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論文こぼれ話(2)

ブログは研究論文の内容について議論する場ではないので、他人の説の批判は、ここには書きません。自分の意見の論理の流れのみを下に書き留めておきます。
 
公開買付けにおける強圧性とは、対象会社が独立でいた方が株主の利益になると考える株主であっても、公開買付けが成功すると自己がより不利な立場におかれると予想し、株式を提供する圧力を受けることをいいます。強圧性の問題とは、強圧性が生じる結果、個々の株主の投資判断が歪められること自体にあるのではありません。そもそも、株主は利得状況を計算して合理的に行動しているので、その投資判断は歪められていません。強圧性が生じる結果、多くの株主が株式を提供することとなり、企業価値を減少させるような公開買付けが成功してしまうことが、効率性の観点から問題であるとされているのです。ここで用いられる効率性の基準は、いわゆるカルドア・ヒックス基準であり、社会的効用(それは、多くの場合株主の効用に一致する)が増加すれば効率的、減少すれば非効率的と考える基準です。
 
それでは、企業価値を減少させる公開買付けとは何か。企業価値が減少するのは、株主にとっての独立価値(対象会社が独立でいる場合の価値)より残存価値(対象会社にとどまる場合の価値)より高くなる場合のすべてではありません。効率性の基準としてカルドア・ヒックス基準を用いているので、全株主にとっての独立価値の総計が、買付けが成功した場合の支配株主の株式価値と少数株主の株式価値の合計より高い場合に限って非効率な買収が行われることになります。つまり、多くの株主にとって強圧性が生じている場合のすべてにおいて、非効率な買収が行われるわけではありません。いいかえると、強圧性が生じる場合にすべてこれを解消してしまうと、効率的な買収が妨げられる可能性があるのです。
 
強圧性の解消策として、株主に株式提供とは別に、買付者による支配権取得についての賛否を問うやり方が内外で提案されています。しかし、このやり方では、非効率な買収のみを阻止する保障がないというのが、私の意見です。賛否を問うやり方の多くは、株主の過半数の賛成を要するというものですが、株主の過半数が公開買付けに賛成することと、その公開買付けが企業価値を増加させるものであることとは必ずしも一致しません。支配株式の価値も企業価値に含まれる以上、支配株主(買付者)の判断も考慮しなければならないからです。この問題は、現状では、理論的に十分な解明がされていないと感じています。
 
それではどうしたらよいか。強圧性が非効率な買収を生むのですから、強圧性が生じる前提を取り除くことが考えられます。強圧性の一つの前提は、対象会社の独立価値が買付価格よりも高い場合があり得るという命題です。買付価格が独立価値よりも常に高ければ強圧性は生じません。ふつう、公開買付価格は市場価格より高く設定されます。それにも拘らず、株主の予想する独立価格が買付価格より高い場合がありうるのは、公開買付けに接した株主が自社の企業価値の予想を修正するからであるといわれています。しかし、対象会社の経営者はこのおうな株主の予想の修正を容易く株価に反映させることができるのではないか、というのが私の意見です(これには反論もあり得ますが、それは論文で論じています)。そうすると、強圧性の解消は、対象会社が独立でいることが株主の利益と考える対象会社取締役が、独立価値を株価に反映させる行動によって図るべきではないでしょうか(論文には書きませんでしたが、このように考えると、MBOの場合にのみ強圧性に対処すれば足りることになりますね)。
 
ただし、いわゆる二段階買収(買付価格よりも低い対価での第2段階の締出しを予告する買付け)では、対象会社の独立価値がいくらであるか、それが市場価格に反映されているか否かにかかわらず、公開買付けは強圧的となります(いわゆる「構造的強圧性」)。この構造的強圧性も、株主が協同行動をとることで阻止することができるのですが(買収防衛策)、これは端的に禁止すべきではないかと考えます。もっとも、構造的強圧性のある買付提案を禁止するのに特別の立法は必要ではなく、そのような買収提案は「有価証券の売買その他の取引について、不正の手段、計画または技巧をすること」に該当するものとして金商法157条に違反すると解すれば足ります。
 
