日々是雑感

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 先日、岐阜県の奥穂高岳での防災ヘリ墜落事故について書きましたが、事故発生と同じ日、こんな訴訟を起こしたという記事もありました。
 9月12日付けの朝日新聞の記事です。
積丹岳遭難「救助法納得できぬ」
2009年09月12日

■提訴の両親

 これ以上、犠牲者が出てほしくない――。後志支庁積丹町の積丹岳(1255メートル)で今年2月、スノーボードをしていて遭難した札幌市の会社員、【中略・遭難者氏名】さん(当時38)が道警の救助用ソリに一度は収容されながら滑落して死亡した事故で、【中略・遭難者氏名】さんの両親で北広島市に住む【中略・遭難者親族氏名】さん(71)と【中略・遭難者親族氏名】さん(64)は11日、道を相手取り、約8600万円の損害賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こした。

 提訴後、両親は札幌市内で記者会見した。【中略・遭難者親族氏名】さんは「悪天候の中、捜索にあたった救助隊には感謝している。でも、救助方法に納得できず提訴することにした」と話した。【中略・遭難者親族氏名】さんは「自分たちの問題で終わらせるのではなく、救助のあり方を見直すきっかけになればいいと願っている」と語った。

 訴状によると、【中略・遭難者氏名】さんは1月31日、スノーボードをするために友人2人と積丹岳に入り、1人で山頂を目指したが、視界不良で下山できなくなった。2月1日、道警の救助隊は、雪洞を掘って一晩を明かした【中略・遭難者氏名】さんを発見したが、雪庇(せっぴ)を踏み抜き滑落。約200メートル下に落ちた【中略・遭難者氏名】さんをソリに収容して引き上げたものの疲労したため、太さ3〜5センチのハイマツにソリのロープを結んだが、木が折れて再び滑落した。【中略・遭難者氏名】さんは2日に見つかったが死亡した。

 道警監察官室は「結果的に人命を救えず残念ですが、訴状を見てないのでコメントは差し控えたい」と話した。 
 「これ以上犠牲者が出てほしくない」ならば、まず、軽装備で安易に一人で北海道の雪山の山頂に行かないのが順番が先だと思うのだが、その辺の猛省すべき点は記事では触れていないのでわかりません。

 9月11日の北海道新聞に訴状についてもう少し出ています。(※リンク先、以下の最初の記事から更新・大幅変更したようです)
積丹岳遭難死で道に賠償請求へ 男性の遺族
9/11 07:13 北海道新聞

 後志管内積丹町の積丹岳(1255メートル)で今年1月に遭難した札幌市豊平区の会社員【中略・遭難者氏名】さん=当時(38)=が死亡したのは、道警の山岳遭難救助隊が適切な救助を行わなかったためだとして、【中略・遭難者氏名】さんの両親が11日、道に慰謝料など計約8630万円を求める国家賠償請求訴訟を札幌地裁に起こす。 

 訴えによると、道警の救助隊は積丹岳で【中略・遭難者氏名】さんを救助する際に、【中略・遭難者氏名】さんを乗せたそりを木の枝にロープで結んだが、そりが滑落した。【中略・遭難者氏名】さんを放置すれば死に至ることを予見できた上、雪の上にそりの跡があり、捜索が十分可能であったにもかかわらず、捜索を打ち切って下山したことが、「救助するための適切な行為をすべき義務を怠った過失」にあたるとしている。 

 北広島市在住の両親は「山岳救助隊の装備・知識・経験の不足を反省してもらい、同じことを繰り返さないよう警鐘を鳴らしたい」と話している。
 この事件については、2月25日に民主党衆議院議員の鉢呂吉雄氏によって、国会でも質問されました。
 その質問主意書と内閣総理大臣麻生太郎氏の答弁書が見られます。

 これによると、
(1)亡くなった方はスノーボードでの山入りだったためか、装備品は冬山に入るには不十分だった
(2)義務ではないものの登山計画書の提出はされていなかった。もしそれが提出されたならば、道警の方で装備品の確認や注意指導ができたところだった。
(3)この警察官らは、相当に訓練を重ねた隊員であった。
(4)現場は相当な急斜面であり、また相当困難な条件下の救出作業であった。
ことがわかります。

