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 17 ケニアの大サバンナ野生ライオンと勝負

「さあ、メシを食ったらまた別の話をしようかな」
「やった!」
 今日のキャッチボール中は何度も母の沈んだ顔を思い浮かべ、その他にもいろいろなことが頭をよぎって何回ものミスをしてしまった。だが、ガンダさんの話を聞けると思うと嫌なことのすべてが消えさり思わず声を上げてしまった。
「ハッハッハ、の話。面白いか?」
「チョー面白い
 ガンダさんも嬉しそうに目を細めた。は同時に包みを開き、お互いの海苔巻きおにぎりを見詰め合ってニコッと笑った。
「龍太郎、一個ずつ交換して食おうか?」
 僕もガンダさんのおにぎりを食べてみたいつも思っており、大きくうなずいて母の握った2個のうちの1個を差し出した。ガンダさんは受け取ったおにぎりを眺めまわしてから、がぶりと一口ほおばった。
「おっ、鮭だ。やっぱり自分で握ったものよりめえな」
「ガンダさんは自分で作るの?」
「ああ、そうだよ」
 僕は思わず、「奥さんは?」と訊こうとして口をつぐんだ。先ほど家の場所を訊いたのと同じように、なぜか悪いような気がしたからだ。ガンダさんが僕のことを詮索しないのだから、僕もガンダさんの家庭のことを聞くのは止めにしたほうがいいと思うようにした。それに、この人はすべてが謎に包まれている方が似合う、そのほうがカッコいいと考えたからでもある
 僕がガンダさんの大きな梅干おにぎりをやっと食べ終えたときもうガンダさんは3個目に手を伸ばしていた
「さて、今日は誰と戦ったときの話をしようかな」
 ガンダさんは水を一口飲んでから、興味津々としている僕の顔を覗き込んだ
「そうだ。今日はレスラーじゃなく、ライオンと戦ったときの話をしよう」
「ラ、ライオンって…。猛獣のライオン?」
「そう、百獣の王といわれる、あのライオンだ」
 ガンダさんは、当たり前だと言わんばかりの涼しい顔をしていた。僕は今まで聞いたポリネシアン・ザウルスやマルディシオン・コロンビアーナの話以上に驚き、思わず、
「嘘っ、マジで!」
叫んでしまった
「あの体験は野生動物保護法が制定された1,974年よりも前のことだったはある男と戦いたくて赤道直下の国ケニアへ行ったんだ日本の琵琶湖の100倍もあり、世界で3番目に大きなビクトリア湖周辺の大サバンナに住むマサイ族の戦士に、アフリカで最も勇猛な男がいると聞き挑戦したくなったんだよ」
えっ? それでライオンと戦ったというのはどうして?」
「ああ、マサイのその男というのはな。ヨーロッパやアメリカにも勇名を轟かせ、グレート・アフリカン・ムーマいう名前で呼ばれている戦士なんだ」
「グレート・アフリカン
 僕にはマサイの戦士がどのような人間なのか想像もできず、ただ名前を口ずさんだ。
褐色の肌は黒ダイヤのように輝き、長は2メールくらいで手足のやたら長い筋肉隆々とした若者だった。世界中の格闘家の誰もが、ムーマを倒した者こそ最強だと噂していたんだよ
「マサイ族の酋長なの?」
いや、酋長の護衛を務める男だ。ムーマはな、これまでに4頭ものライオンと戦い、倒した証にその牙を首飾りにしている。奴は、「と戦って勝った者には、王者の象徴である首飾りをやる」と豪語しており、これまでにも何人かの格闘家が挑戦したんだが、まずムーマと戦う前に、ある条件をクリアしなければならない
「その条件って先にライオンを倒すこと?」
「そう、そのとおりだ。龍太郎も勘がよくなってきたな。それに積極的に話をするようになっじゃねえか。ついこの間まではおどおどしていたのにな」
 言われるとおり、僕自身もガンダさんに会ってから少しずつ気持が前向きに変わったように思える。
「でもガンダさん。人間がライオンと戦うなんては信じられない
「そうだよな」
 当時を回想するかの表情を見せたガンダさんは少しだけ話の間をおき、広場の中央を見つめた。その視線の先には、飼い主の投げるフリスビーを追いかけ、何度も飛びついていく犬の姿があった
マサイ族はな。狩猟をしながら牛や羊を飼い遊牧の民として暮らしているんだ。だが男たちは他の部族や猛獣の襲撃から女や子供、それに財産である家畜を守らなければならない義務がある
「強くないと生きてはいかれないんだね
「そうだよ。だから、百獣の王ライオンと戦って勝った者が真の勇者だという古くからの伝統がんだ。彼らは実に勇敢な民族で、勇者を目指す者儀式としてライオンと勝負するときには1対1の差しで戦うんだ。実際に戦いを挑んだ者は何人もいたが、アフリカが暗黒大陸といわれていから勝てたは極めて少ない」
「暗黒大陸?」
「そうだ。ヨーロッパの探検隊がはじめて足を踏み入れた100数10年年前までのアフリカ内陸部はほとんど知られておらず文明から取り残された世界だったんで謎の暗黒大陸と呼ばれていたんだ
「ふーん」
つまり血に飢えた猛獣たちの野生世界で、ライオンは食物連鎖の頂点に立つ百獣の王というわけだ
だから百獣の王を倒した者が、真の勇者なんだね
そのとおりだ。誇り高きマサイ族の中でもムーマもっとも多くのライオンを倒している伝説の男だった。マサイ族の誰からも崇拝され、代々続く勇者の称号であるグレート・アフリカンの名前と、歴代の勇者が倒したライオンの牙を受け継いでいる。首飾りについている牙は、ムーマが倒した頭を加えて頭分だそうだが、がライオンに勝てばその分をくわえた10頭分の首飾りになる
「ライオンを倒した後、ムーマと戦うことになるんでしょう?」
「ああ。がライオンを倒し、ムーマと戦って勝ったなら歴代の勇者に伝わる首飾りとグレート・アフリカンの称号を継承できるんだ。言わばチャンピオンベルトのようなものだな
「チャンピオンベルト、凄げーっ
「だが、が首飾りを手にしてグレート・アフリカンの称号を得には、必ず次の強敵が戦いを挑んでくる」
でも、何のためにライオンと戦ったりムーマに挑戦したり、そんなろしいことをするの? 僕にはとても理解できないけど」
