2016年邦画部門

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SCOOP!


『SCOOP!』予告

2016年10月24日鑑賞

ゴギブリとドブネズミ、以下の「美学」

 「福山がスキャンダルな役をやるらしい」と言う印象しかなかった本作。
当初観る予定もなかった。
しかし監督の名前を知って観てみようと思った。
「モテキ」「バクマン。」を撮った大根仁氏である。
それほどまでに、この二つの作品は抜群に”面白カッタ”のだ。
本作では福山雅治が、ダーティーでワイルドな「中年パパラッチ」を演じる。
その意外性と、テンポの良いストーリーに引き込まれる作品に仕上がっている。
イメージ 2

福山演じる主人公「都城静」は、芸能人、タレントなど有名人を盗撮するのが仕事だ。
かつては出版社に勤めていたが、今はフリーでやっている。
組織の”しがらみ”から外れた、まさにアウトローであり、一匹狼。
彼の車はベンツのゲレンデワーゲンである。
新車だと軽く1000万を超える車だ。
「結構儲けてやがるなぁ〜」と思っていたら、実は中古で買っていたのだ。
フリーカメラマンの暮らしは楽じゃない。
彼の場合、一般ピープルが、覗き見したくなるような、著名人を狙う。
夜の闇に紛れ、獲物の行方をどこまでも付け狙い、追いかける。
その姿はまさにハイエナである。
やがて彼のカメラが決定的瞬間をゲットする。
「カシャッ、パシャッパシャッ!!」

イメージ 3

次に彼がとる行動はただ1つ。
逃げて逃げて逃げまくるのだ。
「獲物達」は反撃してくる場合があるのだ。そういう危機的な状況に陥った都城を助けてくれる、変なおじさんがいる。
名前を「チャラ源」という。
この闇夜の時空間に、ふわふわ漂っている「クラゲのような」得体の知れない人物を、演じられるのはこの人。
リリー・フランキーだけであろう。
このキャスティングは大正解。この人の演技にはいつも驚かされる。
本作でもかなり衝撃的なシーンがあるのでお見逃しなく。
さてこういう、ヤサグレた”汚ッたねぇ〜”現場に配属されてきたのが、二階堂ふみ演じる”ウブな”新人女性記者「行川野火」
写真週刊誌の「イロハ」も、まるでわからない”ど素人”だ。
「なんでこんな奴と組ませるんだよ!」と都城静は、やり手女性編集者(吉田羊)に悪態をつくのだが…。
彼は、この”ど素人”女性記者を車に乗せ、今日も獲物を求め、夜の街に紛れ込んでゆく。
彼の仕事の99%は「待つこと」に費やされる。
イメージ 1

24時間、狙った獲物を待ち続けても、23時間59分、何も起こらないのが当たり前なのだ。
しかしこの道のプロ、都城静は、その「残りの1分」「シャッターチャンス」に全てを賭ける。
そうやって彼は有名人達のアラレもない、恥ずかしい姿を「SCOOP!」として次々、モノにしてきた。
彼の写真を「商品」にし「現ナマ」に変えるのは写真週刊誌だ。
編集部では、毎号、発売部数がホワイトボードに表示される。
都城静と行川野火のチームは、どんどんスクープをモノにしていく。
刺激的な写真を撮れば撮るほど、発行部数は右肩上がりで、増えてゆく。
まさに「イケイケドンドン」
その発行部数の伸びを横目に見ながら、都城静は、ぼそっと野火につぶやく。
「俺たちがやってる事は、しょせん、ゴキブリか、ドブねずみ以下さ」
しかし、ゴキブリだって、ドブネズミだって、なりたくてその姿に生まれついたのではない。
彼らにも彼らなりの美学があってもいいではないか?
今日も彼らは真夜中の闇に紛れ、こそこそと街の片隅に自らの姿を潜める。
「SCOOP! を撮る」
ただそれだけに、全てを賭ける、彼らの生き様。
ラストシーン。漆黒の夜空。
ぽっかり浮かぶ満月。
月はどんな表情で彼らを観ているのだろうか?
**************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆
美術 ☆☆☆
音楽 ☆☆☆
総合評価 ☆☆☆☆
**********
作品データ
監督   大根仁
主演   福山雅治、二階堂ふみ、リリーフランキー、吉田羊
製作   2016年 
上映時間 120分

「グッドモーニングショー」予告

2016年10月11日鑑賞

爆弾と視聴率とエンタメの関係?

