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昨日、マタギサミットについての記事を再度紹介したときにも触れましたし、春に連続した熊の目撃情報を紹介する際にも触れましたことの繰り返しになってしまいますが、熊の目撃情報が増加したからと言って、熊の生息頭数が増加しているとは言えないということです。 熊の行動が変化して奥山から人里に出るようになっただけかもしれない。 人の趣味の多様化・団塊の世代の一斉退職による余暇利用により、人が熊の生息地に入り込むようになったからによるのかもしれない。 これまでも普通に見られ、特別に関心を持っていなかった山間地域の住民の方が、行政や報道が呼びかけに応え、積極的に通報するようになっただけかもしれない。 こういう当たり前の基本を忘れ、「熊の目撃件数と生息頭数は比例する」と思い込むと、保護や駆除における重要な管理ができなくなります。 目撃情報を収集する際には、単に目撃した場所や形態などだけで良い時代は終わり、その目撃者の目撃とその事実を通報するに至った背景までをも情報を得、分析をしなければならない時代になったと私は思います。 さて、昨日・7月9日の十勝毎日新聞に、その点に触れた良い着眼点の記事が掲載されました。 こういう視点での記事というのは貴重です。問題は、せっかくのこういう記事に触れる機会を得た読者が、それを重要な着眼の記事であるということを理解できるか否か、ということですが…。 クマ出没 連日の通報 2010年07月09日 14時42分 芽室町内でクマの足跡・目撃情報がほぼ連日、町役場や帯広署に寄せられている。主に山間部に近い上美生・渋山地区に集中。隣接する帯広市内で6月、山菜採りの女性がクマに襲われて死亡する事故があり、「今まで通報しなかった人も届け出ているのでは」(町役場)という声も。町内では住民への被害は出ていないが、ビートが食害に遭うケースも出始めている。町は人的被害を防ごうと、箱わなを設置するなどして警戒を強めている。 町産業振興課によると、町内で今年最初の出没情報は5月9日。新朝日の道道清水大樹線北側の清水町境でクマ1頭が目撃された。同市広野町の雑木林で6月5日夕、山菜採りをしていた女性がクマに襲われ死亡した直後、襲ったとみられる親子グマの足跡が芽室町方向へ続いていることが確認され、次々と情報が寄せられる事態に。8日現在30件で、数件しかなかった前年同期と比べると激増した。 町は情報があった地域4カ所に箱わなを設置。帯広署や地元猟友会とともに警戒に当たっているが、捕獲には至っていない。親子グマとみられる足跡の情報が多く、大きさや数などから町は「5組ほどの親子グマがいるのでは」と推測している。 【中略】 町産業振興課農林企画係の土田雅敏係長は「通報を受けるたびに現場に行くが住民は『クマは毎年出ている』と口をそろえる。帯広で事故があったことで今まで通報しなかった人も届け出ているのでは」と困惑気味。「目撃情報だけではクマの数が増えているとは判断できない」と分析する。 帯広署は、芽室交番や上美生駐在所を中心にパトロールを強化し、キャンパーや釣り人には注意を促している。同署は「被害を最小限に食い止め、住民の不安を取り除くためにも、町や地元猟友会との連携を例年以上に強化して警戒に当たりたい」と話している。この芽室町の担当者の良いところは、目撃情報を分析して、おおよそ5組の熊に整理していることです。目撃情報が30件あったから、30頭〜などというような短絡的な整理ではない(当たり前ですが)わけですね。 死亡事故に関わったヒグマが町内に入り込んでいる可能性が、住民の方の危機感・通報という行動を促しているという要素は間違いないでしょう。 そういう通報の背景にある人の心理状態をきちんと理解して、冷静で実効的な対処を取ろうとする担当者の冷静さには安心します。 本気で日本国内においての熊の保護をしたいと思うならば、地域における生息頭数を把握することです。