 これまで以上に興奮している僕の言葉はかなり上ずっていた。小学生のとき、家族で行った動物園の檻の中のライオンも、大きくて見るからに強そうだった。檻の手前まで寄って一頭が鋭い牙をむき出し、「オーッ」と吠えたときには腰が抜けそうになったのを覚えている。あのろしいライオンと戦うなんて正気の沙汰ではないと寒気すら感じた
「何のために…。そうだな。つは男の誇りで、二つ目は金のためだ。もしが、グレート・アフリカン・ムーマを倒したとなるとアメリカのプロレス界でも大評判になる。そうなればの試合を観に来る客も増え、試合のギャラは何倍にも跳ね上がるってわけだ。プロレスラーの評価は金をいかに多く稼ぐかで決まるからな。プロレスラーを志したかぎりは大金持ちになって、日本へ錦を飾りたかったからよ
「でも、ライオンと戦うなんて
そう、龍太郎の考えているとおり、だって逃げ出したくなるほど怖かったさ。なにしろ何人もの格闘家がライオンに噛み殺されたり大怪我をしたりして、誰一人としてムーマと戦う条件を乗り越えた者はいないんだからな。だけどな龍太郎。一度挑戦したが、もし怖くなって逃げ出したとしたらどうなると思う
 僕は答えに困り、黙ったままガンダさんの真剣な眼差しを見ていた。
「もし逃げたら、「臆病者」とマサイ族の笑い者にされていたよ。だが、そんなものは一時的なものですぐに忘れられてしまう。つまり、人の噂も75日というやつだ。だがな、マサイ族の連中は忘れても、自身は一生忘れらない心の重荷を背負ってしまうことになるんだ。だから男は、命を掛けてでもプライドを守らなきゃねえもあるのさ」
 僕はガンダさんと父の言った言葉をふと重ね合わせた
プロレスラーとして各国を転戦してきたんだからグレート・アフリカン・ムーマを倒して世界最強の証である首飾りが欲しくなったんだ。そうすれば大威張りでアメリカのプロレス界へ凱旋できる。だからは、決死の覚悟でライオンと戦うことにしたのさ」
「ライオンと、どうやって戦うの?」
「まさか素手で戦うというわけにはいかねえ。なにしろライオンは鋭い爪と強力な牙という武器を持っているんだからな。だから人間もそれに対応する槍と小太刀、それに盾を持って戦うんだ
「檻の中で?」
「いや。サバンナにいる野生のライオンだ」
 ガンダさんはペットボトルの水を口に含み、大きく天を仰いだ。
                                       つづく


 16 なんの詮索もしないガンダさんの

 が一帰国て再び上海へ戻って行ってからの母は、以前のように学校のことでガミガミ言うことはなくなった。だが、表情のさに変りはなく、早く壁を乗り越えて復学すのを待っているのが分かる。だから僕は以前にも増して母と顔を合わせるのが辛くなってきていた
 長く休めば休むほど、勉強がどんどん遅れていってしまうことは誰に言われなくとも分かっている。このままだと高校へ行かれなくなってしまうどころか、本当の負け犬になってしまう。早く学校へ戻らなければと焦る気持はあっても、また意地悪をされることを想像するとつい弱気の虫が頭を持ち上げてしまい、どうしても前向きな一歩が踏み出せないでいる
 僕は心の中にモヤモヤと渦巻いている黒い払い切れないまま今日もまた岸根公園へ向かった。
僕の心とは反対に5月晴れが続いている。公園内の樹木も鮮やかな新緑に被われ、花壇の花々も色とりどりに咲き乱れている自転車をた僕はガンダさんの前へ走って、こっちから挨拶ができるほど親しみを感じるようになっていた
「よう」
 ガンダさんは待っていたかのように片手を上げてから新聞を畳み
「さあやるか」
と、いつもの笑顔でボールを投げる仕草をした。とその時、僕はふと思った。
―― ガンダさんとパパはそう変わらない年齢だと思うから、もしかして僕と同年代の子供がいるのだろか いるとすれば、もちろん学校へ行っているはず。僕が不登校生だと知っているのになぜそのことには触れないのだろう?
 おばさんたちのお節介から思わぬ形で知り合いになったが、これまでは外国でプロレスをしてきた話しか聞いていない大事故で片を失った時のショックを思うと察するに余りあるが、その失意はおくびにも出さない。それどころか悪役を貫きとおした信念と、人間的な優しさは十分に感じられる。だが、私生活はまったく分からない謎の人物である。 
 僕はおにぎりの入ったビニール袋をベンチの端の置き、グローブをはめながら気になっていたことのひとつを思い切って訊ねた
「あのー。ガンダさんの家はこの近くなの?」
の家?」
と、一瞬怪訝そう表情を見せたがすぐ笑顔に戻し
ハッハッハ、流れ者のジプシー・ガンダ
と白い歯を見せた。
「それよりも、早くポジションにつけよ」
 僕はなんだか悪いことを訊いてしまった気がして、
「すいません」
と小さく頭を下げてからマウンドの位置へ走った。僕の投球は最初のころより速めになっているのに、相変わらず平気な顔をしている。
「ストライク! いい球だ」
 ガンダさんは目を細めて投げ返してよこした。だが僕の内心は先ほどはぐらかされてしまった家の場所や家族のことがまだ気になっている。
―― 外国で交通事故に遭い、片脚を切断する大怪我でプロレスができなくなったとしか聞いてはいないのだが、どうして毎日公園へ来ているのだろうか。
 おばさんたちが軽い息を弾ませてとおり過ぎて行った
 学校や柔道部のこと両親の心配、それにガンダさんのことなどが交互に頭をよぎり、今日はいつも以上に心が乱れている。ガンダさんの返球何度も受けそこないその度に拾いに走った。ボールの転がっていった広場の中ほどでは犬を連れている人同士が立ち話をしており、吠え立てられた鳩の群れが一斉に羽音を上げて舞い上がった。
 何球目かのボールを投げたときだった。やはり気が入っていなかったのだろうか、指が滑って暴投をしてしまったのであるガンダさんは大きく手を伸ばしたがキャッチする事ができずに、広場の中から転がり出て行ってしまった
「すいません」
 本当に今日はミスが多い。僕はぴょこんと頭を下げ、すぐにボールを追いかけトラックに出たときだった。偶然にも例のおばさんたち回ってたのだ。そして何を思ったのかトラックを転がって草むらに入ったボールを拾いに行っのである
あれ?
