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まずは11月11日の朝日新聞の記事から。 クマ射殺、先走る是非論 抗議相次ぎ地元困惑 2010年11月11日 【前略】 「なぜ射殺したのか。クマに非はない」「福祉施設なのに、動物に優しくできない人が人に優しくできるのか」 10月に女性看護師がクマに襲われた勝山市のデイケア施設に届いた手紙だ。クマは一晩施設内にとどまり、その後市の依頼を受けた地元猟友会員によって射殺された。九州から出された手紙の主は匿名。文字や書き方から中高年の女性と見られた。 施設の池端定男デイケア長は「いろんな意見があるのはわかる。でも我々が射殺したわけでもなく、なぜこんな手紙が来たのか」と複雑な表情を見せた。 勝山市にも、メールと市のホームページへの書き込みだけで抗議が約50件。電話も数多くあったという。麻酔銃を使うべきだという対処法への批判から、「女性が不用心だったのが悪い」といった心ない言葉もあった。 大野市でも昨年、市中心部の公園でクマを射殺した際、公園なのに山中で殺したと勘違いして批判するメールが動物愛護団体などから届いた。両市とも多くが東京や大阪などといった都市部から発信されていたという。 ただクマと隣り合わせに住む地元では、やむを得ない手段として射殺を容認する声が多い。勝山市の男性(77)は自宅近くでよくクマを見るといい、「解決策として射殺はやむを得ないのでは」。同市の農業の男性(65)も「クマを見るのは日常茶飯事。家の近くでびっくりするし、射殺でも解決出来る方がよい」と理解を示す。 【中略】 麻酔銃を使えばよいという意見も多いが、県鳥獣害対策室によると麻酔銃の所持・使用は登録制で、現在県自然保護センター(大野市)の職員しか使えない。時間をあけて複数回撃たないと麻酔は効かず、人に危害が及ぶ緊急時には射殺を選ぶしかない。勝山市の親泊安次農林部長は「殺したくて殺しているわけでは決してない。やむを得ない場合だけだ」と話した。 【後略】こういう、見当違いな抗議を感情的に・考えも無しに送りつけるような愚かで人間性のカケラも無いような人間にだけは落ちたくないものです。 記事にもあり、私も以前書きましたが、麻酔銃なんてものは映画やマンガではないのですから、当たった瞬間にグウグウ眠りだすような簡単なものでも、ましてはその命中させるのも簡単なものではないのです。 このような的外れで常軌を逸した批判・圧力は、冷静で裏付けのある慎重意見にまで同類と誤解されてしまったり、調査をする際にも関係者を警戒・用心させてしまってそれが進まなかったりと、害毒でしかありません。 11月22日の山梨日日新聞にも、そんな抗議や要請などへの対応に苦慮する自治体職員の苦悩が触れられています。 クマ 処分か放獣か、市町村苦悩 「市民の安全」と「保護」で板挟み 県、捕獲時の指針検討 保護か殺処分か−。山梨県内でクマの出没が相次ぐ中、市町村がクマ捕獲時の対応に苦慮している。現場に駆け付けた職員の判断に任されているのが現状で、「市民の安全」を優先して殺処分されるケースが多い。ただクマを処分すると、役所に苦情が寄せられることがあるという。県は市町村の要望を受け、クマが出没した際や捕獲後の対応などに関するガイドラインの策定を検討している。 「クマを殺処分したら、電話やメールの苦情が殺到した」。今月、県庁で開かれたツキノワグマの保護管理検討会で、市町村代表の委員はこう漏らした。別の委員からも「市町村がその都度判断するのは難しい」と、対応に頭を悩ませている現状が報告された。 【後略】これも以前から何度か書いていますが、多くの地方自治体では、有害鳥獣を担当する職員は専門の研究をしたわけでも勉強したわけでもない、普通の職員です。法律や条例などに照らし合わせて、個別の案件を許可・対応するというのが実情。 そのような体制を改善するのが必要なのに、ただ圧力のように苦情を殺到させたり、あるいは「捕獲しないように」と要望書を出したところで、何の役にも立ちません。 せめて抗議や要請をするのであれば、「広域的に対応する専門官の設置をお願いしたい」といったような現状を根本から変えて行こうとする働きかけや、その専門官への積極的なフォローやアドバイス、情報提供や寄付をすることの方が重要です。 むしろ、そのような「圧力」は、以前から懸念しているとおり、自治体職員らの初期対応を鈍らせ、その結果重大な人身事故などを引き起こす要因になりかねません。 そんな場合でも、圧力をかけた人や団体は、決して自治体や職員を弁護してくれたりはしません。そういう覚悟の無い思いつきの意見など、私はいい加減、黙殺すべきと思いますね。市民やら国民の「公僕」が公務員ですが決して下僕ではないわけですし、全体の奉仕者ではあっても特定の声の大きな人や団体に対してだけの奉仕者であってはならないわけです。 少数「意見」を黙殺するということではなく、そういう少数意見に対してあまりにも労力や費用をかけるのは、かえって公けの利益に反する行為だとさえ言えるでしょう。 