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 26 えっ! ジプシー・ガンダは僕の先輩?
 
 復帰してから休むことなく部活へ出席していた僕は、職員室脇の展示ホールであるものを目にして息を呑む驚愕を覚えた。80年もの歴史を持つ学校では、その間に行われた様々な大会の表彰状が掲げてあり、ガラスケースにはトロフィーやカップ、盾などが重なり合うように入れてある。
 最近のものでは吹奏楽コンクールやヒップホップダンス大会の入賞額。運動ではサッカーと野球、バレーボールのものがあった。顧問の大岩先生も言っていたとおり、柔道の新しいものは見当たらなかったのだが、僕の目はかなり古い額の賞状に釘づけになった。
『第八回全国中学生柔道大会個人優勝 横浜市立港西中学校三年 神田純平』日付は昭和32年となっているからかなり昔だ。
―― ガンダさんは中学生の全日本大会で優勝をしたことがあると言っていた…。本名は神田だとも言っていたが昭和32年に中学生なら、もうかなりのお爺さんだからガンダさんとは一致しない。
 それでも気になって仕方のなかった僕は、大岩先生を職員室に訪ねた。
「神田純平という当時の生徒を直接知っている先生はもう誰もいないが、この学校では伝説的な人だ。俺も先輩の先生に聞いただけなんだが、身体の大きな生徒だったそうで、本校の長い歴史の中でただ一度、全国大会で個人優勝をし、神奈川県大会の団体優勝へも貢献した人だそうだ。柔道界の新星として誰もが注目していたそうだが、高校在学中に突然起きた家庭の不幸で中退して、柔道もやめてしまったそうだよ」
「その人、それからどうしたんですか?」
「なにしろ古い話なんでな。残念ながら俺にはその後のことは分からない」
「そうですか」
「ところで、龍太郎はなぜそんなことを訊くんだい?」
「いいえ、何でもありません」
 僕はそう応えてから先生に頭を下げて職員室を出た。でも気になって仕方がない。ガンダさんから学校名を聞いてはいなかったが、中学と高校時代の話はぴったりと一致する。
―― 偶然なんだろうか?
 とにかく明日の土曜日に公園へ行き、1週間ぶりのガンダさんに会うつもりだ。
                    
 翌朝の土曜日。学校が休みなのに早く起きた僕に、母は訝しげな顔でおにぎりを作ってくれた。これまでと同じ、キャッチボールセットを荷台カゴに放り込み、自転車にまたがると猛スピードで公園へ向った。
 いつものベンチを目指して自転車を降りたが、なぜかガンダさんの姿はなかった。僕はスマホを取り出して時刻を見た。いつもよりは少し早い。ガンダさんより僕のほうが早く来てしまったんだと思い、それまでの間機械室の壁にボールを投げてつけ、待っていることにした。
 ボール痕のいっぱい付いている壁を見ていると、ガンダさんとの出会から学校復帰までの思い出が脳裏をかすめる。少し経つと、メタボのおばさんたち三人組みの姿が入り口に見えた。毎日頑張っているわりには体型がぜんぜん変わらないことに、僕は少しおかしくなった。これまでと違い、おばさんたちを観察する余裕すら出てきた僕は、何度となく振り返ってベンチを見たがガンダさんはまだ来てはいない。
僕はまたスマホを覗いた。すでに、いつも会っていた時間は過ぎている。
―― おかしいな? 
 公園にはだんだんと人の数が増えてきた。若いカップルがガンダさんのベンチへ座って、なにやら談笑していた。これまで土曜日に来たことはなかったのだが、やはり休みの日だと賑わいがかなり違う。僕の他にも壁へボールを投げはじめた小中学生が何人か寄って来た。
 おばさんたちは以前と変わりなくトラックを回って、僕とも何度か視線を合わせた。だが、1週間前に言った僕の憎まれ口にまだ憤慨しているようにも感じられる。僕はまた時刻を見た。
―― ガンダさんは場所を変えたのか?
 僕が来なかった間に他の場所へ移ったのかとも考えた。なにしろ広い公園だから、座る場所を変えてしまったら分からなくなってしまう。そう考えた僕はグローブとボールを持ったまま、園内を一回りしてみることにした。
 これまで一度も来たことのなかった遊具の設置してある場所には、小さな子供連れの夫婦らで賑わっていた。だが、その辺りのベンチにもガンダさんの姿はなかった。僕は池を囲む遊歩道やその近辺の休める場所を見て回ったが、やはり見つけることはできなかった。
 やむを得ず元の場所へ戻った。僕がボールを投げていた壁は別の中学生に取られてしまっていた。だが、もうボール投げなどはどうでもよく、ガンダさんの姿がないことで頭が一杯だった。
 昼前になっておばさんたちは帰って行った。それからも少しの間、ぽつんと立ってベンチを見ていたがついにガンダさんは現れなかった。僕は訳が分からないまま、仕方なく家へ戻った。
「どうしたの龍太郎? 落ち着きのない顔をして」
母の問いかけには応えず部屋へ上がった。何かに気を紛らせよとしても、やはりガンダさんが頭から離れない長い1日を過ごした。
翌日の日曜日も公園へ来たが、やはり姿は見当たらない。おばさんたち三人組も日曜のウオーキングは休みにしているのか、いつもの姿はなかった。好天のせいもあって、昨日以上に家族連れが多い。広場へシート敷いて食べ物を広げるピクニック気分の人たちもあちこちに見られる。
 僕は昨日と同じように園内を一回りしてみたが、やはりガンダさんの姿を見つけることはできなかった。
―― どこへ行ってしまったんだろう? 病気にでもなってしまったのか?
 その日はボール投げをする気にもなれず、早々に家へ戻った。
「行ったばかりなのにもう帰って来て、どうかしたの? それに、昨日から元気がないじゃない」
 母は心配そうにいろいろと訊いてきたが、僕は、
「公園が混んでいたから」
とだけ答え、二階へ上がった。
つづく

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