昨日、スズメバチの樹脂標本について記載したところ、写真にインパクトがあったおかげか、たくさんの訪問者の方にお越しいただきました。
調子にのって、今日もスズメバチの話題です(笑)。
写真のスズメバチの巣は、昨年の秋に駆除せざるを得なかったキイロスズメバチの巣です。
昨年は、昨シーズンが小雪暖冬だったために越冬に成功した女王蜂が多かったせいか、スズメバチの巣がたくさんできたように感じます。
ここで基本なのですが、スズメバチの巣というと恐ろしくただちに駆除しなければならないような、害毒ばかりの暴力団事務所のように思われがちですが、そんなことはありません。
普通の大きさのキイロスズメバチの巣1つで、1シーズンに数十万とも数百万とも言われる昆虫を狩るという試算があります。キイロスズメバチの主な獲物にはハエやアブなどの衛生被害を引き起こす虫やチョウや蛾の幼虫など農業被害を引き起こす虫も含まれているので、巣1つ撤去することは、それだけそれらの昆虫を生き残らせることになるということです。
そもそも、キイロスズメバチであろうとオオスズメバチであろうと、巣に近寄ったり驚かせたりして刺激を与えることをしなければ、まず、人間を刺すことはしません。その点、いきなり殴りかかってくることもありうる人間の方が、よほど凶暴ですな。
さて、そんなわけで、私もよくよくのことが無ければ、スズメバチの巣を撤去するようなことはしません。生命を尊重するので、私が生命を殺傷するのは、「自分が生きるのに必要なときに最低限」だけです。つまり、攻撃からの防御か、生きるための食事か、だけです。
巣を作られて困るような軒先などには、初夏ごろに軽く殺虫剤を散布しておきます。すると、どこに巣を作ろうかと場所選びをしている女王蜂は、そこを避けてくれます。
また、巣作りの時季にはよく観察をし、作られ始めた初期の段階で、やはり軽く殺虫剤をかけたり、蚊取り線香を焚くなどすれば、作りかけの巣を放棄して他に行ってくれます。
ところが、今回撤去せざるをえなかった巣は、建物の屋上付近の軒先(10m以上の高さで、窓は無い)にできた巣でした。これでは予防も、途中での撤去もできません。
一方、私はそんな高い場所にある巣ですから、人的被害はまず起こらないということを上司によく説明をして、駆除はしないように進言しました。
しかし、もし、その巣のハチはお客様を刺さなくとも、他のどこかの巣のハチが刺した場合、「あの軒先のハチの巣を放置していた責任だ」と苦情を言われるのは明らかです。「あの巣のハチが刺したという証拠は?」などという弁護はできそうにありません。
そんなお役所特有の論理から、撤去(駆除)せざるをえなかったわけです。
高さが高さなものですから、高所作業車を持っている業者さんに依頼しなければなりません。
私は大量の殺虫剤を使えば周りにも薬剤が広がると心配でしたので、「薬剤を使わずに撤去してください。」と、少々無茶な注文をしました。
薬剤を使わずに駆除できるの?と思われそうですが、簡単です。
透明の、ゴミ袋を3枚重ねにしたものと、布テープ、ノコギリ、虫とり網、それと熱湯を多めに沸かして準備をしておきます。
夜、大部分のハチが巣に戻ってきますので、作業は夜に行います。そうして、一気に近づき、布テープを巣の出入り口の穴にベタッ!と貼り封鎖します。
若干周りを飛んでいる見張り役のハチは、虫とり網で捕獲します。
そして、すかさずゴミ袋をかぶせて、巣のついている木の枝とか、軒先にあるならばその軒先から、分離します。今回の場合は軒先でしたので、軒先と巣の接着面を切断しました。
袋の中ではハチたちが、巣を中からかじって外に出ようとします。
そうして、巣から出てきたハチは、今度はゴミ袋を食い破ろうとします。もう、巣を直接覆っている1枚目のゴミ袋は、巣から出てきたほぼ全てのハチでいっぱいです。そして1枚目のゴミ袋を必死に食い破ろうとしています。
いずれ、すべてのゴミ袋を食い破って外に出てきますから、この時点で、まだ破られていない2枚目と、一番外側の3枚目の間に、沸かしておいた熱湯をそそぎます。むろん、外に漏れないようにして、入口を結び、蒸し風呂状態にするのです。
スズメバチの耐えられる温度は、46度。熱湯は100度ですから、十分に駆除できます。
今までの羽音とゴミ袋を食い破ろうとする音が、一斉に無くなります。…自分でしておきながら言うのもなんですが、哀れです。仕方がないのだ、と自分に言い聞かせるしかありません。
むろん、このまま山にでも逃がせばそれで殺さずに済むのかもしれませんが、仮に地面に置いて放置すれば、いずれ雨水などでダメになってしまうだけです。ゴミ袋ごと放置しては、山にビニールゴミを投棄することにもなります。かと言って、ここまで袋の中で大暴れしている巣を、適当なケースに移し替えるようなマネはさすがにできそうにありません。
と、いうわけで、撤去すると決めた時点で、殺害するということは避けられないわけです。
こうなったからには、観察や標本にするなどし、また、野山に埋めて土に還す(だから薬剤は使いたくない)くらいしか、私にはできません。
明日は、この巣を解体した様子を、写真つきでご紹介します。
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