 事故当時・2月2日付の朝日新聞の記事によれば、
【前略】
 道警によると、当時、現場付近は吹雪で視界は5メートルほど。風速約20メートルで気温は零下20度。滑落した【中略・遭難者氏名】さんは意識がもうろうとした状態で自力歩行が困難だったため、救助隊はソリに収容、約1時間かけて尾根の方向に50メートルほど引き上げた。しかし、隊員の疲労も激しくなり、隊員を交代するため一時的にソリを近くにあった直径約5センチのハイマツに結びつけたところ、木が折れたという。 
【後略】
 零下20℃。風速20m。視界5m。
 まあ、これは県警側の説明というのも差し引いても、相当過酷だったことは想像が尽きます。
 そんな中で、今回の訴えでは上記北海道新聞の記事のとおり、ご両親は

雪の上にそりの跡があり、捜索が十分可能であったにもかかわらず、捜索を打ち切って下山したことが、「救助するための適切な行為をすべき義務を怠った過失」にあたる
「山岳救助隊の装備・知識・経験の不足を反省してもらい、同じことを繰り返さないよう警鐘を鳴らしたい」と話している。

と求める。

 上記答弁書にあるような経験と実績が豊富な山岳救助隊員らの「装備・知識・経験」が、「不足」でそれを「反省」しろと言えるとは、どんだけあなたがたご両親は装備や知識や経験が豊富なんですかね?
 その国会の質問主意書でこう質問があって、
【前略】
三 山岳遭難未然防止対策について答弁願いたい。
【中略】
(5) 男性の装備内容は、入山に適したものであったのか、どうか。
【後略】
 その答弁は、ご子息の装備不足についてこうありますが。
【前略】
三の(5)について
 北海道警察によると、本件遭難者の装備品は、冬季において登山する場合に一般的に必要とされる装備品としては十分ではなかったと考えているとのことである。
【後略】
 事後に他人を責める前に、事前にご子息を責めて(教育して)いた方が良かったのでは?

 …まあ、どんな無謀な・落ち度ある市民でも、全力で万全な体制で臨むのが山岳警備隊の義務・業務ではありますがね。
 猛吹雪の中、そりの跡なんて数分も経たずにかき消されるという想像力もありませんかね。そしてその中で体力を使えば、全員二次被害に遭う可能性が極めて大きい中、5人の命を危険にしても救うのが業務だと?
 雪山で猛吹雪なれば、個々人の体力や技能や経験、装備なんかは、野ウサギよりもはかないものというのを、山をほんの少しでも知っていれば、理解できるはずですがね。親子そろって、そんなことも知らないのでしょうか。

 率直な感想としては、そういう自分らの落ち度に目をつぶり、命をかけている一生懸命な人間に恩を仇で返すようなことをしているから、日本全国のまじめな人間、例えば医師などは、やる気も熱意も失って来たりする。

 公園で、遊具に無茶な乗り方をしたためにケガをした子供がいたら、昔は親がしつけが行き届きていなかったことを恥じたもの。それなのに今は、公園管理者をすぐに訴える。
 だから、面倒なことやそんなもので損害賠償を取られてはかなわないと、公園管理者は遊具の一斉撤去をし始めたりして、きちんと遊ぶ大多数の子供が寂しい思いをすることになる。

 それで8千万円からの賠償請求ですか。算定基準がわかりませんが、心情としては、救出費用やら隊員を危険な目に遭わせたという点は加味されているのでしょうか?

 私はこういう考えの人とは理解し合えない。

 しかし、山岳救助隊や消防隊など、自分の命を賭けてでも他人を救おうとする人の精神力や考え方というのは並外れていて、私のような冷血な人間はそう本人や両親の言動に大いに疑問を感じて冷たい意見を吐けることでも、救助隊の彼らの場合は本当に救えなかったことを心底ショックを受けています。
 それは、彼らの仕事は「頑張ったのだから、救えなくても仕方が無い」という考えは基本的に無いからなのです。
 法的、あるいは説明責任としては記事中などにもあるとおり、「状況の中では捜査できずともやむを得なかった」とはありますが、現場の隊員は一生心を苦しめることになります。