 ガンダさんが「余計なお節介は焼かずに、黙って歩いていなさい」と言った例の一件以来はまったく無視を決め込んでいたおばさんたちである。あっけに取られた僕は足を止めてその様子をじっと見ていた。
 おばさんは拾い上げたボールをすぐに投げ返してくれるわけでもなく、なにやら意味のありそうな顔つきをしていた。やむなく僕はゆっくりと近づいて手を差し出した。すると一番太ったおばさんがガンダさんの背中にチラッと目を向け、口元に手をあてがってから声で話しかけてきた
「あの大きな人、誰なの?」
 あれ以来僕と仲良くしているのが気になっていたのであろう
「凄い人だよ」
 いきなりの問いかけに、僕は咄嗟にそう答えた。
「なにが凄いの?」
 そう返されても、ガンダさんプロレスラーだったことも、外国で多くの強敵と戦ってきた話も、交通事故で片脚をなくしたことも、なぜか僕だけが知る秘密にしまっておきたくて、とても教える気にはなれずにそう答えたのだ
「何よあなた。ニヤニヤ笑ったりして。変な子ね」
おばさんたち言っても分からないと思うよ」
「なぜ分からないの?」
「なぜでもだからお腹が引っ込むようもっと頑張れば
「まあ! あなたずいぶん憎まれ口をきくようになったわね
「きっと、あの人のせいだわ」
 中の一人がガンダさんの背中をキッと睨んだ
「あなたね、あんな怖そうな人と仲良くしていたら悪い子になっちゃうわよ。だから早く学校へ行きなさい」
「まったくだわ。毎日遊んでばっかりいる子が、お腹を引っ込めるようになんてよくも言えるわ
 おばさんたちは僕の言葉がよほど腹立たしかったのか、三人とも目をきつくして言いたい放題なことを口にした。
拾ってあげたのにお礼も言えないなんて、あなた最悪ね」
「まったくだわ。あれ以来すっかり生意気になって」
 眉を逆立て、ボールを突き返してよこしたがおばさんたちのうとおりだ振り返って見ればこれまでの僕にはとても考えられない反発であり自分自身でもよく言えたものだと驚いている
 ボールを返してもらい元のポジションに立つと、ガンダさんはニヤニヤと笑っていた。多分おばさんたちとの短いやり取りが聞こえていたのであろう
 僕らは飽きもせずに黙々とキャッチボールを続けたが、やはりいつもよりコントロールが悪く、ガンダさんは上半身を左右に大きく動かしたり、腕を高く伸ばしたりして、ぎりぎりのキャッチをしていた
 晴天続きの今日も空は抜けるように青く、真上に来た太陽は僕の野球帽に照りつけていた。
10周を歩き終えたおばさんたちが憮然とした表情を投げかけて公園を出て行った。いつもながら正確な時間の予定終了である。それから少しして、ガンダさんも時計を覗いた。
メシの時間だ」
 僕はベンチへ戻り、グローブを外してボールとともに置いた。
「龍太郎よ、自分でも気が付いていると思うが、今日はコントロールが今一だったな。何事もそうだが、雑念にとらわれていると上手くできねえ。たとえキャッチボールといえども、集中力に欠けてはだめだ」
 僕がいろいろなことを考え、時には上の空で投げていたのをガンダさんは見抜いていたようである。
「まあ今日は別にして最初の頃に比べれば投球も型にはまってきたよな。の筋肉が強くなってきたんだと思うが、何のスポーツでも、繰り返し練習していけば、少しずつ上達していくもんだよ」
 ガンダさんは知らないはずなのに、柔道が原因で不登校になったこと見透かされているような気がしてドキッとした。でも、そ知らぬ顔をしていつものとおり手洗い場に走った僕はガンダさんから受け取ったタオルを濡らした。
「あれ?」
 僕が首をかしげたのは、これまでのものとは違うスポーツタオルだったからだ白地のタオルには『NWA』と黒糸刺繍されており、二人のレスラー首に手をまわして組み合っているイラストがプリントしてあった。
僕はタオルを絞り、ガンダさんの傍へった。
「ガンダさん、このタオルカッコいいね」
「おお、これか」
 そう言ったガンダさんはを拭く前にタオルを広げて見せた。
「NWAと言うのはな、ナショナル・レスリング・アライアンス、つまり国際レスリング連合の略だ。がアメリカにいた時代には、鉄人の異名を持つルー・テーズという偉大な世界チャンピオンのいたプロレス界最大の組織だったんだ。もちろんはNWAでも試合はしたが、元来一箇所に縛られるのが嫌いな性格だから、フリーとして各国を転戦して回ったのさ
「ジプシーだもんね
ハッハッハ、そういうことだが、龍太郎も最初の頃と比べてずいぶん明るくなったな
 僕は照れ笑いを浮かべたが、ガンダさんのことを知れば知るほど、一般人とはあまりにもかけ離れた凄い体験をしてきた人だとつくづく羨ましく感じられる
                                       つづく

 15 激憤する観客の大暴動命からがらメキシコを脱出
 
まずが先にコールされ、大観衆のブーイングを一身に浴びてリングへ上がったんだ。その後に奴がコールされると耳をつんざく大歓声が巻き起こったよ。そして、いよいよ大魔神が姿を現すと、場内に異様などよめきが渦を巻いたんだ。もかなり驚いたんだが、なんと奴は丸太を担いでいたんだよ
「丸太?」
 僕はおにぎりを口へ運ぶのも忘れ、知らぬ間にきつく握っていた。
「奴が花道をノッシノッシと進んでくると、総立ちになった観客の頭は大魔神のまでしかないんだ。その光景をリングの上からじっと睨みつけていたんだが、まるで電信柱が近寄ってくるようだった」
「電信柱!」
「ああ電信柱だリングサイドで一旦立ち止まった大魔は、担いでいた丸太をリングの中に投げ込み、トップロープを一跨ぎで上がってきたよ。本当に大きかったな。
190センチの奴の腹までしかないんだ
「ガンダさんが腹までしかないの
 僕は食べかけのおにぎりを手に、ペットボトルのお茶をゴクンと飲んだ。
「奴はな。やはり目がよく見えていないのか、投げ入れた丸太を手探りで起こしてリングのニュートラルコーナーへ立てかけ四方の観衆に、「アミーゴ」と叫んで腕を上げたんだ。そして、Vサインを示すと観客は大魔神コールの大合唱になった」
「アミーゴって?」
「スペイン語で友人とか仲間という親しみを込めた意味さ」
「それじゃ、ガンダさん以外はみんな仲間なんだね」
「外国で戦っていれば、何処もそうだから気にならねえよ」
ふーん。それで、大魔神は丸太をどうするつもり?」
つまり、自分の必殺技を見せ付けるデモンストレーションなんだ。大魔神はゆっくり身構えてからをチラッと見て、般若のようにつり上がった目と、大きく裂けた口元から真っ白い歯をのぞかせ不気味な笑いを見せたんだ。思わずぞっとして、身の毛がよだつほどだったよ