強圧性のもう一つの前提は、対象会社の株主の一部が残存することです。もし、公開買付けが失敗した場合には買付者が1株も取得せず、公開買付けが成功した場合には、残存株主のすべてを買付価格と同額で対象会社から締め出すのであれば、強圧性は生じません(いわゆる「オール・オア・ナッシング」方式)。論文では、オール・オア・ナッシング方式について検討し、理論的には反論の余地はないが、政策的にはオール・オア・ナッシング方式に賛成できないと結論付けました。
 
続いて論文では、「ただ乗りの解消策とその検討」をしていますが、これは理論的検討です。続く「相対取引・市場取引への公開買付規制の適用」では、問題の本質が「強圧性」ではなく、大株主の「私的利益の追求」によって非効率な買収が成功してしまうことであることを明らかにした上で、私的利益の追求の一部は会社法上、規制の対象となっていることから、効率的な買収も非効率な買収も促進するルール(相対取引や市場取引による支配権の取得を認めるルール)のほうが、いずれも抑制するルール(強制的公開買付け)よりも、全体として好ましいのではないかと結論付けています。
 
最後に、「退出権の保障と少数株主の保護」を検討していますが、この部分は主に政策的な検討です。
 
興味のある人は、『株式会社法体系』出版後にご一読ください。

論文こぼれ話(1)

「株式会社法体系」という本に「公開買付け」のテーマで原稿を依頼され、ようやく原稿を提出しました。
内容は出版されてから読んでいただくのが良いのですが、感想めいたことを綴ってみたいと思います。
 
こういう「体系」ものの出版では、そのテーマについて概括的に書くのが一般的です。過去には河本一郎先生還暦記念論文集である「証券取引法体系」に、森本滋先生が「公開買付」という題で書かれています。森本先生は、アメリカ法との比較を交えて公開買付規制全般を論じておられたのですが、現在は公開買付規制も複雑になっており、アメリカ法・EU法との比較をしていたらとても制限字数に収まりません。
 
公開買付けについては、実務の関心を反映して実務書が多数出版されています。おそらく公開買付規制違反が課徴金の対象となったことと無関係ではないでしょう。しかし、実務上の論点を挙げるのはどうかなと迷っていました。そんななか、飯田秀総准教授の論文「公開買付規制の改革」商事1933号14頁(2011年)に次のような記述を見つけました。「現在の日本の公開買付規制は、情報開示にとどまらない規制を定めているが、その核となる哲学があまり明確でない。・・・このような状況で公開買付規制の改革を考える場合には、弥縫策的な改正(たとえば、複数の種類株式を発行している会社を対象とする公開買付けに関する規制の整備等)も重要かつ必要であるが、規制の目的として何をコアとするべきかを考えるほうがより重要だろう。」 学者のすべき仕事はまさにこれだと思います。
 
このテーマについては、名古屋大学法政論集に「市場取引・相対取引・公開買付(1)」という論文を書いたことがあります。(1)はアメリカのマーケット・スウィープの規制の紹介に終わっていますが、(2)で強制的公開買付制度の廃止論を展開しようと思っていました。しかし、その計画は果たせませんでした。その後、TOB研究会報告書の紹介という形で、2002年に商事法務に「強制的公開買付制度の再検討」という論文を公表しました。しかし、そこでも読み落としていた論文があり、いつか続きを書きたいと思っていました。
 
そこで今回は、細かな解釈論や制度論よりも、公開買付規制のグランドデザインを考えてみたいと思い、理論的な問題に焦点をあてて自分の考えを展開することにしました。テーマは、1.市場外買付けの強圧性とただ乗り、2.相対取引・市場取引への公開買付規制の適用、3.退出権の保障と少数株主保護 です。
 
