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〜オキナワシリアゲコバチについての記載紹介〜
オキナワシリアゲコバチは、その名から連想できるように、本来は暖地性だそうで、オキナワで最初に発見された種だからだと私は思っています。
近似種のシリアゲコバチに比べれば、日本の南部にやや偏った分布なのかもしれませんが・・・・。
私が 9年前にこのハチの産卵シーンを観察したことで記した当時の記事は、
特定の昆虫を紹介する記事を書き始めたころのもので、採用した生態写真も撮影枚数20枚以上の内の3枚のみです。
加えて余計な描写を記した文章も多いですが、今回は当時の記事をそのままにご紹介します。
未発表画像と、現在私が思うこのハチについてのお話は、改めて次回に紹介したいと思います。
心 に 残 る 昆 虫 (4)
〜 オキナワシリアゲコバチ〜
堀野 満夫
本号で先に紹介したミヤギノヨコバイカリバチがニュースなら、オキナワシリアゲコバチは、是非皆さんに知って頂きたい私にとって正に心に残る昆虫である。
ハチ目は広腰亜目と細腰亜目に大別され、前者にはハバチなどが含まれ、後者には有錐類(ヤドリバチ類)とハチらしいハチである有剣類がある。
今回紹介するオキナワシリアゲコバチは、細腰亜目の有錐類に含まれるコバチ上科のシリアゲコバチ科の 1種だ。
シリアゲコバチは世界に約 100種、日本には 3種(シリアゲコバチ・オキナワシリアゲコバチ・ヒメシリアゲコバチ)しかいない少数派である。
私が、日本蜂類同好会で紹介したのは、『オキナワシリアゲコバチの産卵』であるが、それは、フィールドで観察された状況報告にすぎない。
伊藤ほか(1997) によれば、オキナワシリアゲコバチは、本州・四国・九州・沖縄に分布し、コクロアナバチに寄生する。この2つの事実と、以後に記すコクロアナバチの生態とその獲物の生態(ここではツユムシのみを紹介した。)
プラス私の『オキナワシリアゲコバチの産卵』記事から、皆さんには、この『心に残る昆虫(4) オキナワシリアゲコバチ』を読んだ後に、その産卵行動の本質を考察していただく必要がある。
岩田(1982) によれば、「コクロアナバチは、まず初めに乾いた竹筒とか立木に残された甲虫の旧抗をみつけ、イネ科植物の乾いた葉身を切断して搬入する。それを大顎でかみほぐして繊維塊をおしかためて、内部に小空間を一時封鎖した後、ササキリ・ツユムシ・キリギリス・ウマオイムシ・クツワムシ・カンタンなどを狩って運び入れ、獲物の前肢付根と中肢付根の中間に卵の前端を密着させて産み付ける。1卵のために3〜8頭の獲物を貯蔵する。」と記述されている。
伊藤ほか(1977) によれば、ツユムシは、明るい草地や川原にすみ、背の高いヨモギの上などにいる。
年1〜2 化性、成虫期は平地で 7月と 9〜11月に卵を産み、色々な葉を食し、ブドウのフィロキセラ虫えいを中身ごと食べることもあるとのことである。
●オキナワシリアゲコバチの産卵(日本蜂類同好会会誌『つねきばち』 2004 年第 3 号 上から目線 に幾つかの記述を追加)↓
近年稀な酷暑が続いた 2004 年の夏、私は涼を求めるように、和歌山県と大阪府の県境にあり、大阪府側(岸和田市)には小規模ながらブナの原生林が残る和泉葛城山によく出掛けた。