それで
それまで大歓声を上げていた観客は水を打ったように静まりかえったんだ。すると、奴は大きく呼吸をしてから息を止め「オリャー」という奇声を発してトラスキックをぶち込んだんだ。すると直径が30センチもある丸太が、バキッというもの凄い音とともに真っ二つに折れてしまったのよ。観客はもちろん、これから戦うでさえ、思わず息を呑む恐怖だった」
チョー凄すぎる
赤コーナーの大魔神と、青コーナーのとでにらみ合っていると、レフェリーから手招きされてリングの中央でボディチェックを受けたんだ。これまでいろんな奴と戦ってきただがさすがに驚いたな。黒い空手着からはみ出している手足をつくづくと見たんだが、ただデカイだけではなく分厚く盛り上がったタコが不気味だった。はまともに戦ったんではヤバイと思ったんでな、どうしようかいろいろと考えたよ。まあ、その前から、ある作戦は練っていたんだけどな
 ガンダさんはペットボトルの水を口に含ませ、ブクブクっと頬っぺたを膨らませてから飲み下した。
見上げる俺の目と、見下ろす奴の目が火花を散らしているとコーナーに戻された。そして、レフェリーの合図で試合開始のゴングが鳴り響くと、同時に7万の大観衆から「ハポネスを蹴り倒せ!」という、大合唱が巻き起こったんだ
「ハポネスって?」
「スペイン語で日本人という意味だよまあとにかく、雷のように鳴り響く大合唱に対抗してやろうと考えたはな。4隅のコーナーロープに代わる代わる登ってから右手を高く突き上げ、親指を中にして残りの指で軽く包み込むようにして観客に振って見せたのさ」
 ガンダさんはその仕草を示し、
「アメリカの中指を立てるのと同じで、メキシコでは人を侮辱する意味なんだが、面と向ってやたりはしねえ禁断のポーズだ。それをやると命取りにもなりかねねえケンカになってしまうからな
と言った。
「それをガンダさんは…
ああ、やってやったさ。何たって観客がれば怒るほどの闘志は燃えてくるからな。思惑どおり挑発に乗ってきた観客は口々に「ビンチェ・ハポネス」という最悪の侮辱用語を叫び、一斉に同じポーズを返してきたよ」
「プロレスの悪役は命がけだね」
「そう、いつだって命がけさ。ところが客とやり合っていたの背後へ、大魔神が忍び寄っていたことに気がつかなかったんだ「やっちまえ大魔神!」とういう観客の声にハッとして振り向いたとき、の首はグローブのような両手で鷲づかみにされ、そのまま吊り上げられてしまったんだ」
「えっ! それじゃ首吊り状態?」
「そのとおり絞首刑と同じさ。なにしろ、大魔神が両腕を伸ばすと家の軒先よりもなる。もし、そのまま続けられたらヤバかったよ。は息が止まりそうになって、夢中で足をバタバタさせたら、そのうちの一発が奴の急所に当たったんだ。すると、さすがの大魔神も苦悶の声を上げての首を離したんだマット上へ落下し、頭を打ちつけてしまい朦朧となったが、奴も腰を曲げ、急所を押さえて苦しがっていたチャンスと思い、必死で起き上がって、奴の脚に何発もの蹴りをぶち込んだよ。必殺技のトラスキックを封じ込めるためにな」
 ガンダさんは一息つくとまた水を口に含くみ、当時を回想するかの目つきをしてからゴクンと咽を鳴らして話を続けた
偶然とはいえ、のつま先が急所に当たったのはラッキーだったな。さすがの大魔神もたまりかねたのか、リングの外へ逃げたんだ。そして、「急所を蹴ったのは反則だ」とレフェリーに抗議していたが、悪役のにとっちゃそんなことは関係ねえ。は拳を固め、あいつの醜い顔面にパンチをぶち込もうとリングから飛び降りたんだが、なにしろ腕も長く、空中でがっちりと抱きかかえられてしまったのよ。奴は観客に向って「見てろよ!」とアピールし、を抱きかかえたまま鉄柱へ走って背中を激突させたんだ。背骨からベキベキっと歪む音が聞こえ、息が詰まってしまってな。それを見たあいつは、の額に何発もの手刀を打込んできたんだ。あっという間に額が割れて、またしても大流血となってしまったんだ
 僕はポリネシアン・ザウルス流血戦のときと同じように、デコボコと盛り上がっているガンダさんの額にチラッと目を向けた
「奴はリングに戻ると、に向って「上がって来い!」と怒鳴りたてたよ。リングに這い上がる振りをして、奴の足首を掴んで引き倒すとその脚を何度もリングの角にぶつけてやったんだ。どうしても必殺技のトラスキックを使わせないようにするためにな。だが、うかつだった。夢中になっていたは、もう片方の足で顔面を蹴飛ばされてしまったんだ」
「ヤバ!」
 48センチの足が目に浮び、思わず叫んでしまった
「そう、ヤバかった。瞬間の目の前は真っ暗になったよ。ノックアウトされてしまうかと思うほど強烈な衝撃を受けたんだが、必死で堪えてリングの中へ這い上がったんだ。ところが今度は、長い脚を胴体へ絡み付けられボディシザースという胴締めの技を食らっちまったんだ。この技は、とどめのトラスキックに入る前にスタミナを消耗させてしまう前哨なんだが、息ができないほど苦しかったな。まるで大蛇のアナコンダ締め付けられているようだった
「逃げられないの?」
「ああ、普通のレスラーなら何とかして外すんだが、奴のボディシザースはドラム缶を絞めつぶすほどのもの凄い力だ」
「ドラム缶って、あのドラム缶!」
 僕は横浜港の岸壁に積んであった頑丈そうで大きなドラム缶を知っている。だからあれを絞めつぶす力はどんなに凄いのか想像すらできない。
ずいぶんと長く締め付けられて気を失いそうだったが、ジワジワと身体をずらして行き、やっとのことでロープを掴んだんだ。レフェリーの「ブレイク」という声に救われた思いがしたんだが、流血が続いていることもあってスタミナは切れかかってしまったんだ。それを見透かしたあいつ四方の観客に般若のような顔を向け、右手の人差し指を高々と上げて「バムノス」とアピールしたんだ」
「バムノスって?」
「うん、直訳すれば「行くぞ!」というような意味なんだが、スペイ系のレスラーが試合中よく口のする言葉で、止めを刺すというアピールに使っている」
「ヤバッ
大魔神はの首っ玉掴んで引きずりお越してコーナーへ叩きつけたんだは背中からぶち当たって身動きができなくなってしまったよ
いよいよトラスキックをやるつもり?」
「そうなんだが、朦朧としていてもの目奴の動きをしっかりと見ていた。すると、電信柱のような上半身をこごめて、低く構えたのが見えたんだ
 丸太をへし折ったという必殺がいよいよ炸裂するのかと思うと、僕はハラハラして息が詰まりそうだ。
「そして次の瞬間、「オリャー」という奇声とともに刀をぶち込んでくるトラスキックが、の顔を目掛けて稲妻の如く迫ってきたんだ
「いよいよヤバイ!
