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今年はマスコミ報道で、熊の山間地域への出没や加害事故がしばしば報じられています。実際、単に報道件数だけが増えているのではなく、目撃=通報件数そのものが増えているということのようです。 例えば、11月3日の毎日新聞の記事。 クマ:通報、10月は559件 過去最多、県が警戒呼びかけ /富山 県内でクマを目撃したり、痕跡を確認したとの通報件数が10月だけで559件に上り、1カ月の情報件数としては05年の調査開始以来、過去最多となったことが分かった。年間の件数も、被害が多発した06年を上回るのは確実とみられる。住民が襲われる被害も相次いでおり、県は3回目のツキノワグマ出没警報を発令し、警戒を呼びかけている。 クマは県内全域に出没し、市街地での目撃も少なくない。今年の目撃・痕跡件数は10月末時点で878件。06年は年間922件で、関係者は「超えるのは時間の問題」とみる。 【後略】新潟での状況は11月3日の新潟日報から。 クマ目撃最多563件、昨年の80倍 10月県内 10月の県内のクマ目撃件数(速報値、痕跡を含む)が563件に上り、現在の形で統計を取り始めた2006年度以降で最も多かったことが2日、県のまとめで分かった。例年11月も目撃情報があり、県環境企画課は「クマへの警戒を続けてほしい」と注意を呼び掛けている。 クマの目撃情報は、出没の少なかった昨年10月の80倍。今年に次いで多い06年10月比でも38件上回った。これは春にも書きましたが、本当に出没が増えているか、あるいはそれまで目撃しても気にせず何もしなかった人でも通報するようになったか、いずれかと言えます。 行政にしても報道にしても、その辺を履き違えてしまうと、山野に入る人への警鐘になる面はあるかもしれませんが、昨日書きましたように、「熊の出没が異常に多い」と強烈な印象が独り歩きしてしまい、誤った世論形成=行政等の対応に大きな影響が生じかねません。 また、保護あるいは駆除を行うには、生息環境や生息頭数を適切に把握する必要が絶対条件ですが、一般人の目撃件数の通報というのはそのように、世間的な関心の高さや意識などに大きく左右されますので、それでもって「増えている」「減っている」というのも慎重に判断すべき事項です。 さて、熊が人里へ出没するようになった理由ですが、これはいくつもの理由が言われています。こういうものは、どれか1つ、というよりも複合的な要素がからむそう単純なものでは無いのですが。 珍説は、「戦後の林業政策の失敗で、針葉樹林を多く植えたために、食べ物の無い熊が出るようになった。これは人間のせいなのだ」などと、一見もっともらしくとも実に馬鹿馬鹿しい説です。 なぜ馬鹿馬鹿しいかと言えば、戦後の住宅不足解消などで生長の早く住宅用木材となる杉やヒノキなどを植えて行ったのは当然ここ数年というレベルではなく、4〜50年も前からのことだからです。 ここ数年で広葉樹を人為的に・極端に減らすようなことをしたのならばわかりますが、こんな説を唱える人は、里山の状況を知っているか否か以前に、論理的思考ができないと言えます。 一方、以前にも紹介しましたが、写真家の宮崎学氏は、奥山は荒れてなんかおらずそのために熊そのものが順調に増えている地域もある・これは奥山が食べ物が豊富な証拠だ、という主旨の、上記珍説を唱える集団とは正反対の説を唱えます。 しかし、これも同意できる部分は多いものの、以前書いたように、どうかと思っています。 「野山が荒れ果て、食べ物が無くて、仕方が無く民家近くに出ているのだ」と言うのであれば、毎年同じように出没するはずです。 一方、頭数が増えているというのであれば、やはり毎年出没するはずです。 これは、繁殖力が強く明らかに頭数が増えているイノシシやシカの農作物被害が例年右肩上がりに増えていることを考えれば、頭数が増えればそのような被害や目撃件数に毎年なっていくはずということがわかります。 そのように毎年同じように出没しているという事実は無い以上、野山が荒れ果てているという理屈も、熊の頭数が増えているという理屈も、説得力は無いように私は思います。 