2004 年 8月 1日の朝、私はいつものように牛滝川から少し標高を上げた舗装済の林道で、被写体(昆虫全般) を物色していた。
ここは、午前中の日当たりが良い場所で、多くのハチ目・ハエ目・キリギリス科の昆虫を見かける。
複数の個体が見受けられるジガバチなどをレンズで追う内に、体長1㎝程の初めて見受けるハチが、視界に飛び込んできた。
イタドリの枯れ枝だろうか、紫がかった直径 8mm程度のそれ(中空になっている)にハチが止まったかと思うと、産卵管をつき立てた。
私は、そのハチの体の仕組みに、この夏一番の驚きを覚えた。
普通、産卵管は腹部先端の鞘内に納まって備わっていたり、毒針は腹部先端より飛び出てくるものだが、このハチは、なんと腹部が縦に割れ、内部付根下部から上部へと縦に巻くように納まっていた産卵管が、鞘を伴って現れるのである。(写真1)。
しかも現れた産卵管の後部には、筋が糸を引くようにあらわに見えた。
幸いその様子を、側部のみならず上部もアップで撮影出来たので(写真2)、その概観的な仕組みは、容易に見てとれるだろう。
産卵行動は、午前 8時 21分より1時間余りに渡って繰り返された(写真 3)。
その後は、ゆっくりとホバリングぎみに飛び渡り、獲物を物色しているようであった。
羽田義任先生に伺ったところ、オキナワシリアゲコバチは、本来暖地性だが、本州のかなり北部まで分布しているとのことであった。
以上の文章から考察していただくが、考察にあたっては、以前に当会会報で紹介された、平井規央氏の『寄生バチ・寄生バエから見た南大阪の“食物網”(4)』(第 5巻 第 4号 2003年 12月 13日発行)の記載や、天満和久氏の『チョウを奇主とするコマユバチ類』(第 5巻 第 3号 2003年 9月 27日発行)などの記載内容を思い出して頂ければ、答えを見い出しやすいのではないだろうか。
参考までに私の素人考えを紹介しておく。
今回のオキナワシリアゲコバチの産卵行動から、コクロアナバチに寄生するには、次の3つのケースが考えられる。
① コクロアナバチが枯れ枝に営巣し、そこに生み付けられた卵に、直接またはその周辺にオキナワシ リアゲコバチの卵が産みつけられて一次寄生する。
(枯れ枝はコクロアナバチが獲物を運び入れるには細すぎて可能性は少ないように思われるが・・・。)
② 枯れ枝にツユムシなどの卵が産み付けられ、オキナワシリアゲコバチがそれに直接もしくはその周 辺に卵を産みつけて一次寄生し、寄生されたツユムシなどがコクロアナバチに狩られ、その巣の中で オキナワシリアゲコバチの幼虫にたべられて二次寄生する。
③ 枯れ枝に産み付けられたオキナワシリアゲコバチの卵が、枯れ枝ごとツユムシなどに食べられて一次寄生し、寄生されたツユムシなどが、コクロアナバチに狩られ、その巣の中でツユムシごとオキナワシリアゲコバチの卵もしくは幼虫がコクロアナバチの幼虫に食べられて二次寄生する。
写真1. オキナワシリアゲコバチ♀。腹部背面から現れた産卵管が白く見える
写真2. 腹部背面に産卵管の納まっていた鞘がはっきりわかる。
写真3. イタドリ?に産卵管を突き立てる
【引用文献】
伊藤修四郎・奥谷貞一・日浦勇 (1977) 原色日本昆虫図鑑 (下).保育社.
岩田久仁雄 (1982) 日本蜂類生態図鑑.講談社.
