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世界遺産のテレビ番組で、ティボリのエステ荘が紹介されていました。ティボリはリストが僧侶となって、ワイマールを離れてやって来たローマ帝国以前からの古い町で、エステ荘は16世紀の枢機卿イッポリト・デステが建てました。エステ荘を設計したのは、ハドリアヌス帝の別荘を発掘して古代建築を研究したリゴーリオで、幾何学的な庭園に50以上もの噴水が配置されています。
エステ荘といえば、言うまでもなくリストの「エステ荘の噴水」ですが、噴水の映像を見たのは初めてだったので、その精巧さ、豪華さに驚かされました。今まで見たこともない噴水の曲を弾いていたというのは、いかにも恥ずかしいことですね。どうしてもこのあたり、日本人は不利ですよね。
エステ荘はルネッサンス建築ですからシンメトリーになっていて、様々な噴水が「水のゲーム」のように人々を驚かせ、楽しませるようになっています。アプローチの小道の至るところから噴き出る「百の噴水」、古代ローマの建築群をミニチュアサイズに縮小して作られた「ロメッタの噴水」、ヘラクレスの伝説を題材とした「ドラゴンの噴水」、シビッラの像のある「卵形の泉」
など数々の趣向がこらされ、しかも迫力を持って驚異の空間を作り上げています。中でも、かつては水力によりオルガンを奏でていたという「水オルガン」はぜひ復活してほしいですね。これらの噴水は動力を使わず、自然の水の流れのみで作られていたというのも驚異的ですね。
この噴水庭園は普通の公園にあるような噴水とは全く違い、見ることと見られることを意識した劇場のような幻想空間を作り上げているのです。まさに「水の劇場」ですね。歩きながら色々な角度から噴水を眺めたり、噴水を見ている人が劇の登場人物のように見えるそうです。
またこれらの噴水は古代ローマの神話を背景に持っています。ルネッサンスの時代は、キリスト教よりも古代の宗教や哲学が探求されたので、エステ荘にもそれが鮮やかに表現されています。「百の噴水」の壁には古代ローマの「変身物語」が描かれていたそうですし、エフェソスの女神がある噴水には、ギリシアではなく中近東のアルテミス神像が置かれていました。エフェソスのアルテミス神殿の神像は高さ15メートルもあり、そのあまりの巨大さから「世界の七不思議」のひとつとされています。噴水庭園自体も七不思議の「バビロニアの空中庭園」を彷彿とさせますし、噴水の背景にはローマ神話だけでなく、古代オリエントの世界が広がっているのですね。
シビュラというのはギリシァ・ローマの神々に仕える巫女で、神々の託宣を伝える預言者です。ユダヤ・キリスト教から見れば異教徒ですが、しだいにユダヤ・キリスト教にも取り込まれ、やがて新プラトン主義やヘルメス思想にも結びついて、ルネッサンスの思想家にも大きな影響を与えました。
こうして見てみるとエステ荘の噴水庭園とは、古代オリエントからギリシァ・ローマの文化をまとめあげた、ルネサンスの精華であることがわかります。エステ荘がそんなにすごい場所だとは、今まで不覚にも知りませんでした。確かに世界遺産になっていますけれども。
そうすると、リストの「エステ荘の噴水」は小品ですから、どうもスケールが小さいような気がしてきます。もちろん「エステ荘の噴水」は疑いなく傑作ですし、その後ラヴェルの「水の戯れ」やドビュッシーの「水の反映」に影響を与えたことも事実だと思います。あとはもう、実際にエステ荘へ行ってみるしかありませんね。あ〜だんだん行ってみたくなる・・・。
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