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熊の冬眠というのは以前から書いておりますように、食糧が著しく不足する冬を乗り切るために身に付けた戦略だと考えられていますが、それでもメスは冬眠している穴の中で出産や授乳をしたりと活動しますし、ちょっとした刺激でも穴から飛び出してくるということがあります。 また、秋に冬眠する体力を蓄えるほどの食糧に恵まれなかった場合や、逆に冬にあっても暖かく食糧が多いという環境においては冬眠をしないという場合もあります。先日報じられたところでは、秋に母熊が討たれて残された子熊が冬眠できずにさまよっているということもあるようです。 ところが、「熊は冬眠する」ということは有名なため、冬山に入る人や山間地域にお住まいの方でも油断するということがありますので、そのようなことはまれにありうるということもしっかりとお知らせしていかなければなりません。 と、同時に、冬眠しない熊が出るということは、だいたいそのような理由があるということですから、それが続発した場合は季節的・人為的な要素があったと考えられると思います。従って、その何らかの要素が増加する=例えば温暖化で冬でも暖かいとか残飯あさりで冬でも食べ物が十分にあるというようなことになると、そういう傾向が定着しかねないとも言えます。 そんな今季の冬眠状況について、まずは1月24日の毎日新聞の記事から。 ツキノワグマ:兵庫の目撃情報、1000件超える 今年度に入り急増していた兵庫県内のツキノワグマの目撃件数が、昨年12月末現在で1614件と過去10年間で初めて1000件を超えたことが24日、県のまとめで分かった。今年度は食料となる木の実が2年ぶりの凶作となり、昨秋の実りのシーズンには1カ月で500件前後の件数が報告された。本格的な冬入りで大半のクマは冬眠中だが、今年1月になってもクマの捕獲例が絶えないことから、県は引き続き警戒を怠らないよう呼びかけている。 【中略】 クマの冬眠入りで1月以降は例年、目撃件数が一けた台に落ち着くが、大人の雄のクマがイノシシのオリに捕まっているのが見つかった事例も、今年に入り報告されている。同センターは「ほぼ大丈夫だとは思うが、決して油断はしないでほしい」と話している。 【後略】1月25日の産経ニュースでは、栃木県那須塩原市に熊が出没し、射殺ということがあったということです。 冬眠中では? 塩原温泉にクマ出没 猟友会員が射殺 2011.1.25 15:20 24日夜から25日朝にかけて、栃木県那須塩原市塩原の塩原温泉旅館街でクマが出没した。25日午前8時40分ごろ、クマは猟友会によって射殺された。地元の市立塩原小学校、塩原中学校などが休校となり、一時、国道400号の一部が通行止めになった。けが人はいなかった。 那須塩原署によると、24日午後8時過ぎ、クマが市内の寺の境内を歩いているのが目撃された。通報を受けた署員が、近くの旅館わきの通路で寝ているクマを確認。25日午前3時ごろ、クマは移動を始め、行方が分からなくなっていた。猟友会が朝になってクマを見つけ、射殺した。 同署によると、クマは体長120センチ、体重35キロで、約3歳の雄。冬場に出没することは珍しいという。冬に熊が出没するのはその他の時季よりはめずらしいですが、全くありえないことではありません。 マスコミが、「冬眠中では?」と、どこか「そんなはずはない」というようなニュアンスの見出しを書かれるのは少し困ります。読者が極めてまれなケースと思ったり、環境などに重大な変化が生じているのではないかなどと飛躍して心配しかねません。 1月25日の日テレNEWS24でも、この那須塩原市の件はこのような報じ方です。 温泉街に冬眠しているはずのクマが… 栃木 < 2011年1月25日 13:13 > 24日午後8時過ぎ、栃木・那須塩原市の温泉街に、1月には冬眠しているはずのクマが現れた。 【後略】1月には冬眠しているはず、というのは確かに通常冬眠している時期ではありますが、出没しても異常事態ではないんですね。そういうこともありえる、ということもあわせて伝えていただきたかったものです。 他の報道も、例えば1月25日のTBSニュースでは、 温泉街にクマ出没、栃木・那須塩原市 【中略】 「クマが今ごろいるのかなと思って、冬眠しているのに。温泉街のほうまで降りてきたのは、25年住んでいて初めて」(目撃者) 【後略】と、目撃者の方がまるでいないものと思っていらしたようですが、ありえないことでは決してないんですね。 ただ、この証言からわかるのは、この目撃者の方が「熊がその付近の、山の方にいることは知っていた」ということと、「しかし、温泉街まで出てくるのは25年間聴いたことが無いこと」ということがわかります。 