 そういうときに、ご遺族からたったひと言、「ご迷惑をおかけいたしました」とか、「ありがとうございました」という感謝の言葉が、彼らの心をどれほど救い、そして次なる救助活動への勇気につながるかということを考えると、やはり私は、このご両親の言動は理解できません。亡くなった息子さんの名前を傷つけているに過ぎません。
 他人事だから、と言われればそれまでかもしれませんが。

 医療の現場などでもそうですが、熱意や善意で全力で行ったことが理解されず、逆に結果責任だけを厳しく問われると、もうその仕事への情熱も公共心も一気に失せてしまうものです。それが、医療崩壊の一因だと私は思います。
 同じように、この両親が絶望的な状況下の中活動した救助隊を責め上げることで、得られるものはなんでしょう?表向きのコメントにあるような、「救助のあり方を見直すきっかけになればいい」などとは正反対の、過酷で命がけで、そして損害賠償や非難だけを受ける山岳救助隊の崩壊です。
 つまり、やがてそんな業務に就く人がいなくなる可能性があるということですね。

 まあもっとも、私が昨日なども書いたように、至れり尽くせりの準備・整備が、本来そこに行ってはならないような人間まで招き寄せるという考え方もありますので、山岳救助隊が全て解散してしまい、「何があっても誰も助けに行かない」という状況になれば、逆に愚かで甘ったれな登山者は減り、事故や遭難そのものも減ったりするかもしれませんねえ。
 医療にしても、崩壊することで受診や手術を受けることが難しくなって、初めて患者は、「ブラックジャック」が好むような、病気やケガを必死で治そうとしたり、病気やケガに注意するようになるかもしれません。
 ・・・案外、社会としてはどうかともかく、人としては健全さを取り戻せるかも?

閉じる コメント(4)

同じことを私も感じていました。
この両親の考え方が全く理解できません。
息子さんをなくし、お辛いのでしょうが、命がけで救助にあたってくれた方々に対してあまりに失礼だと思いました。
この両親も吹雪の雪山に行ってみればいい。
急斜面でそりを引いてみればいい。
自分の体を持ち上げるのさえつらい雪の斜面で大人一人のせたそりをひくのがどれだけ体力を奪うか。
救助隊の方々はこの人を助けるために犠牲になればよかったんですかとこの両親に聞きたい。
本当にびっくりしました。
正気の沙汰とは思えません。

2009/9/18(金) 午後 8:59 [ on ] 返信する

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ONさん、はじめまして。
私の大好きな北海道にお住まいで、旅や登山に充実なされているという、大変うらやましいです(笑)。

道警側の説明では、私は落ち度は全く感じられないのですが、もしこの同じ説明で「装備・知識・経験が不足しているから、反省しろ」というのでしたら、驚くほどの自分勝手か想像力の欠如ですね。

以前も書いたのですが、狩猟とか入山に家族を送り出す人は、もしかしたらそれで死ぬかもしれないという覚悟を持たなければ送り出してはならず、それが嫌なら行くなと必死で止めるべきですね。
送りだした以上は、どこかでその覚悟をしててくれませんと。むろん、実際に行く側も。

しかし、どんな過程や結果があろうと、今日も山岳警備隊だけでなく、警察、消防、救急、医療従事者…は、人の命と健康と安全のために、わが身を危険にさらし削って、働いています。心からの敬意と感謝と、そしてどうかご注意ください、としか申し上げられないです…。

2009/9/19(土) 午前 6:58 [ 泉ヶ岳 ] 返信する

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同感です。基本的に天変地異による災害以外は自己責任として完全自己負担の保険を作り、民間救助体制を確立したほうがいい。 削除

2009/10/27(火) 午前 5:35 [ 松五郎 ] 返信する

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松五郎さん、どうもありがとうございます。

私も家族が大好きなので、もし何か事件や事故に遭えば、半狂乱で今こんな知ったふうな口をきく余裕は吹っ飛んでしまうかもしれませんが、しかし、なんでもかんでも他人のせい、という風潮はどうかと思いますね。

保険会社代理店の方とも先々週、雑談することがあったのですが、最近、損害賠償保険などでも、そういう困ったちゃんが、ここ10年で急速に多くなったということや、それがために、昔は寛容だった各種保険商品やその加入審査もかなり厳格にならざるをえないということを聞きました。

2009/10/27(火) 午前 6:39 [ 泉ヶ岳 ] 返信する

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