この論文を書く上で、参考になり、刺激を受けたのは、飯田准教授の法協論文及び上記商事法務論文と、田中亘准教授の『企業買収と防衛策』(商事法務、2012)の最終章の2つです。二人の考えは公開買付けの強圧性を問題にする点は共通していますが、強圧性の捉え方は少し違います。しかも、二人とも以前の論文から少しずつ考えが変わってきているように思われたことが、私にはとても興味深かったです。
 
私の印象を書くと、飯田さんは、法協論文では公開買付けの強圧性は解消しなければならないという立場だったのですが、商事法務では、「制度としては、強圧性とフリーライドの問題の両方を解決できるようなものが望ましい。言い換えれば、強圧性を解消することばかりに注目して、企業価値を挙げるようなタイプの企業買収に無用なコストを課すような制度は望ましくない。」と、フリーライド問題(企業価値を挙げるような公開買付けは、株主は対象会社に残ろうとして株を提供しないため、成功しないという問題)も重視すべきであるという立場に変わってきているように思います。
 
田中さんは、ブルドックソース事件の評釈のころは、公開買付けには強圧性があるから、集合行為問題を解決できる株主総会決議による買収防衛策は正当化できるというトーンだったのですが、今回は、公開買付けの強圧性を解消する方策を導入することを前提として、取締役会限りでの買収防衛策は禁止するという見解を提示しています(株主総会決議による防衛策は否定しない)。自身が参加していた企業価値研究会の報告書に対しても「反対」の立場のようです。この変化は、アメリカの判例法研究と日本の実証研究を経た結果のようです。
 
私が間に割って入るまでもなく、二人の見解は細部では違っており、二人は今後よきライバルになるだろうなと思いました(強圧性の意味を含め、次回に論文で言いたかったことは何かを書きます)。
【公開買付説明書に係る責任】 
重要な虚偽記載等のある公開買付説明書その他の表示を使用して株券等の売付け等をさせた者は、虚偽記載等を知らないで公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者が受けた損害を賠償する責任を負うとされています(27条の19による17条の準用)。ただし、公開買付説明書等の使用者が、相当な注意を用いたにもかかわらず虚偽記載等を知ることができなかったことを証明したときは、責任を負いません(同条)。目論見書の使用者の責任(17条)に相当する規定です。
 
この規定は、①無過失の立証責任を被告に負わせている点、および②被告が実際に「相当な注意を用いた」ことが免責の要件とされており、公開買付説明書等の使用に際して相当な注意を用いなかった場合には、因果関係不存在の抗弁を被告が用いることができない点で、不法行為(民709条)に基づく損害賠償請求の特則となっています。その他の表示には口頭の表示も含まれるでしょう。
 
公開買付届出書を提出せずに売付け等の申込みの勧誘をした者、公開買付説明書を交付しないで株券等の買付け等をした者は、公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者に対して、違反行為により生じた損害を賠償する責任を負います(27条の16による16条の準用)。公開買付届出書、公開買付説明書の情報によって投資者の提供判断が行われるよう確保するための規定といえます。
 
届出書を提出せずに勧誘をした者には、公開買付者のほか、勧誘行為に従事したすべての者が含まれるでしょうが、公開買付説明書を交付しないで買付け等をした者とは、金商法16条の場合と異なり、公開買付者または違法な買付けの主体に限られることになるでしょう。本条の損害賠償責任は無過失責任ですが、損害の額は売付者(株券等の所有者)が立証しなければなりません。
 
取引規制に係る民事責任
主として取引規制違反を抑止する目的で、公開買付けの取引規制違反に対する損害賠償責任を定める規定がいくつか置かれています。
 
第1に、別途買付けの禁止に違反した公開買付者等(公開買付者と特別関係者、27条の33項)は、公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者に対して、
 
