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「ひるぜんリザーブ」で初めて開花したユウスゲは、夜の闇の中で美しいレモンイエローの花から芳香を放っていたが、翌朝5時過ぎにはもうその花を閉じていた。 夕方から開き始めて美しい姿を見せたユウスゲ ユウスゲは、ユリ科ワスレグサ属の植物で、同属には、ニッコウキスゲやノカンゾウ、ヤブカンゾウ、ハマカンゾウ、エゾゼンテイカなどがある。 この中で夜咲性の花はユウスゲだけである。ユウスゲだけがどうして夕刻に開花して翌朝には閉花する形質を持つようになったのだろうか。 この謎を解いてみたいと少し調べてみた。 野口 順子氏の「ワスレグサ属植物の進化プロセスと適応進化」によると、ユウスゲと同じワスレグサ属のニッコウキスゲの祖先は、日本海が形成されはじめた約 2500万年前には、既に存在しており、その後、日本海の発達や日本列島における造山運動によって、ニッコウキスゲ集団は、大陸と日本列島に分離し、さらに、日本列島の高山と低地とに細分化されてきたという。 その中の一種がユウスゲに進化したということのようだ。 * 参考資料 URL 「ワスレグサ属植物の進化プロセスと適応進化」 野口 順子 http://www.nihonkaigaku.org/08f/i080401/t1.pdf この論文によると、ワスレグサ植物の開花習性(花の寿命)には、以下の4種のタイプがあるという。 1.朝開花して翌朝閉じる朝方一日花…ニッコウキスゲ 2.夕方開花して翌夕閉じる夜型一日花…エゾキスゲ 3.朝開花して夕方閉じる昼先性花…ハマカンゾウ、ノカンゾウ、ヤブカンゾウ 4.夕方開花して翌朝に閉じる夜咲性花…ユウスゲ さらにユウスゲの葉緑体DNAの塩基配列解析によると、ユウスゲには少なくとも3つの系列からなることがわかっていて、その3つの系列には、それぞれ夕方開花する1日花種と夜咲性の種の両方が含まれるという。1つの系列は、進化が起こった1つの単位と考えられるので、夕方開花1日花種から夜咲性種への進化(あるいはその逆の進化)が、3つの系列で平行的に起こったことを示唆しており、この夜咲性の進化には、地史的な温度変化が関与しているという。 夜の闇の中で鮮やかなレモンイエローの花から芳香を放つユウスゲ 花の開花習性(花の寿命)は、花粉の授受による利得と花の維持コストとのバランスによって決まる。 花粉の授受による利得とは、花が開いている時間が長いほど花粉の受け渡し回数は増加し、それによって受粉、受精が進み、種子をつけることができるので、植物個体にとっては益となることを言う。 また、花の維持コストとは、花が開いているときに行う呼吸、蒸散、蜜分泌のために必要なコストをさす。 気温が上昇すると、花の呼吸と蒸散量は上昇するため、維持コストは大きくなる。 この場合、1日中開いている花より夜のみに開花する花のほうが、花の維持コストが小さくてすみ、夜に訪花昆虫によって受粉されるという条件が満たされれば、1日中開いている1日花より、夜のみ開く夜咲性の花のほうが気温の高い条件下では有利となる。ここに、開花習性に自然淘汰が作用する状況が存在する。 そして、その開花習性の進化には、花に受粉する訪花昆虫の変化が伴なうと推測できる。 要するに、植物たちは、生育地域の環境変化に適応しながら、いかに効率よく子孫を残し、分布域を拡大してゆくかという観点から訪花昆虫の助けを得ながら進化を続け、その結果としてユウスゲが現在の形質を持つようになったと言うことである。 ちなみに昼咲き種のハマカンゾウは、匂いのない赤い花をつけ、アゲハチョウ類やハナバチ類に送粉され、また夜咲き種のユウスゲは、匂いのある黄色の花をつけ、スズメガ類に送粉される。 それぞれの植物の持っている特別な形質というのは、気の遠くなるような歳月とその進化を可能なものにする訪花昆虫の存在があって、初めてでき上がるものなのだ。 翌朝5時過ぎにはもう花を閉じていたユウスゲ 人類の歴史は高々500万年である。 半日くらいで閉花した一輪のユウスゲの花を眺めながら、この花が2500万年以上もの歳月をかけて、種の存続のために進化してきた彼らの悠久の歴史にしばし想いを馳せた。 「ひるぜんリザーブ」の素敵な仲間 「ユウスゲ」。
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2009年08月10日
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