2010年邦画部門

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全5ページ

[1] [2] [3] [4] [5]

[ 次のページ ]

武士の家計簿


『武士の家計簿』 予告

***ある武士の算盤,そして、このくにの算盤。***

今年はなにか,良い時代劇に数々出会えた年だったような気がします。
この作品もその秀作のひとつだと思います。
幕末を剣の力ではなく,ソロバンという、自分の得意技で生き抜いた、ひとりの武士とその家族の物語です。
イメージ 1


幕府の元にある各藩は、例えば,まあ地方公共団体みたいなものでしょう。
その江戸時代の地方公務員の慎ましい生活を描いた本作。
主人公は藩の勘定方に務めております。。今でいえば経理課に当るのでしょうかね。彼はソロバン馬鹿と言われるほどのソロバンの腕前でした。性格も几帳面。
必要以上に藩の会計をソロバンで検算していたら、思わぬ不正を発見してしまったりします。
まあ,彼にとっては,数字が一文でも合わなければ、生理的に気持ち悪いという、性格の現れだった訳ですが。
下っ端役人である自分が、そんなとんでもない事実に出くわした時、どう対応するのかという見所もあります。
僕がこの作品の演出で一番感心したのは、ソロバンを弾く、その「音」でした。
これは森田監督のこだわりなのか,それとも堺雅人さん本人のこだわりなのか。
本作での算盤を弾く音を良く聞いてみてください。
パチン,パチン,カチッ,カチッ。
一芸に達した人の「作業」というのは、それを見ているだけで、また音を聞いているだけで気持ちのよいものです。
実に澱みがない。
しかもリズミカル。
計算するという作業が着々とうまくいっている、まさにそれを表現しているのだと思います。
将棋の棋士や囲碁の名人が盤に駒や碁石を置いていく。そのパチリと言う音がとても気持ちいいときがありますが、そんな感じですね。
また、料理の達人が包丁を刻む音が素晴らしかったりするのと似ております。

さらに、森田監督がただ者ではないなと思うのは、その舞台装置のこだわりです。
僕が注目したのは猪山家の台所でした。
そのディテールのリアルな事。
装置として組み込まれた台所のたたずまい。
ここで火をおこし、飯を炊く。そして流しはここ。漬け物の壺はここに置かれてあって,下女はここから出入りして、等と、まさに猪山家の食生活や、暮らし向きがモロに分ってしまうのですね。
かまど,飯を炊く釜、壺、ザル,そんな、何気ない小道具ひとつひとつが、すでに下級武士の暮らしの歴史、そのものを物語っているのです。
当時の生身の武士が、どんなものを食し、どのような趣味をしていたのか。どんな所で見栄を張っていたのか?
そういう、ある侍一家の全く飾り気のないリアルな生活感が、生き生きと描かれております。
イメージ 2


派手なチャンバラもなく、淡々と平凡な日々を掘り起こして、映画に仕上げていく、そのケレン味のなさが何とも良いなぁ。
こういう切り口の新しい時代劇。面白いと思います。
堺雅人さん演じる猪山さんは、やがて自分の家の借金返済のため、まさに家計の大改革を断行します。ここで彼のセリフがキラリと光ります。

「私は生まれてくる子供の目をまっすぐにみたいのです。」

イメージ 3


日本の政治家の皆さん、お聞きになりましたか?
あなた達は子供たちの目をまっすぐ見る事が出来ますか?
収入の何倍もの借金を、自分の家が抱えているという事実に、ひとりの下級武士は、真正面から向きあっていったのです。その態度が清々しいのですね。
たとえ昼のお弁当を切り詰めてでも、財政を立て直すのだ、という覚悟のほど。

イメージ 4


ひとつの家族の家計を立て直すというだけで、これだけのドラマがある。
これだけの苦労と努力がある。
もし、これがいち家族ではなく,国という単位だったらどうなんでしょうね。
こんな事やってる場合じゃないんですよ。ニッポンは。
国の借金はどれだけあるんですか、政治家と呼ばれるみなさん。
おぎゃあ、とかわいい子供が生まれてくる。
その赤ちゃんには生まれたときから649万2168円也(2010年4月1日時点)の借金を背負わされているそうです。
まっすぐ見てください。幼い赤ちゃんの顔を。
この幕末の一下級武士の地味なお話を、映画にする意義は,正にそこにあるのだ、と僕にはそう思えてなりません。

