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24 三つの壁と対決を決意
一晩中降り続いた雨もあがり、青空の広がっている翌朝。僕の決心にもう揺るぎはなかった。
「やるしかねえ」
僕はガンダさんのせりふを真似てから、スポーツバッグに真新しい柔道着と教科書などを詰め込んだ。もちろん、大切なお守りであるNWAのスポーツタオルも入れてある。そして久々の通学路を歩いた。
―― あっ! あの連中だ。
僕はいじめ三人組みの同級生を見つけ、一瞬だけ足を止めた。眼が合うと、こっちをチラッと見ただけで何やら囁き合って先を急いで行った。
その態度に嫌な予感がした。だが自分でも驚くほど落ち着いていた。これまでの僕なら間違いなく狼狽 (うろた )えてしまったであろうが、ガンダさんのパワーが乗り移っているのだろうか。僕は正門から学校の敷地内に足を踏み入れた。
―― よし! 一つ目の壁を乗り越えたぞ。
普通の生徒にとって何のことはないだろうが、不登校生だった僕には大きな1歩である。教室に入ると蜂矢秀介が僕を見つけて走り寄ってきた。
「龍太郎」
「秀介、何度も電話くれてありがとう」
「ところでお前、また背が伸びたんじゃない?」
秀介は顔を上向きにして僕を見た。
「えっ、そうかな」
そう言いかけたが、もともと秀介よりは大きかったのだが、その差はまた開いたような気がした。190センチもあるガンダさんと一緒だったために気がつかなかったが、言われてみれば確かに伸びているような気がする。
女生徒たちが話しかけてきた。長く休んでいた引け目があるはずなのに、以前よりも気楽に接することができるのも不思議だった。
僕は、「ガンダさんはもう公園に来ているかな」と、あの大きな身体とデコボコに盛り上がった額、それに餃子のような耳を思い出していると始業時間となった。僕の机は以前と同じ最後列である。先生は僕に気を使うでもなく、授業は普通どおりに行われた。一限目は数学だったが、さすがに休んでいた分の遅れを取り戻すのは大変だと、若干の焦りを感じた。
そして午前中の3限が終わり、昼休みとなった。
僕はガンダさんと食べた時と同じおにぎりを取り出し、食べ方を真似てガブリとほおばった。「日本人は米のメシを食わなきゃ力が出ねえぞ」外国に10年以上もいたというのに、ガンダさんは日本人の精神を持ち続けている。
昼食を早々に終えて校庭へ飛び出していく生徒もいたが、僕は秀介らと教室に残って話をしていた。と、その時。通学路で目を合わせた三人組が、教壇に立って大きな笑い声を上げたのだ。何気なく目を向けると黒板に落書きしていた。あの時と同じ柔道着姿の僕が泣いている絵だった。体格のいツッパリと二人の茶髪がまた笑った。僕が見つめていると、誰かが背中を押した気がした。
―― ガンダさんだ!
僕は、心の中で「やるしかねえ!」と声を上げ、ゆっくりと席を立って教壇まで進み出た。秀介が、
「龍太郎!」
と声を上げたのは、これまでの僕ならただ黙ってうつむいていたのを知っているからである。他の生徒たちも、おしゃべりを止めてじっと見ていた。
不登校の原因を作った三人は、まだ僕を甘く見ているのかニヤニヤと笑っていた。そのうちの一人は、廊下でぶつかって来た体格のいい奴だし、僕だって怖くないわけではない。でもガンダさんが言っていた。「ポリネシアン・ザウルスやアンデスの大魔神と戦ったときは正直怖かった。だけど、俺が怖いのと同じように向うだって怖いのさ。だから尻込みした方が負けなんだ」と。
―― やるしかねえ!
教壇に上がった僕は三人を押しのけて黒板消しを手にした。
教室に居合わせた生徒たちは、思わぬ展開に顔を見合わせている。三人にとっても予想外のことだったのであろう、落書きを消す僕に驚きの表情を浮かべていた。僕はきょとんとしている茶髪から白墨を取りあげ、大きなライオンの絵を描いた。
僕はガンダさんが戦いを挑んだシンバを描いたのだが、意味なんて誰にも分かるはずがないし、分からなくていいのだ。ガンダさんに聞いた数々の話は僕だけの宝物であり、一生涯心の中にしまっておくつもりだからだ。
「何だこれ、猫か」
茶髪は口を曲げてヘラヘラと笑った。
「ハハハハ、こいつらしいぜ」
―― このまま引き下がったらいつまでも舐められてしまう。
ガンさんの教訓が頭にある僕は言い返した。
「猫だと思うのは、キミらが弱虫だからだろう」
教室内にはどよめきが起きた。まさか、このような行動に出ようとは誰も思わなかったからであろう。
「こいつに言われたくねえぜ。俺たちが弱虫だってよ。笑っちゃうよな」
そう言った体格の大きな奴は、いきなり胸を突いてきた。僕は黒板に背中を打ち付け、ちょっとだけ息が詰まった。
「柔道を逃げ出したくせに生意気な奴だ!」
そう声を荒げると、肘をかち上げるように体当たりしてきたのだ。だが、咄嗟にガンダさんの試合場面がひらめき、僕は寸前のところで身体を交わした。
ガツンと大きな音がして、黒板に頭をぶつけてしまった彼はその場にうずくまった。
「大丈夫か!」
茶髪らは心配そうに顔を覗き込んでいたが、向かってこようとはしなかった。
―― これで二つ目の壁を乗り越えた。
つづく
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