(別途買付けにおける買付価格−公開買付価格)×
 売付者の応募株券等の数(按分比例方式により売付け等ができなかったものを除く)
 
により算定される賠償額を支払う義務を負います(27条の17)。別途買付けと同じ価格で公開買付けが行われたと仮定した場合に売付者が得ることのできた価額を売付者に与えるものです。この額は、別途買付けにより売付者が被った損害の額とは言い切れない部分を含んでいるので、本条は損害の填補というよりも、別途買付けによる利益を買付者から剥奪して違反を抑止することを主目的とするものであるといえるでしょう。
 
第2に、公開買付者は、応募された株券等について公開買付届出書に記載した買付条件により決済を行わなければならないところ(27条の134項)、これに違反して、一部の応募者から公開買付価格より有利な価格で買付け等を行ったときは、他の応募者に対して、
 
(有利な買付価格−公開買付価格)×
売付者の応募株券等の数(按分比例方式により売付け等ができなかったものを除く)
 
により算定される賠償額を支払う義務を負うとされています(27条の181項、21号)。買付価格の点で投資者の平等取扱いを確保するための民事責任規定ですね。
 
第3に、公開買付者は、応募株券等の数の合計が買付予定の株券等の数を超えるときは、按分比例により買付株券を決定しなければならないところ(27条の1342号)、これに違反して、按分比例方式と異なる方式で買付けをしたときは、そのために買い付けられなかった応募者に対し、
 
〔公開買付価格−損害賠償請求時の市場価格(すでに処分しているときは処分価格)〕×(応募株券等の数のうち買い付けられなかった数)
 
により算定される賠償額を支払う義務を負います(27条の181項、22号)。買付株数の点で投資者の平等取扱いを確保するための民事責任規定であるといえるでしょう。
久しぶりの更新になります。もう言い訳を考え付かないほど、更新の間隔が拡がってしまいました。開き直って、マイペースで更新することにします。
 
今回から、公開買付規制違反の民事責任規定について解説していきます。
 
公開買付けに関して金融商品取引法が定める民事責任規定は、①公開買付関係書類の虚偽記載に基づく損害賠償責任を定めるもの、②届出違反の公開買付け、公開買付説明書の虚偽記載および交付義務違反から生ずる損害賠償責任を定めるもの、および③公開買付けの取引規制違反から生ずる損害賠償責任を定めるものに大別されます。これらは平成2年の改正により設けられた規定でして、それまでは民事責任規定はありませんでした。もちろん、学説は法の不備を指摘し、不法行為責任が成立することを指摘していました。
 
①は発行開示書類の虚偽記載、②は無届募集、目論見書の虚偽記載および交付義務違反に対応するものですが、③は公開買付けの規制に特有のものであり、投資者の損害の填補よりも違反の抑止を目的とした規定であると理解することができます。
 
【公開買付関係書類の虚偽記載等】 
公開買付開始公告、公開買付届出書、公開買付説明書、または対質問回答報告書に、重要な事項について虚偽の表示があるか、表示すべき重要な事実が欠けているか、誤解を生じさせないために必要な重要な事実の表示が欠けている(以下、虚偽記載等という)場合、公開買付者は、公開買付けに応じて株券等の売付け等をした者に対して、損害賠償責任を負うと定められています(27条の20による181項の準用)。ただし、売付者が売付け等の際に記載が虚偽であり、または欠けていることを知っていたときは、損害賠償責任は発生しません(同上)。募集・売出しの際の有価証券届出書に重要な虚偽記載等があった場合の発行者の責任(18条)に相当する責任です。本条は、虚偽の情報によって株券等の売付けを行った投資者を保護するために設けられたものであり、公開買付者の責任が無過失責任である点で不法行為の特則となっています。
 
本条を利用できるのは売付者のみです。公開買付関係書類に虚偽記載があったために、公開買付への応募をしなかった者、市場で対象株券等を売買した者は、本条に基づいて公開買付者の責任を追及することはできません。そして、他に特別規定も定められていないので、その者がもし虚偽記載によって損害を被ったのであれば、公開買付者やその関係者に対して不法行為責任を追及することになるでしょう。
 