監督   森田芳光
主演   堺雅人、仲間由紀恵
製作   2010年 日本 
上映時間 129分

ノルウェイの森


映画「ノルウェイの森」予告編 Norwegian Wood Trailer


***幸せな勘違いって出来るかな?***

何よりもまず、予告編で見たその映像の美しさに心惹かれて、この作品を観に行ったのです。
ロケーションがとにかく美しい。草原に吹き抜けて行く風、海と岩肌の感じ、そこにたたずむ静物画の様な人物。

イメージ 1


こんな素晴らしい風景を、映画のフィルムに焼き付けて行くという作業は、きっと監督の美的センスの良さがなければ不可能だと思います。
村上春樹氏の作品は、他の作家に比べて映像化が難しいとは全然思いませんが、世界的ベストセラー作家作品の映像化という事で、ずいぶんスタッフにとっては、ハードルが高かった事だろうと思います。
僕は原作を半分だけ読んだ段階で、この作品を観ました。だから登場人物についても予備知識があったし、ストーリーも、だいたいこんな感じというのはつかめていました。
しかし,原作を読んでない人はどうだったのでしょうね。
僕は、この作品は、原作を読んでから観た方が、より楽しめるのではなかろうかと思います。
本作がストーリーを追いかける事よりも、映像詩に近い様な美しさを追求した作品作りになっているのは明らかです。
もちろん原作にある、あのシーンや、このシーンを入れてほしかった、というのはあるけれど、どの部分を、どう解釈して映画にするのかは監督の判断です。
監督が差し出すイメージを観客は楽しめば良いし、楽しめないならブーイングをすれば良い事です。
この作品については、全く個人的な好みがはっきり別れる事になろうかと思います。
僕は好きな方です。文芸作品なので娯楽性は、ほぼ「ない」と言っていいです。
アクションが好きな人はそういう作品を選んでご覧になれば良い事です。

例えれば「ベニスに死す」だとか、「真珠の耳飾りの少女」のような絵画的な美しさが好きな人。邦画では森田芳光監督の夏目漱石原作「それから」の、あのドキドキする様な映像美が好きという方にはお勧めの作品と言えます。

イメージ 2


別な見方をすれば、まさか、このような純文学的な作品が、この21世紀のシネコンで、よく「ぬけぬけと」上映に漕ぎ着けたものです。これが村上春樹という稀代のベストセラー作家の原作でなければ,いったいどういう運命を辿る事になったかは容易に想像出来ます。
もし,興行収入まで狙って配給したのであれば、それは仕掛人の英雄的な覚悟が合ったはずです。
作品中、エロティックな表現も多々あるけれど、僕には原作の雰囲気を壊す事なく、抑制の利いた好ましい演出であったと思えました。
松山ケンイチは,どこかこの俳優、とらえどころがないんですね。それによって主人公が透明性を帯びていて、観るものを感情移入させやすくしている。
あまりにも何の灰汁も含まないために、あまりにも水の様な透明感溢れる演技のために、きっとこれは自分を描いてくれているの違いない、と観るものを錯覚させるのです。
その勘違いは、映画を観る事のひとつの楽しみでもあります。村上春樹氏のいくつかの小説に登場する主人公達の透明性。そこに読者は自分自身を反映してくれているかの様な、「幸せな勘違い」をする訳です。
村上春樹作品の魅力は正にそこにある、と僕は勝手に思っています。
出来れば、僕の大好きな村上春樹作品「ねじまき鳥クロニクル」も、ぜひ映像化してほしいですね。
この作品は「ノルウェイの森」から,更に踏み込んだ精神の冒険に旅立つ様な作品です。とても幻想的な心象風景の描写が必要になってくる作品なのです。本作のトラン・アン・ユン監督なら、きっとやってくれんじゃないか?と僕は幸せな勘違いを楽しんでいるのです。

監督   トラン・アン・ユン
主演   松山ケンイチ、菊池凛子
製作   2010年 日本 
上映時間 133分

映画『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』予告編

***何かに溺れる事もひとつの生き方かも***


実はこの作品、かなり期待して観に行きました。久々の東陽一監督作品。しかもちょっと怪しいキャスティングなんですね。
アル中のダメオヤジ役に浅野忠信。あっけらかんとした奥さん役に永作博美。この二人のくせ者役者が夫婦役というのだから、観る前から、このキャストは絶妙だと思いました。
イメージ 3