私は単純に、野山ではある程度自立して生きていける分の食べ物と頭数のバランスが取れているため、今のところ山の食べ物が通常の実りであった場合には人里に出て来ないでいるものの、木々の戦略としての不作となった場合に、ネズミのように移動距離が少ない動物は大量死してしまうが、熊のように学習能力が高く移動距離も大きい動物は、人の少ない地域の農作物や果樹を食べることを覚えたというだけのことのように思います。 かつてはそのような不作のときでも、狩猟圧や番犬の放し飼い、山間地域でも若い人口が多いということなどの理由で山間地域にさえさほど出没しなかった熊が、それらの忌避すべき理由・条件が全て撤去された以上、不作のときに出没を遠慮する理由は少ないというのは想像がつきます。 むろん、最初は、おっかなびっくり、やむを得ず山間部の人里に出没した熊も、いざ、出てみれば思ったより何とも無かった。それどころか、おいしく栄養価の高い食べ物が狭い面積に大量にあるということを学習すれば、木々の実が不作でない年にあっても、やがて、そこを条件のよいなわばりと、優先するようにもなるでしょう。 ですから、今年、昨年よりも多く出没するようになった地域においては、積極的に捕獲し、あるいは威嚇するなどし、木々の実が十分にある年はその場所の中に留まるような学習をさせなければ、次年度以降もいついてしまいかねない恐れがあります。 また、この全国的に木々が不作で、本来は「死ななければならない」動物を農作物などで生き残らせるということは、減る・現状維持にするどころか増やす手助けに結果的になり、そして来年以降は木々の実りが豊作となってしまえば、数年後の次の不作の年には個体数を維持したままの野生動物がまた、しかもこの結果的な餌付けなどで順調に出産するでしょうから、子連れで押し寄せるということになります。子熊は母熊の行動を見てその後の行動パターンを形成するということですから、母熊が人里に出て食べ物を得るということをすれば、その子も同じような行動を取ることになります。 すると、また「子熊がかわいそう」的な話しの悪循環になるというわけです。その悲劇を生みだした一因は、こういう大量出没の年にきちんと対応できなかった地域にあるわけで、出没した年にだけ問題があるわけではないのでは。 ですので、山間部においては特に、農作物や放置されている果樹などは撤去し、出没する熊には恐怖を与えて、山に押し込めるということは、将来の大量捕獲を回避するために、必要なことです。 同時に、一部の愛護団体や人々が主張する「山にドングリ・不要になった農作物をまく」などということはいかに論外な愚かな自己満足行為かということがわかります。 また、昨今では山に広葉樹を植樹するということを始める団体もあるようですが、そのようなことはその地域に元々ある木々本来の拡大戦略を妨害する行為とも言えるわけですから、いかに目先のことかということがわかります。 また、動物というのは人間以外、食べ物などの生息環境が許す限り、増え続けるものです。10のドングリにつき1の熊が生きるとするところ、ドングリが足りなかろうとその地域を20のドングリにしてしまえば、元々の1がお腹いっぱいになり、出産し、3の熊に増え、そしてドングリが足りなくなる…という繰り返しになります。いったいいつまで植樹し続けるつもりなのでしょうか? 不作でも生きていける頭数しか、そこにいてはいけない。人為的に食べ物をばら撒くのも、農作物などを放置して食べられてしまうのも、その動物のためにはなっていない。
そういう疑問を当然、解消してから、ドングリばら撒きだの植林だの、そういう活動をしているのでしたら、ぜひ、どう解消したのかを教えていただきたいものです。 |
【ツキノワグマ・ヒグマ】
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私の興味のあるツキノワグマやヒグマについて、記載しています。
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昨年9月19日に、乗鞍スカイライン・畳平バスターミナルにおいて、ツキノワグマの加害事故としてはまれにみる大量加害事故が発生してしまいましたが、この盛夏に、乗鞍スカイラインにツキノワグマが出没・目撃されるということがあったようです。 8月14日の岐阜新聞の記事です。 乗鞍スカイライン駐車場でクマ目撃 一部登山道進入禁止 2010年08月14日14:07 高山市丹生川町の乗鞍スカイラインの終点近くの乗鞍鶴ケ池駐車場(2694メートル)付近で13日、クマが目撃された。