最初はねぇ〜、これスルーしようかな、と思ってたんですよ。
でも観て正解でした。お金払った分は、ちゃんと「おもしろい!!」という作品に仕上がってます。
本作は映画の初めから、時間軸がリアルタイムで進行する、というのが大きな特徴です。
ほとんど回想シーンなどを挟まず、まさに今、目の前で起こっている分、秒、単位の時間、ワンカット、ワンカットが極めてスリリングな効果を生み出しています。
主人公はニュースキャスター、澄田真吾(中井貴一)
相方の女性キャスターに小川圭子(長澤まさみ)
彼女の失恋を慰めようとした澄田のちょっとした優しさ。そこにつけ込んだ圭子。実は肉食系女子なのです。澄田と、まんまと男女の関係を作ってしまった、という設定からお話は始まります。
イメージ 1

今朝もいつも通り、ニュースワイドショー番組の司会を務める二人。
最近、視聴率の落ちを気にしているのは、スタジオの奥で腕組みしているプロデューサー、石山(時任三郎)
本作、いい俳優さん使ってるんですよねぇ。
きっと俳優さんたちのギャラは、高くついたんだろうと思います。
ただ、作品全体の予算としては、そこそこリーズナブルに作られたのではないか、と推測します。
本作の面白さにどんどんはまり込んで行きながら、片方で僕は、やや冷静に
「これは低予算でも、おもしろい映画が作れる格好の見本だ!」
という思いを強く感じていたのです。
映画にとって予算は極めて重要な要素です。
例えば「時代劇を作ろう!」と監督、プロデューサーが決めた時点で、内容はともかく「金のかかる映画」を覚悟しなければなりません。
対照的に「これだけしか予算がない」
という場合、答えは簡単です。
①現代劇にする
②ロケはなるべくやらない、できれば室内劇にする。
③登場人物を少なく、エキストラをなるべく使わない。
④有名俳優を使わない
本作では知名度の高い、有名俳優を”止むを得ず”使ってます。
これは宣伝広告、興行収入を睨んで、費用対効果を狙ったものであることは言うまでもありません。
本作の舞台が「ワイドショー番組のスタジオである」と言う点も見逃せませんね。
ちなみに制作はフジテレビ。
なんのことはない、本作で使う舞台装置や機材は、すでに「ぜんぶ揃っている」わけです。新たに機材を買う費用もいらない。
なお、低予算で大ヒットを飛ばした映画の例があります。
矢口史靖監督の
「ウォーターボーイズ」


「スウィングガールズ」

などが格好の例でしょう。
登場人物を演じたのは、当時、全く無名俳優であった、妻夫木聡、玉木宏、上野樹里、貫地谷しほり、と言った人たち。
彼らは、これらの出演作で広く世に知られるようになりましたね。
ちなみに「スウィングガールズ」については予算5億ぐらいで、21・5億円を稼ぎ出す大ヒットとなったそうです。
さて、本作に戻りましょう。
朝のニュース番組の進行中、突然速報が入ります。
立てこもり事件発生!
人質は数人。
犯人は銃と爆弾を持っている。
更には犯人の要求が、なんと
「ニュースキャスター、澄田真一、本人をここに連れてこい!!」
警察の物々しい警護の元、澄田は犯人の立てこもり現場へ向かいます。
このとき、番組スタッフやプロデューサーたちにとっては、まさに「独占スクープ」
こんなに「美味しい」ことはありません。z
全国のお茶の間の視線を独占できる。
視聴率が稼げる!!
番組スタッフは、澄田の防弾及び特殊「防爆」スーツ(ちなみにアカデミー賞を獲ったハートロッカー)


で主人公が着るやつです)に、こっそりカメラを仕込みます。
キャスター澄田と、犯人の緊迫したやりとりが、生中継できる!!
心の中はまさに狂喜乱舞状態のスタッフたち。
当のニュースキャスター澄田は、身の危険に怯えながら、犯人の説得を試みるのですが……。
イメージ 2

