は、証券の価格を人為的に変動させることが現実取引による相場操縦(変動操作)だとすると、人為的でない価格を定義する必要があるが、それは不可能であると論じます。すべての重要情報が開示されたと仮定した場合の価格をもって正しい価格と定義するとしても、問題の取引自体が重要な情報なのだから、議論は循環論法に陥ってしまう。操作者に人為的操作の意図がある場合のみ罰するとしても、それは悪い行為がないのに悪い意図のみを罰することになってしまうが、それで良いか? フィッシェル=ロスは、現実取引による相場操縦は「詐欺」とは言えないというのです。
 
私は次のように考えました。取引圧力による価格変動は、自然の需給を価格に反映させるものだから禁圧すべきでないが(ここがセル教授との違い)、情報動機による価格変動は、一般投資家を欺いて、一般投資家の力を借りて価格を変動させようとするものであるから禁圧すべきである。情報動機による価格変動には悪い意図も悪い行為もある(ここがフィッシェル=ロスとの違い)。取引圧力による価格変動は、投資家が取引に誘い込まれなくても生じるから、取引圧力による価格変動には誘引目的がない(情報動機による価格変動には誘引目的がある)。したがって、取引圧力による価格変動を禁圧せず情報動機による価格変動のみを禁圧するためには、誘引目的を変動操作の要件とすべきである。そして、この場合の誘引目的とは、投資家を取引に誘い込んで自己の取引だけでは出来ないような価格変動を実現する目的のことを意味することになる、と。(つづく)

相場操縦(2)

だんだんネタがなくなってきましたので、初心に戻って、本(証券市場の機能と不公正取引の規制)に収めた論文(取引による相場操縦の悪性について)の紹介をします。
 
現実取引による相場操縦(金商法159条2項1号、最近では「変動操作」ということが多いようです)は、大量の売買注文を市場に出すことによって株価を人為的に変動させることをいいます。現実取引による相場操縦が成立するには、典型的には、「有価証券売買の売買、市場デリバティブ取引又は店頭デリバティブ取引(有価証券売買等)のうちいずれかの取引を誘引する目的」(誘引目的)をもって、「取引所金融商品市場における上場金融商品等(金融商品取引所が上場する金融商品、金融指標又はオプション)の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等」(変動取引)をすることが必要です。相次ぐ改正によって大分分かりにくくなっていますが、金融商品には有価証券が含まれます。
 
相場操縦の禁止規定はアメリカの連邦証券取引所法9条に倣って作られた条文であり、日本の学説はアメリカの9条の判例や学説を参考にして通説を作り上げました。通説は次のように論じます。大量の証券の買い注文を出せば当該証券の価格が上昇することは、当然の市場原理であるから、自己の取引により証券の価格が上昇し、ひいては売買取引を誘引するであろうことの認識だけで、「誘引目的」があるとすると証券取引を著しく阻害することになる。他方で、誘引目的を立証することは難しいから、状況証拠から誘引目的を推認することを許すべきである。つまり、通説は、違法行為と適法行為は誘引目的の有無によって分けられるとしながら、誘引目的の存否は状況証拠で足りるという、矛盾とまでは言えないまでも別方向に向く議論を同時にしていたことになります。
 
ところが、わが国で最初に相場操縦として摘発された協同飼料事件の高裁判決が、誘引目的とは「有価証券市場における当該有価証券の売買取引をするように第三者を誘い込む意図」であるとした上で、この目的は「有価証券市場における当該有価証券の売買取引をするように第三者を誘い込むことを意識しておれば足りる」としたのに対し、変動取引とは「単に、取引自体が相場を変動させる可能性をもっているその取引ということではなく、相場を支配する意図をもってする、相場が変動する可能性のある取引と解するのが相当である。」としたことから、学説においても、適法行為と違法行為を区別する基準は、誘引目的の有無ではなく変動取引の要件に該当するかどうかであるとする有力説が、主として刑法学者・検察官から主張されるようになりました。
 
協同飼料事件の平成6年最高裁決定は、誘引目的とは、「人為的操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券の売買取引に誘い込む目的」のことであり、変動取引とは、「相場を変動させる可能性のある売買取引等」のことであるとしました。これによって結論が変わる訳ではありませんが、最高裁は誘引目的の有無が適法行為と違法行為の区別の基準となるとする通説を採用したものと理解されています。
 
