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金融ADR(3)

3 金融ADR機関の権限
 
紛争解決手続における金融ADR機関の権限について、審議の過程では、①金商法上の自主規制機関と同様の規則制定、調査および規制の権限を有するとする案、②金商法上の認定投資者保護団体と同様の規則制定の権限のみを有するとする案、③何らの権限も有しないとする案が提示されていました。そして、①については、金融機関に対する行政上の規制との重複を懸念する意見や、業界の自主的な、現実を踏まえた柔軟な取組みが阻害されるといった意見が出され、金融審議会の報告書では、金融ADR機関は一定の規則制定権および実効性確保のための権限を有することが適当であると指摘するに留まっています。
 
改正法は、顧客の申立てにより紛争解決手続きを開始した場合に、金融機関は正当な理由なく手続に応じることを拒んではならないという手続応諾義務、指定紛争解決機関または紛争解決委員から、報告または書類・物件の提出を求められた場合に、正当な理由なくこれを拒んではならないという調査協力義務、および紛争解決委員が提示した特別調停案を顧客が受諾した場合に、一定の場合を除いて、これを受諾しなければならないという結果尊重義務を、手続実施基本契約上、金融機関が負う義務として規定しました(金商156条の44第2項2号、3号、5号、同条6項)。このように、契約上の義務という形式にせよ、金融機関の行為規制が定められているところに、業界型ADRの特性が表れていると言われています。金融機関がこれらの義務に違反した場合、指定紛争機関は、違反の事実を公表する(金商156条の45)とともに、義務違反に対する過怠金の賦課、手続実施基本契約の解除などを同契約に定めておき、これを実行することができると解されています。金商法156条の44第2項各号は手続実施基本契約の内容を定めており、そこには過怠金や契約解除権の定めはありませんが、同項各号は手続実施基本契約の必要的記載事項を定めたものであって、指定紛争解決機関は各号の義務の実効性を確保するための措置を任意に記載することができると解説されています(池田ほか・前掲書380−381頁)。実効性確保のための権限を与えるといっても、法律で定めるのは公表だけで、あとは任意に定めなさいということになると、どんな条項が置かれるかは指定紛争解決機関と業態ごとの金融機関の力関係で決まるようで、あまり好い気はしませんね。なお、手続実施基本契約の内容を含む指定紛争解決機関の業務規程は、内閣総理大臣の認可規制に服します(金商156条の44第1項、7項)。
 
以上をみると、指定紛争解決機関は自主規制機関とされなかったため、金融機関に対して自主規制を及ぼすことはできませんが、手続実施基本契約の締結強制およびその内容の規制を通じて、指定紛争解決機関には、紛争解決のために必要な、自主規制機関と同程度の権限が与えられていると言えるでしょう。そして、もし、手続実施基本契約に、義務に違反した金融機関に対する制裁規定を記載することが出来れば、指定紛争解決機関は認定投資者保護よりも強い権限を有することになります。
 
金融機関が手続応諾義務、調査協力義務、または結果尊重義務に違反したとき、内閣総理大臣は、これを法令違反とみて業務停止命令等を発することはできません。しかし、義務違反を理由として指定紛争解決機関が手続実施基本契約を解除すれば、金融機関は契約締結義務に違反することとなり、行政監督上の処分を受けることになるでしょう。このような規制構造は、規制の実効性確保のために必要なものであり、指定紛争解決機関による規制と行政上の規制が重複しているとして否定的に評価すべきではないと思います。
 
なお、自主規制機関や業界団体が指定紛争解決機関となっている場合に、金融機関の手続実施基本契約上の義務違反をもって、自主規制上の規制を発動したり業界団体を除名できるかが問題になります。私は、金融ADRを自主規制機関化することのメリットの一つは、紛争解決手続の実効性を確保するために自主規制を用いることができる点にあると考えていますが、改正法の制度では、自主規制機関と紛争解決機関とは、一応別個の制度ですから、手続実施基本契約上の義務違反を理由に、自主規制を発動したり業界団体から除名することはできないでしょう。