まあ、テレビ局にとってみれば、キャスターひとり、事件で殺されたところで、視聴率が稼げ、スポンサーが喜べば「言うことなし」なのです。
もし万が一、キャスター死亡、なんてことになったら、それこそしばらくは、ワイドショーや特集番組で、またバンバン視聴率が稼げるわけです。
危険な場所へ向かわせたのは警察とテレビ局ではありますが、犯人の要求であり、なにより、キャスター澄田、本人も了解済みなんですね。
合法的な人殺しシーンが取れるなら、
それさえも「エンターテイメント」になってしまう。
本作中に「テレビの報道なんて、しょせんエンタメなんだよ」
と言う趣旨のセリフがあります。
本作を象徴する一言でしょう。
報道はテレビ局にとって「商品」の一つに過ぎない。
僕たち一般市民は、常日頃から、こういった「加工済み情報」に、ある種、飼いならされているかのようです。
食品添加物なしでは、もう美味しいと感じない料理と同じでしょう。
メディアの情報に飼いならされた僕たちの日常。
市民の世論や感情、何より、正義と真実は「分かりやすいはずである」と、思い込まされていること。
そして、お茶の間で他人事のエンタメとして報道を楽しむ「一般市民の欺瞞」さえも、本作は炙り出して見せているかのよう。
表面は薄っぺらいエンタメ作品を「あえて」装いつつ、実はかなり深掘りできる作品だと僕は思いますよ。
**************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆
美術 ☆☆☆
音楽 ☆☆☆☆
総合評価 ☆☆☆☆
**********
作品データ
監督   君塚良一
主演   中井貴一、長澤まさみ、時任三郎、濱田岳
製作   2016年 
上映時間 104分

君の名は。


「君の名は。」予告2

2016年9月27日鑑賞

「前前前世」から、君と僕は……。


ネット上や、マスコミでは、本作について、やたらと騒がしいですな。
僕なんかは、根っからのひねくれ者で、おまけに「四捨五入すると還暦」オヂさんです。
「メガヒットなんて、誰が観てやるもんか」と当初は思っていましたが、予告編を見ると……
美しい映像と、その世界観にヤラレました。
劇場にいってみると、やっぱり十代、二十代のカップルが多くいましたね。
彼氏や彼女を誘う口実には、本作はもってこいの「デート・シネマ」なのでしょうね。
青少年諸君!!
不純な動機で映画館に行くのは、大いによろしい!
青春とは「不純」や「よこしまな心」そのものであります。
もしかしたら、お相手の方と、次のステップに進めるかもしれませんよ。
まあ、そのあとは自己責任。
いろいろと、ヨロシク、ヤっちゃってちょうだい。
え〜っと、なんでしたっけ。
そうそう「君の名は。」ですよ。
イメージ 1


監督は新海誠さん。
僕は「初体験」なんですけど、まず思ったこと。
「えっ、今更このネタ、ブッこむの?!」
作品の背骨と言っていい、ストーリーのモチーフが、もうそれこそ、何回も使い古されたネタばっかりなんですね。
まずは「男女が入れ替わるテーマ」は、かつて大ブームとなった、大林宣彦監督の「転校生」


実はこの「男女逆転ストーリー」
その発想は、800年以上前に遡ります。
平安時代後期に書かれた「とりかえばや物語」がそれです。
漫画にもなっていますし、現代語訳も多数あります。
特に田辺聖子さんの「とりかえばや物語」は名訳でしょう。

本作の主人公「宮水三葉」の声は、上白石萌音さん。
「舞妓はレディ」


での100%混じりっけなしの、ど田舎出身者、というキャラクターが素晴らしかったですね。
21世紀の現代日本に、こんな女の子がいたのか! という驚きがありました。映画というのは、ときどきこういう奇跡を起こすんですね。
さて、女子高生である宮水三葉は、代々続く神職の家系に生まれました。
神社には古くから伝わる、古式ゆかしい『年中行事』というものがあります。
そこで彼女は神様に奉納する「舞」を踊るんですね。
さらには、彼女自身が、お神酒を作って御神体に献上します。
このお酒の作り方、ちょっと”ギョッ”とする方法なんです。
まあこれは映画本編をごらんください。
21世紀のハイテク日本社会で、いまだに古式ゆかしい世界観が展開される本作。
これまでの日本のアニメにおいて、このような土着の神様との関わりについては、
「となりのトトロ」

