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3月6日、アンドラーシュ・シフのリサイタルに行きました。
プログラムはバッハのパルティータ全曲。
シフのバッハのCDは何度聴いたかもわからないほど、よく聴きました。それをナマで聴けるなんて法悦至極じゃありませんか!
自慢じゃありませんが紀尾井ホールは初めてです。14年前に東京を出てから、その後にできたホールなので、いまだに未踏の地になっていました。800席の中ホールで、とても音響がよいという評判のホールですね。
浦島太郎状態の東京で、紀尾井ホールへ行くために、まずスイカというものを買ってみました。なにしろスイカも初体験なので、周りの人にあやしまれないように、おそるおそる、しかしそそくさと購入することに成功! 東京では生まれた川に帰って来たサケみたいなかんじなのですが、東京という川は広いですからね〜
川を泳ぐためにスイカはgetしたものの、改札口を通過するにあたり、まわりの人に迷惑をかけたり、ばかにされたりしないようにしなくてはと緊張の一瞬です。なるべく普通のスピードで歩きながら、自動改札口に近づくと、どうやら飛行機の切符のように機械の内部を通すのではなさそうです。機械の上部に載せるだけでよいようです。しかし、スイカの表と裏、どちらの面を読み取らせたらよいのかうろたえつつ、え〜い、適当にやってみよう!と載せてみたところ、無事に改札口通過に成功!
はーはー、うまくいってよかった。たったこれだけのことに冷や汗をかいてしまう、すっかりおのぼりさんなのでした。
あとで東京人にきいてみたところ、スイカは表でも裏でもどちらでもいいそうですね。それからスイカのチャージにもこんど挑戦してみなくては。
紀尾井ホールはニューオータニの近くだろうと見当をつけ、赤坂見附で降りました。そしていつものように進行方向へ歩いて行くと、いつもあったはずの出口がない! う〜ん、3年ぐらい前に来た時はあったのですが・・・改札口が変わっていました。
ニューオータニの隣りだろうと思っていたのですが、紀尾井坂を上る時にはけっこうぜーぜーなりました。ほんとに東京ではよく歩きますね。
前置きが長くなってしまいました。
シフのチケットは、昨年10月の発売直後に入手し、大事に持ち歩いて楽しみにしていました。
シフのCDはほんとによく聴きましたが、シフは私にとって音楽の師といえるほど、フレーズやリズム、装飾など、いろいろなことを教えてもらいました。とくに音楽の喋り方、作り方を教えてもらったように思います。
演奏家によって、録音と生演奏が違う人もいるので、シフの場合はどうか、もしCDとかなり違っていたらどうしようという危惧もあったのですが、演奏が始まってみると、その軽やかで洗練された音色はCD以上の美しさで、期待を裏切られるようなことは全くありませんでした。それどころか、ナマで目の前でシフ氏が演奏して下さるなんて、信じがたい光景ですから、あまりにもすごいことが起こると、実際の現場にいても、逆に臨場感を失ってぼうっとなるものなんだなあと感心してしまいました。
シフの演奏は端正で洗練の極地なのですが、ジーグなどはとても躍動感があり、疾走するドライブ感があります。とくに最後に演奏した6番のジーグは、上体を大きく左右に振りながら、まるでスゥイングしていましたよ。
以前からシフの独特のリズム感というものがあると感じていたのですが、彼が最も尊敬するピアニストはフリードリヒ・グルダだということを知った時は、なるほどな〜と思いました。たしかにバッハとジャズには通じるところのものがあると思います。
生シフを見て、最も印象的だったのは、まったくペダルを使わなかったことです!
私は最前列にいたので、よく見えたのですが、彼の足はしっかりと大地に根を張ったかのように動かなかったのです。これはすごく姿勢としては安定感があります。しかも足がぜんぜん疲れない、とも言えます。
しかしあれだけの長時間、パルティータ全曲をすべてノン・ペダルで弾き通すというのは、じつに偉大なことであり、勇気がいることなのではないでしょうか。いったいリサイタルの全曲をすべてノン・ペダルで弾いてのける人が他にいるでしょうか?