だが心配することはねえ。は作戦があるのさ」
「作戦?」
「そう、最初から考えていた作戦だ。もの凄いスピードのトラスキックがの顔面を捉える瞬間。紙一重の素早さでレフェリーの手首を掴んで引きずり込むと、体を入れ替えたのさ」
「えっ!」
目の悪い大魔神は、とレフェリーが入れ替わったのが分からず、そのままトラスキックをぶち込んできたんだ」
じゃあレフェリーに蹴りが入ってしまったの?」
「そのとおりだ。かわいそうだが、レフェリーは口から泡を吹いたまま完全にびてしまったよ
「それで!」
会場内は蜂の巣を突付いたような大混乱に陥った中コミッションドクターリングに上がったんだ。聴診器で心臓の音を聞いていたようだ、大慌てで救急車を手配するように叫んでいたよ
 ガンダさんなら何とかして大魔神のトラスキックを防ぐだろうと思っていたが、まさかの展開だった。
「それからどうなったの?」
「結果は奴のレフェリー暴行で反則負けということになったが、思わぬ判定に大魔神も観客も怒り狂ってな。またしても7万人の客を敵にまわしてしまった必死で控え室へ走り込んだよ。それでも治まりのかない観衆は、ついに暴動を起こして大変な騒ぎになってしまったんだ」
えっ、暴動!」
「ああ。興奮した観客は椅子を投げ合い、ついにはリングに火をつけてしまったんだよ。このような事態になったのにも拘らず、騒ぎを鎮めるべきガードマンたちまでが興奮してしまってな。どうにも事態の収拾をつけられないと判断したプロモーターとコミッショナーが、たまりかねて軍隊の出動を要請したんだ
「軍隊!」
「そう軍隊だ。日本でいえば自衛隊が出動したということになるが、とても考えられることじゃねえ。軍隊はトラックを連ねて会場へ乗り込んでんだが、それでも暴動はなかなか治まらず。ついには100人もの兵隊たち銃を空に向けて、何発もの威嚇発砲をしたんだ」
「凄げーっ」
「控え室へ戻った、他のレスラーとともに銃声を聞いていたんだが、そうだな。30分もしてから、やっと暴動は鎮まったんだ兵隊の威嚇に渋々と従った観客は口々にの名前を絶叫し悪態のかぎり吐きながら引き上げて行ったんだ
 試合に興奮した暴動とはいえまるで戦争のような状態だったのかもしれない。7万人もの観客が暴れまわっている光景を想像するととても恐ろしいことだが、もし僕がそのような場面に巻き込まれてしまったらどうなるだろうと考えてみたが、たぶん右往左往した挙句に気が狂ってしまうかもしれないと思った
メキシコ人は陽気な半面気の荒いところあるからな。ラテン系民族のカリスマである大魔人対試合はテレビの生放送もされていた。だからは、この結末はもう多くの人たちに伝わっているだろうと思いこの国を早く出なきゃ危険だと考え、プロモーターからギャラを受け取ると急いで車に飛び乗ったんだ。そして、そのまま国境を越えて、アメリカ・テキサス州南部のサン・アントニオという町まで一気に走ったのさ
「アメリカまで!」
「ああ。そのは、グリーンカードというアメリカ政府が外国人に発行する、労働と永住のできる許可証を取得していたからな」
それで、そのは遠いの?」
「350マイルだから、距離的には東京から大阪くらいかな。アメリカへ入ってから、途中のドライブスルーで買い込んだハンバーガーとポテトフライをコーラで流し込み、夢中でアクセルを踏み続けたよ」
「ガンダさんはハンバーガーも食べるの?」
「ハッハッハ力をつけるには握りメシ一番いいに決まってるが、アメリカじゃ売ってねえからな。場合によっちゃ仕方ねえさ。まあ、ハンバーガーをかじりながら逃げてたのも、悪役のイメージを高める計算づくのアングルだけどな
「アングルって?」
「うん、アングルというのはな。プロレスのストーリーを面白く展開させるための仕掛けよ」
ふーん…
 太古から蘇えった恐竜ポリネシアン・ザウルスに続き、アンデスの大魔神マルディシオン・コロンビアーナとの死闘がまるで別世界の出来事のように思える。僕にはとても真似のできない事だと思いつつ話の中に吸い込まれてしまった
「何の仕事も楽じゃねえよ
 ガンダさんはそう言って笑ったが、プロレスとは本当に命がけの仕事だということが分かる
「ガンダさんはプロレス以外の仕事もしたことあるの?」
「ん、まあな」
 どことなく含みのある言葉をもらして時計に目を落とすと、ペットボトルに残った水をガブガブっと飲み干し、
「それじゃあ又な」
と言って杖を支えに立ち上がった。
                                         つづく

 14 アンデスの巨人と真昼の決戦
 
 翌日、父の運転で鎌倉から湘南の海添えをドライブした。車中でも、ホテルのレストランへ寄って食事をしたときも、妹は終始はしゃいでいたし母も楽しそうだった。だが、僕の脳裏には学校へのわだかまりと、誰にも話してはいないガンダさんの面影が交差して離れず、キラキラと眩しい紺碧の海をただぼんやりと見ていた――そして父が一時帰国した3日目の朝
「夏休みには、みんなで上海へおいで」
と僕の肩を叩き、本社へ寄ってからそのまま赴任地へ戻ることになった
 その朝、会社から迎えの車へ乗り込む父に、
「ありがとう」
とだけ声を掛けた。父は笑みを浮かべただけで、もう学校のことは何も言わなかったが、僕には父のエールが強く感じられた
 
 3日ぶりにグローブとボールを手にした僕は、そっと玄関を開けた。この前と同じように走って行くつもりだった。それでも一応自転車置き場と、意外にもチェーンロックが外されていた。理由は分からないが思わずほっとしてグローブを荷台カゴに入れるいつの間にか母が後ろへ寄ってていた。
「龍太郎ママも、あなたがきっと壁を乗り越え強い子になると信じているわだからパパが言っていように、自分の力で解決策を見つけ出しなさい
 そう言ってビニール袋を差し出した。
「おにぎりと、お茶よ」
 ついこの間までとはかなり物腰の違う母に驚きながらも、
「ありがとう」
と小さく言って自転車にまたがった。相変わらず曇り空の心とは裏腹な晴天が続いている。
 公園に着き、気になって仕方のなかったガンダさんを見つけて僕は走って行ったドングリの木下のいつものベンチで、新聞を広げていたがすぐに気がき、
「よう」
と声を掛けてくれた。最初に声を掛けられた時の不安感や躊躇いは、もうすっかりと消えている。
「おはようございます」
僕はぴょこんとお辞儀をしたが、少しの会わなかっただけなのに随分と久しぶりな気がして、涙がこぼれそうになった
「あのーっ
 父に言われたことも頭にあるし、今度こそ思い切って学校のことを聞いてもらおうと切り出したのだが、ガンダさんは、
「分かってる」
と言って新聞をたたんで脇に置いた。
「今日もキャッチボールをしようや」
 ガンダさんはそう応えたが、僕の言いたいことを意図的にはぐらかしたのか、あるいは本当に勘違いしたのかは分からない。だが、父に言われた「壁」を必死で越えようともがいている僕を、すでに感づいているような気がしてならない
おばさんたちに、「学校へ行きなさい」と言われていた時にも、「気が済むまで壁と向き合って、好きなだけボールを投げていろ」笑っていたのは、おそらくそのことなのだろと思えるようになってきた
 ガンダさんは新聞を畳み、手をバンバンと叩きわせてから肩を回した
「それじゃあピッチャー、頼むぞ
 ガンダさんの顔を見ていると、むしゃくしゃしている嫌なことがどんどんと頭から離れてく。自然と口元がほころんでくる僕は薄手のジャンパーを脱、ビニール袋とともにベンチの端へ置いた。下ろし立ての大熊猫のTシャツ姿になると、ガンダさんが、