同スカイラインは14日も通常営業をしているが、県などは大黒岳登山道と魔王岳登山道、富士見岳登山道を進入禁止としており、警戒を呼び掛けている。 県によると、13日午後1時30分ごろ、長野県側のエコーライン終点ゲート付近で信州大調査団が1頭を、さらに同5時30分ごろ、魔王岳山頂から北側斜面で山頂施設関係者が1頭を目撃。大きさや毛色、同一のクマであるかなど、詳細は不明という。 県や高山署は、登山道の入り口で警戒や進入禁止を呼び掛けたり、パトロールをしている。県によると、同日11時現在、朝から悪天候が続いているため、登山道の安全確認はできていないという。 昨年9月には、乗鞍スカイライン終点にある畳平のバスターミナルで観光客らがクマに襲われ、9人が重軽傷を負う事故があった。昨年の事故は「シルバーウィーク」中で、現場に多くの観光客の方がいたことも事故の要因になったと考えられます(同時に、死者が出るという最悪の事態も防ぐこともできたと言えます)が、今、ちょうどお盆の時期で、本来観光客の方が多く出ていてもおかしくは無かったというタイミングでしたが、記事によれば悪天候続きということで、それが観光客が大幅に少なめ・外を歩くことも少なくなったということになり、結果的に熊との接触が防げたのかもしれません。また、悪天候でひと気も少ないがために熊が出没したとも言えるかもしれません。 2か所で目撃された熊が同一の個体かどうかわかりませんが、少なくとも昨年の事故発生時はこの高度に現れることはめずらしい、と言われていたことが、やや修正して考えなければならないということになります。 昨年の熊はオスでしたから、これがメスであれば、その子供が活動域を同じにしているとも考えられなくもないですが、それも除外されます。 もっとも、昨年の事故は今回の1ヶ月以上も後の9月19日のことで、その時期には本来、このような高山域ではなく木の実などが豊富になってくる低山域に移動することに反したことが疑問の最大点だったわけですから、今回はこの標高と言えどこの全国的な猛暑、高山植物の実などを求めて移動することはめずらしくないのかもしれません。 信州ツキノワグマ研究会や信州大、岐阜大の調査結果では、周辺にはハイマツやコケモモがたくさんある場所ということでしたから、実は意外でも何でもない、通常的な活動域にこの現場もなっているのでしょうね。 この地域での熊の生息状況や植生がどのようなものかそれ以上はわかりませんが、少なくともこの場所は熊の出没域であることがハッキリしたわけですので、昨年の事故で体制を整えられた施設の方々の連携で今回も目撃から対処までが迅速にできているということは、昨年負傷された方々や、射殺された熊にとっても、わずかでも救いになるのではないかと思います。 同時に、観光地と言えども、そこに足を踏み入れる方は全て、油断せずにそのような場所であるという心構えが必要ということでもありますね。 乗鞍スカイライン沿道の施設では道路開通の時期までに昨年の事故を受けて熊出没時の体制を整えられたということでしたから、それが今回の緊急対応につながっているものと思われ、それが非常に心強いと感じます。 最近熊による事故や目撃の中には、考えてみれば当然、そこに熊が生息・出没してもおかしくは無い場所・地域ではあるけれども、山菜取りや登山といった「山に入る」という非日常の意識ではなく、散歩や農作業など「日常生活」という中で「熊」というそれとは異なる存在を忘れがちの中での接触が見られ、その当然の油断や対策の無い場面での事故というのが気になっていますが、以前も書いたように、山に登るつもりのない予定で山の観光施設のある場所に行く際に、そこに熊を考慮するということが欠けても、それは現状、著しい油断とは思えません。 しかし、それらをあらためなければならないかもしれません。「日常生活に、熊がいる」という意識はなかなか難しいでしょうけれども。 【追記 2010.8.16】 この事故を発生直後から現地などで調査なされている研究者のお1人、NPO法人日本ツキノワグマ研究所の米田理事長に今回の出没について見解をうかがったところ、2700mの高山においてツキノワグマの行動調査を研究している人は極めて少ないが、この高度でもツキノワグマによる事故例は過去にもあり、出没そのものはめずらしいことでもないということでした。 同時に、昨年の事故発生当初は施設に近い場所であったことから残飯による誘引をまず疑ったが、施設も登山道もそれらは厳重に管理されていて、その可能性は全く無いということも確認できているとのことでした。 やはり、この高度でも、観光施設に赴く場合でも、熊には注意が必要と、認識を改める必要があるということですね。