とまあ最後は結論づけず、クイズ形式的に終わっています。
次回は本種について簡単に調べなおして、誤ったと思われる点を訂正して、再度検証してみます。
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昆虫
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昆虫の生態写真や説明文・論文・マイ記載記事などをご紹介。
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〜蜂に寄生する蜂:オキナワシリアゲコバチ〜
私がオキナワシリアゲコバチの産卵を撮影したのは、2004年の8月、もう 9 年が経とうとしています。
特筆すべきは、その後未だにこのハチの産卵シーンを撮影した事例が無いようなのです。
〜アサギマダラに寄生するハチ〜で紹介したキスジセアカカギバラバチも面白い寄生バチですが、
今回紹介するオキナワシリアゲコバチもとても面白い蜂です。
生態が面白いのはもちろんなのですが、この蜂はその姿かたちが独特です。
普通、皆さんは毒針で人を刺すのが蜂だとおもっていることでしょう。
でも毒針を持つ蜂(有剣類)は、ハチ類の中でもごく少数です。
『あっ!ハチがいる!』(晶文社出版)によれば、そもそもハチの毒針は、バッタやトンボ(の一部)などにも備わっている産卵管が進化したものらしいのです。
皆さんが知る、ミツバチやアシナガバチ・スズメバチなどの毒針は、普段はお腹(腹部)の中に収まっていて、刺す時にのみお腹の先端から突き出します。
ところがこのハチは、腹部の付け根下面からお腹をぐるっと縦に巻くように備わっていて、普段は産卵管を腹部上面に背負っている様に見え、後脚もムッチリとした太い太ももを連想させる特異なスタイルをしています。
たぶん文章ではイメージできないでしょうから、最初の写真を見て頂きましょう。
オキナワシリアゲコバチは産卵管が短くて分かりにくければ、2番目の近似種シリアゲコバチを見れば、
産卵管が腹部の上にあることが分かるでしょう。
オキナワシリアゲコバチ
2013年3月31日現在Yahooブログ内にこのブログのみ
産卵管が二つあるのではありません。
針の様に見える2つのうち、上が産卵管を納める鞘、下が産卵管の本体です。
シリアゲコバチ
2013年3月27日現在Yahooブログ内に5件ヒット
産卵行動については、昆虫同好会で記事を発表していますが、記載記事のスペースの加減で写真を多く紹介出来ませんでした。
未だこのハチの生態にかかわる観察事例が少ないことから、未公開の写真も重要でしょう。
次回からは、複数の未公開写真と私の記載した〜心に残る昆虫(4) ーオキナワシリアゲコバチーの紹介と、新たな考察を加えられればと思います。
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〜セグロアシナガバチに巣食う蛾 : ウスムラサキシマメイガ(後編)〜
こちらには動画もあります。
前回の続きを記します。
その前に、昨日のブログにスカベンジャーという言葉が出ましたので説明します。
【スカベンジャーとは】
私流の説明で勘弁してくださいね。つまり、生命活動を行う上で出来た、糞、抜け殻、使用済みの巣、老廃物 等々のみを餌とする生物の呼称です。
昆虫で有名なのは、甲虫のフンコロガシ(スカベラ)ですね。
フンコロガシは、文字通り この昆虫が動物の糞を丸めて転がす様から名付けられたのですが、この糞の玉の中に卵を産み付け育房とします。たしかエジプトの王家の紋だったのでは?たぶんこれは、この種の甲虫は死体にも付き肉を食します。古代エジプト人は、これを敵意をもって見るのではなく、死者を黄泉へと導く神の使いと見たのでは(これ、書物やネットで調べず、勝手に言ってます。)。
チベットやインカなど?の鳥葬も同様にハゲタカなどを神の使いとみているようですね。
ひいては、再びの転生を願って。
話はかわりますが、昆虫写真家のビッグスリーと言えば、栗林さん、海野さん、今森さんでしょうか?