ピアノという楽器にとって、ダンパーペダルは表現を広げるために重要な役割を担っており、ペダルを装備しているからこそ、ピアノはピアノであるともいえるでしょう。ということは、シフが弾いたのはピアノではない!?と言うことさえできるかもしれませんね。
彼はおそらく当時のバッハを誠実に表現したいがためにノン・ペダルを選んでいるのでしょう。もともとチェンバロにはダンパーペダルはありませんし。
それに加えて、ノンペダルでの演奏を実現させたのは、スタインウェイのフルコンの豊かな響きと、紀尾井ホールのよい音響のたまものであるといえるでしょう。シフは楽器の特性を知り尽くして、その持ち味を余すところなく引き出すとともに、ホールの絶妙な音響効果を存分に活かしていると思われたのです。フルコンのパワーがあれば、ノンペダルでも充分な音量が出せますし、華やかさもあり、物足りないようなことはありませんでした。
それにしても、シフの録音はいずれもノンペダルだったのでしょうか? それであそこまで音楽を表現することができるなんて・・・おそるべし、アンドラーシュ・シフですね!
ノンペダルということは、左足も使わないということなんです! CDでは弱音ペダルを使っていると思われるところがありましたが、それもじつは指だけで弾き分けていたということになるんですよね〜
ピアノを弾いていながら全くペダルを使わない、というのは、たとえて言うならば、部屋にエアコンがあるのに全く冷暖房を使わない、みたいなもので、とても禁欲的で、ある意味厳しさを伴うものだと思います。シフがまるで修行僧みたいに見えたりするのでした。
パルティータはすべて大好きな曲なので、至近距離で口あんぐり状態で、本当に楽しむことができました。指使いも見えるので、びっくりすることもありました。
たとえば、1番のジーグの最後の高音を、彼はなんと左の5の指で弾いたのです。うわ〜、かっこいいというか、なんというか・・・す、すごい。
あとで、自分でも左の5で弾いてみたのですが、
一回目、失敗
二回目、失敗、
三回目でやっと成功しました。う〜ん、なかなか手ごわいですね。
でも5で弾くと、細いけど透明な音がして、この世のものとは思えないような余韻が降って来るような感じがします。4で弾くとまた違う音がします。それぞれの指でみんな違う音がします。
シフは5を選んだのですね。しかも、これからの世界ツアーで、いつも5を使って外れない、というのもすごいですね〜。
とにかく、全編あまりにもすばらしいコンサートでした。
東京のコンサートは、帰りの電車の騒音のために余韻が薄れてしまうものですが、今回はそのようなこともなく、たっぷりの感動とともに家路につくことができたのでした。
シフと同じ時代に生まれてよかった!と思うのです。
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こんにちは。はじめまして。この演奏会はとても気になっていましたが結局断念しました。ノンペダル。眼に浮かびました。ありがとうございます。
2008/3/27(木) 午前 5:50 [ more_60_sonatas ]
more 60 sonatasさん、こんにちわ。コメントありがとうございます。このコンサートに関する記事があまりないようですが、私はシューマン等のコンサートより、迷わずこちらを選びました。私も古楽が好きで、5月にクイケンのラプティット・バンドが来るのを楽しみにしています。26日の記事「シフの指使い」もよろしければごらんください。どうぞよろしく!
2008/3/27(木) 午後 9:56 [ mus*io*2013 ]
はじめまして。4月18日(金)、教育テレビの「芸術劇場」、是非見て、録画してください。シフのオペラシティ公演の模様がたっぷり放送されます。それでは。
2008/4/11(金) 午前 3:09 [ andrea barca ]
andrea barcaさん、こんにちわ。芸術劇場の情報をありがとうございます!必ず見ますね!
2008/4/11(金) 午後 10:17 [ mus*io*2013 ]
18日のシフのリサイタルを見ました。練達のシフ節を存分に堪能させてくれましたね〜。確かにシフは新しい自分の時代を築き上げた巨匠だと思います。テンペストの三楽章はゆっくり、シューマンの幻想曲の一楽章は速めなど、独特のテンポ設定に名人の風格を感じさせられます。テンペストの一楽章はちょっとリキが入り過ぎでは?と思いましたがいかがでしょう。ワルトシュタインではシフの疾走感がたっぷりでした。アンコールのフランス組曲では、サラバンドの繰り返し後の装飾がとてもすてきでした。これは録音では聴いたことのないヴァリエーションでしたので、新鮮な愉しみがあって嬉しくなりました。この自由さこそがバロックですね!
2008/4/19(土) 午後 9:32 [ mus*io*2013 ]
シフ経由来ました。コンサートに行かれたとはうらやましいです。
2009/3/29(日) 午前 7:40
くにたちさん、こんにちわ。シフのコンサートから1年が経ちましたが、シフを目の前にするという、あんまりすごいことが起こると、目の前のことが信じられないような、不思議な出来事だったなあという感じがします。
こんどはラフォルジュルネ オジャポンに行ってみたいと思っています。
2009/3/30(月) 午後 9:17 [ mus*io*2013 ]