行動する範囲を調べ、その地域の植生や他の生物の生息状況を把握することがない限りは、未来にも熊が安定的に棲息する日本なんて、絶対にありえません。 保護をしたければそういう学術的な、かつ、労力も費用もかかる調査が有効だと私は信じますが、「愛誤団体」のまずほとんど全ては、そういう面倒な活動をしていません。私から言わせれば、それをしないならば、保護において何の役にも立たない活動をしていると思います。 大がかりな調査は今すぐには難しくとも、少なくとも人と熊が急接近しているのはまず間違いないようですので、その原因を調査することや、それを踏まえて急接近を緩和・回避する方法を至急、構築しなければ、直接(人身事故・農作物被害)・間接(交通事故など)関わらず、今後変わらず被害が発生し続け、ひいては熊という種そのものの危機になりかねないと思います。
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【ツキノワグマ・ヒグマ】
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私の興味のあるツキノワグマやヒグマについて、記載しています。
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先日、山形県朝日町で開催された「マタギサミット」についての記事を紹介しましたが、7月8日の朝日新聞山形県版でも紹介記事が出ており、内容について少しだけ詳しく出ていましたので紹介いたします。 なぜクマは人里に? 2010年07月08日 ∞マタギ伝承へ朝日町でサミット 「森と人と動物の新しい関係必要」 クマが人里へ下りてきたのはなぜか。伝統的狩猟(マタギ)の継承を目指す「ブナ林と狩人の会 マタギサミットin朝日町」が3日、朝日町の創遊館で開かれた=写真。各地の狩猟者や研究者ら約150人が参加、森林や野生動物の現状などについて議論した。 【中略】 今回は、先端の研究成果を踏まえ、現場をよく知る狩猟者と森の中で何が起きているかを考えた。 遺伝学が専門の山形大理学部の玉手英利教授は、環境省の「日本の動物分布図」では県内にいないシカやイノシシが最近、相次いで見付かったことを取りあげた。庄内と内陸で確認された若い雄のシカ計2頭は、遺伝子から屋久島産、静岡産と分かり、人間が持ち込んだ可能性が高い。福島や宮城で増えているイノシシも県内で北上しつつある。 玉手教授は「サルやカモシカも増えた。県内でシカもじわじわと増え、東北南部で拡大中の外来種アメリカミンクもいずれ来る。広域的な情報の交換が必要だ」という。 【中略】 狩猟者はどう見ているか。北海道西興部村の大澤安廣さんは「昔はヒグマを1頭捕れば半年食えた。去年は6頭、村から報奨金が2万円出ても燃料代や解体処理にも足りない。シカと同じで山にエサがないから里に出る」と発言。旧阿仁町の松橋吉太郎さんも「クマを捕って50年以上になるが、平成に入ってクマが倍以上に増えた。山に入った人間の捨てたゴミを食べて、その味を覚えたクマが人里に下りて来る」と訴えた。 人里への接近は全国共通らしい。「昔はひと山越えたのに、いまはすぐ目の前の山にクマがいる」(長野県・秋山郷)、「増えたから出てくるのでないか。家から4キロで、『いた、いた』。昔は朝日連峰に入らないと見られなかった」(鶴岡市大鳥)。 クマが里に下りる理由について、田口教授は「高齢化してやせた森林には病害虫が増え、ブナやナラの実の豊凶や積雪量も影響している。森林と野生動物の新しい関係を作らないと手遅れになる。若い人たちの生き方、選択にもかかわる問題だ」と語った。環境省の「日本の動物分布図」というものを私は見たことがありませんから、それがどれほど精度の高いものか、わかりません。動物は県境なんて関係ありませんし、ある程度の規模で移動を繰り返すことでしょうから、山形県にいないというシカやイノシシが見つかったことじたいは、即、驚くべきことかどうかもわかりかねます。 