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先日、この全国的な猛暑や北海道での日照不足が山の環境、ひいては熊の行動にどのような影響が出るだろうか?ということを書きました。 今年は春からの天候不順の影響か、全国で熊の目撃件数が増加傾向で、しかもその行動の内容についてもそれまで目撃が無かった場所での目撃や、住宅地への侵入など、それまでとは違う行動が目立っています。 そのような状況も、秋に野山に実りが多くなれば自然と解消に向かうと期待できるのですが、東北森林管理局の調査によると、福島県を除く東北各県のブナの開花状況を調査した結果、全般的に大凶作になるという予測が出てしまいました。 8月12日の読売新聞の秋田県地方版の記事です。 今秋ブナ大凶作 クマ出没に注意 ツキノワグマの餌となるブナの実が、今秋は“大凶作”となる見通しであることが、東北森林管理局の調査で分かった。クマは秋にブナの実などのドングリが少ないと人里近くに下りてきて、農産物を食い荒らしたりする傾向があり、県では注意を呼びかけている。 東北森林管理局によると、県内55か所でブナの開花状況を調べたところ、全く開花していなかったり、ごく少数の木でのみ開花がみられた場所がほとんどを占めたという。 このため、今秋のブナの結実予想を4段階のうちで最も悪い「皆無」とした。過去3年間はいずれも下から2番目の「凶作」で、「皆無」となれば2006年度以来となる。 県自然保護課によると、クマの目撃情報は通常、繁殖期で広範囲に餌を求めて動き回る夏場に多いが、大凶作の06年は11月まで2ケタの目撃が続いた。 今年は7月末時点で257件の目撃情報が寄せられ、過去5年間で最多だった昨年(269件)に迫る勢いという。 (2010年8月12日 読売新聞)以前も書きましたが、野山に登山や山菜取りで入ろうとする人の場合、熊鈴やラジオ、熊除けスプレーなど、何らかの熊対策をして入る=熊を意識しているということがありますが、山間部といっても日常生活の中であれば、熊との思いがけない遭遇が、予期せぬ事故につながりかねず、大変心配です。 この東北森林管理局の発表は、こちらで拝見できますが、宮城県のみ並作、岩手県・青森県・山形県は凶作、秋田県は皆無という結果で、惨憺たる結果です。 しかも、過去3年間の予測と結果を対比した資料を拝見すると、いずれも予想どおりどころか予想よりも悪い結果につながっていることが多く、この今回の結果もさらに悪くなる可能性が高いと思われます。 熊は雑食性であるおかげで、様々な食べ物を食べて生きながらえることができます。ブナの若芽や実も熊にとっては秋のメニューの1つに過ぎず、他の木々、コナラやミズナラなどといったその他の広葉樹の実とか、その他の低木の実、アリやハチといった昆虫などが豊富であれば、その大凶作の影響も緩和されそうなものです。 しかし、コナラやミズナラはある程度他の樹種と混在している地域が多いのですが、秋田・青森に広がる見事なブナ林である白神山地はその成り立ちの特性上、広い面積をブナのみで占めており、このような場所に生息している熊にとっては、ブナ1つが凶作になっただけでもその他の代替食が得られにくくなる=食べ物を求めてさまよい歩く必要が生じるという事情があるわけです。 従って、大凶作が予想される秋田では特に、この秋の熊の移動が激しくなると思われます。 では、その他の樹種、コナラやミズナラの豊凶はどうだろうか?という点ですが、8月13日の毎日新聞に、石川県が独自に行ったブナなどの調査結果が出ていました。 クマ:秋の出没注意 ブナの大凶作見込みで−−県、呼びかけ /石川 ツキノワグマのエサとなるブナが今秋は大凶作を見込まれることが、県自然保護課の調査で分かった。クマの被害を巡っては、先月23日、金沢市北陽台で散歩中の高齢女性が襲われ、重傷を負っている。秋に奥山でエサ不足に陥ったクマが人里周辺に多く出没する危険があり、県は注意を呼びかけている。 白山、能美市や津幡町など7市町の計23地点で5〜6月、ツキノワグマが実を食べる3種類のブナ科植物の雄花の落下数を調査し、豊凶を予測。