その今森光彦さんが、若き頃に外国のフンコロガシの生活史を撮影されたことは有名ですよね。
脱線が長くなりました。
本文もかなり長いです。ごめんなさい。では
〜セグロアシナガバチに巣食う蛾 : ウスムラサキシマメイガ〜の続編です。
ウスムラサキシマメイガに寄生された後の
セグロアシナガバチの巣
ウスムラサキシマメイガ (終齢幼虫) ウスムラサキシマメイガ (繭) 形状は、アシナガバチの育房に合った六角柱
右側の粒々は、本種幼虫時の糞と思われる
ウスムラサキシマメイガ (蛹) さて肝心の主役だが、私が本種について、加藤ら(2007)の論文から得た主な特徴を以下に紹介する。
①成虫の活動 :
夜行性(交尾,産卵など)ただし、昼間の交尾例も若干ある。
②食性 :
本種幼虫は、ハチの巣材や糞では発育しない。1齢幼虫は、ハチの蛹化間もない白色の蛹を集団で補食。
著者らの推察では、蛹を食べ発育した後は、ハチの幼虫を補食(未確認)、つまり肉食性。
本種幼虫の補食やふ化が夜間に限られるかは不明。
③世代交代サイクル :
通常年3世代で1,2世代のときもある。
④寿命 :
メス成虫で、ふ化後平均 10.7 日(ハチミツ水を餌として与える)。
産卵数 : 100〜200個。平均交尾継続時間 80.4 分。
産卵 : 交尾の翌晩以後、ピークは 2 日後。
⑤産卵様式 : ハチ幼虫のいない巣においては繭上に1〜数個産卵。
ハチ幼虫がいる巣では、ハチの攻撃を受け巣内へ侵入することができず、巣柄近辺にあるいは数十 個からなる卵塊を産卵。
⑥幼虫の移動能力 :
ハチ幼虫のいる巣の巣柄から10cmの距離に置いた1齢幼虫の内、55%の幼虫が巣内へ入った。
⑦巣内での幼虫の行動 : 本種幼虫は、蛹化にいたるまで、育房壁を食い破りながら他のハチの蛹を食す。
⑧餌量 :
1頭の幼虫が蛹化までには、ハチの蛹1頭が必要。
なお、②④⑤⑥⑦⑧については、実験的に観察された。
中谷・山本 (1999) によれば、本種の大阪府における野外での1世代、2世代、3世代の羽化期は、概ね4月、7月、10月頃と考えられえる。
私の第3世代の観察事例では、寄生した巣より夕刻に成虫が現れ、その夜の内に、メスと思われる個体がオスの誘引行動らしき行動を見せた(上から目線,2007)。
セグロアシナガバチの巣から本種が発見されて以後、長きに渡ってスカベンジャーではないかと推察されてきた理由は、⑦の記述された行動に由来するのだろう。
実際、私が観察した本種寄生後の巣は、全ての幼虫が羽化してしまうとボロボロに荒れ、巣材や糞を捕食するという従来の説に、なんの抵抗もかんじなかった。
この原稿を記す現在でも、私にはまだ 3つの疑問点がある。
1つは、本種の越冬形態である。
中谷・山本(1999)においては、スカベンジャーとの仮定の下に、寄生したセグロアシナガバチの巣内で幼虫越冬すると推察している。
しかし、肉食性と判明した以上、幼虫・蛹・成虫のいずれかの段階で冬眠する必要がある。
私の観察したセグロアシナガバチの巣では、本種の幼虫は全て成虫化してしまった。
2つ目は、私にはこれが最も問題なのだが、育房に居座る似ても似つかない姿の本種幼虫に、アシナガバチ成虫は、気づかないのだろうか?気づいているとすれば、なで攻撃しないのだろうか?
少なくとも本種成虫が、セグロアシナガバチの巣に侵入行動を察知したおりには、セグロアシナガバチ成虫は、それから約 10〜30 分間翅を広げて振るわせるなどして警戒反応を示すというのに(加藤ほか,2007)。
これについては、②⑦の内容から本種幼虫が、セグロアシナガバチの逆襲を回避できる理由が見てとれる。
加藤ら(2007)によれば、本種の1〜2 齢幼虫が好んで蛹化間もない白い蛹を集団で捕食する理由としては、大顎が未発達なため、柔らかい獲物を選んだ結果としており、最初の蛹を完食すると、次々と蛹を食べ、3〜4 齢幼虫となって大顎が発達すると、ハチの幼虫を捕食する(未確認)としている。
また、幼虫を捕食するおりには、隣接した育房より育房壁を食い破って頭だけを出して捕食するのではないかと推察している。
白い蛹を集団で捕食するのには、その肉が柔らかいということ以外にも利点があるのではないだろうか。
ハチの幼虫が蛹になってしまえば、餌を与える必要が無く、育房には繭蓋が形成されるので、ハチの成虫との接触や獲物自身の抵抗といった危険性がない。
加えて集団で捕食することで本種1齢幼虫は揃って発育し、力を増すことが出来る。
大顎が発達して後も側壁より頭だけをだして捕食するのも、はちの成虫や幼虫の反撃を避けるのに有効だ。
そして、ハチの成虫は、本種幼虫が糸を吐いて隔てるだけで、その存在に気づかれないようにも思われる。
3つ目は、③の内容だ。通常年 3 世代で1,2 世代のときもある。とはどういうことだろう。
チョウにおいては、温暖な期間が長引き、食物が十分ならば、年間の世代数が増加する種が存在するが、本種の場合は世代数が増加するのではなく、減少することがあるとうのだから不思議だ。
そうしたことが起こるのはハチの蛹や幼虫が不足した時なのだろうか?