しかし、遺伝子分析から屋久島や静岡が由来という動物が山形県内に存在したという分析結果が確かならば、当然、それはシカの意思による移動の結果ではなく、人為的に山形県内に、あるいはその近県に持ち込まれたものが山形県内に入ったとしか思えません。 ですが、何のためでしょう?ブラックバスのようなスポーツハンティングとしてとは考えられません。飼っていたものが逃げたというところでしょうか? 私は外来種問題は疎く自分の考えもまとまっていないので何とも言えませんが、何となく、国内の他の場所にも昔から棲んでいる種の動物が新たに入って来る点に関して、「日本産の動物なんだし、地続きであるならいつかは入って来るんだろうから、それほど問題ないんじゃない?」という印象を持ちそうです。 しかし、山形県内に来ることはまずありえない屋久島で生育した遺伝子のシカが入って来ることへの、生体への影響が未知であるとか、そういう話もあるでしょう。 例えば、「ある地域のシカ群は昔、その土地だけで大流行した伝染病で絶滅しかけた、そのとき生き延びた個体が生き続けて今に至った」という歴史がある場合、その個体をその他の土地に移したならば、体内にはその個体にとっては今や無害の病原菌が、移した地域のシカは耐性を持っていないため、瞬く間に感染して致命傷を与える…ということが考えられます。 そのように、通常は接触しない、あるいは長い年月をかけてゆっくり接触するような過程をすっ飛ばして接触した(させた)場合には、どういう影響があるかわかりません。確かに地続きである範囲では他の土地の動物が移動により交雑することもありえても、人間の直接・間接的な介入によってその移動速度が速くなることでのやはり生体への影響などは未知なのです。何よりも、それまでいない、あるいは少ない動物が、新たに入り込むことで、農作物被害や、あるいは昨日なども触れましたがその動物の持つ病気や寄生虫の持ち込みなど、人間生活への新たなる緊張が発生するという緊急的な課題が発生しかねません。 特に山形の場合は、見事な山林が多く残るとともに、平地では「フルーツ王国」を自称するほど様々な果物や、農作物が盛んな地ですから、それらへの被害が出始めたならば、棲息環境が良く食糧豊富と言う土地柄から、あっという間に定着することでしょう。 東北地方ではまだ、関東以南では多い、ミンクやヌートリアなどの外来動物はほとんどいないようですが、近年はハクビシン(外来種?)やアライグマ被害が増加し始めています。いずれも、これといった天敵はいないため、いったんその地域に入り込むと増加は爆発的になり、収拾がつかなくなります。 熊に限りませんが、動物の保護や駆除を考える上では、その地域の植生や個体数を精密に調査し、把握しなければ成り立たないわけですが、同じく、こういった外来種はもちろん、それまで観察がされていなかった在来種の移動という変化にも、機敏に把握して問題点を探り対策をうつ、ということは、本来、生物学者の使命であるはずなのですけれどね。 医学とか工学のような、直接金銭になったり、あるいは万人が直接に役立つものとは思われにくい学問だけに、そういう大掛かりで期間や費用のかかる調査研究は難しいという背景があるのかもしれません。 有害鳥獣駆除などでは、この北海道の方の場合は役場からの報奨金が2万円、ということですが、熊は毛皮や爪、頭骨などは一定の金額で取引が成り立ちますし、以前も紹介したことがある胆嚢=「熊の胆」は同じ重さの金以上の価格で取引されることがある(熊の胆の取り扱い許可を持つ薬剤師ら以外の売買は薬事法違反)とは聞いています。 密猟による売買は厳しく監視して対処すべきですが、同時に、有害鳥獣駆除として依頼をしたからには、行政は熊の売買をあっせんするとか、熊は丸ごと役場が実費&市場価格相当額で買い取り対策費用に充てるなどのしくみづくりをしませんと、ボランティアとしての駆除は莫大な労力と高い危険と、実費持ち出しを強いているようでは、ますます有害鳥獣駆除の担い手は少なくなりますし、また、役所とボランティアの対等な関係・適正な指導なんてものには程遠いということにもなります。 