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19 少しだけ勇気が湧いたのに、まだ弱気の虫に勝てない
その夜ベッドへ横になってからもこれまで以上の興奮が冷めやらず、なかなか寝付くことができなかった。
ガンダさんの凄すぎる話が次々と蘇えってくる。ライオンに爪を立てられたという傷痕を思い出すと、あの時の衝撃で今も鳥肌が立つ。
―― 蘇えった恐竜ポリネシアン・ザウルスやアンデスの大魔神マルディシオン・コロンビアーナとの戦いだって、僕には考えられない緊張の連続だったのに、今日の話はそれ以上の恐怖だった。でも、ガンダさんは言っていた。「もし、あの場の恐怖から逃げてしまったら、マサイ族から臆病者の烙印を押されて笑い者になっただろう。その後に彼らは忘れてしまっても、俺自身は一生忘れられない心の重荷を背負って生きることになる。だから、男というものは命を掛けてでもプライドを守らなければならない」と。
僕はベッドから身を起こし、机の脇に長いこと放置されたままになっている通学用ボストンバッグに目を向けた。
―― このまま不登校を続けていたら、僕だって一生忘れられない心の重荷を背負って生きることになるかもしれない。それどこころか永久に友達とは顔を合わせられない、負け犬のまま終わってしまう。
―― あのガンダさんだって、恐怖と戦いながらプライドを守ってきたのだから、僕も勇気を振り絞って学校へ戻らなければ。
そう考えた時、僕の手は無意識に携帯電話へ伸びていた。そして、何度もメールや電話をくれた蜂矢秀介の番号を震える指で押した。だが、呼び出し音が3回ほど鳴ったところで切ってしまったのだ。ふと僕は、彼の口からクラスの噂話を聞かされるのが怖くなってしまったからだ。
―― おそらく、みんなは僕のことを散々笑い者にした挙句、もう存在すら忘れているのかもしれない。
「くそっ!」
僕は拳骨で壁を殴りつけた。するとその時、秀介から折り返しの着メロが鳴った。思わずドキッとして、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。最初は自分から掛けたにも拘らず、話すのが不安でただ着信音を聞いていた。4回、5回、6回――。僕の電話は8回の着信音で留守電に変わるよう設定してある。
―― もうすぐ切れてしまう。
そう思ったとき、ガンダさんの声が聞こえたような気がした。
「何を怖がっているんだ。勇気をだせよ」
気がつくと自分の意思とは違う力が通話ボタンを押していた。
「もしもし、龍太郎」
懐かしい秀介の声が飛び込んできた。
「うん…」
僕はそう言ったきり、あとの言葉に詰まった。もともとおしゃべりは苦手な方だが、優しい性格の彼とだけは比較的多くの話をしてきた間柄だ。
「体調はどう?」
―― えっ? 秀介は僕が病気だと思っているのか、あるいは、弱虫の僕に気を使ってくれているのか?
「うん、大丈夫」
「そう、よかったじゃん。心配してたんだ。だからさ、早く戻ってきてよ」
「うん」
「いつ頃から学校へ来られる?」
「ん…、まだ分からないけど」
そう答えた僕に、秀介は各運動部の県大会ポスターが張り出されていることや、自分が入部したサッカー部の話などをしたあと、
「それじゃあ、待っているからね」
と言って電話を切った。
短い会話だったが久ぶりに聞いた友達の声で、心の陰りに少しだけ陽が差した気がしてきた。秀介の言葉だと、クラスのみんなも僕を忘れてはいないらしい。だが、あれだけからかわれた屈辱を、一気に跳ね返すだけの勇気はまだ湧いてはこない。
つづく
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