日々是雑感

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 今回は、実業之日本社から平成6年に新版として発行された伊藤正一著「黒部の山賊 アルプスの怪」をご紹介します。
 元々は昭和39年に出版された本で、長い年月を経て、平成6年になって新版となりました。

 ですので、内容はほぼ昭和39年当時の話であり、平成6年の話であってももうかなり昔の話のように感じるくらいですが、それよりもさらに昔・私も生まれるさらに前のことですし、まして、当時の山岳事情・自然環境は話や想像でしかわからないものですから、本に書かれた内容はまさに別世界に感じます。

 内容はタイトルのとおり、「山賊」と、黒部の山小屋を経営する著者の出会いや交流を通じた体験談になっています。
 この当時、黒部には凶悪な山賊が出るというウワサがたったようですが、そのウワサの検証を実際の当事者に会って行っています。

 その他にも不思議な話はいくつも掲載されていて、「山のバケモノたち」という章では、「カベッケの不思議な呼び声」「バケモノに呼ばれた人たち」「巧みなタヌキの擬音」「三本指の足跡」「カッパの正体」…などといった、興味あるお話しが紹介されています。

 昨日紹介しました上村信太郎さんの「山のふしぎと謎」の中にあるお話しも、この伊藤さんの著書からの引用がいくつもあります。
 この本の著者、伊藤さんも、長く山小屋の建設や管理をなされており、本の中にも山での生活や遭難の話などもいくつも書かれており、そんな「山の日常」と、何か非日常のように思えるこれら不思議な話が同じ本の中で併記されていると、山の生活・日常は、そういう非日常との隣り合わせであるように感じてしまいます。

 私が面白いな、と思った話の1つは、「タヌキの擬音」がまずあります。
 山小屋で寝ていると、屋根に大雨が当たる音がして、雨かと窓から外を見ると、晴れているというような、不可解な音を聞くことがあるというものです。
 「タヌキ」がそういういろいろな音を出すという話は、その後もあちこちの本で聞くことになりますが、私はこの本が初めての出会いでした。

 もう1つ、興味深かったのは、「三本指の足跡」です。
 こちらは、上村さんも紹介されていましたが、実際に伊藤さんが黒部川源流をまわった時に撮影した砂地に残る足跡の写真があります。
 ( | )こんな感じでしょうか。3本指に見えます。
 ニホンカモシカの場合はヒヅメですので2本指のような状態での足跡になるのですが、黒部奥地に生息していそうな動物でこのような足跡を残す動物は、経験豊富な著者がわからないのですから、当然、私もわかるはずもありません。
 この付近では、昔から「カッパ」が棲むと伝えられていたために、「カッパの足跡か?」という言われ方もしたようですが、伊藤さんは「ニホンカワウソ」ではないか?と推理されています。
 足跡のあった場所の近くで、岸辺にたくさんのイワナが散乱していたそうで、伊藤さんが聞いた専門家の話によれば、「カワウソは自分が食べる以上にイワナを獲り、それを捨てるという習性がある。そういう乱獲の習性が、減少の一因にもなった」ということで、ニホンカワウソ説になったようです。
 確かに、黒部の奥地ともなれば、外界とは隔絶された地域ですので、ニホンカワウソが数を減らした理由である各説、乱獲や病気、環境の変化といったものの影響はその他の場所に比べ、この昭和30年代末までは少なかったと思われますので、もしかしたら少なくとも当時は、黒部源流にも棲息したのかもしれませんね。
 しかし、それから40年以上も経っていますので、さすがにもう黒部奥地といえども、もう、カッパであろうとニホンカワウソであろうと、元気に過ごせる環境ではないかもしれません。

 この本は、自分が見ることができなかった昭和30年代ごろの、まだ日本には自然が豊かに残っていて、カッパや「バケモノ」が生きていける余地のあった山野を、冒険心をくすぐる描写で活き活きと描かれています。
 そんな時代の黒部に行きたかったなあ…と思うのですが、今、山の体験談を書いたとき、これから40年後の子孫の代に、「そんな時代の山に行きたかったなあ」と思われるような環境の変化は感じさせたくない・残したいと思います。

 この新版も店頭では手に入りませんので、古書店やネットオークションで気長に探すしかないと思います。

「【自然の不思議話の本 紹介】」書庫の記事一覧

閉じる コメント(2)

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いちど読んでみたいですね。神田にでも行って探してみます。

2009/12/1(火) 午前 11:08 [ プーサン ]

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こういうお話しは、自分の経験とイメージの中で怖さが増幅したり、逆に何も感じなかったりしますね。

ですが最近は、「人」が怖い時があります。プーサンさんのお話しにも度々出てくる、ちょっと常識ハズレな人とか…。
最近流行りの怪談話は、幽霊やら怨念やらという超常現象よりも、ストーカーやらの「人」のものも多いですね。
怖いのを味わいたいならばもう本を買うまでも無く、新聞の社会面なんかは恐ろしい話だらけ…という昨今で、それが「事実」だけに怖さ倍増です。

2009/12/1(火) 午後 8:53 [ 泉ヶ岳 ]


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