良かれと思って協力するハンターは、役所の下請けではありませんし、いいように使われる手下でもありません。同時に、ボランティアで行うからと、ハンターも役所に対して高圧的に出て良いわけでもありません。そういう妙な関係にならないようにするためにも、せめて実費相当額や、事故の際の保障、「愛誤団体」などからの言われの無い誹謗中傷などから守るなど、安心してボランティアに参加できる環境作りをしませんと、今後は行き詰まるでしょうね。 ちょっと脱線した感もありますが、この記事での注目すべき証言は、複数地域のハンターが、「昔と違い、今は人里近くに熊がいる」という主旨の証言をしているということです。 それも、人家が山に入っていったのでもなく、山との緩衝地帯がどう、というのではなく、活動地域そのものが人里に近づいているということです。 また、「熊が増えた」という感想も注目すべきでしょう。こうおっしゃっている根拠が記事には無いので何とも言えません。自動撮影で熊を撮影している写真家の宮崎学さんも、「昔は熊の撮影なんてなかなか成功しなかった。今はすぐにたくさんの個体の撮影ができる。熊は増えている」という主旨のお話しをされています。 しかし、宮崎さんの場合は、1つは長年をかけて経験を重ねる技術を生みだして来た結果、撮影の成果を上げることができただけという見方も可能です、また、記事中のハンターさんにおいても、別の証言(=人里近くで熊が活動している、という証言)を合わせ考えると、「よく見かけるようになった」という根拠で「数が増えた」という結論ならば、いささか乱暴なように感じます。 「数」ではなく、「性質」の変化と考えるのが先だと思うのですが。 最前線の「マタギ」がそんなことをおっしゃると、数が少ない個体が単に性質が変わって人里近くで活動し目撃例が増えている・報道も取りあげ、それによりますます通報例が増えるというだけなのに、「数が増えている」という意見が独り歩きしかねません。それならば、と、正確な頭数をカウントせずに駆除すると、「最近、熊を見なくなったなあ、山奥にいるのかな?」と思って山奥に入って行ったら、とっくにその場所にはいなくなっていた・人里近くで見られていた熊が総数だった、なんてことになりかねません。 ニホンオオカミは私は詳しくないのですが、絶滅理由がハッキリしないとも聞いたことがありますが、案外、そういう感じで、よく見かけるからと遠慮なく狩っていたら、いつの間にか最後の1匹だった、ということがあったんじゃないか?と思います。 ちょうど有料駐車場ゲートみたいなもので、入るときに駐車券がすぐにスッと出てきますから、いくらでもあるようにも見えますが、機械の中の用紙残数は着実に減っているわけです。駐車場を管理するには、紙の消費量と残数を考慮して補充するなど「管理」することが、うまい経営でしょう。それと同じく、やはり地域の動物棲息状況の把握というのは絶対に欠かすことができない分野のはずです。 同じく、ハンターの意見で、「山に入った人の残飯を食べて、その味を覚えた熊が人里に来る」という考えですが、農作物の味を覚えて同じ畑に繰り返し出没するということは熊の基本習性としてはありますが、しかし、山に残飯を残してくるということが、それほど日本全国どこでも見られるほど多いという印象は私にはありません。残飯の問題としては、どちらかというと、山間部に近い別荘地などで、生ゴミの処理・集積が悪く、その人家に近い場所に野生動物が生ゴミを求めて出没・トラブルになるということが目立つように感じます。しかし、山に生ごみを残そうとも、山間部の人家近くでは徹底していれば、生ゴミの味を覚えてもそれがその場所以外で再度味わうということはできない以上、直接的な原因ではなく、多くの出没原因の1つにしかなりえないということが推測できます。 ハンターの方は研究者ほどの専門知識ではなく現場で必要な知識やそこで得た経験の範囲での話ですし、一方研究者はハンターの方ほどその特定地域で継続して現場を見て来てはいないという中での話だと思います。ですので、どちらが上・下というわけではなく、それぞれの範囲の中で情報交換をし、そして地域の現状や変化を把握するように協力をするということも、森やそこに棲む動物を守るという点では寄与できる活動になりうる(とりあえずは)と思いますので、若者たちに期待するのもよろしいのですが、まず、隗より始めるというのもよろしいのではないでしょうか。