「もののけ姫」

「千と千尋の神隠し」

など、ジブリ作品で、もう散々、描かれてきた「ネタ」なんですね。
トトロだって、猫バスだって、アニミズム
から派生してきたもの、と見ることができるでしょう。
また本作では、もう一人の主人公である、都会の青年「立花瀧」が、自分の体に憑依した、田舎暮らしの女の子に会いに行こうとします。
ここで彼は、ある衝撃的な事実を突きつけられるのですが……。
この作品、都会と山村における、日々の暮らしの違いを、実に丹念に描いて行きます。
それにより、あまりにも違いすぎるお互いの暮らし、生活様式。
その対比の鮮やかさを、クッキリと際立たせることに成功しています。
それに、アニメによくありがちなんですが、本作でも、宇宙と関係があるんですね。
1,000年ぶりに、とある彗星が近づいている今の日本、という舞台設定なんです。
ありふれた日常生活と、唐突にSF的な宇宙観とを結びつける、ということでは、膨大な作品を残した漫画の神様「手塚治虫」をはじめとして、松本零士さんなど、一連の系譜があります。
そして何と言っても筒井康隆さんの「時をかける少女」を忘れてはなりません。


本作でも「これって”時かけ”のパクリ?」
と思わせる、時間と空間の瞬間移動が出てきたりします。
もちろん、それは最新の量子理論や宇宙論に裏打ちされています。
それにどうやら、平行宇宙論の考え方さえも取り入れているように、僕は感じました。
本作の特筆すべき点は、すでに使い古されたモチーフ、テーマを、いわば「物語のリフォーム」によって、あっと驚くような最新作として、僕らの目の前に投影させた事にあります。
こんなにも「古い」のに、こんなにも「新しい」。

最後に音楽について。
56歳の僕にとっては、劇中音楽がちょっと過剰な感じ。
これは、若い人たちにはちょうど「良い加減」なのかもね。
テーマ曲を演奏するのは「RADWINPS」


ボーカルの野田洋次郎さん。
僕は、彼が俳優として主演した

が目に焼き付いて離れないのです。

こんなにも「儚い」存在感を持った若者が、今、ほら、そこに立っている。
もうそれだけで、胸がいっぱいになるような作品でした。
彼のバンドと音楽。その、激しさの中に「仄かに」感じられる「儚さ」
それが多くの日本の若者を虜にする理由なのかもしれません。
もしかすると、平行宇宙の時空に漂う「古えのニッポン」
そこには
「もののあはれ」「人のあはれ」
という「言の葉」が、量子論的な混沌さで「フワふわ」と漂っているのかもしれません。
この手で、その言葉を捕まえようと手を伸ばすと、突然、姿を消し、他の平行宇宙へ消え失せてしまう。
その時空間は、現在と過去がゴッチャゴチャに混じり合った、カオスの世界なのかもしれません。
そこから「コトノハ」を体に降臨させ、歌詞を作り、曲を作り、そして物語を紡ぎ出す。
新海誠監督、そして野田洋次郎さん、彼らは異次元空間と交信できる、現代における、ある種の呪術使い、シャーマンたち、なのかもしれません。
**************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆
配役 ☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆
美術 ☆☆☆☆
音楽 ☆☆☆
総合評価 ☆☆☆
**********
作品データ
監督   新海誠
声の出演 神木隆之介 上白石萌音 長澤まさみ 
製作   2015年 
上映時間 107分

