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私は、常々、人間の不完全さを実感しており、昨日書いた「マングース」の一連の話題にしても、自らまいたタネに右往左往大慌てなのを見るにつけ、馬鹿だなあ、と失望します。 さて、私の尊敬する随筆家の1人、故 山本素石さんの「山本素石の本3 山釣り夜話」(筑摩書房)には、彼のこんな文章があります。少し長いですが、引用します。 川の中を歩いていると、瀬尻の緩流に群遊していた小魚たちが、矢のように水中を走って逃げまくる場面をよく見かける。数十尾の群れが、いっせいにサッと逃げ散るのである。
川底には大小さまざまの石が突き出ているし、流れはその隙間を縫って圧力と方向を変えている。逃げ散る魚群のうち、何尾かが失敗して、石のどれかにぶつかって怪我をしてもよさそうなものである。だが、そういう事故はまだ見たことがない。あれは一体どうなっているのだろうか。 【略】ごく常識的にながめて、私は人間の事故とくらべてみたくなるのである。さしずめ人間だったら、ブロック塀か電柱にでも頭を叩きつけて重傷を負うところだが、魚たちはうまく逃げるものだ、と、いつも感に打たれる。鳥にしろ昆虫にしろ、実にうまいものである。 人間は一番狡いくせに、一番たいせつないのちを守ることにさえなぜこうも鈍くさいのであろうか。いや、狡いからこそいけないのだ、と私は思っている。智者が智に敗れ、策士が策に溺れるように、狡さによって人間は知覚本能や予知感覚を鈍らせてしまたのえはないのか。 (「甚右衛門」より抜粋) はなはだ同感で、私の仕事は施設の安全管理・事故予防ですが、そのための装置を見ていると、よく考えられているのを実感します。 例えば、異常信号が発生したときには、信号が監視室ではなく現場に行かなければ解除できないという仕組みのものがあります。これは、「誤報だろう」と監視室に座ったままで決めてかかって現場に行かないということがないように、あえてそうしている構造です。 しかし、これをそういうものだと知らずに、「現場に行かないと解除できないのは不便だ。監視室で(あるいは、監視室と現場の両方で)解除できるようにしよう。合理的だ」などと小賢しい知恵で改造したりすると、いずれは「どうせ誤報だろう」と現場に確認に行かなくなる監視員が絶対に出て来ます。 ですので、私は施設スタッフには、「頼れるのは、機械でも、他人でもなく、自分」ということをよく言います。 人間、多少の不安や緊張があった方が緊急時や普段の動きが良くなるもので、機械が完璧だというようなことを話そうものなら、「自分が何もしなくとも機械が管理するから大丈夫だろう」という、自分の目で見たものよりも機械を信じるような、そういう本末転倒になることは間違いないのです。 「便利になるのが、必ずしも良いとは限らず、却って不便になることもある」というのは私が常々肝に銘じていることです。業務の改善や効率化を図るのが好きですが、一見無駄に思えるものでも実は重要な意味を持っているということはしばしばありますので、「それが、そうである理由。それを、今までの担当者がそのままにしていた理由」というものをまず熟考することは、忘れないようにしています。 ちょっと危ないところがあって、それは普通、誰もが「危ない」と認識しているから、自然に注意して誰もが注意しているところなのに、何かその危なさを軽減する道具を使うことで、その注意をしなくなる人が出てくるのが人間です。 90の注意力があって、それに5の安全装置をつければ95の総合力になるところ、「5がついたから大丈夫」と注意力を80に落としてしまって総合で85なんてなったりするんですよね。これじゃあ中途半端な道具は無い方がマシという話。 そういった意味では、おととい書いた「羽の無いテントウムシ」を作りだした研究者は、「これは便利でいいものだ」と思ったのかもしれませんが、必ずしも良いとは限らないという典型例でもありますね。 ブログを再開したころにも書いたものに、「ホンダが、縦列駐車が苦手な人のサポート機能を自動車に持たせボタン1つで操作できる」という新聞記事を批判したことがありました。 それは、そんな程度の車幅感覚・力量で、幼いお子さんも歩く街中を運転すべきではないという主旨です。 それに正反対な技術は、今年初めにご紹介した記事のとおり、ハイブリッド車などで音が非常に静かな車に、あえて音を出す装置をつけるというものですね。 しかし、こういう「安全装置」の話を聴くと、ウンザリします。 7月24日の「レスポンス」の記事です。 カーナビと連動してカーブでの運転をサポート…日産 フーガ 新型に採用 7月24日16時10分配信 レスポンス 【前略】 今回開発した技術は、カーナビからの情報をもとにカーブ進入時にドライバーのアクセル操作とブレーキ操作をサポートする「カーナビゲーション協調機能付インテリジェントペダル」と、カーブ走行中の車両挙動に応じてアクセルおよびブレーキ制御を行う「アクティブスタビリティアシスト」で、それぞれドライバーの快適な運転を支援する。 カーナビゲーション協調機能付インテリジェントペダル(ディスタンスコントロールアシスト)は、2007年12月に現行のフーガに採用された車間距離維持支援システム「インテリジェントペダル(ディスタンスコントロールアシスト)」とカーナビを組み合わせることで、地図データより取得した前方のカーブ情報に応じてアクセルペダルに反力を発生させ、戻す操作を支援するというもの。