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以前、昨年発生した「乗鞍岳・畳平バスターミナル」でのツキノワグマによる大量加害事故の検証についての記事を紹介した際、加害した熊の体毛を分析した結果、残飯に依存している事実が確認できなかったという検証結果を聴き、体毛分析によって食性がわかるという技術に驚いたことを書きました。 それについて、先日、山形県朝日町で、「マタギサミット」が開催され、その中で茨城県にある森林総合研究所の研究員がその分析技術について紹介されたと、7月3日の山形新聞に報じられていました。 朝日町で「マタギサミット」 県内外の狩猟者ら意見交換 2010年07月03日 22:32 伝統的な狩猟文化を受け継いでいるマタギや研究者が全国から集い、交流や情報交換をする「ブナ林と狩人の会 マタギサミットin朝日町」が3日、朝日町の創遊館で開かれた。クマをはじめとする野生動物が里に下るケースが増えた要因などについて、研究者が考察し、県内外の狩猟者たちが意見を交わした。 森林総合研究所(茨城県)の中下留美子研究員は、クマの体毛に含まれる炭素や窒素を解析し、食性履歴が分かる研究成果を発表。「春は山の食べ物、夏や秋は人間の残飯というように食べ分けていると推測できる」などと語った。県森林研修センターの斉藤正一氏は、クマが里山に現れる要因の一つは餌場となる広葉樹林の荒廃だとし「定期的な伐採で森林を再生させ、ナラ枯れなどの被害をなるべく減らし、山にクマの食べ物を増やす必要がある」と強調した。 パネルディスカッションでは、県内外の狩猟者6人と東北芸術工科大の田口洋美教授が意見交換。「クマの目撃数の増加は、人里に来れば簡単に餌が手に入ると学習したためだ」「人間とクマの遭遇を減らすため、クマが人間を認識できるような緩衝地帯を森の中に整備するべきだ」などの考えが示された。田口教授は、クマの生態の変化は人間の森林活動の変化と密接にかかわっているとし「林業や狩猟に取り組む山間地域の再生が鍵になる。中心になるのは若者だが、現状では働く場所がなく難しい。この問題を早く解決しないと手遅れになる」などと話した。 サミットは、田口教授が提唱し、狩猟文化の在り方や継承について考えることを目的に本県など各地で毎年開催されており21回目。体毛の炭素や窒素を解析するということですが、どのくらいの食性まで分析できるのかわかりませんが、保護や駆除の1つの手がかりになるかもしれませんね。 この研究結果によって「乗鞍岳」の事故が、いい加減な空想をもてあそぶだけの「愛誤団体」の「出没した原因は、人間が用意したエサにおびき寄せられたから」などという根拠の無いデマ・誹謗中傷から現地施設の対応の正統性が証明できたわけでもあります。 森林研修センターの方の、「山に食べ物を増やす」というご意見は一見、もっともらしく聴こえますが、記事のパネルディスカッションでもあるとおり「人間の食べ物が容易に手に入ること」や、その食べ物のおいしさを学習した野生動物が、今さら山に山の食べ物が豊富になった程度で出没を減らすかどうか、私は少し疑問です。むろん、山や、ひいては水(川や海)の保全という点では効果が高いとは認めますが。 特に熊の場合は、母熊が学んだ行動や経験は、その子もマネをして受け継がれます。単に「里山にも山奥にも食べ物がある」という程度にしか認識されないのではないでしょうか? また、山に食べ物が豊富になるということは、それだけその地域での動物が生き残りやすくすることでもあります。