成長過程で餌が不足すれば、その個体は死ぬのが普通だが、本種の場合は餌が不足すると、ハチが新たな餌となる蛹や幼虫を生み育てるまで成長を止めることが出来るということだろうか?
私が本種に寄生された巣を採集した際、巣内には既にハチの幼虫や蛹は存在せず、本種の終齢幼虫のみであった。
そして巣を採集したとき、巣から20cm程離れた軒先天井では、約20個体のセグロアシナガバチ成虫が、寄り添うって静かに止まっていたが、攻撃性を見せることが無かった(上から目線,2007)。
なぜだろう?私には、このハチ成虫の有様は、守るべき者(幼虫・蛹)、働くべき目的を失った保護者の姿のように思われた。
いずれにしても、一般的には弱者と見られる小蛾が、昆虫界においては食物連鎖の位置する真社会性のハチにあえて寄生する生態は、ある意味痛快で、加藤氏らの論文を読み終えた現時点でも、まだまだ興味は尽きない。
今後も発表されるであろう本種に関する論文には、着目して行きたい。
日本では、アシナガバチ亜科の巣に寄生する鱗翅類として、本種の他にフタモンアシナガバチの巣に寄生するトガリホソバが知られている(加藤ほか,2007)。
夜間の出来事なら、野外での観察は非常に困難ではあろが、願わくばその攻防を我が目で確認したいものである。
末筆ではあるが、本種についてのご指導と、論文を紹介していただいた中谷憲一氏および山本博子氏に厚くお礼申し上げる。
【引用文献】
堀野 満夫 (2007) セグロアシナガバチに巣食うウスムラサキシマメイガ.つねきばち (11) :49-50
井上寛 (1982) メイガ科.井上寛・杉繁朗・森内繁・黒子浩・川辺湛編 日本蛾類大図鑑1.講談社
p.381.
井上 寛 (1957) すかしばが (透翅蛾) 科 Aegeriide.
原色日本蛾類図鑑 (上).保育社 : p.152.
岩田久二雄 (1982) 狩猟に先行して産卵する狩蜂の生活.日本蜂類生態図鑑.講談社 : p42.
加藤展朗・山田佳広廣・松浦誠・塚田森生(2007)
セグロアシナガバチに巣食うウスムラサキシマメイガの交尾・産卵と幼虫の餌利用.
日本応用動物昆虫学会誌 51 : 45-50
中谷憲一・山本博子 (1999) セグロアシナガバチの巣にに寄生するウスムラサキシマメイガの化性と越冬態.
