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☆幻☆第三話(坊主) 高野 克彦

             ☆幻☆第三話(坊主)
  俺の仕事でいっぷう変わった仕事がある。それは、毎年のクリスマスから年末の間に限定される、成り立ちにくい仕事だ。その仕事とは、まず名○屋の錦三(歓楽街)や、東○町(同じく歓楽街)の店に勤める女達にコネクションを作ることから始まる。そして、何人かの固定客を持つ女達に、特定のシャネルのバックやティファニー系の貴金属を客にクリスマスプレゼントとして購入させる。何人かの客を持つ女に限定する理由はある。たとえばその女に3人の客が居るとする。そこで、まず客A氏にシャネルのバックを買わせる。そして、客B氏にも同じシャネルのバックを買わせ、客C氏にも同じく同じシャネルのバックを買わせるのだ。時計や貴金属でも同じことを指示する。つまり、女の手元には同じ3つのバックや3つの同じ貴金属が手に入る。そしてそれぞれの貴金属やバックを一つずつは、女の手元に残す。そして、残った二つのバックや時計・貴金属を半額ほどで俺が女たちから買い取り、市中のディスカウント店や質屋で売り飛ばすのだ。この仕組みのメリットは、客A氏も客B氏も客C氏も、女達が身につけているバックや装飾品が自分の買ってやったものだと思い込むことなのだ。確かに、バックなどには、通し番号などが付けられているが、そこまで確認する客は今まではいない。
  それともう一つの女達のメリットはディスカウント店や質屋などに名前や顔を覚えられる可能性がないことだ。女達自身がディスカウント店や質店に持ち込んだ方が利益は大きいが、夜の女達の世界も世知辛く、競争相手の女達に質屋やディスカウント店で見つかれば、上客に垂れ込まれたりする危険性があるからなのだ。
  そして、そんなある日、俺はなじみのディスカウント店や質屋を回り、女達から安く仕入れたバックや装飾品を売りさばいていた。何件目かに回った上○津の質屋で気になる情報を聞いた。質屋の親父の言う情報の内容は、その質屋に毎週金曜日に同じ男が、掛け軸や壷や仏具を売りに来るという話なのだ。そして、その掛け軸や壷・仏具は結構良いものなのだと質屋の親父は言った。
「どこかの、坊主が女に狂って寺の物を売り飛ばしているのだろう」
 と、俺は質屋の親父に言った。親父は、
「でもな、ユン。俺としては確かに上客だが、持ち込まれた物が盗品だと困るのだよ。お前に調べてもらえないかい」
  金さえ出してくれるのならば、俺に何の不服もない。親父から質札に記入された住所をもらって、次の金曜日に男を尾行することにした。
 次の金曜日は大晦日だった、例の質屋の斜め向かいのにある立体駐車場ではないパーキングに車を止め、少し離れた電柱の影に身を隠した。昔、張り込みをしていて路駐し、不審人物として通報され仕事を逃した痛い経験があるからだ。といって、立体駐車場に車を止めれば急いで車に乗り込んでも出庫まで時間が掛かるのだ。質屋の親父から駐車券をあらかじめせしめてあった。なぜなら、男が徒歩できた場合は車を置いて追うつもりなので駐車料金を気にしなくてすむので気が楽だ。いろんな客が出入りした。正月を迎えるために金も忙しいのだろう。
  目的の男が現れ帰る時に、携帯電話でワン切するように質屋の親父とは打ち合わせしておいた。張り込みをしているときはなるべくタバコも吸わないようにしているのだが、一時間もたつと無性にタバコが吸いたくなった。そこで、我慢しきれなくタバコを取り出した時、親父のワン切が入った。
  質屋から出てきた男は、20歳代のやせた男だった。車を駐車した形跡はないので徒歩で来たのだろう。男の後を着けた。男はやはり徒歩で上○津の地下鉄乗り場に歩いて行き、地下鉄に乗った。俺もとりあえず230円の切符を買い、男を見失わない程度の距離を離れて男と同じ車両に乗った。どこの駅で地下鉄を降りるのかと考えていると、男は一区間でしかない矢場町で降りた。慌てて男の後を追った。男は白○通大津を北に向かって歩き、すぐに一方通行をN○T方面に折れ、また東に曲がりサークル○の交差点を北に向かった。俺は男が池○公園方面に向かっていくのだと確信した。
 池○公園近辺は、外パブが多い。一時のフィリピンパブは、減ったが混成の外パブはまだ頑張っている。治安は決して良いとはいえない。夜の暗がりの中で欲と金が動き回る場所だ。しかし、これも一種の必要悪なのだろう。仕事を終えた男たちが、普段の自分とは違った時間をすごすために集まって、一時間何千円かを払うことにより、ストレスを発散しているのだろう。しかし、そういった男たちの中には、現実と虚構を混同してしまい身を滅ぼしていく者もいる。「愛」を見つけるのはこういった場所では難しい。愛が「金」で判断される場合も多いからだ。単一民族に近い日本人は会話力に乏しい。その日本人が諸国の女性が話すありきたりの社交辞令の言葉を鵜呑みにすればトラブルも起きるのだ。
 つまり、言葉には「呪」があるのだ。たとえば「愛してる」と言ったとしても、風俗に勤める諸国の女性には、それはただ単に教え込まれたフレーズであり彼女たちにとっては意味のない言葉であり「呪」だと感じてはいない。それなのに日本人の男達だけが、彼女達の口から流れる「愛してる」の言葉の「呪」に縛られてしまい勘違いを起こすのだ。
 そして今、俺が尾行している男もそんな外パブの女達が無意識に話す「呪」に縛られた一人ではないかと俺は感じた。
                    第三話(坊主) 続く


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