生息頭数が順調に増えて行けば、いずれはその地域の自然環境下で生存できる頭数を超えます。普通はその地域で生き延びるだけの食糧が無ければそれ以上は増えることができず、バランスの取れた生息頭数が自然に維持されるものですが、野生動物の生息地と人間の生活の場が近い場合、あぶれた動物が手近な畑作物に現れて果てしなく被害を生じさせるというのは自明の理です。 従って、パネルディスカッションでも触れられているとおり、野生動物の生息地と人間の生息の場を分けるなど、人間の生活の場に出ることを動物達に避けさせるという方法を並行して考えて実行していかなければ、単に奥山の環境を良くしただけでは解決は期待できないと私は思います。 林業や狩猟により、その秩序は保たれるという期待は高いとは思いますが、しかし日本社会の構造上、林業や狩猟により生計が成り立たない現状では、それも絵に描いた餅でしょう。まして、林業や狩猟を無意味に批判するだけの「愛誤団体」がヒステリックに叫んでいるようでは、前途は険しいですね。
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このブログでは何度かツキノワグマの頭骨について紹介していますが、今回はヒグマの頭骨です。 「何の骨かわからない」と言われた頭骨 この骨は、インターネットオークションで「何の骨かわからない」と出ていたものを、安く購入したものです。 左後頭部が破壊されていたことや、左の犬歯が抜け落ちていたことから見た目は完全ではありませんが、左上の犬歯以外は歯がそろっていて、標本としては十分に使えます。 部分的に壊れたり欠損していたり、「何の骨かわからない」とあることで、熊の頭骨はインターネットオークションでもそこそこ人気ですが、誰も買いたがらなかったようです。おそらく、有害鳥獣駆除で捕獲されたヒグマで、分析用に牙が抜かれたのでしょう。 と、いうわけで、今日は熊の頭骨について、詳しく説明したいと思います。いつも以上につまらない話になります。 まず、なぜこれが熊だと思うのか?ということですが、正体不明な生き物を判別する上で重要な手掛かりになりわかりやすいのは頭骨です。頭骨そのものの形や大きさから正体がおおよそ推測できますし、歯の種別ごとの本数である「歯式(ししき)」というのは動物の種類によって違うこともあり、これに加えて歯の形などで正体を絞り込む1つの手がかりになります。 熊の場合は(キツネや犬も同じですが)、上あごから、前歯=門歯(切歯)が片側3(左右で計6)、犬歯が片側1(左右で2)、小臼歯が片側4(左右で8)、大臼歯が片側2(左右で4)が基本になります。 下あごは、門歯(切歯)が片側3(左右で6)、犬歯が片側1(左右で2)、小臼歯が片側4(左右で8)、大臼歯が片側3(左右で6)になり、全ての歯の合計で42本になります。 これが人間の場合ならば合計が32本、アナグマの場合は34本、テンは38本、ウサギは28本…と違う本数・歯式になります。 「歯の並びや本数が同じならば、熊か、大きなキツネや犬なのか、わからないじゃないか。」と思われそうですが、まずは形や大きさでおおよそ熊だとわかるという点と、一番特徴的には以前にも書いた(ただしファン登録者限定)とおり、大臼歯や小臼歯の形で、熊か、キツネや犬かは容易に区別ができるわけです。 これがキツネと犬を区別しろと言われれば私ではできませんけれど、それほど熊の臼歯は特徴的なんですね。 まず、頭骨前方から。 門歯(切歯)が、上あご、下あごのそれぞれに、片側3本ずつ、計6本がついています。そして、上あごの左犬歯が1本かけていますが、上あご、下あごで片側1本ずつ、犬歯が計4本だったことがわかります。 「何の骨かわからない」と言われた頭骨を前方から見た写真 次は、上あごの歯の様子。 小臼歯が片側で4本ずつ、計8本。大臼歯が片側2本ずつ、計4本あるのが見えます。 「何の骨かわからない」と言われた頭骨の、上あご内側の写真 そして、下あご全景。 