公開買付届出書には対象会社の状況が記載されており、この部分は公開買付者が対象会社の法定開示書類を基礎に記載を行うとされています。たとえば対象会社の有価証券報告書に重要な虚偽記載があり、その結果、公開買付届出書に重要な虚偽記載がある場合には、本条によって、公開買付者は株券等の応募者に対して無過失の損害賠償責任を負うことになるのです。この結果は一見すると公開買付者に酷であるように思われますが、応募者に損害が発生しているときは、虚偽記載によってあるべき価格よりも低い公開買付価格で買付者が株券等を取得していると考えれば、公開買付者に無過失の損害賠償責任を負わせることは不当ではありません。
 
責任を負うのは公開買付者のほか、公開買付者と共同買付けの合意等をしている特別関係者(27条の2第7項1号)、公開買付者の取締役、会計参与、執行役、理事もしくは監事、またはこれらに準ずる者です(27条の203項)。公開買付者以外の者は、相当な注意を用いたにもかかわらず記載が虚偽でありまたは欠けていることを知ることができなかったことを証明したときは、責任を免れます(同条項)。これらは、有価証券届出書の虚偽記載にかかる発行者の関係者の責任(21条)に相当する規定です。
 
本条には、損害賠償額について特別規定が置かれている(27条の202項)。公開買付届出書または公開買付説明書に重要な虚偽記載等があった場合であって、公開買付者が、公開買付終了後に株券等の買付けをする契約があるにもかかわらず、公開買付届出書または公開買付説明書にその旨を記載することなく、公開買付終了後に一部の者(A)から株券等の買付け等をしたときは、売付者の損害賠償額は、(Aからの買付価格−公開買付価格)×売付者の応募株券等の数となります。按分比例方式により売付け等ができなかったものは応募株券から除かれます(27条の172項参照)。
 
この特別規定は、買付者とAとが契約で定めた買付価格を、虚偽記載等がなく真実が明らかになっていたら買付者が買付価格としたであろう価格(想定価格)とみて、実際の買付価格と想定価格との差額を賠償の対象とするものといえるでしょう。しかし、法18条が前提とする原状回復の考え方を公開買付けに及ぼすのであれば、上記特別規定が示す事情の存否にかかわらず、現在の株券等の市場価格(市場価格がないときは処分想定価格)と公開買付価格との差額を賠償させるべきではないでしょうか。
 
特別規定が適用されない場合には、売付者が虚偽記載等によって被った損害の範囲と額を立証しなければなりません。
 
【株券等を応募した者が被る損害】 
公開買付関係書類に重要な虚偽記載があった場合に、公開買付けに応募した株主は虚偽記載と損害との因果関係をどのように立証することができるかを考えてみましょう。
 
第1に、対象会社の株価を引き下げるような虚偽記載がされていた場合には、応募株主は、虚偽記載がなければより高い公開買付価格が設定され、より高い価格で株券等を売付けることができたと主張することが考えられます。この場合には、真実が公表されれば対象会社の株価が上昇すると想定されますが、一般の相当因果関係理論からすると、応募株主としては、それでも公開買付者が公開買付けを実施したであろうこと、当該公開買付けにおける公開買付価格、当該公開買付けにおいて応募株主が公開買付者に売付けることができたであろう株式数を、主張・立証しなければならないことになるでしょう。
第2に、第1と同じ状況で、応募株主は、虚偽記載がなければ自身が公開買付けに応募することはなく、その結果、公開買付後に保有する対象株式の市場価格の上昇等によって高い価値を実現できたと主張することも考えられます。この場合に虚偽記載がなければ応募株主が高い株価を実現できたといえるためには、応募株主は、虚偽記載と自己の応募との間の因果関係、自己が応募しなかった場合の公開買付けの成否、公開買付後の残存株式の市場価格などを主張・立証しなければならないことになるでしょう。
 