イメージ 1

しかしちょっと残念な事に、脚本が若干弱い感じがしました。
それに演出も、アルコール依存症の幻覚が現れる表現などで、少しひねってやろう、と言う、作り手の気持ちが見えすぎてしまいます。
少し演出過剰な感じが、表に出てしまった感じですね。このあたり、やはり東監督の映画への、今だに衰えぬ熱い想いが、少し空回りしてしまった感じがあります。
しかし、アルコール依存症と言う厄介な病気に対して、映画と言う手法で,その心象風景や、家族ドラマを描こうとした東監督の意気込みには敬意を表したいと思います。
劇中、何度もカレーライスを”お預け”される主人公。観ているこっちも、「あ
あ、カレーライスが食べたい。」と思わせますね。
もちろんこの作品を観た後、近所のカレー屋さんへ直行しました。
戦場カメラマンであった主人公は、かつての戦いの風景の中で、いったい何を見てきたのだろう、何を感じて来たのだろう。そこをもっと描いてほしかったなぁ、と思います。
彼はストレスに耐えきれず、酒に溺れてしまいました。それを弱いヤツというのは簡単。でも人間、誰しも弱いものです。
イメージ 2

僕だって一時は、朝の八時から夜の十一時まで、パチンコ台の前に座っていましたし、酒の方も、一週間にウィスキーのボトルを二本空けてました。かなり依存症気味だった訳です。そんな風に心は荒んでいたのです。
こういう経験をした方は、ぼくだけではないはずです。
人間何かに囚われていないと、逆に、心細くて、淋しくて、満たされなくて、もうどうしようもない。
そう言うダメな、人間の部分を僕は認めます。僕がそうだったから。
この作品の主人公である夫も、やはりそう言う人です。
浅野忠信演じる、ご主人のダメっぷりは良い演技だなぁ。
それをまた、何の悲壮感もなく、あっけらかんと支える奥さん役の永作博美もいいなぁ。
永作博美という女優は「女の毒の部分」をちゃんと表現出来る、数少ない女優さんだと僕は思います。良い作品、よいスタッフに恵まれれば、大化けする女優さんに間違いないと,僕は勝手に思っております。本作では、漫画家の西原理恵子さんを演じています。
作品そのものは、元戦場カメラマンの夫を描く方向にシフトしている感じがあります。もう少し永作さんの出演部分を増やしてほしかったなぁと思いますね。惜しいです。


監督   東 陽一
主演   浅野忠信、永作博美
製作   2010年 日本 
上映時間 118分

ふたたび SWING ME AGAIN


映画『ふたたび SWING ME AGAIN』予告編


***昔の仲間でスウィングしようぜ。***


イメージ 1


ハンセン病を抱えたジャズオヤジと、その孫息子とのロードムービーです。前半部分はややマッタリした感じがありまして、映画としての面白さを正直あまり感じない。それでも後半からの、ジャズ仲間と出会う辺りから、俄然、この作品は輝きを増してきます。
出演している俳優さん達の年輪を重ねた顔が良いなあ。
近頃の世の流れなのだろうか、老人をテーマにした映画が多くなりました。
映画を観る。それも映画を継続して見続けているとはっきり分る事があります。
それは世の中というものの雰囲気。
この先、どういう方向へ世の中が向かおうとしているのか、と言う事が皮膚感覚として分るという事です。
今後、高齢者は、まぎれもなく世の中の主役になっていくのだろうな。そんな風に感じます。

イメージ 2


日本と言う、機能不全に陥っている、この国を担っていくのは、実は高齢者なのだと。それほど、最近の若者に元気を感じないし、志の高さも感じなくなりました。
それは社会に取って大きな損失だと思う。
なお、ハンセン病への偏見という問題。この作品はそれを取り入れてはいますが、作品を見る限り、それを強烈に訴える手段としてこの映画を作った、という訳ではなさそうです。
病に冒され、また病と戦い、偏見とも闘いながら、それでも捨てきれなかったもの。いまは年老いた体だけど、その中でも、まだくすぶり続ける炭火の様なものが、体の奥で熱を帯びている。この作品に出てくる高齢者はそういった熱い連中なのです。いつでもジャズへの情熱の火種は消えてはいないひとたちです。この作品が描きたかったのは実はそこなのだと思います。

イメージ 3


出演の渡辺貞夫さん、犬塚弘さんのジャズプレイもふんだんに織り込まれていて、実に聞きごたえ、見応えのある作品に仕上がっています。
僕の地元である、神戸の風景が随所に織り込まれているのも、大変うれしい作品なのでありました。

監督   塩屋 俊
主演   財津一郎、鈴木亮平
製作   2010年 日本 
上映時間 111分

最後の忠臣蔵


最後の忠臣蔵

***「いのちを使う」と書いて「使命」と読むのですね。***

今年の流行語になりましたが「全て、整いました!!」という映画が本作でしょうね。まさかここまで美しい映像を見せられるとは思いませんでした。そのあまりの美しさに涙し、その見事な脚本に涙し、そのあまりに見事なキャスティングに涙しました。