小臼歯が片側で4本ずつ、計8本…のはずが、あら、片側2本ずつ、計4本しか見えません。人間も「親知らず」があるか否かで歯の本数が人によって変わりますが、動物でもこういう必ずしも歯式どおりにいかないということもあります。 小臼歯は成長とともに抜け落ちることが多いので、頭骨そのものも大きいことから、ある程度成長した熊と考えることができます。(と、言いつつ、抜け落ちた跡も見えない。個体差でしょうか。抜け落ちるのが早く、その後の成長過程で形跡が埋まったのかもしれません。) 大臼歯は片側3本ずつ、計6本あるのが見えます。 「何の骨かわからない」と言われた頭骨の、下あご内側の写真 では、歯の並びや本数が同じキツネとの大きな違いは?というのを思い出してみましょう。 これが、キツネの頭骨でした。 キツネの頭骨の写真 大臼歯、小臼歯を拡大すれば、その鋭さ=肉食に特化された歯であることがわかります。 キツネの頭骨の臼歯部分の拡大写真 一方、こちらが今回の頭骨の大臼歯、小臼歯の拡大。 「何の骨かわからない」と言われた頭骨の臼歯部分の拡大写真 すり減っていて、明らかに形が違いますね。肉を含めて植物質に対応した歯であることがわかります。 これで、キツネか、熊かがわかるわけです。 では、なぜヒグマと思うのか?ですが、犬歯を除けば(たぶん、解体か標本作業中に逸失したか、狩猟した人が記念に抜いた)細かな小臼歯や門歯もほぼ揃っており臼歯のすり減りも少ない一方、下あごの小臼歯が抜け落ちていることから、比較的若い熊であると推測できます。しかし、それでも私の持っている歯のすり減りや抜け落ちが多い年輩と思われるツキノワグマの頭骨とほぼ同じかやや大きいくらいのサイズなんですね。 ここから、成長の度合いではなく、もともとがサイズが大きくなる熊=ヒグマということがおおよそ推測できるわけです。 また、ツキノワグマの大臼歯、小臼歯はこんな感じですが、 ツキノワグマの頭骨の臼歯部分の拡大写真 で、先ほどのヒグマのそれよりも平べったいですね。高齢によるすり減りもあるでしょうが。 一方、角度を変えてもう1度ヒグマの臼歯を見てみると、キツネほどではありませんがやや鋭いのがわかります。 「何の骨かわからない」と言われた頭骨の臼歯部分の別角度からの写真 これは、ヒグマが、ツキノワグマよりは肉食性を維持したまま進化した結果、歯にその特長が残っていると思われます。 と、同時に、以前のレプリカのツキノワグマは頬骨弓が盛り上がって顎の筋肉が発達していたのに比べて、ヒグマのそれは細面の顔つきです。 食性として、木の実など固いものを咀嚼する場合には顎の筋肉を発達させる必要があり、同時に臼歯がすりつぶしに適した形になります。一方、ヒグマの場合にはサケや小型哺乳類を食べるために、肉が柔らかく、咀嚼する必要があまり無いために顎がそれほど強靭でなくとも良い(とは言っても相当な力がありますが)からとも言われています。 さらに食性が肉食傾向であるホッキョクグマに至っては、臼歯がかなり鋭くなり、氷の穴に顔を入れてアザラシを捕える都合上、細く長い顔と首になっています。 一方、熊の仲間でも草食性が強いパンダの場合は、固い竹を咀嚼する必要から、あのユーモラスな丸い顔つきのとおり、顎の筋肉がたくさんつけられており、臼歯も大きく広いという特徴になっています。 熊はその強靭でエネルギッシュな様子が生命力の強さを感じさせますが、このように骨1つを見ても、元々同じ動物だったものが棲息場所が変わっただけで、それほど長い年月をかけずにこうもその環境に適応して熱帯地から寒冷地にまで棲息分布を広げていったという点でも、力強さを感じます。 そんな身近な動物に敬意と関心を持ちましょうね…というような話を子どもたちにする上で、熊と言っても種類ごとの頭骨というのはやはり、重要な話題提供のためのアイテムになるので必要なわけです。 話だけくどくど言うよりも、目で見て、触って、得られる学習というのがあるわけですから。 