11月14日の東京新聞には、なんと処分までに7時間も行政らと日本熊森協会さんの「にらみ合い」「対立」が続いたという記事が出ていました。 クマ殺処分 行政・住民VS保護団体、対立7時間 愛知県瀬戸市片草町の山林で十三日、おりにかかったツキノワグマの殺処分を決めた行政、地元住民と、処分を阻止しようとする自然保護団体「日本熊森協会」(兵庫県西宮市) が七時間にわたって対立。話し合いは平行線のまま、結局クマは瀬戸市に依頼された猟友会の会員に射殺された。 市環境課によると、クマは九日、イノシシ用のおりの中で発見された。最初は殺さずに放すことを検討し、保護を訴える協会とも協議した。他県に移送を打診したものの受け入れを拒否され、住民の不安も高まったことから、十二日に殺処分を決めた。 十三日午前七時ごろから現地で、協会の会員と、市・県の職員、住民が“にらみあい”。 「クマはおとなしく、人と共存できる」と主張する協会側と、「ここは私たちの生活の場」「けがをしたら誰が補償するのか」と住民たち。午後二時ごろ、クマは殺処分されたが、市環境課の高木啓次課長は「放つのが基本だが万策尽きた」と苦渋の表情だった。イノシシ用のオリでの捕獲というのですから、最初からの有害鳥獣としての熊捕獲ではなく錯誤捕獲なのでしょう。それを殺処分するというのは確かにできれば避けるべきで、公平に言って日本熊森協会さんの主張も理解できなくはありません。 しかし、「クマはおとなしく、人と共存できる」という協会側のせっかくのご意見は、住民の皆さんの「ここは私たちの生活の場」などの意見に対しては全くの無力で空虚でしかありません。 それにしても7時間もこんなことに時間を費やすというのは、様々な事情があったのでしょうけれども、ちょっとどうか?と思います。 瀬戸市の一般行政職員の平均給与月額は平成20年4月時点で491,051円ということですから、単純にこれを月勤務日数23日で割ると1日21,350円。これを8時間で割ると2,668円で、これが時給の目安になります。7時間ということは18,676円の人件費です。もし、担当職員、担当係長、担当課長の3人で対応したのならば、3倍の56,028円が、この対応にかかったという目安になります。 ちょっとその程度のことに、経費(時間)をかけ過ぎでは?と単純に思いますが。 こういう対応は、最初に時間を区切って対応しなければならないと思います。 そういうどっちつかずの対応にならざるを得ないのもわかりますが、それは保護・駆除双方にいら立ちを感じさせてしまいます。 11月20日の日本海新聞を見てみましょう。 揺れる八頭町 ツキノワグマ保護と処分のはざま 2010年11月20日 「環境省が定める絶滅のおそれがある動物」―。10月下旬、八頭町役場で開かれたツキノワグマ緊急対策本部設置会議の席上で、鳥取県職員が発した一言に出席者からため息が漏れた。 ■ぶつかる正論 【中略】異例の会議に県や猟友会、森林組合、警察関係者などが出席。法律に基づき策定した保護計画を説く県職員に、地元関係者が語気鋭く迫る。 「梨の被害はあきらめるが、人間が死んだら遺族は怒りのぶつけどころがない」「おりを破って逃げた場合の銃使用許可を」「数頭出る年と100頭の年を同じ法律で考えていいものか」 さまざまな立場から正論が交錯する中、同町は「町民の安全第一」を原則に、捕獲した個体の殺処分を含む苦渋の対処方針に踏み切る。 ■温度差に苦慮 10、11月と2度にわたった対策本部の設置。冬眠準備を迎えたことで本部は打ち切られたが、依然目撃例があり、予断を許さない状況に地元では継続を望む声も。今年の騒動を機に「長年続けた果樹園をやめようと思う」という農家まで現れた。 担当部署の同町産業観光課は「こういった町民を助けたい」と尽力する一方、役場には保護すべき動物と定められている上で殺処分するのは不当などと、抗議の電話やメールも相次いで寄せられており、職員が多様な意見の対応にも追われる。 効果的なクマ対策には目撃情報が不可欠として、県や同町は情報提供を呼び掛けているが、小林孝規産業観光課長によると「寄せられる情報は氷山の一角」という。度重なる目撃に「いまさら」と通報しなくなるのをはじめ、中には危害を加えられる不安感から「放獣を認めない」との理由で協力しないケースもあるなど、住民の温度差による課題も少なくない。 【後略】こういった住民の不信感が高まり行政頼りにならずと失望感が広がると、「こっそりと駆除しよう」といったことが住民の中で半ば公然とささやかれたり、実際に始まってしまうのを大変危惧します。実際にこれまで何度か紹介してきたような自力救済として密猟行為はしばしば起こっており、こんなことが個々に始められ・広がってしまえば、行政らが適正な頭数管理をしていく上で重大な妨げになりかねません。 このような利害関係というか、様々な立場・思惑が、行政の最前線ではかかっています。
今、必要なのは保護団体の「抗議」や住民の「非協力」でもなく、積極的な理解と支援であり、そして行政はそれに応えられるような体制や予算獲得などを構築していくべきでしょう。 |
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