コンピュータ・書評・お仕事の記録

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目次
プロローグ ー あるコサックのはなし … 1
第1章 ツィオルコフスキーの幼年時代 … 6
第2章 失意 ー 空想と知への脱却 … 33
第3章 一人ぽっちのモスクワ … 47
第4章 家庭教師 ー ヴャートカそしてリャザン … 71
第5章 テロリズムと宇宙飛行 … 92
第6章 雌伏ーあのボロフスクへ … 109
第7章 『地球と宇宙への幻想』 ー カルーガの炎(1) … 153
第8章 一九〇三年 ー 奇跡の年 ー カルーガの炎(2) … 179
第9章 宇宙SFの歴史に輝く『地球の外で』 … 210
第10章 人類進化の序曲 … 228
第11章 宇宙時代への飛翔 ー カルーガからの聖火リレー … 244
エピローグ ー カルーガへの旅 … 274
参考文献 … 294
年譜 … 296
あとがき … 301

2018年1月8日現在、Amazonの「航空工学・宇宙工学」カテゴリにおいて、ベストセラー1位を獲得している。本書は日本を代表する宇宙工学者的川泰宣氏による、宇宙飛行の父と呼ばれるロシアの科学者の伝記である。
2017年年末に献本を頂いてから、年末年始のあれこれに流されてしまい、読み終えるまでに3週間をかけてしまった。読み終えた本日、新年最初に本書と出会えた幸せを深く確認している。
恥ずかしながら、宇宙開発の歴史といえば、米国がほとんどを担っていたと思っていた。第2次大戦時にドイツから亡命したフォン・ブラウンから、ドイツが端緒でであったとも思っていた。スプートニク・ショックなる重大事から、旧ソヴィエト、ロシアが「一時的に」リードをしたのではないかと思っていた。
全くの認識違いだった。

更に驚かされたのが、この宇宙飛行の父と呼ばれるツィオルコフスキーが11歳にしてろう者(聴力に不自由のある人)となり、それゆえに過酷ないじめや辱めを受けたことで小学校さえ卒業することができない状況に追い込まれていたことだった。それにもかかわらず、向学心、好奇心を失わず、ただ読書によって学問を続け、その後中学校教諭として勤め上げたことに驚嘆する。科学者でありながらエンジニアでもあり、経済の許す限りにおいて様々な製作を続けたことも素晴らしい。ロシアの片田舎において、時代のはるかに先を歩み、決して腐ることなく前向きに「人類が宇宙へ飛翔すること」を目指して邁進した人がいたということに感動する。

推察するに、世界の科学者や宇宙に関わる人々の尊敬、崇拝を受ける理由は、彼が貧しい中でも志を捨てずまっしぐらに歩み、最晩年には国からも世界からもその業績を認められた彼に、理想の科学者、工学者の姿の一つの形を見るからではないだろうか。思えば、基礎研究や実現がはるか未来と目される研究において、不遇である研究者のいかに多くあったことだろうか。人知れず朽ち果て、その死後に業績を評価される偉人は運の良い方であろう。そんな中にあって、ツィオルコフスキーは最晩年にあっては慎ましい生活の中に幸福であったように読める。

第2章から第3章にかけての、彼の苦難の時代の記述は読んでいて胸が苦しくなる。しかしそれでも彼は興味関心のあるものづくりや金属製飛行船、金属製航空機の理論的な研究に邁進する。そしてそれも、「我がわれが」と研究成果を発表して名誉を追い求めるのではなく、ただその分野が好きだから、楽しいからというモチベーションで突き進んだように思われる。純粋な科学・工学者としての彼に好感を感じる。本業である教師としての彼の評判に関する記述もそれを裏付けている。

第8章のP.190からP.207に渡って、「ツィオルコフスキーの公式」をはじめとする専門的な解説が掲載されている。本書が伝記として優れているだけでなく、科学者工学者が彼の業績の概略を知るために必要な情報が大まかにではあるが丁寧に記されている。門外漢である私にも、大変わかりやすく書かれており、決して突き放されることなく読むことができた。ここで著者の執筆力の高さを知ることができる。

著者である的川泰宣氏は日本の宇宙開発の中心であるJAXAを代表する人物で、その宇宙開発に関する功績はもとより、広報や渉外という対外的な活動で大変な活躍をしている。著作は数多く、どれも読みやすく読む人の心を熱くするものである。息子が宇宙に関心を持った時期に、購入したり図書館で借りた書籍の多くに彼が関わっていた。私にとっても息子にとっても、科学者というよりは著作者のイメージが強い。

ツィオルコフスキー一人に焦点を当てた書籍はこれまでになかったのではないか。Amazonで彼の名前を検索しても、数えるほどしか書籍がヒットしない。彼の名をタイトルに含む書籍となるとわずか3冊がヒットしただけで、それらも少年少女向けの伝記であり、既に絶版のようである。本書は大変貴重であり、宇宙工学を志す人たちにとっては、長く読み継がれる一冊になることは間違いないだろう。

苦難の生い立ちにあって、苦学し、理想を追い求め、最終的には幸福な一生を終えた科学者の伝記として、学生にも、現役の科学者・工学者にも、公務員として日々雑務に追われる教職員にも、ぜひともお勧めしたい、自信を持ってお勧めできる名著。



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