後妻業の女


2016年9月1日鑑賞

大竹しのぶは演技怪獣ゴジラだった。

「生きるのに必要なのは欲望だ」とチャップリンは「ライムライト」の中で言っている。
ということは「スケベ」と「金」が大好きな人は、人間という動物としてむしろ健全なのかもしれない。
本作は結婚相談所の所長の目を通して、人間のあられもない、むき出しの欲望を描いてゆく。
物語はテンポ良く進むし、観客を飽きさせない工夫がなされている。良くできた脚本であると思う。
そして何よりキャスティングがいい。
結婚相談所の所長であり、やり手の青年実業家、柏木亨に豊川悦司。
そして彼の古くからのビジネスパートナー、竹内小夜子に大竹しのぶ。
この二人が狙うのは老人である。条件がある。
①資産を持っていること
②独り身であること
③病気持ちで余命が永くないこと。
結婚相談所の柏木は、熟年向けの婚活パーティーをひらいている。
この席にはもちろん小夜子も「仕込み」として出席している。
ふたりはここで、上記3項目に当てはまりそうな相手を見つけ出す。
このようにして小夜子は、いままで8人の男の妻となり、柏木とともに遺産をまんまと手に入れてきた。
 今また9人目のターゲットが目の前にいる。
 元女子短大教授の中瀬(津川雅彦)である。小夜子は首尾よく中瀬の「後妻」の座に就き、筋書き通り夫は間も無く病に倒れる。中瀬の遺産は、今回も小夜子と柏木の手中に転がり込むはずだった。
しかし、ここで中瀬の次女、朋美が立ちはだかる。気の強い一級建築士、朋美は友人の弁護士、守屋に、今回の遺産相続の件を相談した。
弁護士守屋は小夜子の正体を見抜く。
「これはプロの手口だ。『後妻業』だよ」
こうして後妻業のプロフェッショナル、小夜子・柏木チームと、朋美たちとの、遺産を巡る闘いが始まるのである。
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この時、小夜子たちが朋美の前に、誇らしげにかざして見せるのが「公正証書遺言」である。
僕の知人の行政書士さんは「終活」講座を開いている。今、大流行りである。その席で、必ず受講者に勧めるのが「公正証書遺言」を作っておくこと。
講師の彼の話では、遺産相続を巡り、骨肉の争いになるのは、意外にも少額の遺産の場合が多いそうである。なかには相続の話し合いの場で、包丁を持ち出して大荒れになったケースもあったそうだ。
そんな不毛な争いを一発で解決するのが「公正証書遺言」なのである。
本作の小夜子と、所長の柏木は、この書面の効力が、いかに絶大なのか、をよく知っているのである。

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本作での見所は、もちろん、大竹しのぶと豊川悦司の切れ味のいい演技の「饗宴」だろう。
大竹しのぶ、という女優。
今までどれだけの称賛を浴びてきたことか。
本作を見て改めて
「ああ、この人は怪物だな」とおもう。
というより「演技怪獣だ」と思った。
表面上は大竹しのぶという「着ぐるみ」を着ているが、中身はじつは「演技怪獣ゴジラ」なのではないか? とさえ思える。
本作では、狙った獲物である資産家の老人たち、その人生や親族までをも、まさにゴジラさながら、破壊しまくってゆくのである。
小夜子にはやがて、朋美という強敵が現れる。
演じるのは尾野真千子である。
実際、この二人は焼肉店のシーンで、人目もはばからず、取っ組み合い、殴り合いの大立ち回りを演じる。
「そして父になる」

で共演した真木よう子に言わせると
「私よりオッさん」という尾野真千子。
根っからそういうキャラだからこそ、怪物女優大竹しのぶのほっぺたに、遠慮なく平手打ちを食わせることができるのだろう。
結婚相談所所長役の豊川悦司の演技も良かった。
一言で言えば彼の役どころはインテリヤクザなのだ。
銭と法律に関する知識と経験。人を操る人心掌握術。ヤバイ状況に追い込まれてもとっさに機転を利かせ、危機を紙一重ですり抜けてゆく男。
やはり才能がある。
一流の「ワル」になるためには、もちろん、それなりの努力も必要だ。
どういうシナリオでお宝を手にするのか? その企画力と見識、さらに、こまめに動くフットワークの軽さ。何より働き者でなければならない。

金が持つ魔力に取り憑かれた、人物たちを描いた傑作として、伊丹十三監督の「マルサの女」「マルサの女2」

がある。
見事なまでの巧妙で精緻な脱税の手口。描かれる人物像を見ていていつも思う。
金のため、脱税のため、それだけの努力ができるのであれば、どんな職業についてもそれなりに成功を収めるだろう。では、なぜ合法的な経営をしないのか? 疑問は残るが、本来まっとうな人間の感覚さえ、麻痺させてしまうのが「お金」の魔力ということなのだろう。

