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昨日、「カメムシが多い年は、大雪になる」という言い伝えを身をもって体験した記事を投稿しました(http://blogs.yahoo.co.jp/mt_izumi_1172/40408964.html)が、今日ご紹介する本は、それに似たような言い伝えを実証しようとした人の書いた本です。
「カマキリは大雪を知っていた 大地からの”天気信号”を聴く」(酒井與喜夫・著 農文協)
カマキリは、タマゴ(卵のう)を木の枝などに産みつけることは、子供のころカマキリを追いかけた経験や昆虫図鑑を夢中で読んだ方は誰もが知っています。
そして、全国の言い伝えの中には、「カマキリが高い場所に産卵すると、その年は大雪になる」というものがあります。
著者は、その言い伝えと経験から、それが本当であるということを証明するべく、長い年月をかけて記録や観察をし、仮説を組み立てて行きます。
その大胆な仮説と、長い年月の観察とその方法の工夫には目を見張るものがあります。
しかし、仮に、カマキリが著者の主張どおりその年の降雪量を予知できる能力があったとしても、「なぜ、その最大積雪量(高さ)に合わせてギリギリの高さに産卵しなければならないのか?」という、導入部分があまりにお粗末です。
著者の主張の前半部では、
1)雪に埋まってしまうと、カマキリの卵(卵のう)はほとんど孵化しない(死んでしまう)
2)しかし、あまりに高すぎる場所に産卵すると、野鳥に食べられてしまう
3)従って、そのシーズンの最大積雪量の面辺りの高さに産卵するので、産卵の高さでもって積雪量が推し量ることができる
というものでした。
カマキリの卵が野鳥に食べられるのはわかりますが、しかしそれでも著者のいうような「雪面ギリギリの高さ」に産みつける理由にはなりません。著者はあまり高すぎるところに産みつけると野鳥に発見されやすいからだ、と主張しますが、野鳥は冬に雪面を歩いて落ちた木の実などを探し歩きますし、枝から枝を飛び移って木の実を食べたりもしますから、雪面ギリギリもそれよりも高いところでも、鳥から発見される率は変わりが無いと考えます。
「雪に埋まると死んでしまう」というのは、著者が実際に観察して得た結果ではなさそうです。
後半部分では、あれほど精力的に卵のうの高さと降雪量について観察し記録する著者が、その最も基本的な導入部である「本当にカマキリのタマゴは雪の中では死んでしまうのだろうか?」ということについては、全く観察をしていないようです。
秋に集めておいた卵を雪に埋めて実験をしてみての孵化率をみるとか、そんな方面のアプローチはありません。
冬眠や越冬をする昆虫ですが、雪の下に埋まる土や枯れ枝の隙間などで冬眠し、じっと春を待ちます。クモやハチやアリ、カメムシ・・・みな、そうです。ガなどのタマゴも同じです。
なぜ、カマキリのタマゴだけ、雪にめっぽう弱いと言えるのでしょう?
また、進化の手段から考えても、あるいは目的(孵化)達成への確実性を考えても、タマゴをうまく越冬させたいならばそんな降雪量のギリギリを知るという超能力を得るよりも、多少の風雨や雪に耐えうる構造の卵のうを産む能力を身に着ける方が簡単ですし確実です。
小さな昆虫のか弱い能力では、大自然の脅威に対抗し得ない・・・と思いそうですが、そうとも限りません。
たとえばスズメバチの巣は台風が来ても壊れませんし、豪雨に見立ててどんなに水をかけても内部までそれが届きません。むろん、木々を加工した巣とタマゴでは材料が違いますが、タマゴそのものを強化しなくとも、産卵場所を強化すればいいだけの話です。あるいはもっと単純に、倒木や枯れ木や地中に産みつければ済む話です。
この、「カマキリが大雪を知る・予測する必要性」が説明できないと、後半でいくら大雪と産卵場所の高さの因果関係を説明されても、それは説得力がごっそりと裂かれてしまいます。
そもそも私は、雪の里山を相当歩いた経験がありますが、著者の言うような低過ぎず高過ぎない雪面近くでカマキリのタマゴを見つけたことは皆無です。
また、秋には草原で草丈の低い草に産み付けられた卵のうをよく見かけましたが、そこは冬には2mくらいの雪に覆われてしまいます。
したがって、
「もし、私の見たその卵のうが雪により全滅したと考えるならば、カマキリには豪雪を知る能力は無い」
「もし、私の見たその卵のうが雪に覆われても生き残っているのならば、著者の雪に埋まると孵化しないというような主張は誤り。さらに、高く産む(気象を知る)必要性が不明であることから、果たして本当に豪雪を知っているのかも疑問になる」
という論理になります。
つまり、私の「低い位置に生みつけられた卵のうも良く見た」という経験に基づく限りでは、論理的には少なくとも著者の主張の中ではいずれかのうち1つは(もしくは両方とも)間違っていると言えます。
仮に、「いや、2m程度では雪の重みも少ないし、卵のうが何とか耐えられるのだ。新潟などのように5〜6mもの極端な豪雪のところ・豪雪になる冬になるときでは、雪の重みも相当なものなので、カマキリも死活問題なのだ」という反論があるかもしれません。