その結果、ミズナラとコナラは平年並みだったが、ブナは22地点で1平方メートルあたりの雄花数が0〜29個と「大凶作」が予想された。 【中略】 県は実の生育状況を調べ、より精度の高い豊凶予測を出す予定で、「出没情報を把握し、果樹や生ゴミを除去するなどして集落に寄せ付けない対策が大切」と注意喚起を促している。【近藤希実】石川県自然保護課のHP「ツキノワグマによる人身被害防止のために」というページの、画面左上にある「H22出没予測」というところにこの調査結果が出ていますが、ブナ記事ではブナ以外は平年並みかのように書かれていますが、HPをよく拝見すると、調査地点のほぼ半数の地点でミズナラが凶作または大凶作であるという、県内において大きなばらつきがあることがわかります。 しかも、地図を拝見するとわかるのは、岐阜県と接する石川県南東部は、ブナとミズナラいずれもが凶作や大凶作のみであり、残るコナラは調査結果そのものが無い=樹そのものが無い?ということがわかり、この地域では熊の主要な食べ物がかなり厳しい予想になり、ひいてはその行動に大きな影響を与えるということが推測できます。 今後、これらの予想が改善する要素は考えられず、むしろこれから台風や長雨などといった天候になれば、並作や豊作といった予想がされている樹種やその他の植物においても、その実りは悪くなる一方でしょう。 ミズナラやコナラの豊凶が全国にある程度共通するものか否かはわかりませんし、それぞれの地域での植生やその場所での生息状況があるでしょうから一概にも言えないでしょうけれども、これらの予想から、秋も引き続き、熊の目撃情報や事故が増加しかねないという懸念があります。 毎日新聞の記事末に石川県の担当者の方のコメントがあるように、集落に寄せ付けないことを今からしておきませんと、秋には手遅れになりますので、早めの対策と、特に人身事故防止のために朝夕の外出の際の警戒などを続けていただければ、と思います。 なお、街中の公園などでドングリを集め、野山にばらまくといった行動は、私は百害あって一利無しの自己満足としか思っていませんので、本当に熊や自然を思うならば、そのような活動はされない方がよろしいと思います。
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ツキノワグマだろうとヒグマだろうと、山奥など、本来そこにいるべき動物を見ただけでしたら取り立てて騒ぐことでもなく、被害発生やその恐れが無い限りは冷静な報道による情報提供や対処ということだけの話になりますが、最近、単に報道が目立つだけではなく、実際に目撃件数が増加しているようです。 単に目撃件数そのものが増えたからといっても、それがそれまで目撃しても通報するまでもないとしていなかった方が繰り返される事故報道などによって関心が高くなって通報するようになったとか、余暇利用に野山に入る方が増えたとか、そういった背景も考えられますので、これだけで即、異常とか危機とか感じて騒ぎたてるというほどでもありません。 しかし、ここ近年気になりますのは、その目撃・出没の内容が山奥でもない街中とか、それまで見られることがほとんど無かった場所とか、それまでしなかった行動をとるようになってきており、こうなると、熊の行動の変化という点でも注視すべきことになってきたというわけです。 8月8日の秋田魁新報社の社説、後日この社説は詳しく触れたいと思いますが、こんな統計が出ています。 社説:相次ぐクマ出没 「共生の道」依然険しく 県内では今年、ツキノワグマの出没が異常に多い。県警に寄せられている目撃件数は、過去10年でも最多ペースだ。人がクマと接触する危険性は高まっており、事故の多発が懸念される。関係機関が連携し、例年以上に注意を喚起していくことが必要だ。 県警によると、目撃件数は7月末現在で257件を数え、すでに昨年1年間の186件を超えている。年間ベースでみると、過去10年では、2001年が532件と突出して多かったが、それでも7月末時点での累計は204件だった。今年はそのペースを大きく上回っている。 何より市街地への出没が目立つ点が気になる。秋田市では、郊外の住宅地や公園など、人通りが多い場所でクマの姿が頻繁に目撃されている。小学校の近くで目撃された際は、登下校する児童を守るために、県警のヘリコプターが上空を飛ぶなど異例の警戒態勢が敷かれた。付近の住民はさぞかし怖かったに違いない。 【後略】全く同感です。 