蛾類通信(2005) : 85-87
高見澤今朝雄(2005) 日本の真社会性ハチ 全種 ・全亜種生態図鑑.信濃毎日新聞社.長野.262pp
堀野 満夫 (2007) 心に残る昆虫(12) 〜ウスムラサキシマメイガ〜.南大阪の昆虫 vol.9 27-29
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〜セグロアシナガバチに巣食う蛾 : ウスムラサキシマメイガ(前編)〜
こちらには動画もあります。
寄生虫と言ってしまうと、なんだか気持ち悪いだけの生き物だと思われがちですが、その生態を知ると、これほど面白く興味をそそる存在はありません。
もっと言えば、寄生という生き方は、特異なものではなく、寄生することは、むしろ自然界ではポピュラーな生き方だと思って頂いてよいとすら思います。
弱肉強食の生物界で、寄生というかたちをとれば、それは強肉弱食の下克上が可能なのですから、基本的には弱者に位置するグルーブが、この方法をとらない手はないと私は思います。
これまでにご紹介したアサギマダラに寄生するマダラヤドリバエもその1例です。
今回は、蛾が蜂を食べます。
当事者(蜂)にとっては たまったもんじゃないでしょうが、第三者の人から見れば、痛快にすら思えるお話です。なにせ、人は(毒針を持つ)蜂には痛いめに合わされてきましたからね。
そのくせ、蜂蜜やローヤルゼリーを食べたり、ミツバチの毒針を治療に使ったり、果ては蜂の子を食べたりするのも人ですが。
では〜セグロアシナガバチに巣食う蛾 : ウスムラサキシマメイガ〜の始まり始まりーっ!
バチ、バチ、バチーッ。
心 に 残 る 昆 虫 (12)
〜 ウスムラサキシマメイガ〜
堀野 満夫
一言でいうとつまらない蛾、外見で判断すればそういうことになる。
ところが、その生態は、実に興味深い。
先に前振りをしよう。小さな蛾が、恐ろしいアシナガバチの巣に侵入して、その子供を食い尽くすと言ったら、しんじられるだろうか?
「そんなバカな!」と声を出したあなたには、是非ともこの記事を最後まで読んでいただきたい。
私にとって現在最も興味を持っている昆虫はハチ目である。
今回紹介するウスムラサキシマメイガHypsopygia postflava(Hampson)は
セグロアシナガバチPolistes jadwigae Dalla Torreに巣食う蛾として、以前より知られているが(井上ほか,1982)、その生活史については未知な点が多かった。
くしくもこの春、加藤ほか (2007) によって、食性などが新たに解明されたが、その内容は、私の期待を裏切らなかった。
ここでは、本種の生態について、私自身の観察を交えて紹介したい。
2013年3月27日現在Yahooブログ内にこのブログのみ
ウスムラサキシマメイガ 側面
2005 年 9 月 29 日、堺市堺区南旅籠町において、セグロアシナガバチの巣を、生きた成虫と共に採集し、透明ケース保管したところ、翌日になって、複数の小蛾が現れた(上から目線,2007)。
これが本種であることは、この年(2005 年) 12月の本会例会において、会員の山本博子氏よりうかがった。
従来本種は、セグロアシナガバチの巣や糞を食するスカベンジャーと思われていた。
中谷・山本(1999)は本種の生活史の解明を試み、年 3 世代であることを推察した。
自然界では、蛾はアシナガバチによって捕食されるものというのが一般的な認識だろう。
実際、蛾や蝶の幼虫が捕食される光景は、しばしば見かける。
しかし、本種の幼虫では、ハチに捕食されるどころか、加藤ら(2007)によれば、逆にセグロアシナガバチの蛹や幼虫を捕食するというのだ。
しかも本種成虫の体長は、わずか10mm程しかない。
私の興味は、果たして本種は単なるスカベンジャーなのか?弱々しい小蛾が、集団で生活し、毒針を持つ肉食のハチの巣に、何時いかなる方法で産卵するのか?ということであった。
本種の生態を紹介する前に、まずはセグロアシナガバチについて紹介しなければならない。