しかし、その場合は、「カマキリが予測した最大積雪量よりも『2m程度下に』産卵する」ことの方が、著者の言う「野鳥からの食害」に遭うことも無く、雪の重みにも耐えられ、カマキリにとって都合がいいはずです。しかし、著者の観察からは、カマキリがそのような産卵はした=毎年の積雪量は産卵場所の高さ+2mである、とは書いていません。
著者はカマキリは杉の木に好んで産卵するとしていますが、その理由の分析を、冬でもトゲトゲの多い葉は、野鳥が嫌がるから卵が食べられにくいからだろう、という主旨のことを書かれていますが、それもそんなことはありません。杉の木は針葉樹だけに、野鳥が冬に外敵から隠れるのに都合が良いですし、寒さ避けにもなります。バードウォッチングをしている人ならば誰でも、杉の木に鳥がとまってしまい見づらくなるという経験を持っていると思います。
確かに面白い仮説ですし、昆虫や動物は人間には計り知れない能力を持っていることも認めます。また、著者の不思議と思われることを既存の常識にとらわれずに検証をしようと努力する姿勢は大いに評価されるべきものだと思います。
しかし、どうも「まず結論ありき」の感で「そのはずだ」と思いこんでいる著者の強引な展開という印象は否めません。これは既存常識にとらわれずに新たな研究や観察をしようとする場合には大事な情熱でもありますが、一転陥りやすい本末転倒な形です。
後半になると、もはや「トンデモ科学」のような展開ですし・・・。
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はじめまして。素人なりに動物のことをブログに書いています。
izumiさんのブログ、すごい説得力です。ぼくの知らないことばかりだし、お気に入りに登録させていただきます。
2008/3/1(土) 午前 9:51 [ 鳥獣子 ]
kuwatakayosiakiさん、ご訪問とコメントをありがとうございます。
kuwatakayosiakiさんも、動物のことでブログを究めようとなされているのですね。いろいろとご教示くださいませ。
私は、3年前までに、3年間、地元の「泉ケ岳」という山にある自然体験施設で働いておりまして、山暮らしをしていましたから、いろいろなものを見聞きしました。
その後もそんな感動を味わいたくて、山歩きをしております。
自分だけの体験では限界がありますので、いろいろな方の体験談や研究成果の本を読んでいます。この本もそんな1冊でした。
山ではそれまでの常識では理解しがたい出来事もありますし、動物にも植物にも、驚くほどの能力があります。しかし、それでもいろいろな議論をして、真実に近づくべきですね。
著者を悪く言うつもりはありませんし、私が正しいとも思ってもいません。
いろいろな意見で、動物たちの驚異に迫れれば、楽しいですね。
これからもよろしくお願いいたします。
2008/3/1(土) 午後 10:30 [ 泉ヶ岳 ]
実際に、この酒井さんの研究の問題点を指摘する研究者がいて、今年の応用動物昆虫学会でも、発表されていました。幾つかの点について指摘していましたが、izumiさんが主張されている、「雪中でほんとうに卵が死ぬのか」についても実験をされていました。
結論から言うと、雪中で卵は死なないようです。安藤喜一と言う方です。その他でも「ありえない話」として主張を展開されているようなので、ご興味があれば調べてみてください。
2008/4/21(月) 午後 2:21 [ armyant ]
armyantさん、コメントとご教示ありがとうございました。
お教えいただいたお名前でgoogle検索をしましたところ、ご本人様のではありませんが、その学会にご出席された(?)方のブログを拝見することができました。
専門家の方の分析は、やはり私なんぞよりも高度で簡潔・実践的なご指摘のされようでしたね。
一方で、私も自分の思い込みで見失わず、いろいろな方のご意見をうかがうのは大切だなあ、とあらためて思ったしだいです。
2008/4/22(火) 午前 1:15 [ 泉ヶ岳 ]
2010年度の冬は各地で大雪でしたが、さて、くだんのお人は秋のうちにこの大雪を予想していたのかな?と疑問に思っていたのですが、晩秋ごろ、ラジオ番組に出演して今年は大雪になるという予測を述べていたという情報を目にしました。
どの程度の積雪量だと語っていたのか?
例年はどのように語っていてどういう結果だったのか?
そのころ気象庁などの長期予報はどうであったか?
…などなどの疑問は大いに残りますが、当たりは当たりではありますね、一応。
2011/2/20(日) 午後 10:15 [ 泉ヶ岳 ]
一方、著名なカメラマン氏は先月、ご自身のホームページで熊の異常出没はこの豪雪を予測していたからではないかと思っていた、などと、熊の行動からこの豪雪を予想していたかのようなことを書かれています。
しかし、私が知る限りは同氏が秋のうちに=事前に豪雪予測を公表していたという形跡は見られません。
もしも事前公表が無いなら、どこかの子供のように、「やっぱり、俺はこうなると思っていた」と言い張っているだけに過ぎないように思います。
まあ氏は「誰かのため」ではなく「ご自分のため」にやっているのでしょうから、別に根拠を明示されなくとも構いませんし、たかだか一個人の思いこんだ自慢話に真面目に付き合う必要もありますまい。
ただ、「そういう人」なんだなぁ、やっぱり。そう思うまでです。
2011/2/20(日) 午後 10:24 [ 泉ヶ岳 ]