金融ADR(2)

2 指定紛争解決機関の設置
 
業態ごとにせよ、金融ADRの設置を強制すべきかという点については、審議過程では、業界団体への加入率が低い、事業者数が少ない、実態として相談・苦情が少ない、取引の相手が事業者である等の事情があることを考えると、強制は適当でないという意見が有力でした。そこで金融審の報告書でも、現時点では一律に金融ADR機関の設置を義務付ける状況にないと判断し、業界団体・自主規制機関等の申請を受けて行政が指定を行うのが適当であるとしました。
 
内閣総理大臣は、法人または法人でない団体で代表者等の定めのあるもので、紛争解決業務の実施能力を有するものを、その申請に基づき紛争解決機関に指定することができます(各法律に規定がありますが、金商法では156条の39、以下、金商法の規定のみ引用)。同条1項5号は、申請者が実施能力として経理的な基礎および技術的な基礎を有することを求めており、技術的な基礎の内容として、対象業務を限定することや業務の実施地域を地理的に限定することは認められないと説明されています(池田ほか『逐条解説 2009年金融商品取引法改正』367−368頁)。この点は、対象業務(たとえば、銀行法上は、付随業務・兼業業務を含めてすべての業務を包括的に対象業務としている)の限定や地理的な限定を禁止することが立法論として妥当かという疑問のほか、「技術的基礎」という語に、そのような内容(対象業務の限定や地理的限定の禁止)を読み込むことは難しいのではないかという疑問があります。
 
紛争解決機関の指定がなされると、関係業者は指定紛争解決機関との間で手続実施基本契約を締結することを強制され、手続実施基本契約の内容に拘束されることになります。そこで、指定紛争解決機関の申請者は、関係業者に対し業務規定の内容を説明しなければならず、意義を述べた業者の数の割合が3分の1を超えるときは指定を受けることができないとされました(金商法156条の39、施行令19条の8)。見ず知らずの団体に拘束されたくないという業者の声を反映させたものですが、契約締結を通じて業者の規制を狙った制度ですから、これ位の手続は要求されて良いでしょう。
 
指定紛争解決機関の指定がなされると、金融機関は当該機関と手続実施基本契約を締結しなければなりません(金商法37条の7第1項1号イ等)。金融審の報告書では、金融ADR機関が設立されている業態においては、その利用を業への参入の要件とすることが望ましいとしていましたが、そこまで強い規制は置かれませんでした。もっとも、金融機関が契約を締結しないと法令違反となるので、当該金融機関は、それぞれの法令に基づいて登録・免許の取消しを含む行政処分の対象となります。

金融ADR(1)

先日、仲裁ADR法学会で金融ADRの話をしてきました。そのときの報告準備で勉強したことを書いてみようと思います(以下の内容は、必ずしも報告内容と同じではありません)。
 
金融分野の裁判外紛争解決制度(金融ADR)は、銀行法、保険業法、金商法など16の法律の平成21年改正により創設されました。施行は今年の10月1日です。金融ADRの特色を制度面から見ると次の6点を指摘できるでしょう。
1.業態ごとに枠組みを導入したこと。
2.指定紛争解決機関の設置を強制せず、任意としたこと。
3.他のADR分野に比べると詳細な行政監督規制が置かれていること。
4.紛争解決手続きにおける金融機関の義務が、行為規制ではなく契約上の義務とされたこと。
5.金融ADRの利用は一般の利用者に限定されないが、大企業や金融機関が相手のときは実施しないことも可能とされていること。
6.金商業協会の自主規制による紛争のあっせんや、認定投資者保護団体制度が残されたこと。
 