「おっ、カッコいいな
と言ってシャツの裾をつまんだ父の土産だと話そうとしたが、やはり黙っていることにた。
「よし、今日もしっかり投げろよ」
 大きくうなずいた僕はいつもの位置へ走った。マウンドに立って腕をぐるぐると回していると、例のおばさんたちが横目にジロッと見て通り過ぎるところだった相変わらずの不登校さげすかの嫌な視線ではあるが、以前ほどは気にならなくなってきているのは、「元悪役レスラー」という強い後ろ盾がいるからだろうか。
 肩慣らしを終えて第一球を投げるとガンバさんはビッシと受け止め、
「おお、いい球だ」
と微笑み、相変わらずの直球を投げ返してよこした。いつもながら素手でキャッチしているというのにまったく表情を変えず、つくづく頑丈にできている人間がいるものだと感心させられる。
僕はボールを投げ続けながらも、昼になるのが待ちどうしくてならなかった。と言うのは、の話を聴きながらでさえ時おり頭をかすめたアンデスの大魔神との戦いが気になって仕方がないからである。
 抜けるような青空に太陽が眩しく、気温も少しずつ上昇している。僕は額から頬に流れた汗を手の甲で何度も拭った。
例のおばさんたちが10のウオーキングを終え、汗を拭き拭き引き上げて行ってから、もう結構時間が経っている。
ぼつぼつ昼だろうと思っているのだが腕時計をしていない僕は、時間が気になって仕方がない。やむなく、投げようとしたボールをグローブに持ち替え、ズボンのポケットからスマホを取り出してディスプレーを覗いた。
「電話か?」
 ガンダさんは構えていた手を下ろした。
「時間を見ただけ
「そうか」
 ガンダさんは自分でもリュックのベルトに結び付けてある時計を手に取った。
「おお、もうすぐ昼だな。今日は早メシにするか」 
 そう言ってから両腕を大きく上に伸ばし、背伸びをしながら大きく息を吐いた。僕はベンチに戻り、グローブを外すとガンダさんから受け取ったタオルを濡らしに手洗い場に走った。
 僕と違いほとんど汗をかいていない顔や手を濡れタオルで拭き、リュックから新聞の包みを取り出したガンダさんは僕の手元を見つめた。
「あれっ、今日はコンビニのおにぎりじゃねえな。母ちゃんにこしらえてもらったのか?」
「はい。ママが持たせてくれた
「おおそうかい。よかったな」
 それ以上のことを詮索しようとしないのはいつものことだが、ガンダさんは僕の不登校をめぐるの事情まで見とおしているような気がしてならない。でも、僕のどころか学校も知らないのだから、そんなことまでは分かるはずがない。
 そう思ったとき、僕自身もガンダさんの家がどこなのか聞いたことがないし、誰と生活しているのかも知らないことに気付いた。
そんなことを考えてぼんやりとしていたのか、ガンダさんは突然におかしなことを訊いてき
「ところで龍太郎の足は何センチだ?」
「えっ? 僕、27センチだけど」
そうか。年齢のわりには大きい方だな」
 僕にはガンダさんが何を言おうとしているのかすぐには分からず、おにぎりを手にしたまま首をかしげた。
「足がどうかしたの?」
ハッハッハ」
 ガンダさんは声高に笑ってから僕の顔を覗き込んだ。
それじゃあアンデスの大魔神マルディシオンコロンビアーナの足は何センチあるかかるか」
 ガンダさんは約束の話をしようとしていたのだ。
「い、ぜんぜん分からないけど。身長が2メートル80センチもあるんだから、足だって相当に大きいんでしょ?」
「ああ大きい。龍太郎、驚くんじゃねえぞ」
 ガンダさんは勿体ぶったように僕の目をじっと見たので、その様子から半端なサイズでないことは想像できる
奴の足はな。何と48センチだ」
「ええーっ! 48センチ」
 内心想像したよりははるかに大きく、僕は驚愕のあまり両手でその大きさを示し、ガンダさんの片方しかない運動靴に目を落とした。
も32センチだから結構デカイ方だが、あいつと比べたらまるで子供だよ」
「そんな大きな靴って、あるの?
「いくら外国でも、あんなデカイのを売っている店なんてありゃしねえよ。だから、靴に限らずすべてが特注さ」
「そんな足で蹴られたら大変だね」
「大変なんてものじゃねえよ。だから大魔神の得意技は、そのデカイ足を使ったトラスキックという蹴り技なんだよ」
「トラスキック?」
「トラスキックというのは空手の足刀蹴りという技でな。相手をコーナーポストへぶつけて動けなくしてから、上体横向きにこごめて、左を軸足にして右足をストレートに顔面目掛けて叩き込んでくるんだ
 片脚のないガンダさんはその格好を腕でやって見せてくれた。僕はその技が炸裂する場面を想像したが、考えるだけでも震え上がってしまう。なにしろ48センチもある足だと、馬に蹴られるよりも凄いはずだ。
 ガンダさんは、目を丸くしている僕を見ながら話を続けた。
「この技をまともに食らったら、間違いなく顎の骨を砕かれるか、下手すればあの世行きだ」
「えっ! あの世行きって…
「そう、鍛えているレスラーでも、当たり所が悪ければ死んでしまうこともある」
凄げえなアンデスの大魔神は空手家なの?」
「うん。よくは分からんが謎に満ちた男だ。パンフレットに紹介されている経歴によると、アンデス山脈の山奥に籠もって、10年間も秘密の修行したと書いてある」
「たった1人で?」
「そうだ。たった1人でだ。アンデス山脈ってえのはな、南米のベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、アルゼンチンまでの高峰が7,500キロも連なり、標高が6,000メートル級の山々が天にそびえ立っている。もちろん自然も厳しく、コヨーテやピューマ、アンデスベアーなどの肉食獣も数多くんでいるんだ」
「肉食獣!」
「ところが大魔神は、その獰猛な猛獣特訓の相手にして、蹴り倒したやつ食っていたというんだ」
チョ凄げ!」
「それだけじゃねえぞ。奴はなトラスキック破壊力を強化させるために、樹木を一撃でへし折ってしまう恐怖の技も身につけたんだ」
 猛獣を蹴り倒し、樹木をへし折ると聞いた僕は、ポリネシアン・ザウルスのとき以上の戦慄を覚えて身震いした。ガンダさんは3個目のおにぎりを食べ終え、濡れタオルで口の周りを拭いたそして、ペットボトルの水を口に含み、ゴクゴクと音を鳴らして飲み込んだ。
「大魔神は何処の国の人?」
「マルディシオン・コロンビアーナ、つまりスペイン語で呪われたコロンビア人という意味なんだが、その名前が示すとおり南米大陸の北端で赤道直下のコロンビアだ。だが、生い立ちは謎をはらんでいる。大魔神伝説によると、奴は15歳の時に高熱の出る原因不明の病気にかかったそうなんだ。その後、身長がどんどん伸びてしまったのはその高熱のせいだといわれている
「原因不明の病気?」
「ああ。これも高熱のせいだと言われているが、それまでイケメンだった顔が一夜にしてのように醜く変形し、視力もかなり弱くなった。そのために奴は、好奇の目で見つめる人間嫌いに陥ってしまったんだ。それからは神を呪い、悪魔に心を売り渡して山に籠もったといわれている」
えっ! 悪魔に心を売った…。それに、目もよく見えないの?」
「そう、かなり目は悪くて数メートル先しか見えないようだからのギミックである唐辛子入りのメリケン粉を使う必要はねえんだ。だけどな、視力が弱い分だけ勘が鋭く油断のならねえ相手だ
「呪われたコロンビア人といわれているんなら、大魔神もガンダさんと同じ悪役なんでしょう?」