第3に、買付けの目的や公開買付者の状況に虚偽記載があり、もし虚偽記載がなく真実が開示されていたら公開買付けは行われなかったか、行われたとしても成功しなかったとして、その後の市場価格の上昇によって保有する対象株式について高い価値を実現できたと主張することも考えられます。この場合には、応募株主は、虚偽記載と公開買付けの成否との間の因果関係、公開買付けが行われなかった場合(あるいは不成功に終わった場合)の対象株式の市場価格などを主張・立証しなければならないことになるでしょう。
今回取り上げたいもう一つの論点は、中間試案第2部第3の1の株式売渡請求制度です(コピペをしているため読みにくくて済みません)。金融商品取引法とは直接関係がないですが、公開買付けで90%取得した後にキャッシュ・アウトを行う場合に利用可能な制度といえるでしょう。
 
中間試案第2部第3の1は、対象会社の議決権の10分の9以上を有する株主が、対象会社の株主総会の決議を要することなく、現金を対価とする少数株主の締出し(いわゆるキャッシュ・アウト)を行うための新たな制度を提案しています。この制度では、特別支配株主が全株主に対して株式の売渡しを請求することを認めるとともに、少数株主保護の方策として、裁判所に対する価格決定の申立て、価格が著しく不当である場合の差止請求権、売渡株式の取得の無効の訴えの制度を設けることとしています。
 
キャッシュ・アウトは、意思決定の迅速化、株主管理コストの削減等の点で企業経営にメリットがあります。議決権の10分の9を有する株主は、略式組織再編の手続により、対象会社の株主総会の決議を経ることなくキャッシュ・アウトを行うことができるので、そのような株主に、より簡便な方法によるキャッシュ・アウトを認めることには合理性があると思います。しかし、そのような趣旨からすると、中間試案の提案は、次に述べるように不必要に重たい制度になっているように思われるのです。
 
第1に、株式の売渡請求は特別支配株主と少数株主との間の取引であるにも拘わらず、売渡請求をするには対象会社の取締役会の承認が必要とされています。その理由として、補足説明は、キャッシュ・アウトの条件について一定の制約が必要であるからだとしています。たしかにキャッシュ・アウトの条件は公正なものでなければなりませんが、特別支配株主から提示された条件が公正であるかどうかを対象会社の取締役が判断できるという保証はありません。補足説明は、対象会社の取締役は売渡株主の利益に配慮する義務があるから、注意を尽くして対価の相当性を判断すべきであるとし、そのことを取締役会の承認を要する根拠としているようです。しかし、取締役が少数株主の利益に配慮する義務を負うのは会社の機関として行動する場合であって、特別支配株主・売渡株主間の取引の相当性について取締役に判断させるのは、取締役に新たな義務を課すことにほかならないのではないでしょうか。
 
実際的に考えても、取締役会の承認は有害か無益であると思います。まず、特別支配株主によって選任された取締役であれば、特別支配株主の提示する条件を承認しないはずがないから、取締役会の承認を要求することは無益です。つぎに、敵対的買収の過程で売渡請求権が行使され、取締役会と特別支配株主が対立関係にあるときは、特別支配株主としては株主総会を開催して取締役を交替させてから取締役会の承認を受けることになりますが、これは無駄に時間と手間をかけることになり有害ではないでしょうか。中間試案は、公正な条件が提示されるような手続規制を設けることによって、売渡株主の価格に対する不満が解消されると考えたのかも知れません。しかし、売渡請求制度では価格を争う手段を用意することが不可欠であり、売渡価格に不満のある株主は取締役会の承認があろうがなかろうが売買価格の申立てをするでしょうから、取締役会の承認手続はいたずらに手続を複雑にするだけでしょう。
 