イメージ 4



日本の原風景、心の奥底の風景。
「何もかも懐かしい。」
宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長のお言葉でしたね。きっと沖田艦長の様な戦士なら、この作品に涙するはず。

キャメラワークが美しいなぁ。
雪深い山中、幼子を抱えて逃避行を続ける一人の武士。
その人物の配置。雪景色。自然の広大さ。あまりに厳しく、だからこそ妥協を許さない美しさを見せる大自然。

イメージ 1


厳しい自然の中で、ひとりの人間という存在のなんと言う小ささ。
ちょっと、ブリューゲルの絵画を僕は連想しました。

その小さなひとりの人間は、一抱えの荷物を大事そうに抱きながら、雪の中を歩きます。
彼は身分を明かせぬ赤穂の浪人でした。彼はある大事な使命を帯びておりました。
彼がいま胸に抱えているのは、幼子。
大石内蔵助の忘れ形見を、内蔵助本人から「生きて、生き抜いて育て上げよ」と言う、重い使命を与えられたのです。

やがて、浪人は山中でひっそりと生きて行きます。世を忍ぶ仮の姿で暮らす赤穂の浪人。その淋しい庵。これがまたいいんですよ。
これ、セットなんでしょうかねぇ。美術スタッフの頑張りがよかったなぁ。正に「侘び、サビ」の世界がそこにありました。
障子越しに漏れる薄明かり。その淡い光の陰影。
ほのかに描き出される女性の肌の美しさ。

イメージ 2


こんな絵を誰が撮れるのか、と思って調べてみたら、テレビドラマの「北の国から」シリーズを撮った監督さんなのですね。
道理で北国の美しさをこういうふうに美しく、まるで絵巻物の様に描く事が出来る訳です。
佐藤浩市さんと役所広司さんの、すすきヶ原での決闘シーン。
ここまで美しい決闘シーンはかつて見た事がありません。
黒澤作品でもこの美しさはあり得なかった。

イメージ 3



なお、人形浄瑠璃が、この物語の重要な進行役を務めております。
その映像が時折挟まれるんですが、これがまたいいんですね。

最近の映画は、とにかくカメラを動かさないと損だ!と言わんばかりに、アクティブなカメラワークが多いのですが、はっきり言って僕の趣味ではないです。
ところが、この作品。そんなぼくの趣味に、ど真ん中のストライクをずどーんと打ち込んでくれた感じです。
固定カメラなんです。ほとんど。
カメラ移動も、とてもゆっくりと動く。
風景の美しさを味わう様に、いとおしむ様に、キャメラはフィルムに風景を焼き付けて行くのです。
これが映画ですよ。これこそ本来の映画なんですよ。
見習ってほしいなぁ、他の監督さんも。
こうする事によって、観客は疲れる事なく、役者さん達の素晴らしい演技に集中出来るんですね。
この作品の最も罪作りな点は、日本人のDNAと申しましょうか、古の武士道,その生き様をとても慎み深く描いている所です。美しく節度ある、かつての日本人の姿に感動するのです。
そして、あえて慎み深く映画作品を淡々と作ろうとする監督の姿勢。
その潔さにもう涙するんですね。
この作品の美しさはまだ数々ありまして、とても僕の貧相な描写力では書ききれません。
何より、あなたがまずご自分の目で見て、この「日本の美」に触れてみてください。
ただ、そのあまりの切ないストーリーに、あなたの両の目は涙で濡れてしまい、この作品の美しさが味わえないかもしれません。ハンカチはお忘れなく。
ここまで表現されたら、もうこれは降参ですね。
今年も、もう年の瀬というころに、まさか、こんな傑作が発表されるとは!
今年の邦画界、話題作「告白」や「悪人」もよかった。もちろん「のだめカンタービレ」「アウトレイジ」「キャタピラー」もよかった。それらの作品と肩を並べる、間違いない今年の最高傑作のひとつ。お勧めです。

監督   杉田成道 
主演   役所広司、佐藤浩市
製作   2010年 日本 
上映時間 133分

全5ページ

[1] [2] [3] [4] [5]

[ 次のページ ]


.
mussesow
mussesow
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

過去の記事一覧

友だち(3)
  • was*by9*19
  • だりゅ
  • ナフ
友だち一覧
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

Yahoo!からのお知らせ


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事