「ところが奴は、プロレス用語でいうベビーフェイス、つまり善玉なんだ。中南米の人たちにとっての大魔神、究極の苦難を乗り越えたカリスマ的ヒーローでな試合を観に来るすべてのが蹴り倒されて地獄送りになるのを楽しみにしているのよ
 大魔神の怪異に満ちた容貌大興奮の坩堝と化した会場を想像した僕は戦い様相早く知りたくて、知らぬ間に身を乗り出していた。
その試合は何処でやったの?」
情熱の国といわれるメキシコモントレイというところだ。会場は大きな闘牛場で真昼の戦いだったよ東京流れ者のジプシー・ガンダ対アンデスの大魔神呪われたコロンビア人世紀の一大決戦という前宣伝が効いて、キャパシティ7万人の闘牛場に入りきれねえ客が押し寄せたよ
「7万人! 東京ドームよりも大きいね
「ああ、デカイ入れ物だった」
それに、真昼の戦いだと暑かったんでしょう?」
「そう。真夏の太陽がギラギラと照りつける真っ昼間だから気温は相当に高かく、観客の多くはソンブレロというつばの広い帽子を被っているたちの試合が始まったのは3とにかく暑かったよだけどな、わざわざ太陽が真上にある時間を選んだのには訳がある」
「えっ?」
「つまりな。14世紀から15世紀、メキシコに栄えたアステカ文明の名残で、太陽神の元で行うのが決戦の慣わしなんだ。だがな。熱帯地に育った大魔神には暑さなんてなんともないが、には相当なハンディだった」
「そうだね。ガンダさんは日本人だもんね
 ガンダさんにとってはかなり不利な条件での戦いだと知り、決戦の結果がますます気になりだした。
                                         つづく


 13 不安でならない父の一時帰国

 父が一時帰国してくる土曜日となった朝早く蜂矢秀介から、「会おう」というメールが届いたが今回も返信せずにそのままにしていた。先日、「電話をしてくれ」と妹に言付けていたのにも拘らず、連絡をしていなかったかであろう。だが、今の僕は学校のことも友達のことも、まして意地悪な三人組頭から消し去りたかったのだ。
 父が帰るのは夕方だとのことである。何を言われるのかと思うと気が気ではない。昨夜から落ち着きをなくしていたための寝不足でい頭を抱えていた。日中は食事以外に階下へ下りることもなく、をするでもなく部屋の中でウロウロと過ごし、ガンダさんのことあれこれと思い出していた。
―― 今日は公園に行かれない理由を伝えられなかったので、僕の来ていないことをどう思っているだろうか。
―― ガンダさんの話はどんなドラマを観るより面白く、まるで怪奇の世界に吸い込まれて行くようだポリネシアン・ザウルスも怖かったが、今度聞かせてくれるというアンデスの大魔神とはどんなレスラーなんだろう
―― それにしても、ジプシー・ガンダという悪役レスラーは幻想の世界に生きていたような不思議な人だ。
 この数日公園で起きた様々な出来事を振り返り、すでにガンダさんの世界はまり込んでいる自分を感じていた。
 だが数時間後には父が帰ってくるという現実に戻ると、またまた落ち着きをなくしてしまうダイニングキッチンでは、約1ヶ月りに戻ってくる父を待つ母が料理の仕度に追われていた。妹は土産を期待しているのか、片時も母から離れず手伝いの真似事をしている。本来であれば、僕だって父の帰りが待ち遠しくてたまらないはずなのに、時間が迫ってくるにしたがってどんどん気持が沈んでゆく。僕繰り返し壁掛け時計の針目を向け
 母の話だと東京本社の車が羽田国際空港へ出迎え、家まで送ってくれることになっているそうだ。羽田着は16時30とのことだから、時間どおりに到着していれば今ごろはもう首都高の羽横線を走っているはずだ。心臓の鼓動は時計の秒針に合わせるが如く、ドキドキと音を上げている。
 みなとみらい都市の高層ビル群の空が茜色変わりはじめた頃、細めに開けてある部屋の窓から、の前のきしむ音が聞こえた
―― パパだ!
 小さく鳴らされたクラクションが聞こえ階下に廊下を走る母と妹の足音が玄関ドアを開ける音とともに、妹が門扉までの敷石を走って行ったようだ
「パパ」
 甘えた声の妹に続き、母が運転手さんにお礼を告げていた。
お帰りなさい。お疲れになったでしょう」
向うを立つ間際まで仕事をしていたからね」
「そうでしたの。忙しいのに申し訳ありません」
ところで龍太郎は?」
 久々に聞く父の声だ。
「部屋にいるわ。中学生になってから急に変わってしまって。あなたからもアドバイスしてくださいね」
 僕の心臓は大きな岩に押しつぶされ破裂してしまいそうだったが、このまま部屋に閉じこもっているわけにもいかない。窓際に寄せた椅子から重い腰を上げて、一階へ降りた。
 3人はちょうど玄関にり、スーツケースを下ろしたところだった
「パパ、お帰りなさい」
「おお、龍太郎。日焼けして元気そうじゃないか」
 父は明るく声を掛けてくれたが、おどおどしている僕の心は見抜いているはずだ。
「毎日公園へ行って、遊んでばかりいるからよね」
 母は皮肉っぽい目を向けたが、父の微笑んでいる顔が逆に怖い。たぶん、帰る早々僕を萎縮させまいとしているのであろう。もともと母のようにガミガミと言うことのなかった父だが今回は別だ。わざわざ中国から戻って来たほどほどだから、今までのようにはいかないだろうとなおさら落ちつかないのだ。
「あなた、お風呂が沸いていますから、旅の汗を流してくださいな。それまでには食事の準備も整いますから」
「そうだな、そうしよう。上海の気温は東京よりかなり高かったからね。ワイシャツの下もベトベトだよ
 そう言った父は、妹のもじもじとしている様子に笑みを浮かべた。
その前に、お土産を渡しておこうかな。麻衣が気になっているようだし
「やったー」
 妹は満面に笑みを浮かべてぴょんぴょんと飛び跳ねた。
 父はスーツケースから「大熊猫」という漢字の下にパンダがカンフーをしている擬人絵が描かれたTシャツなどを取り出した。
「大熊猫というのはジャイアントパンダのことだよ」
 サイズの違う一枚ずつのTシャツと竜太郎には大熊猫キーホルダー、麻衣にはブローチを添えて手渡した。
土産を受け取り、リビングの中を駆け回っているを笑いながら見ていた父は僕に向かって、
「忙しくて土産を選んでいる暇もなかったんで、ありきたりのものですまんな
と、言った。
「ありがとう」
 僕の頭の中説教されることの不安が一杯で、それ以外の出てこない
「それじゃあ風呂へ入るとするか」
 スーツの上着を母に渡した父はネクタイを解き、ワイシャツのボタンを外しながらバスルームへと向った。
「着替えとバスローブ、置いてありますから」
 母は、そう言いながらキッチンへ戻った。
                    
 夕食に家族4人の顔が揃ったのは正月以来である。上海赴任する前の父は相当に忙しかったらしく休日も返上し、会社からの帰宅は毎晩遅くなっていたからだ。
 ダイニングテーブルには父の大好きな魚の刺身の他出身地である甲府の郷土料理ほうとう鍋卓上コンロに用意されていた
「おお、キミが本場より美味しいと自慢する、母さん直伝のほうとうだ。嬉しいね
「あちらでは召し上がれないでしょう?」
無理だね
 母はアイスペールに浸した日本酒のボトルを取り出し、雫を拭ってから父のグラスに注いだ。
「キミも少し飲めば」
 ボトルを握り返した父は、あまり飲めない母のグラスにも注いだ。妹と僕の前にはオレンジジュースの缶が置かれてあった。
「それじゃあ乾杯しましょう」
 そう言った母は、
「パパお疲れさま」
とグラスを上げた。
僕らの顔を見まわし、
「みんな、ありがとう」
と応えてから、目を細めて咽を鳴らした。
