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なぜ2700mまで?

 先日発生した「ひだ丹生川乗鞍バスターミナル」での熊の加害事故は、いくつかの検証すべき課題を私たちに残したとも思います。
 こういう事件・事故が発生した場合、その原因や要因を丹念に調べ、その結果を次に活かすことは、今後につながるとても重要なことです。

 むろん、一番は「熊が、なぜ人を襲ったのか?」ということです。
 これは幸い死亡者が出ていないので、皆さんの回復を待って、事情を教えていただくことで、手がかりが得られるかもしれません。
 何か、熊が攻撃してくるような要素、これは何も誰かが驚いて先に石を投げつけたとか大声を出したとか、食べ物を持っていたとか、そういう「人間側からの、直接的な刺激の有無」というのだけではなく、ファーストアタックのときの状況・人の行動が意図せずとも熊にとっては刺激を受けるということもありうるので、そういうことを含めての調査が必要です。

 そして、「熊が、なぜそこにいたのか?」という疑問も、私に限らず事故直後から言われていることですが、同じくらい重要なことです。

 9月20日の信濃毎日新聞の記事です。
標高2700メートル「熊がなぜ高所に」 身を隠す木々も餌もなく 
9月20日(日)
 
 「どうしてこんな高所に熊が出たのか」。観光客らが次々と熊に襲われた乗鞍スカイライン・畳平バスターミナル一帯は、森林生育の上限高度(森林限界)を越える標高約2700メートル。身を隠す木々も、餌もない場所に突如現れた熊に、地元の人や専門家は一様に首をかしげた。

 バスターミナル近くの山小屋「白雲荘」の小屋番、梶清徳美さん(65)は「ここより下の標高約2000メートルの樹林帯は木の実が多くあって熊を見るが、この辺りでは一度も見たことがない」。一帯には、熊の餌になるドングリなどの堅果類や高山植物はないという。小屋から出るごみも車でふもとまで運んでいるため、「生ごみに餌付いたとも考えられない」と話す。

 信州ツキノワグマ研究会理事で県クマ対策員の後藤光章さん(35)は「熊は夏場、実が付く高山植物や草本類などを食べに高所に出ることがあるが、ドングリが実りだす時期は通常、広葉樹林帯にいる。森から森へ移動する途中だったのか…」と不思議がった。

 後藤さんは、熊が多くの人に襲いかかった点についても「母熊が子熊を守ろうとして人を襲うことはあるが、雄が9人も襲うという事例は聞いたことがない」と指摘。「よっぽどのパニック状態にあったのではないか」と推測している。

 県内でも6月に木曽郡木曽町の山林で山菜採りの男性が子連れの熊に襲われ、頭や顔などにけがをし、8月には上田市真田町でわなにかかった熊を見に行った夫婦が軽傷を負った。9月にも木曽町の山林内で山仕事をしていた男性が襲われ、右手の骨折などの重傷を負っている。

 ただ、県が今秋に行った堅果類の豊凶調査では、県内はほぼ全域で平年並み。事故現場から最も近い調査点がある東筑摩郡朝日村御馬越も平年並みという。県森林づくり推進課は「森林以外で数多くの熊が出没するような状況ではない」とみている。
 まとまっていて、良い記事だと思います。

 理屈では熊の生息域ではありますので、いくら現場の高度が2700mと高くとも、いることが「絶対にありえない」わけではありません。
 しかし、「森林限界」以上の、熊にとっては今の時期、身を隠すことも食べるものも少ない場所にわざわざ来るのはどうしてか?ということです。
 むしろ、「そこに来る理由が無い」どころか、既に人が多く集まっているバスターミナルは、その周辺は相当に見通しが良いこともあって、熊が喧騒を出している人間に気づかないわけがないのではないか?=「そこは来たくない場所」ではないか?と思うのです。
 それなのに、登山道近くまで、しかも晴天の昼間に、人が既に多く集まっているところに出没した。