私がこの問題に興味をもったのは、平成6年度重要判例解説でこの決定が当たったからでした。その解説では、通説も有力説も結論に大きな相違はないと書いたのですが、そもそも本当に「誘引目的」が必要なのか。単に条文に書いてあるからというのではなく、政策論として誘引目的が必要なのかを考えてみようと思ったのでした。 (つづく)

ドンキの放火

久しぶりの時事ネタです。

ドンキホーテの放火事件で、容疑者が空売りで利益を得ていたため、警察は「相場変動目的の暴行」を視野に入れて捜査しているとのニュースがありました。ドンキホーテ株を空売りしておき、放火により損害を与えて、あるいはイメージを低下させ、株価が下落したあとで買い戻そうとしたようです。そういえば、9.11テロは、NY市場の相場操縦を目的の一つとしていたという話もありました。

相場変動目的の暴行とは、金商法158条(風説の流布・偽計取引)のうち、「有価証券等の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、または暴行もしくは脅迫をしてはならない。」という部分に該当します。この規定は、戦前の取引所法にあったもので、相場操縦の防止を目的としていました。当時、法律に相場操縦を直接禁止する規定はなく、相場操縦の手段となるような風説の流布等を禁止することにより相場操縦の防止を図っていたのです。

戦後になって、アメリカから相場操縦を直接禁止する規定(125条、現行159条)が輸入されたので、今日では、相場操縦を防止する規定は不要になったと思っていたのですが、この事件のような場合があるので、残しておいた方が良いかも知れませんね。なぜなら、この事件では、放火という真の情報によって相場を変動させようとしているので、相場操縦を禁止する159条各号に該当しない可能性があるからです。

もっとも、建物の放火は、人に向けられた有形力の行使を構成要件とする暴行に当たるのでしょうか。現住建造物放火の場合は暴行になるのでしょうか。もし暴行に当たらないとすると、(157条の適用可能性はあるものの、おそらく)放火罪だけで処罰されることになりますが、相場変動目的の暴行は重く処罰されて、相場変動目的の放火は重く処罰されない合理性はあるのでしょうか。このように考えていくと、単なる暴行よりも相場変動目的の暴行を重く処罰する理由も不確かなものになってしまいそうですね。

相場操縦の禁止に関する159条1項は、仮装取引と馴合取引を禁止しています。

このうち、馴合取引の定義は法文上はっきりしているのですが、仮装取引は、権利の移転を目的としない仮装の取引としか述べていませんので、何がこれに当たるかが議論の対象となりえます。

大証の株券オプション取引相場操縦事件に関して、最決平成19・7・12日は、ある者が特定の銘柄のオプションを一定数量付与し、これと同時期に、同一銘柄のオプションを同数量取得する自己両建て取引は、仮装の有価証券オプション取引に当たるとしました。

この事件では同一の市場で買建てと売建てをする行為が問題となっているので、仮装取引に当たるとする結論は妥当なのですが(とはいっても、その点がこの事件の一つの争点で、最近、評釈を書きました。金融・商事判例に掲載の予定です)、異なる市場で買い注文と売り注文を出す行為や、市場で買い、店頭で売る行為は、仮装取引に当たるでしょうか。

平成10年の証券取引法改正は、異なる市場間、あるいは市場の内外での相場操縦行為に対応できるように規定を整えました。したがって、適用することは可能です。最高裁の「自己両建て取引」の定義も、市場の内外を区別していないように読めます。そうすると、2つの取引を「同時期に」行うのであれば、当たるといえそうです。

私は仮装取引・馴合取引の悪性は、権利を移転しないこと自体にあるのではなく、虚偽の取引高を作出する点にあると考えてきました。そうすると、異なる市場の注文同士または市場の注文と市場外の注文とは付け合わされる可能性がないので、虚偽の取引高を作出するものではないとも言えそうです。最高裁も、同一銘柄のオプションと言っているので、同一銘柄のオプションは同じ市場にしかないと考えれば、仮装取引は同一市場でしか成立しないと考えることも可能です。

最高裁決定はこのような問題を直接扱うものではなく、自分の考えもまとまっていないので、上記の判例評釈では、この点には触れませんでした。

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