さて、熊の頭骨を見ると、どうしても鋭い犬歯に目が行ってしまいますが、このように歯の並びや臼歯の特徴といったものから得られる情報もありますし、もう1つ、熊の能力で優れている「嗅覚」もわかります。 犬やキツネは嗅覚に優れていますが、熊の仲間はそれ以上に嗅覚が鋭いと言われています。 その秘密ですが、今回の標本にも残念ながら失われてしまっている(薄い軟骨のために、標本を作る際に壊れる、または脳を鼻から取りだすためにあえて壊すため)のですが、大きな鼻腔の中にある「鼻甲介」と言われる薄いスポンジのような層になった骨にあります。 キツネの頭骨標本に少し残っていました。 キツネの鼻腔内の鼻甲介の写真 これにより、狭い容積にたくさんの表面積を創り出し、そこに嗅覚細胞を蓄え、見通しの悪い森林の中では音や臭いを頼りに情報収集をするわけですね。
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昨日、北海道で撃ち漏らし手負いにして逃がしてしまったヒグマについて触れましたが、今日の北海道新聞でそれが射殺されたという報道がありました。 逃走手負いグマ駆除 足寄のラワンブキ自生地(06/22 12:02、06/22 18:12 更新) 【足寄】21日午前6時ごろ、十勝管内足寄町内上螺湾(らわん)の狩猟業高島博則さん(63)宅にヒグマが現れた。高島さんがライフルで発砲し、肩とあごに命中したが、クマは逃走。同日午後0時20分ごろ、約2キロ離れた沢で高島さんらが発見し、駆除した。現場は北海道遺産ラワンブキが自生する螺湾川の近く。町は「周辺はクマの生息地。今後も注意が必要」と呼びかけている。 クマは体長2メートル、重さ約250キロの大型のオス。自宅にいた高島さんは、飼い犬の鳴き声でクマに気付き、30メートルの距離で発砲。クマは倒れたが、起き上がって逃げた。 ハンター仲間と2人でクマを追跡し、自宅から約2キロ東のクオナイ沢支流で駆除した。高島さんは「ラワンブキの収穫期で、周辺の沢にも山菜採りの人が入る。手負いグマを一刻も早く駆除する必要があった」と語る。ラワンブキは2メートル以上あり人間の姿が隠れるだけに、不意にクマと出合う危険もある。 ラワンブキ自生地が点在する螺湾川沿いはクマの出没が多く、町によると、上螺湾地区だけで昨年5頭を駆除した。 また現場から3キロ北の上足寄地区でも昨年秋、クマによるビートなどの食害が深刻化した。(小林基秀)北海道新聞のリンク先ではこのヒグマの射殺体映像が見られますが、大きいです。目撃情報どおり、体長2m級のオス熊です。食べ物のまだ少なめなこの時期に250kgとありますので、秋の冬眠前には300kg近くになる個体かもしれません。野生の国内産ヒグマとしては大型の部類に入るでしょう。 しかし、それにしても気になるのは、無事に手負い熊を仕留めることができた=最低限の義務・責任を果たした安心感からかもしれませんが、映像からはハンターらの緊張感は感じられません。談笑しているようにさえ見えます。 別に射殺したことを非難するわけではなく、大きなヒグマを手負いにし、一時周辺に緊張感を走らせるようなことをしでかしたわりに、反省が見られないという点を批判したいわけです。 ご自分でも十分わかっているとおり、かなりの危険を発生させたのは間違いないわけで、それがたまたま今回は事故に至らず、事故や逃走させてヒグマを所在不明にしてしまう前に自分自身で始末をしたので最悪なことを免れただけのことです。本人は自らの不始末を当然の義務で自ら精算をしたに過ぎないわけで、「お騒がせしました」と神妙にすべき案件ではないでしょうかね。 細かなところをグチグチ責めているというよりも、そういう慎重さや事の重大性を想像するに欠けるような不十分な覚悟や心構えだから、手負いにして逃がすことになったんじゃないですか?と思うわけです。 結果論ですが、私は技術だけではなく、こういう心構えの方には狩猟をして欲しくないと思います。
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