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新刊 『俺は駄目じゃない』 双葉社 よろしくね。
アメリカ公民権運動が始まったきっかけは、一九五五年アラバマ州で、バスに乗っていたローザ・パークス
という四十二歳の黒人女性が、白人客に席を譲るよう運転手から言われてこれを拒否したため、条例違反で逮
捕された事件だったとされています。この事件を契機に全米で黒人の地位向上を訴える活動が広がり、やがて
差別的な法律が次々と撤廃されてゆくこととなったのです。今の若い人たちには信じられないことかもしれま
せんが、当時のアメリカ南部では黒人と白人の居住区が分けられ、両者間の結婚も違法でした。バスの座席だ
けでなく、レストラン、学校、トイレなども別々(黒人用はいずれも劣悪)で、選挙権も黒人は一部の富裕層
だけに制限されていました。マイルス・デイビスは、自分のコンサート会場なのに白人の警備員が入れてくれ
なかったことがあったといいますし、レイ・チャールズは、ジョージア州の人種差別政策に抗議してコンサート
をキャンセルしたことが発端で州議会と裁判で争うなど対立し、和解するまで長い年月を要したそうです。さら
には、白人が黒人を殺してもめったに罪に問われることはなく、日常的に黒人へのリンチ殺人がまかり通ってい
ました。そういう時代だっただけに、公民権運動はまさに命がけの闘いで、活動に身を投じて命を落とした人は、
キング牧師に限らず大勢いたのです。
ところで冒頭のローザ・パークスさんですが、彼女が決して、公民権運動といううねりを起こそうとして逮捕
されたわけではない、ということは容易に想像できます。単に、進歩的な考えを持った一人の職業婦人が、おか
しいことはおかしいという意思表示をしただけのことでした。しかし結果的に彼女は公民権運動の象徴的存在と
なり、後に連邦議会から「公民権運動の母」と称され、歴史の教科書にも載る人物になってしまったのです。
さて、歴史を動かすほどではなくても、何らかの騒動に巻き込まれて人生が大きく変わってしまう可能性は、
誰にでもあります。あなたもある日突然、身に覚えのない殺人事件の容疑者にされてしまうかもしれないし、車
ではねてしまった相手が犯行直前のテロリストだったと判明して英雄扱いされるかもしれないし、キャンプに出
かけた先で億単位の現金が詰まったトランクを発見するかもしれない。出張先で要人暗殺の現場を目撃してし
まったり、国家機密にかかわるメールが手違いで送られてきたせいで命を狙われる可能性だってあるのです。
自分にはそんなことは起きない、などと高をくくっている人は、大地震も津波もやって来ないと思い込むのと同じ
ぐらいに、想像力が欠如しているのです。世界中で事件は日々無数に起きているのですから。
この物語は、平凡で地味に生きてきた三十代独身の男が、些細な容疑で誤認逮捕されてしまったことがきっか
けで、警察組織の不祥事に端を発した騒動に巻き込まれてゆく話です。彼は、余計なことにはかかわらない方
がいい、と常々思っているような小心者ですが、いったん起きたうねりは、逃げ出そうとする彼に執拗につきまと
い、からみついてゆきます。運命の波に飲み込まれた彼は、どういう選択をするのか? もしあなたが彼と同じよ
うな立場に置かれたら? そんな想像を巡らせながら物語におつき合いいただければ幸いです。
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2013年05月23日
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