ステキな金縛り[予告]
***出たくて出たくてしょうがない、それが三谷監督***
三谷監督作品を観ていつも思うことは、「この人、出たがりだなぁ」ということ。
三谷幸喜は元々は舞台の脚本家です。書いた脚本は生で役者が演じる。だからある意味「舞台は役者のものだ」と言われます。
三谷さんはどうもそれが我慢ならないらしい。というのは僕の憶測ですが。
この人はとにかく自分が書いた脚本という形で自分が表に出たい、それこそ脚本で謳い上げたい、いざとなれば踊ってしまいたい人なのではないでしょうか。
となると三谷さんが映画の道へ進んでいった事もうなづける。
脚本は元々自分のテリトリーだし、その上監督として作品を製作する全ての事に関わる訳です。たとえばいらない部分は編集でカットしてしまえるしね。
舞台では不可能な、あっという間の時間と場所の瞬間移動だって、映画では簡単。さらには手の込んだアクションシーンや、特殊効果なんて映画の独壇場でしょう。
これは作品を謳い上げたくてしょうがない、自分が踊りたくてしょうがない三谷さんの性格に本当に合ったジャンルだと思います。
さて本作「素敵な金縛り」はその三谷ワールド全開のお話です。
何せ戦国時代の武士のユーレイを、現代の法廷にひっぱり出して、証言台に立たせようというアイデアなのです。
事件を担当するのは、失敗ばかりやらかしている駆け出しの女性弁護士。
これを深津絵里さんが演じております。
さて、ここでちょっと疑問点が……。どうでしょうねぇ、この人。昨年の「悪人」でモントリオール映画祭で最優秀主演女優賞に輝いた方です。ついに世界でもその実力が認められた演技派女優さんです。
その世界の演技派女優さんが、今回は結構コケティッシュな役回りを演じています。「悪人」の次に更に進化を遂げた深津絵里さんを見れるのかと言うと、実はそうではないんですね。
そこのところは三谷監督が深津さんの演技に深みを求めていないという事なのでしょうね。
その辺りがつまりは「映画は監督のものだ」という証明になっちゃう訳です。
幾ら深津絵里さんが極上の演技を披露したとしても最終的にそれをOKするのは監督の判断。
深津絵里さんは結構何でもこなしてくれる便利な役者さんではあります。今回の作品ではその便利な女優のレベルに留まってしまっているのがちょっと残念だったなぁ。
でも三谷ワールドがお好きな方、ご安心ください。三谷ファンには充分楽しめる事は間違いない作品ですよ。
監督 三谷幸喜
主演 深津絵里、西田敏行、阿部寛
製作 2010年
上映時間 142分
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映画『ツレがうつになりまして。』予告編
***わたしもウツになりまして***
ほんとはとても重いテーマを扱った作品なのに、軽やかで清々しく、ちょっとコミカル。宮崎あおいさん、堺雅人さんの好演もあって、とても後味の良い作品になっていました。
うつ病は理解されにくい病気です。ただ怠けているだけにしか見えません。寝てばかりいるようにしか見えません。
しかし他人はそんなうつ病患者の心に土足で上がりこんで来る。その上「頑張れ爆弾」をあたり構わず雨あられと降らせて後は知らんぷり。
これって実はうつ病患者にとっては
「早く死ね。早く死ね。この役たたずめ!!」
と言われているのに等しいのですよほんとに。辛いんです。頑張れと言われるのは。ツレさんを暖かく守ってあげているハルさんの優しさがとても光っていました。
うつ病になってしまった僕から言わせてもらいたい。
一体誰が「うつ病は心の風邪」なんて言い始めたんだろう。
なんでこんな心ないキャッチフレーズを流行らせたんだろう。
実はうつ病は一歩間違えると「死に至る病」なのです。そこの所をわざわざ勘違いさせる様なキャッチフレーズを作ったことでいったいどれほどのうつ病患者が追い込まれていった事か。
日本は自殺大国です。毎年三万人を超える人が自殺している。その中にはかなりの割合で抑うつ状態、あるいはうつ病患者がいると思われるのです。
風邪だからすぐ直るんだろうとか、そんなもの気分の持ち様だ、という連中が、今だに大手を振って世の中を牛耳っている。
どんなに僕ら、うつ病患者が惨めな生活を送っているか、自分を責め続けているか、その苦しさの百分の一でも背負ってもらいたいものだと思います。
リアルなうつ病患者は辛く、暗く、厳しい生活を送ってます。それをこんなに爽やかな夫婦愛のお話に作ってくれた佐々部監督、原作者の細川サン、スタッフの方々にお礼を申し上げたい。
この作品の良いところは、誰でも楽しめる作品に仕上げている所です。
真正面から鬱を取り上げるとほんとに気が滅入るお話しになってします。そこをエンターテイメント作品として楽しめる作品に仕上げてくれた事が嬉しいのです。これによって多くの人がうつ病について知ってくれます。
劇場には若いカッップルや熟年のカップルまで来られてました。この作品はうつ病への偏見を解消してくれる力を持っています。そしてうつ病の事を大変分りやすく観客に伝えてくれます。ロングラン上映になれば良いなぁ。できるだけたくさんの人に観てほしい。心底そう思います。
健やかなるときも病めるときも、ツレさんとハルさんのお二人なら、きっと乗り越えていけるでしょう。教会での結婚同窓会のシーンが、とても印象的でした。
監督 佐々部清
主演 宮崎あおい、堺雅人、吹越満
製作 2011年
上映時間 121分
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映画『はやぶさ/HAYABUSA』予告編