山間地にある住宅だけでなく、市街地への出没が全国的に見られているという点で非常に気になるところです。 北海道においても、根室市内の住宅地に出没したり、旭川市にほど近い東神楽町の住宅地に出没するなど、本州だけではなく北海道においても住宅地に熊(ヒグマ)が出没するということが繰り返しあり、また死亡事故も起きてしまっています。 人と熊の距離が近くなると、双方に事故が発生してしまいかねません。 8月10日の北海道新聞には、やはりそれまで見られなかったと思われる札幌市内において出没し、警戒を促す記事が出ていました。 住宅地そばにヒグマ 公園閉鎖やチラシ配布 市が注意呼び掛け(08/10 09:25) 札幌市内の住宅地近くで、ヒグマの出没情報が相次ぎ、4月から今月6日までの出没情報は55件と昨年同期の39件を上回っている。中でも、ヒグマのふんが見つかった豊平区羊ケ丘地区は、発見場所から住宅地の西岡・福住地区までの距離はわずか約1キロで、市は住民に注意を呼び掛けている。 【中略】 同研究所敷地と西岡・福住の住宅地は、道路を一本隔てただけの距離。市は付近の5千戸に注意を呼び掛けるチラシを配布した。西岡地区連合町内会の平山英一会長は「自衛隊の射撃場が近く、クマが寄りつかない地区だと思っていた」と驚く。 【中略】 一方、出没情報55件のうち南区石山・藤野地区は17件を占めており、昨年度の3件に比べると大幅に増えている。もともと目撃情報が多い地区だが、5月23日に道路走行中の運転手がクマを見つけたのは道路から数十メートル離れた場所で、両地区でも住宅地での目撃情報が増えている。 ヒグマの生態に詳しい道環境科学研究センターの間野勉研究主幹は「羊ケ丘には、今まで気付かれなかっただけで既に進入していたかもしれない」と指摘した上で「農作物の味を覚えて人里に来ているかもしれない。生ごみの味を覚えないようルールの徹底が必要だ」と話している。(中村征太郎)自衛隊の射撃場が近くであろうとも、早朝や夜間に射撃訓練をするわけではありません。また、追い払いをしようとして轟音の鳴る火薬を慣らしても、逃げて行かなくなったヒグマというのは以前から出ていますし、本州でも高速道路わきや電車沿線に出るなど、必ずしも大きな音と熊の忌避行動が結びつくとは言えなくなってきています。 音がしても、それが自分の身に何か危険や不利益(痛みなど)が生じるわけではないということを学習能力の高い熊はすぐに知ってしまいますと多少不快感に感じようとも、意に介さなくなるのは自明です。 むしろ、地域の方がそのようなあまり根拠の無いことを拠り所に、どこか油断しているとすれば、却ってその「音」は住民の方の安全上は不利益とも言えるかもしれません。 記事末の研究者の方のご意見は私も賛成で、ここ最近の新たな出没なのか、それとも昔からひっそりと来ていたのか、ということで、また対応も違ってくると思います。 しかしいずれにしても言えますのは、例えばゴミ出しを前の日から集積所に出さないとか、そういう有効かつ重要なことを、地域の方に知っていただき、実践していただく必要があると思います。北海道のご家庭では庭に果樹や花を植えている方も多いと思いますが、それらの中には熊を誘う結果になりかねないものもあるかもしれませんので、過剰に恐れる必要は無いかもしれませんが、あらためてそういうこともみんなで注意することなのだ、ということを意識する点では、この出没も今のところそれほど悪いものをもたらしているわけではない、とも言えるかもしれません。 さて、今週から来週のかけては「お盆休み」という方も多いかもしれませんが、今やマナー・常識になっていると思いますが、お墓に食べ物のお供え物をすることは、カラスやタヌキといった野生鳥獣を呼び寄せて墓所を汚すなどの弊害があり、しないように呼びかけられるようになりました。 特に近年、新たに造成されるお墓はそれまで山だったところを開発してというところもありますので、なおのこと、野生動物がそのお供え物に誘われるという機会になりますので、お墓参りにお出かけの方は、お供え物は下げてくるようにお願いしたいところです。 今日の朝日新聞にも、そんな注意を呼び掛ける記事が出ていました。 斎場近くにヒグマ足跡 清田区 2010年08月12日 札幌市保健所は11日、同市清田区の市里塚斎場(火葬場)近くの裏山(有明都市環境林)で同日午前11時ごろ、ヒグマの足跡と地面を掘り起こした跡が発見されたと発表した。