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女は目を覚ました。長い長い眠りからやっと覚醒したかのような感覚があった。
目を覚ます前に何が起こったのかは全くわからない。
周りの世界はほの暗い水の中であった。天井の緑色の蛍光灯の光が遠慮深げに闇夜に浮かんでいた。
心地良い。まるで、母親の羊水にくるまれているかのような。
ためしにからだを伸ばしてみる。
ああ、動く。自分のからだだ。
息を吐くと、泡が上に立ち昇る。
目の前の世界の水を隔ててさらにむこうには、幾つもの背の高い棚が整然と聳え立っていた。
棚にはいろいろな形状の瓶詰めが所狭しと並んでいる。
その中身がそれぞれなんなのかは女の視界では判別できなかった。
その中身が気になる。女はこの倉庫のような場所を歩き回り、確かめようとした。
足を動かし、歩を進めようとした。
だがしかし。
動けない。
からだを動かしているという感覚はあるのにも拘らず、自分の身体が前に進まないのだ。
あまりに永いあいだ、眠りについていたものだから、すっかり身体の動かし方を忘れてしまったのだろうか。
…どれくらいの時間が経ったであろうか。懸命に身体の動かし方を思い出そうとして、いろんな所を動かして見たのだが、自分の身体は微動だにしない。
その努力を諦めかけた。
その時である。
黄色い懐中電灯が自分を照らした。
警備員の精悍な顔が自分の顔を見た。
今だ!このタイミングだ!とばかりに必死の形相で今自分の置かれている状況を訴えた。
あたしを見て!お願い!
警備員は最初、訳がわからないふうだったが、目を見開き、部屋を飛び出していった。
そう、女は瓶詰めにされた、生首だったのである。
女自身もまた、棚に並んだ瓶の中身の一つだったのだ。
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