なお、本作においての笑福亭鶴瓶氏の演技は、まあ悪く言ってしまえば「客寄せパンダ的」である。
この人ほど、映画やドラマで「演じる」ということに関して「魂の入り方」がすぐわかってしまう人も珍しい。今スイッチはオンなのかオフなのか、素人にでもわかるのである。
本作ではもちろんオフの状態の演技なのだが、それでも完成版でOKを出したのは監督である。
本作において、この人物抜きにしても、ストーリーの流れとしては全く影響はない。笑福亭鶴瓶氏の、役者として最高の演技を引き出したのは、西川美和監督である。「ディア・ドクター」

をみれば、バラエティ番組などで稀有な才能をみせてくれる、上方落語家が、一旦役者のスイッチが入った時、その潜在的能力のすごさに圧倒されるだろう。

**************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆
美術 ☆☆☆
音楽 ☆☆☆
総合評価 ☆☆☆☆
**********
作品データ
監督   鶴橋康夫
主演   大竹しのぶ、豊川悦司、尾野真千子、笑福亭鶴瓶
製作   2016年 
上映時間 128分

シン・ゴジラ


『シン・ゴジラ』予告

2016年8月23日鑑賞

ゴジラ映画は3:11を背負えるのか?

3:11という「想定外」の出来事が起こって以降、映画に限らず、日本の表現者たちは、もがき苦しんでいるように思える。

僕は何度も、あの津波の映像を見た。
現実離れした、しかし、まぎれもない現実の風景は、浅はかな人間たちの、すべての創作物を飲み込んでゆくようであった。
もちろん「ゲ・ン・パ・ツ」もまた「安全神話」という虚構が生み出した、人間の創作物にほかならない。
あの光景は、表現を志す者にとっても、今まで築き上げてきた、あらゆる虚構・フィクションの世界が「何の価値もない」と自然界から「バッサリ」断罪されたかのようだった。
その圧倒的な現実の前に、人間の表現行為など何の役に立つのだろうか? というニヒリズムに陥る。
あの宮崎駿監督も「風立ちぬ」制作中に、スタッフから「津波や地震の絵は描きたくない」という意見も寄せられたという。
本作の総監督は庵野秀明氏である。
イメージ 1

庵野氏も、師匠の宮崎監督同様、並外れた時代のセンサーを持っている人だと思う。
本作「シン・ゴジラ」のHPを見ると、庵野氏自身、一時うつ状態となっていたことを告白している。

その人が、あの3:11をどのように自分の中で消化し、映画作品に反映させるのか?
映画会社に請われるまま、なんでもいいから「ゴジラ」を登場させるのだろうか?
怪獣に傍若無人な振る舞いをさせて、都市を破壊し、人々を恐怖に陥れ、人間どもに自然破壊への反省を促す。
そんな安直でステレオタイプな映画を、庵野秀明が作るわけがなかろう!
とあなたが思うように、僕もそう思う。
メイキング映像を見てみる。

庵野秀明総監督が「とにかく面白い日本映画にしましょう」とスタッフに檄を飛ばしている姿が印象的だ。その姿勢に僕は共感し拍手を送りたい。
やはり、映画の第一条件は「面白い事」に尽きるのだ。

イメージ 2


圧倒的なスケール感と、造りこみがなされたゴジラの尻尾。
「ぶぉ〜ん」と一振りしただけで
「こんな怪獣来たら、もう助かるわけがない!」
と我々観客に思わせる、そのキャメラアングルの巧みさ。
「ゴジラ」というフォルムとアイデンティティーを特徴付ける、ギザギザの背びれ。その緻密な描写は見事だ。
その体の奥底から肌の色が明るくなったり、黒ずんだりする。
心臓の拍動、あるいは呼吸に合わせるかのように、一定のリズムで収縮する、動物としての表皮。
以前のゴジラファンなら、これらのシーンで拍手喝采しただろう。
しかし、運河を氾濫させ、数々の車を押し流し、都市を壊滅させてゆく「ダークヒーロー」である「ゴジラ」
その姿は、リアルであればあるほどに、その嫌悪感もリアルなのだ。
素直に「怪獣映画」「娯楽映画」と割り切って楽しめないのである。
だって我々は、あの日の出来事を、直接間接的に体験しているからだ。
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普段は穏やかな「自然」は、時に人間の想像を超える「暴力的な」素顔を見せる。
本作の主役である「新しい」「真の」ゴジラも、自然の暴力的事象から発生した生物なのだ。 
本作において、ゴジラという未知の生命体について対応を迫られる政府関係者たち。
その曖昧な態度は、なるべく責任を回避しようという意図が見て取れる。
そこへアメリカから圧力がかけられる。
「日本政府はゴジラに対応できる能力はあるのか?」
アメリカは疑う。
その米大統領特使として、石原さとみがクールな役どころを演じている。
福島原発事故の際、実際アメリカからの圧力があったようである。
その象徴的な例が、あの自衛隊ヘリコプターによる海水の空中散布である。
高い被曝線量の危険性がある至近距離から、海水を原子炉めがけて落下させるというミッション。
あれは文字どおり決死隊である。
アメリカ側は「英雄的な犠牲」を求めていたという。死ぬかもしれない任務について、命令と人選を行う、現場指揮官の苦悩は容易に想像がつく。
危機的状況にあって、欲しい情報は入らず、混乱する政府および対策本部。
本作では「未知の巨大生命体」が襲ってきた、という「想定外の事象」の場合、政府のどの機関がどのように動くのか? 
その会議のシーンがおよそ三分の一以上を占めているのである。
しかしこれが退屈なシーンとはならない。
緻密な取材をもとに書かれたシナリオは、通常の映画の二倍の分量になったという。
それは、専門用語を駆使し、早口で議論を闘わせる官僚たちの会議を「群像劇」として描くために必要だったのだ。