隣接する里塚霊園の墓参者の安全確保のため、墓参り後の供物などは必ず持ち帰るように呼びかけている。 【後略】地面を掘り起こした跡というのは草の根やアリ・ハチを食べようとしての行動かもしれませんので、お墓のお供え物が呼び寄せたものとは一概に言えないと思います。 しかし目撃情報があり、そこがお墓の近くだと気づき、そこからお盆の季節であるのでお供え物を持ちかえるように呼びかけるというのは、慣れているのかもしれませんが、いい連想と行動です。 近年の熊の出没に関してはいろいろな要素があるのだと思いますが、人間の行動に起因するものも間違いなくあるでしょう。 単に目撃情報だけを提供するのはそろそろ終えて、さらに1つ、それらを回避する野山での、また、野山に隣接する住宅地などにおいての行動上の注意も呼びかけるということが報道においては必要になっていると思いますし、行政や研究機関などにおいてはその目撃情報を精査し、その行動を推測して次の注意を促す情報を提供するという連携が必要でしょう。 【追記 2010.8.13】
8月13日付けの下野新聞社に、栃木県の地味ですが良い取組みを紹介しています。 奥日光で14日から観光客向けに「クマレクチャー」 (8月13日 05:00) 奥日光に生息するツキノワグマの生態に対する正しい知識を持ってもらおうと、県は観光シーズンの14〜29日の間に延べ10日間にわたり、戦場ケ原の玄関口にある赤沼自然情報センターで「クマレクチャー」を行う。人とクマとの共存を図るのが目的で、こうした講義は県内で初めてという。 県自然環境課によると、クマとの遭遇による人身事故を背景に「クマは怖い」とのイメージが一般に広がっている。しかし、クマは普段おとなしく、人間が注意すれば多くの事故は防ぐことができるという。 担当者は「近距離で出会わないことが重要。人とばったり出くわしたクマがやむを得ず防衛で攻撃するのが事故につながっている」と紹介する。 レクチャーはクマのはく製や頭骨、ふんのサンプル、足形などを使って、クマの特徴や生態、クマと出会わないための方法を来訪者を対象に随時、15分程度で行う。講師はクマの専門家などで構成する日本クマネットワーク会員が務める。 【後略】私は別にどこの組織にも加入しているわけではありませんが、ごくたまに、こういう話をさせていただく機会がありますが、そのたびに、熊のことはイメージが先行していてよく知られていないということに逆に驚きます。 生息頭数やその行動の異常などを把握するには、広い範囲でたくさんの目が無ければ難しいので、そういうことで正しく対処し、関心を持ってくれる次世代の人たちを増やすことも、熊と人間の共存のために、大切な活動であると私は思います。 単に「熊がかわいそう」などという、感傷などだけではなく。 |
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昨年8月下旬に、秋田県鹿角市の産直直売所が熊に侵入され、野菜には口をつけずに味噌だけが食べられたという事件を紹介しましたが、同じ直売所がまた襲われたということが、8月7日の秋田魁新報社の記事に出ていました。 引き戸壊しクマ侵入か 鹿角市の農産物直売所 6日午前6時半ごろ、鹿角市八幡平字切留平の農産物直売所で、出入り口のアルミ製引き戸が壊されているのを散歩中の男性が見つけ、建物を所有する会社を通じて鹿角署に届け出た。 同署や直売所の女性経営者によると、店内にはクマとみられる足跡が点在、毛が落ちていた。テーブルには商品のバナナ、メロンなどが置かれていたが被害はなかった。同署はクマが侵入したとみている。経営者は「前日午後7時半ごろ閉店し鍵をかけた。被害がなくて、ほっとした」と話した。 同署によると、同所の直売所では昨年8月にも、クマにみそが食い散らかされる被害が発生。その後、現在の経営者に変わり、先月17日にオープンした。 県内ではこのほか、5日から6日かけてクマの出没が相次いだ。場所や被害などは次の通り。 ▽5日、東成瀬村田子内字大掵の畑。トウモロコシ約120本が食い荒らされた。民家まで約200メートル▽6日、鹿角市尾去沢字上山の市道。尾去沢小まで約200メートル▽同、三種町下岩川字中野の水田。民家まで約200メートル▽同、秋田市雄和椿川の県道。民家まで約250メートル▽同、横手市二葉町の横手川河川敷。民家まで約30メートル昨年の被害発生の際に、はちみつを入れた檻のワナで捕獲をすることが伝えられていましたが、その後捕獲されたかどうか、わかりません。 