 これを推測しようとすると、一般的に考えられるのは私は2つあると思います。

 1つは事故直後から言われていることでもありますが、既に以前からバスターミナルなどに何度もやって来ているなどして、「その場所や人に慣れていた」ということ。
 記事には「小屋から出るごみも車でふもとまで運んでいる」ということですが、これはバスターミナルとは別の山小屋のお話しですから、肝心のバスターミナルはどうだったのか?はわかりません。周辺施設で統一した対応をしていると思いたいのですが、それでも、その運搬は毎日なのか、週数回といった定期的なのかにもよります。

 しかし、もしもそんな「餌付け」がされていたならば、もっと頻繁にこの付近で熊が目撃されていても良いはずです。
 ところが事故発生直後は山小屋の方が「付近で熊はめずらしい」と証言されています。
 もし、残飯の処理が熊を招いたのであれば、他の熊を含めてたびたび目撃されていてもおかしくはないはずですし、その他の動物などもやって来ていても良いはず。また、目撃はされていなくとも、残飯を食い散らかされるなどの被害が繰り返されるなどし、既に問題になっていて・対策がとられていてもおかしくはないところです。
 また、熊の様子からしても、「そこに慣れた熊」とも思えない慌てぶりに思えます。もし、すっかり餌付け状態になった熊であるとすれば、施設や人に近づいてきてからの行動がどうもパニックになっているとしか思えない。いわゆる「新世代ベア」と言われているような、人に慣れてしまった熊であれば、もうちょっと行動が違っているように思えるのです。

 と、いうわけで、「施設や観光客から出た残飯などによる餌付け説」は、私はどうも疑わしいように感じます。

 そうであれば、もう1つは、「食べ物の採取または探すのに夢中で、そこまでやって来た」ということ。
 それならば人に気づくのが遅れ、気づいたときには間近でパニックになったということ。これであれば、事後の興奮状態もうなづけます。

 私も山で熊に遭遇した場合や観察した経験からすると、食べ物のある場所で食事中であるとか、食べ物を採ろうと活動しているときが、最も熊が周囲に警戒を払わないときと、知っています。
 これは熊に限らず、他の多くの生きものでも言えます。(だからこそ、山菜やキノコ採りの人がやたら遭遇・事故に遭ったり、農作物を食べに来た熊が人をケガさせたりするのだと思われます。「食べ物」という最大の関心ごとで周囲に鈍くなり、そして遭遇して慌てる、という構図。)

 事故後、付近を見回っても、他の熊は見られなかったという信濃毎日新聞の記事があるくらいですので、そうであれば、やはり「餌付け」されていたような状況下とはなお考えづらいという裏付けでもありますし、今回射殺された熊だけの行動であり、言ってみれば「たまたま」そこに来たのではないか?ということになります。
 9月21日の信濃毎日新聞の記事です。
熊襲撃の乗鞍、バス運休や通行止めに困惑 ほかの熊は確認されず 
9月21日(月)
  
 観光客ら9人が熊に襲われて重軽傷を負った岐阜県高山市の乗鞍岳で、岐阜県警は20日、現場周辺の山中などを捜索し、野生の熊が出没する可能性があるエリアを調査した。熊が出現した乗鞍スカイライン・畳平バスターミナル周辺では以前から熊の目撃情報が寄せられており、高山署員と猟友会メンバーらが近くの登山道などを点検。この日の調査では野生の熊は確認されなかった。
【後略】
 「野生の熊」の姿の有無だけではなく、足跡とかフンなどの「フィールドサイン」の有無まで確認したかどうか記事からではわかりませんが、少なくとも常識的に言ってそういうものを含めて確認するはずでしょうから、それらまで検索してもなお、気配が感じられなかったので通行止めの解除をしたはずです。
 このことからも、やはりこのバスターミナルが熊たちの「餌場」になっていたとはちょっと考えられません。

 本来、その高度や場所にいそうにもない野生動物がそこにいる、という有名な事例は、南極のドライバレーでは海岸から遠く離れた場所でアザラシのミイラが見つかっているということや、ヘミングウェイの短編小説「キリマンジャロの雪」で一躍有名になった「豹」があります。