アシナガバチ亜科は、ハチ目の中でも最も進化した形態と生活様式を持つ真社会性のハチである。
真社会性とは、集団の大部分の卵を産み、その他の労働をほとんどしない繁殖固体(女王=母バチ)と、卵を生まず育児や食物採集などの労働に大部分を費やす労働個体(働きバチ=娘バチ)の 2 世代の成虫が共存して共同で育児する生活形態をとる性質をいう(高見澤,2005)。
さらに高見澤(2005)によれば、セグロアシナガバチは、アシナガバチ亜科の中でも大型で、攻撃性はスズメバチ亜科のキイロスズメバチに次ぐ程とされている。
しかし、その巣は1層の単盤がむき出しで、育房数は50〜500と、複数層の単盤が球形の外壁の中に納まったスズメバチに比べれば、外部からの侵入を許し易く、規模も小さい。
ウスムラサキシマメイガの生活史のサイクルについては、セグロアシナガバチと対比させた図1を参考にしていただきたい。
さて肝心の主役だが・・・・、
つづきは次回ブログにて、 to be cntenued
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〜蜂になった蛾 : ヒメアトスカシバ(後編)〜
注:このブログは、前回のつづきです。
まずは本種の生態的特徴だが、黒子 (1996) によると本種の幼虫は、へクソカズラやツタの茎に虫こぶ(ゴール)を造るとされる。そこでこの2つの寄主食物についても文献で調べて見た。
その結果、ツタについては気になる点はなかったが、へクソカズラに関する記述には、興味深いものがあった。
稲垣 (2003) によると、へクソカズラの臭い のもとは、細胞内に蓄えられたペテロシドという物質で、葉や茎が食害を受けることでこれが分解されて、メルカプタンという悪臭を放つガスが生成され、敵を遠ざける。
ところが、へクソカズラアブラムシは、へクソカズラの成分を体内に蓄積することで、テントウムシの食害から逃れるという。
へクソカズラを食害する昆虫は、他にもトビモンシロノメイガ、クロズノメイガ、ホシヒメホウジャク、ヒメクロホウジャク、ホシホウジャクの幼虫がしられている。
いずれもガ類としては珍しい昼間活動性である。本種とこれらの種はハチ類に擬態しており、本種とのこうした共通点は偶然だろうか?
ちなみに、ホウジャクは漢字で書くと蜂雀で、ハチ類に似たスズメガという意味になる。
次に鳥の生態と能力であるが、藤岡 (2002) によれば、鳥類は、多くが昆虫と果実、種子、小動物が主な餌である。
味覚を感じる細胞 (味蕾) の数は、ニワトリやハトでは数十個と、ヒトの約一万個より遙かに少ないが、果実を食べるヒヨドリやムクドリは糖度や毒物に敏感とされる。
視覚は、ヒトは 3 原色を感知しているが、多くの鳥は、紫外線まで含む範囲を 4 原色としてとらえており、優れた動体視力も有しているとされるようだ。
学習能力は優れており、鳥の脳は、飛ぶという制約にもかかわらず、同じサイズのほ乳類と同程度、爬虫類と比べると 6 〜 11 倍も大きく、例えば食べる物も天敵も一つ一つ学び、学習能力が高い (藤岡,2002) とある。
本種によく似たオオフタオビドロバチは、岩田 (1982) によれば、メイガ科の幼虫を好み、大きいハマキガ科の幼虫を狩ることが記録されている。また、訪花性もあり、へクソカズラに飛来する姿を私自身が観察している。したがって、両種の生活圏は少なからず重なっていると思われる。
本種は、多くのガ類とは異なり、昼行性であるため、外敵が多いと思われる。
そこで幼虫期にへクソカズラを寄主植物とするものの、鳥類に対してはその効果が望めないと思われる。
しかも鳥類の網膜上の感覚細胞の密度は高く、学習能力も高いが、小型の鳥の目は小さく、分解能力はヒトより劣るため、危険なハチ類と本種を容易に見分けられない (藤岡,2002)。
したがって、本種の寄主植物周辺でも見られるオオフタオビドロバチに似た姿は、鳥類に対する防衛手段として有効と思われる。