本当に久々に映画を見に映画館に行ってきました。昨年、小惑星のサンプルを持ち帰ると言う世界初の快挙を成し遂げた惑星探査機「はやぶさ」の映画です。なかなかの力作だと思いました。***
***ニッポンと日本人にいま一番必要なこと***
それは夢とロマンなんだと思う。日本列島を引きちぎる様に震災が襲った。原発はブッ壊れ、おまけに毎年首相はリストラされ、はっきり言って満身創痍な日本という国。
その国にたった2メートル四方の四角い機械の固まりが、かすかに夢を与えてくれている。それが「はやぶさ」と言う機械である。
そう。あくまでも機械部品の集合体に過ぎない。
そこにボクタチは夢を見る。ロマンを感じる。
この作品は「はやぶさプロジェクト」と言う事実を元にしたフィクションである。
はやぶさプロジェクトについてはそれこそ山の様にエピソードがある。
どういうエピソードを入れ、どのエピソードを削るのか? それは大変な作業であったろうと思われる。
映画作品としてみた時、とても手堅い作りだなぁと感じる。
やはり、「20世紀少年」等の大作も手がけた堤幸彦監督の手腕が光る。
「はやぶさ」というプロジェクトを描こうとしたのではなく、それに関わった人物達にスポットを当てた作り方がうかがえた。
たとえば朝、誰よりも早くポットにお湯を入れる川淵リーダーの姿。演じるのは佐野史郎である。短いシーンだが、背中で語る様な人間像が出ていていいシーンである。
主人公を架空の女性にしたのも正解だったと思う。
これによって観客は彼女の視点から「はやぶさ」に関わることになる。
彼女は宇宙オタクの大学院卒業生。ただし現実は古本屋でアルバイトをしているフリーター。学問だけでは食っていけないのだ。慎ましい生活をしながら博士論文をせっせと書いている。
科学とお金、学問とお金との微妙な関係がこの作品ではよく描かれている。
何の腹の足しにもならない、小惑星の石を採ってくるという危なっかしいミッションに、国の財布の紐は固い。
来年の予算カットだけは防ごうと悪戦苦闘する的場室長の姿。演じるのは西田敏行である。
いざ打ち上げとなれば、的場室長は近隣の漁業協同組合のおっちゃんたちと酒を酌み交わす。彼らのご機嫌を取らなければロケットは打ち上がらない、宇宙開発はできない。これが人間臭い宇宙開発の現実なのだ。
「はやぶさ」は、これら多くの人々の力で宇宙に飛び出した。
60億キロの気の遠くなる様な旅。絶体絶命の危機を何度もくぐり抜け、地球に戻って来た。しかし、自らは燃え尽きる運命。最後に渾身の力を振り絞ってカプセルだけを地球に届けた「はやぶさ」
何のケレン味もなく、しかし、これ以上のドラマチックな展開はなかった。そして華やかな成功を手にした。その力の源は何だったのだろう。おそらくそれは、「はやぶさ」のイオンエンジンのように、かすかに、静かに、それでいて絶え間なく燃え続けているスタッフ達の夢とロマンなのではないだろうか。
監督 堤幸彦
主演 竹内結子、西田敏行、佐野史郎
製作 2011年
上映時間 140分
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映画『大鹿村騒動記』予告編
***大鹿村の臭いを感じてみたいなぁ***
鹿肉を食べたことがあった様な気がする。もう何十年も昔に。ちょっと甘みがあったかなと、記憶しておりますが。
地元には地元特有の臭いっていうのがあると思うのです。本作ならば鹿肉の料理なんかの臭い。それが映画から感じられるぐらいの雰囲気を、なんとかだせないもんだろうか? 鑑賞しながらそんなことを考えていました。
以前、井上ひさしさんの「ボローニャ紀行」という本を読んだ事があります。
「音楽や演劇は、パンやチーズみたいに俺たちにとって生活必需品なんだ」という文章があります。イタリアのボローニャに住む人達はそう思っている。
日本でも泉州岸和田周辺では生活の中心にダンジリが深く根付いてます。そして大鹿村では歌舞伎が生活の中心にある訳です。
こういう「地域の文化」を生活の根っこに持っている場所は今や絶滅危惧種のような存在です。淋しいことだと思います。
さて、この作品、原田芳雄さんの遺作ということで話題になっている。出演している役者さん達もシブい人が多いですね。石橋蓮司さん、岸部一徳さん、佐藤浩市さん、松たか子さん、それに三国健太郎さん。女優陣では珍しく大楠道代さんが出ている。これだけ癖のあるアクの強い俳優さん達を束ねる監督は「亡国のイージス」等を撮った阪本順治監督です。
三百年続いている村人達が総出で行う歌舞伎興行。演じるのも村人達です。これを軸にそれぞれの村人達が抱えるウエットな人間関係が描かれて行きます。結構ベタな人情喜劇と言った所でしょうか。
原田芳雄さん演じる主人公は鹿肉を食べさせる食堂の主。この人も、もちろん歌舞伎を演じる訳です。
原田さん、実に楽しそうに演じているのがスクリーンから直に伝わってくる様でした。劇中劇の歌舞伎でも、たいした大見得を切る芝居を生き生きと演じてみせてくれます。この作品のハイライトですね。
石橋蓮司さんは「今度は愛妻家」でのオカマ役が最高に面白かっただけに本作ではやや食い足りない感じが残念。
観終わって思ったけど、この作品に出てくる人達、みんなそれなりに幸せそうなんだよね。それに悪いヤツというのが一人も出てこない。それが作品の爽やかさにつながっているのかもしれませんね。
ただ逆に言えば、それだからこそ、善良に見える村人達個人個人の様々な思惑や、ちょっと腹黒い所なんかを少し散りばめてみても良かったんじゃないかという気もします。そうする事によってもっと映画に奥行き間が出る様な気がしますね。
本作は原田芳雄さんを筆頭に実力派ばかりの役者さんを揃えた作品です。もっと面白く、もっとディープに仕上げられたんじゃないだろうか? 欲張り過ぎですかね?