当時の報道では、年に1回は周辺に出没しているということも触れられていましたが、これは1つの推測として、この直売所が既に夏における同じ個体の食餌場所になっているということが考えられます。 昨年は野菜には口をつけず味噌だけを食べ、今年は侵入しても果物などの被害は一切無かったという、行動も似ていますので、同じ個体によるもののような気がします。むしろ、別々の個体が同じような行動をしている方が、恐ろしさを感じます。 もしかしたら、初めて人里近くに来たときに味噌の匂いと味を覚え、それが食べ物と認識したのかもしれません。メロンはどうかわかりませんが、バナナは畑にあるものではありませんから、食べ物と認識していないのかも。 今回直売所で食害が無かったということは、何かその中に置いてあった食べ物の匂いに誘われたと見るよりは、「その場所」を覚えていてやってきたというような感じがします。むろん、単に味噌が手の届きやすい場所に置いてあって、それ以外は高い場所に置いてあったので食べられなかった、ということも考えられますが、今回の記事によればメロンなどは「テーブルの上」にあったとありますので、食べようと思えば食べられたはずではないか?と。 熊が学習能力が高いということは知られていますし、ときに1つの食べ物に固執することがあるということを考えると、あくまでも机上の空論でその他の要素を何も考えないただの思いつきですが、例えば7月下旬から8月には何も食べ物を置かないで、入口も夜も開けたままにして、「ここには何も無いんだ」ということを熊に教えるということも1つ、対策にはなるかもしれません。 農作物の獣害被害を防止する方法として、近年、電気柵の設置が進められています。 例えば7月14日の岩手日報では、その設置講習会開催の話題が掲載されています。 農作物をクマから守ろう 二戸で電気柵設置研修会 ツキノワグマなどによる農作物被害を防ごうと、二戸地方農林水産振興協議会畜産振興部会は13日、二戸市内で電気柵設置研修会を開いた。 【中略】 柵を設置する際は▽作物から3メートルほど離す▽雑草などに触れないようメンテナンスをする―などがポイント。県中央農業改良普及センター軽米普及サブセンターの高畑博志主任農業普及員は「クマ被害を防ぐベストな方法。ぜひ試してもらいたい」と呼び掛けた。 同圃場は7、8年前からクマ被害に遭っており、収穫するトウモロコシのうち4分の1余りが食べられるなどしているという。蛇沼さんは「本当に困っている。効果を期待したい」と願っていた。 同研修会は12日に一戸町で開かれており、14日は軽米町で実施する。二戸地方での飼料用トウモロコシなどのクマによる被害額は年々増加し昨年は約560万円に上っている。 (2010/07/14)農作物でも同じ土地で同じ作物を続けて栽培する=連作することで発生する「連作障害」という生育不良が発生する場合がありますが、この対策として毎年違う作物を栽培するという「輪作」をするのと同じ発想で、トウモロコシやデントコーンなどの被害が定着してしまったならば、熊があまり食べないような作物をしばらく栽培してみるということも、対策になるかもしれません。 熊(その個体)にとってその畑がすっかり貴重な「食餌場所」となったならば、被害が出て後で電気柵を設置しても、多少の刺激を加えられても熊は侵入を試みるでしょう。なので、しばらくその畑には違う食べ物を栽培することで「ここには食べ物は無くなった」と知らしめて、その後電気柵を設置して栽培を始めるとした方が、執着心が無いだけに、電気柵がより効果的になるのではないか?と思います。新たに耕作して何か農作物を栽培し始めるときも、被害が出始める前から対策をしておいた方が効果的だと思います。 もっとも、それはしばらく転作することで発生する減収=所得減と設置・維持管理費用の増と、食害の被害額のどちらが大きいか?とか、あるいはその被害が出た畑が民家や学校に近いなど事故が予見されるか否かなど、そういった判断をしなければ実施は難しいと思います。 自然保護や動物愛護を唱えるならば、そういう被害が発生しない方法を検討したり、そのための対策費を補助するとか、そういう面まで個別事情に合わせて考えることをしなければなりませんね。
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