1.業態ごとの枠組み
 
横断的な金融ADR機関を設置するか、業態ごとの機関にするかは、審議の過程でずいぶん議論がありましたが、横断的な金融ADR機関は、コストの負担、専門性の確保、業務改善の実効性の確保に問題があり、現実的でないとされました。このうち、コストの負担に問題があるとは、紛争の多い業態の紛争解決の費用(ADR機関の運営費用)を、なぜ他の業態の金融機関が負担しなければならないのかという疑問のことでしょう。専門性の確保に問題があるという意見は一見もっともですが、弁護士が紛争解決委員になるのであればあまり変わらない気もします。業務改善の実効性の確保に問題があるとは、あっせん案に従わない行儀の悪い業者がいたらどうするんだということでしょうか。
 
預金、保険、金融商品、貸金等の金融分野ごとに別個の金融ADR機関が成立しうるとする案もありました。これは、投資商品について包括的横断的な規制を設けた金商法の理念に近いものでしょう。しかし、銀行窓販の投資信託・保険など、製販が分離している場合に、苦情・紛争の振り分けが難しいという反対が出て、実現しませんでした。もっとも、実現した業態ごとの金融ADR機関といっても、銀行法上の金融ADR機関は、銀行のなしうるすべての業務(本業、付随業務、兼業業務)をカバーしなければならないとしているので、投資信託や保険についてどうするのかという問題は残っています。この点は、販売・勧誘(売り方)に関する紛争は銀行協会で行い、解約とか保険金の支払いに関するものについては投信教会や生保協会等に業務を委託するそうです。
 
そこで結局、業態ごとにADR機関を設置できるように各業法が改正されました。業態ごととは、業法ごとよりも狭い一定の業務の種別ごとという意味のようです。上述のように銀行法上は一種類の金融ADR機関しかありませんが、金融商品取引法は紛争解決等業務に6種類の種別を、保険業法は8種類の種別を定めていて、申請者は種別ごとに指定紛争解決機関の指定を受けることができます。金商法には登録金融機関業務という種別があり、現在、証券・金融先物関係の紛争解決あっせん業務を行っているFINMACは、第一種業についてのみ金融ADR機関の指定を受ける予定であるため、しばらくは登録金融機関業務について金融ADR機関がないという状態が続くようです。
 
なにをもって業態というのかは、なかなか難しいですね。法律はできるだけ実態を反映した業務の種別を定めているようなのですが、金融の素人には、金融機関が仲間だと評価できる業種が同じ業態と捉えられているように思えます。それによると、要するに銀行は一つの業態だけれど、損保と生保は同じ業態ではなく、金商業者については第一種業者は、第二種業者を同じ業態とは考えていないことが分かります。
 
報告で私は、金融の各分野の専門性を考えると包括的横断的なADR機関は必ずしも望ましくないが、他方で、同じタイプの紛争についてはできるだけ同じ解決方法が取られるべきだから、取引の種類ごとに横断的な金融ADRを設置すべきではないかと言いました。そして、例として、①金融商品の販売・勧誘に関するもの、②投資運用に関するもの、③与信・融資に関するもの、④資金決済に関するもの、⑤保険金支払いに関するものといった区分けができるのではないかと言いました。このうち①は、②③⑤と同時に紛争が生じることがありますから、やはり振り分けはなかなか難しいですね。この分類には、一つ強烈な皮肉が込められているのが分かりますか?
 
③は、融資と貸金は同じようなものだから、銀行と貸金業者は一緒に金融ADRをやったらどうですかというメッセージを含意しているのです。個人的には、貸金業の分野でADR機関が設立されるかどうかに注目しています。
金融商品取引業者の書面交付義務などが免除される見返りとして、特定投資家に対してどのような特典を与えることができるかについて、法は規定していません。この点を少し考えてみましょう。

まず、各種の書面交付や説明義務が免除されるため、特定投資家に係る勧誘費用が節約されることから、その見返りとして、特定投資家と一般投資家との間に手数料体系に差を設けることは、正当化されるでしょう。また、アナリストレポート等の無償提供など、一般投資家に対しては与えられない付加的なサービスを特定投資家に対して与えることも許容されると思います。