イメージ 3

政府のエリート官僚に長谷川博巳や竹野内豊をキャスティングしたのは、ちょっと意外だったがすぐに納得がいった。
彼ら官僚は主役として出しゃばらない。政府の顔として世間に出るのは、あくまで「大臣」なのである。
エリート官僚たちは大臣を陰で支え、必要に応じて影響力を行使する。まさに切れ味鋭い、カミソリのような知的「影武者」なのだ。
その役どころとして長谷川博巳、竹野内豊、両氏の起用は的を得ている。

また、注目すべきは本作の上映時間である。
119分。台本は通常作品の二倍の厚みがある。
しかし、完成作品は2時間より、1分だけ短いのである。
この「1分だけ短い」という事に、僕は庵野監督および、樋口監督の「プロとしての意地」を感じる。
「ゴジラ映画」なら、途中休憩も入れて3時間以上の大作にする方法だって許されるだろう。
かつての渡辺謙主演「沈まぬ太陽」

のように、3時間を超え、休憩時間を設けること自体が話題を呼んだ、という既成事実がある。
本作でもその手法で観客動員は見込めるのではないか?
しかし、映画のプロとして、上映時間と、1日の上映回数といった興行面への配慮がもちろんあったのだろう。
庵野、樋口両監督はこの作品をあえて119分に仕上げた。

本作においてゴジラは紛れもなく、3:11の津波に象徴される「自然界から人間界への警告の象徴」として現れている。
未曾有の自然災害で失われた、ひとりひとりの命。肉体だけではなく、その人の背負ってきた人生という膨大な記憶の遺産、そして「あるはずだった」その人の将来や未来さえ、奪っていった。それを「数」という記号でしかカウントできない、悔しさ。命の「質量」手触りや「重み」
それを背負って、クリエイターたちは、今後、何をどう表現し続けていくのだろうか?

現実には、原発事故の後始末は、あと何十年かかるのか? 目処も立っていない。
残留放射能はどこにどれだけホットスポットがあるのか?
それも曖昧なままだ。
そんな現実が足元にありながら、僕らは今のところ、ごく平穏に日常生活を送っている。

「想定外」だから「シ・カ・タ・ガ・ナ・イ」

みんな、自分を納得させ、諦めているのだろうか?
そのうえ「原発事故は人災ではない」と黙認してしまうのか?
この世の中には、辛いことを忘れさせるための、楽しいことが山ほどある。
それらにより、幾重にも巧みにヴェールで隠された、日常生活の現実はホラー映画以上の恐ろしさだ。
そういう「公然の秘密」という地下水脈が走る日本列島で、僕たちは新しいゴジラ映画を体験するのである。
**************
天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆☆
美術 ☆☆☆☆☆
音楽 ☆☆☆☆
総合評価 ☆☆☆☆
**********
作品データ
総監督      庵野秀明
監督・特技監督  樋口真嗣
主演       長谷川博巳、竹野内豊、石原さとみ、大杉漣
製作       2016年 
上映時間     119分

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