ドライバーがアクセルを離すと、滑らかに減速制御を行う。カーナビとアクセルペダル、パワートレイン、ブレーキを統合制御したカーブ走行時の運転支援システムは、世界で初めて。 また、アクティブスタビリティアシストは、ブレーキやステアリング、エンジンを統合制御することで車両の横滑りを防止する安全装置「ビークル・ダイナミクス・コントロール(VDC)」のシステムを応用し、車両の動きを滑らかに制御することで、ドライバーが安心して運転を楽しめることを目指した。具体的には、コーナリングスタビリティーアシスト機能、左右制動力配分機能、ブレーキ効き感向上機能を持ち、ドライバーの意思どおりの「効きが良い」と感じられるブレーキフィールを提供するとしている。急激な心臓発作などの特殊な場合を除けば、カーブの手前で減速する操作もできないような人間に、公道を運転させちゃいけないよ、と思うのは私だけでしょうか? こういうのを、私は「いらない努力」「無駄な研究」と思いますし、私の祖母や母は「便利の不便」と言います。 もう1つ、日産は妙な装置を考えたようです。 同じく7月24日のフジサンケイビジネスアイ 「衝突しない車」米で量販 日産、11年までにインフィニティ搭載 7月24日8時16分配信 フジサンケイ ビジネスアイ 日産自動車が、車の前後左右など全方位からの衝突を回避できる安全技術を高級車ブランド「インフィニティ」に搭載し、米国市場で2011年までに発売することが23日、分かった。全方位での衝突回避技術は、高速走行が多い米国で、ニーズが高いと判断した。こうした安全機能を持つ量販車は世界初という。「ぶつからないクルマ」としてまず、米国市場での販売動向をみて、その後日本への投入も検討する。 インフィニティに搭載する安全技術は、センサーが車両や障害物を検知すると車内にいるドライバーに表示と音で知らせる。同時に、自動的に各輪にかかるブレーキの強さを制御することで、減速しながら障害物との方向を変え、衝突を回避する仕組み。センサーは前部と後部、左右に設置されており、ほぼ全方位からの衝突を避けることが可能という。 前部センサーは、先行車両に近づいたときに車間距離を保つ役割を担う。衝突リスクが高まると、アクセルペダルが上がり、速度低下をもたらし、ブレーキが自動的にかかる。後部センサーは駐車時、車両を後退させる際に機能する。センサーが障害物を検知するとブレーキがかかり、停車する。 左右のセンサーは、車線を変更したり、高速運転中に追い越す際に機能する。車線変更しようとした時にセンサーが車両を検知すると、ブレーキがかかり警告する。ただし、左右のセンサーについては、年内に日本で発売予定の高級セダン「フーガ」に導入する計画だ。 日産は、歩行者事故防止に向け、IT(情報技術)を駆使した安全技術の開発にも力を入れている。GPS(衛星利用測位システム)機能付き携帯電話を活用した歩行者注意喚起システムを、NTTドコモと共同で開発中だ。見通しの悪い交差点で、GPS携帯を持った歩行者が接近すると、自動車に向けて音声と画面で注意を促す。 【後略】そりゃあ、物理的に見れば、事故は減る要素はある。 しかし、まず基本は、 車間距離を一定に保つのも 後退させるときの後方確認も 左右に車線変更する際のレーンの確認も 歩行者の安全確保も み〜んな、ドライバーが当然にすべき注意であることを忘れてはならない。 「そんなの、言うまでもないほど当たり前だろ」と思われた読者の方も多いと思います。あくまでも、そんなふうに、これを1つのお守り代わりに使うというのであれば良いのですが、「これがあるから大丈夫」などと思う人間は間違いなく出るし、そもそもそういういらぬ装備を頼って買うような人間は、これがあっても無くても運転すべき能力を有しない人であろうと思うのですよね。 先日のトムラウシ山などの大量遭難死事件なども、もし、自分ひとりで登山に行っていたら、自分しか頼るものがいないのでそもそも行かないか、よくよく準備をしてああもバカバカしい要素の積み重ねdあれほどの悲惨な事件にはならなかったと思う。 思うに、参加者が役にも立たないガイドなんぞを過信して、自分らのすべき行動なども無意識下に手放したことが大きいのではないか。 そう考えると、そういう装置は繰り返すが「お守り」で使える人であれば便利かもしれないが、そうでない能力の人間には、逆に危険な装置とさえ言える。 私の車はエスティマで、様々な装備がついているのですが、見通しの悪いT字路などで便利なはずのカメラとか、後方確認用のカメラはほとんど使いません。しかし、同じような車に乗っている人をスーパーの駐車場などで見かけると、もうモニター画面しか見ずに車庫入れしようとしている人さえめずらしくも無く。危ないって。 狩猟の話でも、昔の火縄銃や村田銃など、1発しか弾が入れられないときの猟銃のときは名人と言われた人が、複数の弾を入れることができるライフルを持つようになったとたん、外すようになったとも聞きます。 果たして日産は、そういう観点で考えたことはあるのだろうか?
エコカーで出遅れ気味だからといって、しょうもない機能で活路を見出すのは止めておいた方が良いのではないかと思いますね。 |
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