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サティと薔薇十字団

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 フリーメーソンや神智学、カバラと音楽家の関わりを書きましたので、もうひとつ、薔薇十字団に触れておきましょう。
 エリック・サティ(1866〜1925)は薔薇十字団に加入し、薔薇十字のための音楽も書きました。
「薔薇十字教団の最初の思想」
「薔薇十字教団の鐘の音」
また、次の曲も思想的に関係しているでしょう。
「至高存在」のライトモティーフ
「天国の英雄的な門への前奏曲」

 サティが加入していたのは、正しくは1890年にペラダンが設立した「カトリック薔薇十字聖杯神殿教団」、略して「カトリック薔薇十字団」と呼ばれる団体で、1888年にガイタが創始した「薔薇十字カバラ団」から分岐したものなので、ちょっとややこしいのですが、これらは19世紀になってたくさん現れた薔薇十字系の団体です。
 もともとの「薔薇十字団」とは、1614年にヘッセンのカッセルで「友愛団の名声」という文書が出版され、翌1615年に「薔薇十字団の告白」「化学の結婚」が出版されたことにより世に出たのですが、実際には「薔薇十字団」という団体は存在せず、架空の団体だったとされています。
「化学の結婚」を書いたのはルター派の牧師・アンドレーエだということがわかっています。アンドレーエの祖父は「ヴュルテンブルクのルター」と呼ばれた人で、テュービンゲン大学の学長をつとめました。その7番目の子供がアンドレーエの父で、やはりルター派の牧師であり、錬金術に強い関心を持っていました。
当時のテュービンゲンは学問都市で、カトリックとプロテスタントの対立が際立っていました。薔薇十字文書を作ったのはルター派の学者のグループで、彼らはキリスト教神秘主義の空想的革命思想と、パラケルススによって復活した錬金術、ヘルメス哲学思想を融合させていました。
となりのオーストリアは当時、神聖ローマ帝国で、帝都プラハにはルドルフ二世の魔術的な文化が栄えていました。プラハにはヨーロッパ一円から当代最高の錬金術師や占星術師、魔術師たちが集まり、ルネッサンスの隆盛をみていましたが、その後フリードリヒ二世のカトリック政策により弾圧されます。
プロテスタントのテュービンゲン・サークルでは、カトリックとプロテスタントを相互に越境できる理想の王国をつくることを夢想するようになり、そんな中から架空の「薔薇十字団」があらわれるに至ったのですね。
「化学の結婚」は匿名で出版されたのにも関わらず、その影響は燎原の火のように広がり、出版から6年間で200以上の文書が飛び交いました。その結果、なんと「薔薇十字団」は実在するということになってしまったのです。
アンドレーエは当時知り得るかぎりの神秘的知識を、古代や中世、ルネッサンスから集めまくって、徹底的に編集加工していました。アンドレーエの知識は、古代グノーシス思想までさかのぼることができます。グノーシスはヘルメス学を媒介にし、新プラトン主義を経て、ユダヤ教のカバラ思想と結びつき、これらがルネッサンスにおいて復活再生しました。この時の編集拠点がコジモ・ド・メディチとフィチーノの「プラトン・アカデミー」です。
イタリア・ルネッサンス思想がドイツに波及するのですが、もともとドイツには「聖杯伝説」があり、エックハルトがいました。そこにグノーシス主義やカバラや錬金術が加わり、「薔薇十字運動」と呼べる潮流になっていったわけですね。

 「薔薇十字団」はフリーメーソンやテンプル騎士団との関わりもあるようで、シュタイナーやユング、イエイツ、ブレイクも強い関心を寄せています。
モーツァルトの庇護者であったフリードリヒ・ヴィルヘルム公爵は、フリーメーソンであり薔薇十字の会員でもありました。
ドイツ・ロマン主義も薔薇十字を否定するものではなくて、ゲーテの「ファウスト」第二部はアンドレーエの「化学の結婚」からいくつもの題材を得ていますし、シェリーの「セント・アーヴェンあるいは薔薇十字団員」のように、文学の背景として欠かせないものとなりました。
19世紀のベールギーとフランスの象徴主義も薔薇十字の影響を受けており、ベルギー象徴派のジャン・デルヴィルは薔薇十字のペラダンと知り合い、薔薇十字展に出品していました。ぺラダンのまわりにはサティの他にモローやルオーなどもいて、「カトリック薔薇十字団」は当時のデカダンス芸術家たちのサロン、プロデュースのための団としても機能していました。
シェーンベルクの「ヤコブの梯子」はシュタイナーの神秘劇と密接な関係があるとされますが、「ヤコブの梯子」とは薔薇十字文書で言及される、神と接触するための方法を指しています。

20世紀になって、ヒトラーから嫌悪されるまで薔薇十字の歴史は続くのですが、17世紀から連続する団体というのは存在していません。もともと架空の団体だったわけですし・・・!
途切れても途切れても、何度もよみがえっては設立される多数の団体・・・結局、フリーメーソンも薔薇十字も、神智学も、グノーシス思想やヘルメス哲学を淵源とする思想団体なのだと思います。それらが途絶えることがないのは、彼らの象徴体系が、人間が存在する限り続く集合的無意識の元型に関係するからでしょう。
現在も、薔薇十字を名乗る団体は存在しています。フリーメーソンに入会するためには、すでに会員になっている友人がいなければなりませんが、薔薇十字や神智学は誰でも入会することができます。でもそれをお勧めするわけではありません。不完全な人間が集まるところには必ず問題も生じるからです。

サティは「カトリック薔薇十字団」を脱退したのち、自ら「主イエスに導かれし芸術のメトロポリタン教会」を設立しました。信者は彼一人でした。

閉じる コメント(4)

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はじめまして。
僭越ながら私の書評集にトラックバックさせてもらいました。

2008/3/2(日) 午後 5:52 hoerderlin_on_sirius

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Akiraさん、はじめまして。記事に興味を持っていただいてありがとうございます。Akiraさんのプログにも寄らせていただきます。どうぞよろしくお願いします。

2008/3/9(日) 午後 11:00 [ mus*io*2013 ]

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はじめまして。サティのピアノ曲「薔薇十字教団の鐘の音」最近聴きましたが、なかなか良いですね!他に「星たちの息子」も気に入ってます。これらが入ったCDを探しています。

2013/5/17(金) 午前 11:45 [ maruboshi ]

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maruboshiさま、「薔薇十字教団の鐘の音」「星たちの息子」は、ジャン・イヴ=ティボーデの5枚組CDに入っていますね。

2013/5/17(金) 午後 7:53 [ mus*io*2013 ]

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