ところで、本種については、私は一連の交尾行動を観察したので、紹介する (写真3)。
2005 年 6 月 19 日の午前10時27分、大阪府泉南郡岬町不動谷林道脇において、本種が 1 個体、捕食者や周囲に警戒する様子もなく、足元の葉上に悠然と止まっていた。
周囲に私の気をひく昆虫も見当たらなかったことから、地面にあぐらをかいて撮影を始めた。間もなく別の個体が飛来し、葉上の個体に飛びかかったかと思うと、交尾行動を開始した。
これによって葉上の個体がメスで、飛来した個体がオスであることを理解した。
さらにその後、新たな個体が現れ、接合に成功しているオスの存在があるにもかかわらず、メスの背面にすがり付く行動を 3〜4 度繰り返した。
これもまたオスで、彼らはメスのフェロモンに誘われて現れたのだろうか。
今回の観察で現れたオスは、この 2 個体のみで、2 番目のオスはその後このメスをあきらめ、どこかへ飛び去った。黒の体色に黄色の縞模様の本種は、緑色の葉上ではよく目立つ。
捕食される側の昆虫にとって、日中に目立つ状態で静止することは危険である。ましてや交尾行動中の個体は、捕食者に絶好の機会を与える。
私は以前、林縁の木陰という目立たない場所で交尾行動中であったガガンボの一種が、クロスズメバチに肉団子にされる様子を目撃したことがある。
にもかかわらず、本種においては、今回観察したような一見無防備な交尾行動が一般的であるとしたら、本種の姿が捕食者の視覚に危険な生物であることを訴えているのかもしれない。
①10時28分53秒 ♀が葉上で♂を待つ(フェロモンで誘い)
②10時31分28秒 交尾に至る ③10時32分40秒 交尾中の♂♀に新たな♂が飛来
④10時33分05秒 交尾中の♀に後から来た♂がすがり付く
①10時33分49秒 再び交尾する♂♀
写真3.①〜⑤ヒメアトスカシバによる一連の配偶行動 2005年6月19日
泉南郡岬町不動谷 堀野 満夫 撮影
ところで、スカシバガ科については、本会において「チョウのハンドペアリング」について講演していただいた中秀司氏 (現鳥取大学) がご研究されておられ、スカシバガ科のフェロモンルアーも本会に提供していただいたが、残念ながら私はスカシバガ科の生態についての知識不足から誘引採集には至らず、残念であった。
また、個人的には、本種の交尾行動を記すために必要な文献を紹介していただいたにもかかわらず、極めて専門的であったことから、その内容についてふれることができなかった。
そこで最後に、この件について興味を持たれた方のために、中氏らの研究チームが、ヒメアトスカシバの性フェロモンや配偶行動に関する共著論文を複数発表されることを紹介しておく。
文末ではあるが、文献の紹介と、本種及びセスジスカシバの写真を同定していただいた中秀司氏に、厚くお礼申し上げる。
【引用文献】
江崎悌三 (1958) ほうじゃく (蜂雀蛾) 亜科
Philampelinae.原色日本蛾類図鑑 (下).保育社 : p.237
藤岡正博 (2002) へクソカズラー止むに止まれぬ乙女の選択.
身近な雑草のゆかいな生き方.草思社 : 183-186pp
井上 寛 (1957) すかしばが (透翅蛾) 科 Aegeriide.
原色日本蛾類図鑑 (上).保育社 : p.152.
岩田久二雄 (1982) Ⅵ 狩猟に先行して産卵する狩蜂の生活.日本蜂類生態図鑑.講談社 : 33-39pp
黒子浩 (1996) フタスジスカシバ(ヒメアトスカシバ) Paranthrene pernix Leech.
エコロン自然シリーズ蝶 ・ 蛾.保育社 : p.141
黒澤 義彦 (1986) ベーツ型擬態.原色日本甲虫図鑑 (Ⅰ). (森本圭・林長閑編) 保育社 :p.126.
堀野 満夫 (2008) 心に残る昆虫(18) 〜ヒメアトスカシバ〜.南大阪の昆虫 vol.10 17-19
次回は、『セグロアシナガバチに巣食う蛾』(蜂の巣に潜入して蛾が蜂の子を全滅させるんですよ)をご紹介しようかと思っています。 |




