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 2 断れなかった柔道部の勧誘
 
要するに僕は、昨今増え続けていることが問題視される不登校生の一人なのだが、学校へ行かなくなった経緯を辿れば、無理やり柔道部に勧誘されて入部してしまったことに端を発する。
もっとも、「無理やり」という表現は自分でも言い訳だと分かっているのだ。もともと僕は、引っ込み思案できわめて気弱な性格である。つまりはそのようなわけで、柔道部員募集を勧誘されるがまま、本来の意思を拒断することができずに不本意のままに入部してしまったのだ。
小学生のときにも、相撲ごっこをする友達をただ眺めているだけで、どんなに誘われても、とにかく相手と取っ組み合う遊びは何ひとつしたことはなかった。
今になって思えば、柔道部の勧誘は忌まわしい災難としか言いようがない――。
入学式の翌日でガイダンスウイークの初日だった。校門周辺にはプラカードを掲げた各運動部の先輩たちが新入生に呼び掛けていた。野球部やサッカー部、テニス部のところには何人もの生徒が立ち止まっていた。だが、柔道部と書かれたプラカードの前は誰もが急ぎ足でとおり過ぎて行く。
「キミは背が高いね。何組み? 名前は?」
 三人で呼び込みをしていた中の一人がつかつかと歩み寄って来た。僕もみんなに習ってとおり過ぎようとしたのだが、デモンストレーションのつもりなのか柔道着姿の一人が前に立ち塞がり、作り笑顔で組み手の構えを見せた。
「背の高い部員が欲しいんだ。どう、入部してくれない」
 一人がそう言うと、残りの二人も寄って来て取り囲まれる格好になってしまった。新しく通学用に買ったボストンバッグを手にしている僕は、心臓がドッキン、ドッキンと音を上げるのを感じ、黙ったまま下を向いていた。
―― 早く断らなければ。
 心の中ではそう思っているのに言葉を発することができず、足までが硬直してしまっている。同じ小学校からの同級生は僕の気弱な性格を知っていて、ニヤニヤした顔を向けて早足でとおり過ぎて行く。
「俺の直感だけどさ、キミは素質があると思うよ」
「柔道とか、やったことは?」
―― 柔道なんてとんでもない!
 内心でそう叫んだ僕は、首を横に振った。
「初めてでも大丈夫だよ。この学校はシゴキなんてないからさ」
「最初は見ているだけでいいんだ。それに、もし自分に向いていないと思ったら、いつ退部してもいいからさ。もちろん罰則なんてないし」
―― とにかく嫌なものは嫌だ!
 僕が拒否する態度を見せているのだから、いいかげんに諦めてくれればいいものを彼らは執拗だった。
「頼むよ。学校の名誉のためにも、キミのような新入部員が欲しいんだ」
 両手を合わせて拝むような格好をすると、首から画板を下げた一人が鉛筆を差し出した。
―― 嫌だ!
そう叫びたいのに声を出せなない。僕の手は小刻みに震えていた。半ば無理やり鉛筆を握らされたとはいえ、この場から早く開放されたい気持もあって、つい入部承諾書に記名してしまったのだった。心の中ではあれほど拒絶していたのに情けない。そう思ったがすでに遅い。かなり強引な勧誘ではあったが、何事にもはっきりとものを言えない内向的性格が災いしたのだ。
つづく
          ミステリー小説「僕が出会った悪役レスラーの怪奇」
                                 ミスター高橋
 