 「ドライバレーのアザラシ」は、そのミイラの年代測定が不確かということもあるのですが、数年前とも数十年前とも数千年は経っているとも、いろいろ言われています。
 もし、千年単位のもので、それくらい「ほんの最近」まではそこもアザラシが棲める場所であったのに、急激にミイラになるような環境の劇的な変化があったということでしょうか?
 これもよくわからない不思議な話です。

 「キリマンジャロの豹」というのは、ヘミングウェイの創作ではなく、これも事実のようです。
 この名作の冒頭で、
 キリマンジャロは、高さ5950メートルの、雪のおおわれた山で、アフリカ第一に高峰だといわれる。その西の頂にはマサイ語で”神の家(ヌガイエ・ヌガイ)”と呼ばれ、その西の山頂のすぐそばには、ひからびて凍りついた一頭の豹の屍が横たわっている。そんな高いところまで、その豹が何を求めてきたのか、今まで誰も説明したものがいない。
 キリマンジャロも近年、山頂の雪が急速に消えつつあるという指摘もされていますが、このキリマンジャロの豹が生きていたときは、その瞳にどういう風景があったのか、わかりません。

 「そこに山があるから」などというマロリーの言葉ではありませんが、動物も、新たな土地を目指すフロンティア精神があるのかもしれません。
 それが何も人間のような「冒険」「挑戦」の欲求や意思があるという擬人化の意味ではなく、生きるためには常に新たな餌の豊富な場所を探して行かなければならないわけで、それまでの場所が絶望的になったのであれば、新天地を求めて、それまで近寄りもしなかった場所にも足を向ける…ということは、地質学的・生物史的な生物の分布の広がりを考えても、それは無茶な推測ではないと思うんですけれどね。
 人間の「冒険」「挑戦」「フロンティア精神」などなどというのも、本来はそんなものが始まりでしょうから、ある程度の生物になれば同じような行動があってもそれほど不思議ではないような。

 ちょっと横道にそれましたが、この今回の熊も、単に食べ物を求めて歩き回っただけとも言えるけれども、もうそれまでいた場所に見切りを付けて、まだ見ぬ夢の新天地を探して旅に出た…というのも、案外ありかもしれない。
 そして、その志し半ばで、人・熊両方にとってお互いの悲劇的な事故によって夢倒れた。
 何だか、この熊の「こんなはずじゃなかった」という嘆きが聴こえて来そうだ。

 もっとも、もうこの国には、どこに行こうとも熊にとって夢の新天地なんて存在しないかもしれないけれど。

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登山が趣味の者です。
今回の事故についてはものすごい衝撃を受けました。
いくらお腹が空いてるからって、わざわざシルバーウィークで混み合ってるバスターミナルに出没するなんて…。なんで?クマさん…。
きっと、本当に食べ物探しに夢中だったのでしょうね。
本当に悲しい事故だと思います…。

夢の新天地かぁ…、もう残ってないかもしれないけれど…、
少なくともこれ以上減らしたくはないなぁと思いました。(R)

2009/10/20(火) 午後 2:00 今井T&R

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今井T&Rさん、こんばんは!コメント、どうもありがとうございます。

この熊も、最初から人間を襲うためにそこに行ったわけではないのはまず間違いないでしょう。
私の観察フィールドの泉ヶ岳での事故のように、あっちにも人、こっちにも人、と逃げ回ってそこに至ったところ、そこにも人、で、パニックになったのかもしれません。

言葉が通じる同じ種の人間同士でも、コミュニケーションや相互理解は難しいのですから、熊が何をもってそうするに至ったのか?は、永久にわからないのかもしれません。

ブログの森吉山、拝見しました。
すばらしいところですよね。
ああいう自然環境を、次世代に引き継いでいきたいものですね。

2009/10/20(火) 午後 11:26 [ 泉ヶ岳 ]

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