第2に、売渡株主保護の方策として、売渡しの効力発生前は差止請求権が、効力発生後は無効の訴えが提案されています。しかし、売渡請求者が特別支配株主の要件を満たしていなかった場合や売渡請求の手続に違反した場合には、株式取得の効果は生じないと解されるからそれで足りると考えます。株主間の株式の売買が無効であった場合以上に取引の安全に配慮する必要はないはずです。また、差止事由として価格が著しく不当である場合が挙げられていますが、その場合は売渡請求は無効であるとはいえないものの、売渡株主は価格決定の申立てにより保護されるので、差止めを認める必要はありません。
 
補足説明は、無効の訴えの制度を設ける理由として、売渡請求は多数の株主の利害に影響を及ぼすので法的安定性を確保する必要があるとしています。たしかに、売渡請求は少数株主をすべてキャッシュ・アウトすることが目的ですから、特別支配株主にとっては全株式について一律に取得の効果が発生しないと不都合でしょう。しかし、訴訟を提起しなければ売渡の無効を主張できないというのは、売渡株主にとって不便すぎるのではないでしょうか。
 
①株式会社に新たな支配株主が現われたこと、または②株式会社の議決権の10分の9以上を有する支配株主がいることを要件として、少数株主に、自己の有する株式を当該支配株主に売却する機会を与える制度、いわゆるセル・アウトの創設については、提案が見送られました。その理由として補足説明は、①の新たな支配株主に対するセル・アウト制度について、企業結合の形成に際して生じる費用が増大し、企業価値を高める企業結合の形成がされにくくなるおそれがあるとの指摘があり、②の大多数保有株主に対するセル・アウト制度は、支配株主の異動が生じた場合に少数株主に退出の機会を与えるための制度として位置づけることは困難であることを挙げています。
 
たしかに、新たな支配株主に対するセル・アウト制度については、企業結合の費用を増加させるという側面がありますし、そもそも支配株主が出現したときに少数株主に退出の機会を与えるのが好ましいか否かという議論からしなければならず、そのような議論がなされていないために制度の創設を見送るという態度は理解できるところです。それに対して大多数保有株主に対するセル・アウトは、10%未満の少数株主は会社法上、略式組織再編の対象となるなど不利な地位に置かれることになり、大多数保有株主側も10%未満の少数株主を残存させることに合理的な理由がないことから、少数株主に無条件の株式買取請求権を認めるものなのです。このセル・アウトは、そもそも支配株主の異動が生じた場合に少数株主に退出の機会を与えるための制度ではないのですから、そのような位置づけができないことは、②のセル・アウトを採用しない理由にはなりません。部会の議事録を見ても、90%以上の支配株主に対する株式買取請求権を認めるべきであるとの発言が複数あったにも拘らず、中間試案において提案から落とされたことは奇異に感じられます。
 
キャッシュ・アウトは、企業経営上メリットがあるのに対し、セル・アウトは結合企業側、支配株主側にメリットがないから(もし、メリットがあるのであればキャッシュ・アウトをしている)、認めないという議論があるのかも知れません。しかし、セル・アウトは10未満の少数株主の利益を保護するための制度ですから、支配株主側にメリットがないことをもってその創設を否定することは本末転倒でしょう。セル・アウトの仕組みを考えると、キャッシュ・アウトとは反対に、少数株主が価格を提示して支配株主に対し買取請求をし、価格に不満のある支配株主は裁判所に価格決定の申立てをすることになるでしょう。セル・アウトを認めると、支配株主は個々の少数株主による買取請求に個別に対応しなければならず、煩瑣であると思われたのかも知れません。しかし、そのような場合、支配株主はキャッシュ・アウト権を行使すればよいのですから、問題はありません。結局、セル・アウトは、支配株主がキャッシュ・アウト権を行使しないために救済を否定される少数株主の利益を守る点に最も重要な機能があるといえるのではないでしょうか。

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