気象庁のホームページの気温データを見ると、1月24日の最寄りの観測所の大田原では−0.7℃〜3.9℃。ただ、現場は那須塩原温泉市の温泉街で、ニュース映像では積雪上の足跡が見られますから、これよりも数℃低い気温と思われます。従って、「暖かいから」という理由にはなりえません。 計測とニュース映像から見ても、3歳くらいで35kgでは、この時期にしてはやせた個体と言えます。状況から見ての推測は、秋に食べ物を十分取れなかった若い熊が、食べ物を求めて温泉街に出てしまったということです。 環境省が公表している「H22年度におけるクマ類の捕獲数(許可捕獲数)について[速報値]」でも、栃木県内の2010年の捕獲数は前年の3倍、補殺数は前年の4倍です。出没が多い年であったことがわかります。 (それにしても、この一覧を見た限りでは、2010年度が大量出没であったとはいえ、それでも2006年よりは捕獲数は少ない傾向が全国的に言えますし、少ない都県では出没そのものがふたケタであることを考えると全体の生息数もかなり危ういということが逆に浮き彫りになっているように思えます。) 日本クマネットワークさんがまとめ、公表されている「2010年の日本各地域でのクマの動向について(暫定版)」にも、栃木県内では堅果類が不作だったことが触れられていますので、ここから、食糧不足による個体のうちの1頭と思われます。 従って、この地域一帯に生息しているであろう熊のほとんどは同じような状況でしょう。その中でも、この熊のように年齢が若いとか元々身体が小さめといった力が弱く他の熊に餌場を独占されてしまうような弱い立場の熊からさらに食糧不足に陥りがちになります。 この熊はかなり若い熊ですから、その地域で最も食べ物を得られにくい弱い立場であったと思われます。熊の個体数が多ければ、そんな状況の熊はもう少し他にもいてもおかしくはない=まだ出没してくる熊もいると考えられもしますが、この栃木県内における生息数…というかこの秋の捕獲数が他の多い県に比べればかなり少ないわけですから、「余剰」なのは既にあらかた補殺されているのではないかな?=那須塩原での出没はこれで今季は最期かな?というところに落ち着きそうです。 今回の熊が直ちに射殺する必要性があったかどうかは記事からは読み取れず、現場の方の判断がそうだったから危険だったのだろう、としか言えません。 熊にとって悲劇なのは、身体が黒系統の色なのに、積雪した白い世界で、身を隠せるような植物も少なくなっているために、現れればすぐに発見され追跡されやすいという点です。ここで身を隠せないでいる緊張感とか、追われている焦りとか、空腹の場合はそのいら立ちから、加害しやすい状況と言われています。 ただ、人為的にせよ、環境の変化にせよ、本来は穴にこもっているべき性質を有する熊が、食べ物を得られずにさまようということそのものも、様々な意味で危険と言えるかもしれませんし、哀れでもあると思います。 事故が無くて何よりではありますが。 【追記 2011.1.26 20:32】
1月26日の読売新聞の記事によると、栃木県自然環境課の職員のコメントが出ていました。それによると、この個体は生まれつき足に障害があったようで、秋に食料を取れないという状況だったということです。 塩原温泉街にクマ、射殺 【中略】 県自然環境課によると、クマは秋までにドングリなどを集めて脂肪を蓄え、12〜3月にかけて冬眠をするという。このクマは左後ろ足が生まれつき悪く、「木登りができないなど秋にうまく木の実を集められずおなかをすかせて出てきたか、山に入った猟師に驚いて出てきたのでは」としている。 (2011年1月26日 読売新聞)子熊が親から離れる年齢は概ね1歳を過ぎて2歳ごろまでには終えていることがほとんどですから、今回射殺された熊は2回目か、初めての冬だったのかもしれません。 親と一緒の場合は足に障害があっても授乳により、あるいは親から食べ物を得ることが可能ですが、自立した後はそうは行きません。この秋は全国的に不作でしたから、さぞかし堪えた冬だったことでしょう。 典型的な、食糧不足による冬ごもりができなかった個体です。ただ、足に障害が無ければそれも回避できたかもしれませんので、この地域ではまれ、というのもうなづける出来事であり、悲劇ですね。 人間…現代日本の福祉制度がいかにありがたいかを痛感します。 |
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2011年01月26日
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