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18 いきなりTシャツを脱いだガンダさんに衝撃!
「いよいよ決戦の日が来た。俺はマサイ族に伝わる牛の血と牛乳を混ぜ合わせて作ったガラバッシュという活力ドリンクを飲み干し。ムーマに、「幸運を祈る」と激励を受けて出発したんだ」
その時を彷彿させるガンダさんの目がらんらんと輝き、同時に僕の心臓はドクン、ドクンと音を上げた。
「雨季が間近に迫っている季節だったが、赤道直下の気温はかなり高い。ライオンは日中木陰で寝ているから、涼しくなって活動をはじめる夕方に行われたんだ。マサイ族の衣装である赤い原色の布を肩からまとった俺は、二人の若者に帯同されて部落を出たんだ。そして、キリンやシマウマ、グランドガゼルたちが草をはぐくんでいるサバンナを1時間ほど歩いた。すると視力が鷹のように鋭い彼らは、遠くにいるライオンの群れを見つけて立ち止まったんだ」
僕の心臓の音はますます高まっていった。
「彼らの視力は本当にたいしたものだ。俺にはまったく見えていなかったんだが、人間の匂いを嗅ぎ付かれないように風下へまわり、そっと近づいていったんだ」
僕はハラハラしながらも、この先の話が待ち遠しくてならない。
「そうだな、100メートルほどまで近づいた時。やっと俺にも確認できたんだが、気配を感じ取ったボスライオンは辺りを見回しはじめたんだ。群れの中には子供ライオンもいたんだが、そのような群れは特に怖い。子供を守ろうとするボスライオンがむっくりと起き上がって、俺たちに威嚇の唸り声を発したよ。地を揺るがすような凄い響きだった」
僕はテレビで見たことのある広大なサバンナと、ライオンが草食動物を襲う残酷なシーンを思い出していた。
「同道した二人のマサイ族は、キリマンジャロ山の頂上からアフリカの大地を見守るンガイという伝説の神にひれ伏し、祈りを捧げたんだ。そして、「行け!」という合図で、俺は左手に盾を持ち、右手に槍を構えてゆっくりと近づいて行ったんだ。するとボスライオンも俺に牙をむき出し、一歩一歩距離を詰めてきたんだ」
「ボスライオンは大きいんでしょう?」
「ああ、ビクトリア湖周辺のライオンを、彼らはシンバと呼んでおり大型が揃っている。俺と向き合った奴もかなり大きく、体長は3メートル、体重も300キロは越していたと思う」
「デカッ!」
「立会人でもある二人の若者は、風下の草むらに身を隠してじっと目を凝らしていた。俺は歩幅を小さく進め、ライオンとの距離が7、8メートルまで近づいて足を止めた。すると。奴は身を低くして戦闘態勢を見せたんだ。俺も、らんらんと光る奴の目から視線を外さず身構えたよ」
僕は唾を飲み込もうとしたが、咽が引っ付いていて息苦しいほどだった。
「一瞬、奴の目が炎のように燃え上がったんだ。「来る!」と感じて俺の心臓が大きく波を打った。と同時に、奴は一気に走り出して飛び掛って来たよ」
咽がカラカラの僕はペットボトルを手にしたが指先が震えて、上手くキャップを開けることができないほどだった。
「俺は、飛び掛ってくる奴の咽元を目掛けて槍を突き出したんだが、作戦は失敗。切っ先が届く前に、軽く打ち払われて根元から折れてしまったんだ。ライオンの一撃は牛の首も叩き折ってしまうといわれているとおり、とにかくもの凄い力だった」
「ヤバッ! それで?」
「無我夢中だったが、奴は俺の身体に覆いかぶさり、気がつくと肩から胸に掛けて強烈な痛みが走っていたんだ」
ガンダさんは一息ついてから水を一口ゴクンと飲み、突然にジャージーの上着とその下のTシャツ脱いだ。
「あっ!」
僕は身震いする衝撃を受けて息を飲んだ。何とガンダさんの肩から胸にかけて、鋭利なナイフで切られたような4本もの爪痕がくっきりと残っていたのだ。
「俺は仰向けに倒され、爪を立てられた肩や胸からは鮮血が噴き出していたよ。夢中で腰の小太刀を抜いたんだが、目の前に奴の吐く息と短剣のような牙が迫っていた。かなり危ない状況だったが、必死で喉元を押さえていたその瞬間」
ガンダさんは目の前にいて話をしているのだから、咬み殺されはしなかったと分かってはいても、それからどうなったのか気が気ではなかった。
「俺は絶体絶命のピンチに追い込まれ、死も覚悟したんだが天運が見方をしてくれたよ」
ライオンに押さえつけられては、あの大きな水牛ですらどうにもならずに食べられてしまった映像を見たことがある。たとえ天運が味方したといっても何のことか分からず、ガンダさんの目をじっと見つめた。
「雨季が迫っていたため、夕方からモクモクとわいてきた真っ黒い雲から突然の稲光が走り、耳をつんざく落雷がドドドーンと轟いてサバンナの大地を揺るがしたんだよ。その瞬間、俺を押さえていたライオンの力が緩み、天を見上げて大きく吠えたんだ。すると信じられねえことに、下敷きに押さえつけている俺の傍から離れて、群れのところへ戻って行ったんだ」
ガンダさんの言うとおり天運が味方した結末だったが、僕はホッとして胸を撫で下ろした。ガンダさんは首を傾げてその時の傷痕を見ると、そっと指を這わせた。
「この爪痕からはおびただしい出血がしていて、えぐり取られた肉の下には骨が見えていた。俺は意識を失いそうになったが、一段と激しくなった雷鳴に気を取り戻した。降り出した大粒の雨は流れ落ちる滝のように叩きつけ中、二人の若者に抱えられて部落へ戻ったんだ。それから1週間は熱にうなされて死線をさまよったよ。つまりライオンの爪から体中にばい菌が回ってしまったんだ」
「病院へ行ったんでしょう?」
「いや、病院は600キロ以上も離れているナイロビという町にしかねえ。そこまで行ってたんじゃ俺の命が持たねえんでな。部族のシャーマンが薬草を使ったり、キリマンジャロ山のンガイ神に祈ったりしてくたんだ」
「シャーマンって占い師でしょう?」
「そう、神から特別の能力を与えられた呪術師だ。それから傷が治るまでの1ヶ月以上、俺は彼らの小屋に寝かせてもらい、随分と世話になって命を救ってもらったんだ」
「凄い! 凄すぎる」
つづく
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