でもとても爽やかで、好感の持てる映画であることは間違いないので、興味のある方はご覧になることを是非お勧めします。
監督 阪本順治
主演 原田芳雄、大楠道代
製作 2011年 アメリカ
上映時間 93分
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映画『ダンシング・チャップリン』予告編
***この舞台裏、チャップリンに見てほしかった***
メイキングに限らず僕はドキュメンタリーが大好きである。以前も小澤征爾氏とオーケストラのドキュメンタリー番組等は好んで見て来た。アーテストがどのように作品を作り上げていくのか? それがどのように輪郭を現すのか? その過程が面白いのだ。
小澤さんのドキュメンタリーにはピアノ協奏曲を仕上げていく過程が記録されていた。
ピアニストの巨匠ルドルフ・ゼルキンとの打ち合わせ風景。
「ベートーベンのこの曲のこの部分はハンガリー風に行きませんか?」と提案する小澤氏。
「Oh! ハンガリッシュ!!」
「意見が合うね!!」
思わず嬉しそうに抱き合う二人。
芸術家というのはこのように作品と取り組んでいるのだなぁと実感した。その舞台裏は実に興味深かった。
さて本作はバレエである。
第一幕は作品のメイキング映像である。
振り付け師のローラン・プティ氏と映画監督の周防正行氏。
音楽に限らず芸術作品の解釈というのは一人一人違う物である。
一つのバレエ作品を作る過程においてお互いの意見は食い違う。
プティ氏はバレエ界の巨人として知られる人だ。もちろんバレエと言う「舞台芸術」を演出して来た人である。方や周防氏は映画を作る側の人だ。
映画が舞台と決定的に違うのは、編集作業によって時間と空間をあっという間に吹っ飛ばせる所にある。
舞台上の映像の次に、いきなり広々とした公園の森の中へ視点を一瞬にして移動させたい。周防氏はそれがやりたいと言う。
しかしプティ氏は
「屋外にするなら、この話しはなかったことにする。」とかたくなに拒む。
舞台人と映画監督。二人の火花が散る。
さて、どうなるのかと思っていると映画は休憩に入る。
第二幕は本編のバレエが披露される。
ローラン・プティ氏が作り上げた、このバレエ作品「ダンシングチャップリン」はすでに初演から二十年以上経っているそうである。チャップリン映画の名場面が次々と出てくる。チャップリン大好きな映画ファンにはいろんなシーンが思い浮かんで来ることだろう。
特筆すべきはやはりバレリーナ、草刈民代さんの美しさだ。
「街の灯」のシーンでは思わず息をのむ様な演出の美しさが光った。作品本編がエンディングを迎えると思わず「ブラボー!」と叫びたくなる程の感銘を受けた。
僕が劇場で鑑賞した時、実際に客席から拍手が起こった。希有なことである。
かつてチャップリン本人は自分の演技を「コミック・バレエ」と語った。チャップリンはフィルムの上で踊る様なつもりで、あの放浪紳士チャーリーを華麗におもしろおかしく舞っていたのだ、と改めて気づかされる。
元々チャップリンとバレエは関係が深い。「ライムライト」のバレエシーンはチャップリン自身が作ったシーンだと聞いている。ローラン・プティ氏はこのチャップリンのコミック・バレエの精神を引き継ぎ、見事な、見事な作品に仕上げていった。
さらにそれを周防監督は本作によって、より多くの観客にこのバレエの魅力を広めようとしているのだ。
バレエ大好きな方、チャップリン大好きな方は身逃がせない。
メイキングと本編映像を一度に楽しめる、贅沢で美しさに溢れた作品である。
監督 周防正行
主演 ルイジ・ボニーノ、草刈民代
製作 2011年
上映時間 131分
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