椀によそってもらったほうとうに箸をつけた父は目覚しい発展を遂げてゆく中国の様子などを話していたが、僕はいつ学校のことを切り出されるかと思うと気が気ではない。
時おり母が僕の顔をチョロチョロと見るのがなおさら気になり、普段のようには箸が進まなかった。それでも、いつもの如くよくしゃべる妹が、中国のことを次々と訊いていることが、僕には間がもてて救いだった。
 30分ほどの食事とおしゃべりを終えた妹は箸を置き、
「見たいテレビがあるから」
と席を立ってリビングへ向った。妹がいなくなると、僕は急に心細くなり、急いでご飯をかっ込み席を立った。
「龍太郎! 座っていなさい」
 母が怖い声を上げたが、父はそれを制した。
「いいよ。龍太郎とは、男同士2人で話をしようと思っている。あとで部屋へ行くから待っていなさい
 僕は無言でダイニングを出ると、自室へ戻った。もらった土産を勉強机の上に置き、いつものように椅子を窓側に移しみなとみら都市の夜景を眺めた。父は男同士2人で話をすると言ったが、これまでに強く叱られたことがないだけになおさら不安で胸が高鳴る
 幼少の頃から父を怖いなどと思ったことは一度もなかった。それどころか父と一緒にいるのが何よりも楽しく、中国への単身赴任を知らされたときにはパニックになるほどの寂しさを感じたほどだった。だが、今回だけは父の存在が別人のように思える。
 小学校時代長く休んでいる生徒は何人かいたが、まさか自分までが不登校になるなん考えもしなかったことだ。僕には突然に降りかかった災難のように思えてならないのだが、気の弱さが原因だと分かっている何とも虚しい現実である。
 気の弱さに加えて引っ込み思案な自分とは雲泥の差があるガンダさんのことが自然と思い出され、傷だらけの額や餃子のような耳とあの大きな体躯が目の前に浮んだ
―― たった一人で外国へ出て、世界中の怪物レスラーと戦って来たというガンダさんは特別な神経を持っている命知らずなんだ。普通の人間にはできるはずがない。だから自分と比較する方が間違っているのだ。
悲しいかな自分自身への慰めともとれる言い訳に思いを巡らせていると、ドアがノックされハッと我に返った。細身で長身の父が顔を出した今か今かとドキドキとして待っていたのだ父の表情は意外なほど柔らかかった。帰ってきた時と同じように、できるだけ威圧を与えまいとしているのが感じられる。
 僕は椅子から立ち上がり、
「ごめんなさい」
先に謝ったが、自分ながら情けないと思うほど小さな声しか出なかった。
 父は椅子に座るように言い、自分はベッドの端に腰を下ろした。
「ママから話は聞いているよ。学校を休んでいる原因は、柔道部へ入部したことなんだってな」
 僕は両手を膝に置き、じっと足元を見つめていた。
「入りたくて入った訳じゃないんだ」
「でも、自分で入部承諾書かいたんだろ」
でも…」
 たしかに父のうとおりではあるが、断りきれなかったのだ。
「龍太郎、はじめて何かに挑戦するときには誰だって不安なものだよ。パパだってな、上海の赴任を命じられたときには、正直に言うと不安をとおり越して恐怖だったよ」
「え、パパも上海へ行くのが怖かったの?」
「そうさ。営業部長という重要任務にくわえ、3年間も家族と離れて暮すことを考えると、辛かったよ。だけどな、人生というものは、常に自分とのいなんだ」
「自分との闘い?」
「そう、心が弱くては生きていかれないからね。だから、弱音を吐きそうになる自分の心と闘って、少しずつ強くなっていかなきゃならないんだ」
「でも僕は
 すでに弱音を吐いてしまっている僕が別の言い訳をしようとしたとき、父は言葉を遮って言った。
龍太郎にとっての柔道人生最初に立ちはだかった壁じゃないのか
「壁。壁って?」
「そうだな要するに成長を邪魔しようとする障害物のことだが、今の龍太郎にとっての壁とは。嫌でしかたのない柔道嫌がらせをする何人かの同級生だ。の壁を乗り越えるには、何とかして柔道を好きになることと。嫌がらせをする同級生に正々堂々と立ち向かうことだ。つまりそれが自分の心との闘いだ
 父は柔道を好きになることだと言ったが、どう奮起しても無理だ。入部承諾書だって無理やり名前を書かされたようなものだし、それに、あの三人組に立ち向かうなんてても無理だと心の中で叫んだ
「龍太郎の年代にとって、スポーツはとても大切なんだ。中学や高校時代にしっかり運動しておくことは、心の強い大人になるための基礎になるんだぞ。私の部下でも学生時代に運動部でしごかれて来た者は根性が違う。何度も何度もぶち当たった壁をその都度乗り越えて来た経験があるから、弱音を吐くことがない。常に前向きな精神を持っているら、私も安心して仕事を任せられるんだ
「壁って何度もあるの?」
「そうさ。龍太郎にとっての今の壁は、さっき言ったとおり初めてだが、今後も、体力の壁、技術の壁、あるいは人間関係の壁など、その他にも様々な苦難が立ちふさがるさ。だが、れらの壁をなんとかして乗り越えなかったら、それ以上前へは進めないじゃないか。龍太郎は小さな頃から心の優しい子だった。だがな、龍太郎だっていずれは親の元を離れてひとり立ちしなくてはならない。家庭を持ったら家族を守っていくのが男の務めだ。つまりは優しいだけじゃ生きてはいかれない。時には敵とう強い心と体力も必要なんだよ
闘うなんて僕は
「殴り合いの闘いを言っているんじゃない。パパの場合だって、中国の商人を相手に値段交渉をする時には、つい相手の強気に押されそうになってしまうこともあるんだ。だがな、私の任務は会社利益をもたらすことだ。だから相手の言いなりにはならず、自分の意思をはっきりととおす闘いなんだ
 黙ったままうつむいてはいたが、僕ももう中学生である。父の言うことは理解できるが、敵と闘うなんて到底できっこないと心の中で叫び続けていた
「今回の経緯のすべては、これまでにはなかった体験だ。悔しくて腹立たしい思いをしているのは分かるが、逃げていては解決しない。何事も真っ向からぶつかっていかなかったら、負け犬になっちまうぞ。人は乗り越えた壁の数だけ強くなれるし、悩んだ分だけ他人の痛みや苦しみが分かるようになる
「……」
ところでママの話だと、毎日公園へボール投げに行っているそうだが、いったいどこの公園へ行っているんだい? ママは近くの公園を見て回ったそうだが、龍太郎の姿を見つけられなかったと言っているし
 僕は答えなかった。
「その公園には、一緒にキャッチボールをする相手でもいるのかい?」
 僕はガンダさんのことを思い浮かべたが、父も話したくなくて口を閉ざしていた
「そうか。龍太郎には言いたくない理由があるんだな。それならそれでいい。パパはね、龍太郎が自分自身で壁を乗り越える方法を必ず見つけ出すと信じているよ」
「……」
「龍太郎。男は強い信念を持たなければな」
 父は立ち上がって僕の肩に手を置くと、
「明日の日曜日みんなでドライブに行こう」
と言って部屋を出て行った。
 僕は、信じていると言ってくれた父の言葉が嬉しかった。母のようにガミガミ言うだけではないのは、様々な壁を乗り越えて今の地位にたどり着いた経験が自信になっているのであろう。
だからといって僕には、すぐにでも学校へ復帰しようという勇気はまだ湧いてこない。柔道の練習も嫌だし、嫌がらせをする3人組にも会いたくはない。
                                         つづく

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