 1 不登校だからって、じろじろ見ないでくれ
 
 横浜市港北区に岸根公園という市民の憩いの場所がある。現在は緑に覆われた広い公園になっているが、第二次世界大戦の敗戦後は長いこと米軍に接収されており、1970年に返還されて開発整備された公園である。
 敷地は14万587平方メートルで東京ドームの約三倍もあり、起伏に富んだ地形をしている。樹木に囲まれた園内には柔道、剣道、弓道などの武道場や野球場、池、遊歩道、幼児・児童用遊具が設置された場所のほか、多目的に使えるトラックや広場もある。
早朝には愛犬を散歩させる人や、太極拳、ジョギングなどを行っているグループも数多く見られる。だが、それらの人たちが引き揚げて行った午前10時頃からのウイークデーは、一時的に人の姿はまばらとなる。 
 そんな時間帯に健康運動の仲間かと思えるほんの数組の中年女性が、楕円形の広場を取り巻く外周700メートルのトラックをウオーキングしていた。時おり樹木の間隙をぬう爽やかな風に乗って、沈丁花の香りが漂っている。
「あら、またあの子だわ」
 お揃いのスウェットスーツを着込んだメタボ体型の三人組みが足をゆるめた。そして、その中でもとくに太目の一人が、トラックの外側へ目配せをするようにささやいた。
「利口そうな顔をした子なのに、学校へ行かないのかしらね」
「もう三日目になるわよ」
「そうね。たぶんうちの子と同じくらいの歳だわ。でも、どことなく気弱そうな感じの子ね」
 ダイエット目的の有酸素運動を意識してか、そこそこの早足で並歩していた仲間は軽く弾む息を押さえてリーダーらしき太目の女性に応えた。たぶん夫や子供らを送り出し、家事をすませてきた近隣の主婦たちであろう。
彼女らが遠慮のない視線を向けるのも無理はない。と、いうのは学校の新学期が始まって間もない時期なのに、一人でぽつんといる少年の姿は否が応でも目立つ異様な光景と映っても仕方がないのだ。
イヤホンを付けた噂の少年はスポーツタイプの自転車で乗りつけ、鉄筋コンクリート造りの機会室建物の脇にスタンドを立てた。名前は武田龍太郎、この4月に中学生となったばかりである。
少年は脱いだカーデガンを自転車の荷台カゴに丸め込み、替わりに野球のグローブとボールを取り出した。
 ブルーのジーパンに白のスニーカーを履き、白いポロシャツ姿になった少年は野球帽を被り直して、袖口を肘までたくし上げた。
左手にはめたグローブへボールをバシッバシッと何回か打込み、肩のストレッチをするように腕を大きく伸ばして機械室のコンクリート外壁に向って立った。
そして、ボール痕が一面に付いている壁に投げつけると、跳ね返ってくるボールをキャッチした。最初の数回は肩慣らしをするように、至近距離でゆるやかに投げていたが、少しずつ間隔をあけて投球を強くしていった。
春の日差しは柔らかく少年の肩に降り注いでいる。
学校が休みの日だと同年代の子が大勢いるため、顔を合わせないよう避けているが、土日や祭日を除き、同じことを繰り返しやりに来ている。まだ幼顔の面影は残しているが、目鼻立ちが整って端正な顔つきの少年は口を真一文字に結び、壁の一点を見つめて投げ続けた。ボールが壁に当たる音と、キャッチするときのグローブの音が、静かな園内に律動的な音を上げている。
少年が来てからかれこれ一時間近くが経った。いつも10周のウオーキングを目標にしている主婦たちは腰につけた歩数計を手に取り、消費カロリーを確認すると満足そうに微笑み合っていた。毎回同じことを繰り返し行っているのだからたいした変わりはないと思うのだが、やはり目標の数字を確認する充実感なのであろう。
お互いにうなずき合った主婦たちは、ウエストポーチからペットボトルを取り出して口に運んだ。それから、少年にわざとらしい懐疑な視線を投げかけ、首に掛けたスポーツタオルで汗を押さえながら帰っていった。
―― あのおばさんたち、あんなにじろじろ見なくたっていいだろう!
僕のほうだって、主婦らがコースをまわって来て自分の傍を通過するたびに投げかける、あの感じの悪い視線に気付いていないわけではない。たしかに嫌な思いはしているのだが、それでも学校でのいじめよりはまだましだと我慢している。
                           つづく
皆様こんにちは、ミスター高橋です。
 
今まで『新日本プロレス黄金期を飾った悪役たちの素顔』を愛読いただき
誠にありがとうございました。
 
8月初旬より、プロレスをテーマにしたミステリー小説を連載いたします。
ご期待ください。

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