一定の商品について特定投資家に限定して販売することが認められるでしょうか。その商品が適格機関投資家向け勧誘により私募発行されたものであれば、そもそも、適格機関投資家に対してのみ販売することが求められますし、プロ向け市場の有価証券も特定投資家に取引させるために発行されるものです。このような適格機関投資家向け商品や特定投資家向商品以外の一定の商品を特定投資家に限定して販売することも、当該商品の仕組みが複雑でリスクが高いため、特定投資家以外の投資家には一般的に適していないと認められる場合には、正当化されると考えます。

これに対して、一般投資家も適合性を有する商品を、特定投資家に優先的に販売することは許されるでしょうか。どの商品を誰に販売するかは金融商品取引業者の自由であって、法令に違反しないかぎり許されると考えれば、特定投資家への優先販売は、それが特別利益の提供に当たらないかぎり許されるでしょう。しかし、特定投資家制度の趣旨から考えると、特別の保護の要否を知識・経験・財産の状況・投資目的を基準として判断するという考え方とは無関係の基準で、特定投資家と一般投資家とを差別的に扱うことは、金融商品取引業者の誠実義務(36条)違反に該当するとみるべきではないでしょうか。
特定投資家に対して適用が除外される諸規定(つづき)

適合性の原則(40条1号)を適用除外とすべきか否かについては、金融審議会で議論が分かれていましたが、結局、特定投資家に対する関係で適用されないものとされました。適合性の原則のような一般原則の適用に差を設けると、誠実義務(36条)が特定投資家にも適用されることと整合的でなくなることが気になります。また、仮に適合性の原則を特定投資家に適用しても、ある商品を特定投資家に勧誘すること自体が適合性の原則に反する場合はほとんどないと予想されるから、実際上の不都合は生じないと思われます。

特定投資家に対する勧誘行為に適合性の原則が適用されない結果、適合性の原則に反すると認められる勧誘が行われていても、内閣総理大臣は業者に対して業務改善命令等を発することはできません。しかし、民事責任との関係では、適合性の原則に著しく違反する勧誘が不法行為法上違法となるとする最判平成17年に変更はなく、特定投資家に対する勧誘から金融商品取引業者に不法行為責任が生じることもあると解すべきでしょう。たしかに、上で述べたように、特定投資家に適合しない商品はまず考えられませんが(上記最判は、法人顧客はオプションの売り取引に適合性を有すると判断しています)、過当取引は誰にとっても適合しない取引態様といえるでしょうから、(何をもって過当取引と認定するかは難しい問題ですが)過当取引は特定投資家にとっても不法行為に当たり得るといえるでしょう。

平成18年改正法に基づく政令制定の過程では、特定投資家は、金融商品取引法の説明義務が除外される「特定顧客」に該当しないとする方針が採られていました。その理由としては、民事上のルールである説明義務の適用範囲については、画一的であることが望ましいからと説明されていました。しかし、最終的には、特定投資家は特定顧客に当たり説明義務の対象から除外されました(金販法3条7項、金販令10条)。

これは、契約締結前書面の交付の際に金融商品取引業者が適合性の原則に沿った説明をする義務を課せられたこと(金商業府令117条)により、金融商品販売法上の説明義務と同等の説明義務が金融商品取引法上も課せられたことを考慮すると、妥当な判断だろうと思います。特定投資家に対しては契約締結前書面が交付されず、交付に伴う説明もなされないのに、これと実質的に同内容の金融商品販売法上の説明義務が残るとすると、特定投資家相手の取引のコストを削減できないからです。

また、狭義の適合性原則を定める金商法40条1号を特定投資家に適用せずに、広義の適合性原則を定める金販法3条2項を適用することは、矛盾するとはいえないが、前に述べたように両者に重なる部分がある以上、やはり不都合が生じます。これを解消するためには、金販法3条を特定投資家に適用しないようにする必要があるといえるでしょう。

金販法上の説明義務が特定投資家に適用されない結果、その義務違反に基づく業者の無過失損害賠償責任規定(5条)及び損害額の推定規定(6条)も特定投資家には適用されません。ただし、私法上の説明義務違反による損害賠償責任が生じうることは、否定できません。

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